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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百三十八話 銀河帝国・自由惑星同盟連合軍vs新生・自由惑星同盟―第四次ティアマト会戦 その1

 ティアマト星域に到着したローレライ作戦部隊は直ちにその準備にかかった。敵は既に動き出している。こちらの動きを察知したのかいないのか、イゼルローン要塞に向けて進撃していることには間違いない。その前に準備を終わらせなくてはならない。

「ローレライ・システム、起動準備完了。いつでも行けます」
「全艦隊との通信状況、良好です」

 うなずいたヴェラ・ニールの後任となった新艦長ジル・ニールは総旗艦ブリュンヒルトに準備完了の知らせを伝える。折り返し、作戦開始の指令を受け取ったジル・ニールは次なる指示を下す。
刻一刻とディスプレイ上に進撃する敵の姿が映り始めた。その光点の数は優に連合軍を越える。空気が一変した。あたりが静まり返ったのを誰もが肌で感じていた。

「ターゲットへの照射準備、開始」

 ジル・ニールがオペレーターたちに静かに指示する。

「カウントダウン開始。作戦開始まで、後10秒!」

 新副長エステル・フォン・グリンメルスハウゼンはフィオーナのいるべき場所を振り返った。そこの場所は空席だ。フィオーナ以下「歌い手」たちは強化された特殊なドーム内に移動してスタンバイしている。

フレイヤ艦橋――。
「8秒・・7・・6・・・・」
(頼むわよ、フィオ)

オペレーターのカウントダウンに合わせて、ティアナが静かに胸の内でつぶやく。


ブリュンヒルト艦橋――。
「5・・・4・・・3・・・」
 
 静かにカウントダウンの声だけが聞こえる。

アールヴァル艦橋――。
「見せてもらうわよ」

カウントダウンが行われる中、アレーナがまっすぐな瞳をブリュンヒルト、ヘルヴォール、そしてターゲットに向ける。

「本当の『歌の力』を」


 カウントダウンゼロの知らせを示すアラームが鳴り響いた後、ゆっくりと旋律が沸き起こる。
気を集中させていたフィオーナが何度も上下する胸の鼓動に合わせて緩やかなオーラが彼女の身体の周りに沸き起こる。一歩足を緩やかに前に出し、胸に手を当てた彼女は最初の一声を解放する。それは艦橋にいてもはっきりとクリアに聞こえるほどの音声だった。

「綺麗・・・・」

サビーネが夢見がちな瞳でつぶやく。

「まるで・・・澄み切った青空のただなかにいるようですわ」

 エステルが遠い目をしながらつぶやく。

「二人とも、自分の仕事をしなくちゃね。さぁ、全艦隊に通信を解放して連携しなくちゃ」

 ヴェラ・ニール艦長の言葉が聞こえたような気がした。事実、二人は同時に顔を見合わせたのである。二人ははっと気を取り戻した。

「ローレライ・システム起動!!」
「照射開始!!目標敵艦隊!!まずはA地区からC地区にかけて一斉照射!!」


* * * * *
「あれほど絶望を植え付けたと思ったのに、性懲りもなくまでやってくるとはね」

 シャロンは微笑を浮かべた。こちらとあちらの戦力は既に比較するのも愚かしい。先の戦いで損害を被りはしたが、その傷は癒え、先の陣容を凌ぐほどの戦力を集中したのだ。

「人間追い詰められると、もはやプライドでしか戦えなくなるのかしら。それともプライドですらないただの意地?」
『そのようですね。閣下、もはや手を抜いてやる必要もないのでは?やせ細っていく敵を相手にしても一向に面白くはないでしょう』

 ディスプレイ越しにアンジェが進言した。

「フ・・・・、もっと弄んでやろうかと思ったけれど、気が変わったわ。ただし、最後のとどめは私がさす。その前にどの程度持ちこたえられるかは試してもいいかしら?」
『御意のままに』

 アンジェは頭を下げ、通信は切れた。

「では、残り少ない時間をせいぜい楽しませて頂戴」

シャロンが麾下の艦隊に指令を下そうとしたその時だ。

「・・・・・・・?」

シャロンの顔から微笑が消え、ついで鋭い目に変わった。彼女の眼ははるか先に展開する帝国軍艦隊の動きを読み取っていた。

「敵の艦から波動を感じる・・・・・」

シャロンはヘルヴォールと周辺の艦隊に青い光が沸き起こるのをシャロンは見た。

「これは―――!!」
『閣下!!』

 再びアンジェの姿がディスプレイ上に映し出された。冷徹な彼女の表情にこれほどまでに焦りの色がうかんでいるのをシャロンは初めて見た。

『これは『歌』です!!『ローレライの歌』が最大出力でこの宙域に展開され始めています!!』
「――!!」

 シャロンの表情が凍り付く。周りの信奉者たちは、その表情を初めて見たが、さほど重大なものと考えていなかった。すぐにその不屈の微笑を取り戻すだろう、と。すぐに敵に対して殲滅戦を繰り広げるだろう、と。

 だが、シャロンの表情はしばらく固まったままだった。

「く・・・・!!」

 ようやく絞り出すように声を出したシャロンの表情に微笑は灯ることはなかった。

『閣下・・・!!洗脳が・・・・このままでは――』
「わかっているわ!」

 シャロンの両腕が広げられる。

「・・・・ここにきて『歌い手』を投入してくるとは・・・!!その策をまさか・・・この世界でやられるなんて・・・・!!うっ・・・!!」

 シャロンは胸を抑えた。前世で味わったあのすさまじいばかりの重さ、海面から一気に海溝に引きずり込まれるような急速な重さが彼女の全身を襲っている。

「私のオーラを封じようと・・・・」

 シャロンは片膝をつきそうになるのを強靭な意志の力で耐えた。何人たりとも、たとえ神でさえも彼女に膝をつかせることはできない。

『閣下!!・・・・ご無事ですか!?』
「・・・・・・大事ないわ、カトレーナ、それで?私にこのタイミングで連絡とは何事かしら?」

 シャロンのプロバガンダを担うカトレーナが慌てた様子で連絡してきた。彼女も戦線に参加している。

『ヤン・ウェンリーです!!帝国軍と呼応するかのようにヤン・ウェンリーが姿を現しました!!旗艦ヒューベリオン、麾下、約3万余隻!!』
「フ・・・・ククク・・・・」

『さらに、各惑星で閣下に対する反乱勃発!!駐留各軍が鎮圧していますが、中には駐留軍も反乱部隊に加わる動きも見せている惑星もあります!!』
「フフフフフフフフフ・・・・・アハハハ!!!!」

 片膝をついたままシャロンは笑った。何故だろう、まるで今すべての存在が自分に対して立ちむかってきているようではないか。たかが歌の一つで、たかが歌ごときで。どうしてこうなってしまったのだろう。だが、しかし――。

「だからといって私が屈する理由は何一つないわ」
 
 微笑を浮かべながらシャロンは立ち上がった。表面上は何事もなかったかのようにしている。
 ラインハルト・フォン・ローエングラム。原作において銀河統一を成し遂げた英雄。けれどそれは自分の足元にも及ばないと思っていた。ところが、どうしたことか、ラインハルト、ヤン・ウェンリー、そして転生者たち。すべてが一つの意志の下、自分に立ち向かってきている。
 どんなに叩き潰しても、どんなに恐怖をあたえても、彼らは戦うのをやめはしない。
 ならば、とシャロンは思う。こちらもそれに応えなくてはならない。手加減なしの全力をもって、彼らを原子の塵にしてしまうのだ。

「面白いわね。イルーナ、そしてその門下生であるフィオーナ、ティアナ、そしてラインハルト。いいわ、この宙域で雌雄を決しましょう。どちらかが戦って倒れるまで!!!」

 全艦隊、突撃し、命に代えてもヘルヴォールを撃沈せよ!!!

 この指令がシャロンから全軍に発せられたのはほどなくしてからだった。

* * * * *

 シャロン・イーリス率いる「新生・自由惑星同盟」艦隊は数十万隻を擁し、しかも特攻を是とする狂信的集団であるが、一定の秩序をもって連合軍に相対していた。

アンジェ率いる中央軍20万余隻。
カトレーナ率いる左翼軍15万余隻。
そして、シャロン自身が展開させている右翼主力は30万余隻。

 あわせて65万余隻である。対する連合軍側は総数30万に満たない。ダイアナ・アーガイル率いる10万余隻及びティアナ、ミッターマイヤー艦隊総数13万余隻がアンジェと相対し、ルッツ、アイゼナッハ艦隊がそれぞれシャロン、カトレーナと相対する格好になった。
連合軍はルッツ、アイゼナッハ艦隊に増援を派遣したが、それでも圧倒的兵力差の前に絶望せざるを得なかった。

「これほどの戦力差だなんて・・・!」

 ニヴルヘイム級アールヴァルの艦橋にあってアレーナは歯を食いしばってうめいた。わずか1万余隻であるルッツ、アイゼナッハ艦隊では、シャロン、カトレーナの前に鎧袖一触ではないか。

 だが――。

「敵艦隊に混乱が生じています!」
「ローレライ・システムの波及率、30・・・40・・・50・・・!各宙域にエリーセル元帥の歌声が展開されています」
「敵艦隊の危険レベル、レッドからイエローに低下!」
「前方の敵艦隊にも乱れが!!」

 ローレライ・システムの影響は確実に敵艦隊に波及し始めていた。

『アレーナ様。敵に混乱が生じている今、できる限り打撃を与え続けることです』

 キルヒアイスがアレーナに通信回線を開いてきた。そう、その通りだ。ここで止まるわけにはいかない。

「主砲、3連斉射!!」

 アレーナが号令をかける。アレーナ、キルヒアイス連合艦隊はフィオーナ艦隊の前面に展開し、敵艦隊に痛烈な打撃を与えた。

「撃って撃って撃ちまくれ!!敵が混乱している今が好機!!目の前の敵を消しつくすまで撃ち続けろ!!!」

 アレーナが日頃の飄々さを捨てて号令する。ラインハルト本隊を始めとする各艦隊も全力射撃を試みていた。

「主砲斉射、3連!!敵の戦闘に砲火を集中させ、体勢を崩せ!!」

 ラインハルト本隊からの斉射が左翼カトレーナの前衛艦隊を撃ち尽くす。ミュラー、アイゼナッハ艦隊も負けず劣らず奮闘する。
 ラインハルト本隊は遊軍として縦横無尽に戦闘宙域を駆け巡っていた。カトレーナの前衛に打撃を与えたラインハルト本隊は、今度はアンジェの中央艦隊に横合いから突撃し、一気に分断しにかかった。

「撃てェッ!!」
「ファイエル!!」
「今だ、撃て!!」

 ティアナ、ミッターマイヤー、ダイアナはそれぞれの艦橋で号令を発し、分断された敵艦隊に斉射を浴びせた。

 しかし、敵の立て直しは存外早かった。

「敵艦隊、イエローからレッドに!!」
「敵艦隊を正体不明の磁場が包み始めています!!」
「シャロンのオーラね・・・!!」

 アレーナはシャロンのオーラを解析して、波長を数値化し、疑似的にそれが見えるように各艦隊のソフトウェアを改良させていた。

「敵艦隊、動き出しています!!まっすぐにこちらに突っ込んできます!」
「中央、左翼、右翼、ミッターマイヤー元帥艦隊及びローメルド上級大将艦隊と接触!!勢い止まらず!!さらにアーガイル上級大将の艦隊と接触します!」

 カトレーナ、アンジェ、そしてシャロンの艦艇は立ちふさがる連合軍前衛をものともせずに怒涛の勢いで迫ってきた。

「シャロン最高評議会議長閣下の覇道の邪魔をするちり芥はここで消えてしまいなさいな」

 カトレ―ナが微笑みの中に蔑みと怒りを込めて自身の率いる15万余隻の艦艇をぶっつけにかかった。相対するアイゼナッハ艦隊はみるみるうちに飲み込まれ、その数を減らしていく。

 そのカトレーナの前後左右を主砲斉射の閃光が切り裂いた。爆沈する艦が続出し、艦隊に混乱が生じる。その間隙を縫って、グリーンの自由惑星同盟艦艇やスパルタニアンが接近し、猛攻撃を仕掛けてきた。

「ヤン艦隊!?」

 上から下に効果的に貫かれたカトレーナの艦隊はその動きを麻痺させた。その隙を逃すアイゼナッハではない。

「ハッ!!・・・・全艦隊、後退をやめ、前進し、主砲斉射!!」

 グリーセンベックがアイゼナッハのジェスチャーを読み取って号令をかける。アイゼナッハ艦隊、ヤン艦隊は二方面からカトレーナ左翼艦隊に襲い掛かった。

「焼け石に水よ。前衛を壊滅させてもこちらは痛くもありませんもの。さぁ、麾下全軍進みなさい。シャロン閣下の栄光の為に!」
「シャロン閣下の覇道を阻む輩、殲滅するわ」

 アンジェ率いる中央艦隊もミッターマイヤー、ティアナ、ダイアナ艦隊を押し始めた。シャロンの右翼主力もいうまでもない。連合軍は全面的に後退を余儀なくされていた。

「もっと出力を!フィオーナ!!」

 アレーナがフィオーナを叱咤する。そう言いながら無理なことはアレーナ自身が承知していた。フィオーナが最初から全力を出さないはずがない。そうでなければ勝利などあり得ないのだから。
 予想以上にシャロンのオーラが強力なのだ。

「駄目です、ローレライ・システム、これが精いっぱいの展開です!!」
(シャロン)の威力が強すぎる!!」
「これではローレライ・システムが破られるのも時間の問題です!!」

 オペレーターたちが次々と報告する。

「やはりフィオーナだけでは駄目だというの・・・・」

 戦力差は絶望的だった。それでも戦線が崩壊しないのは2つの要素があった。
 ラインハルト本隊が縦横無尽に動き回り、至る所に出没して打撃を与えている。全軍の中核(コア)を連合軍の中で最大戦闘艦艇総数を要するダイアナ艦隊に任せ、自身は機動群として打撃を与え続ける戦術は劣勢である連合軍の戦線をかろうじて支えていた。
 それはヤン艦隊も同様である。
 ラインハルト、ヤン、それぞれが率いる艦艇総数わずか2万余隻。
 にもかかわらず、戦線を維持できうるだけの勢いと戦術はさすがの二人というほかなかった。

「フロイレイン・ダイアナは中央艦隊として艦隊陣形を保ちつつ戦闘を継続するだけでよい」

 というのが、ラインハルトの指令した戦術の大本だった。ティアナ、ミッターマイヤー、ルッツ、アイゼナッハら各艦隊は担当宙域を指定されただけで、後はすべて独自に動くように指令された。
 全軍の統率をしていては勝てはしない。それぞれの力量と技量を最大に展開して戦う。
 これが、ラインハルトの出した結論だったのである。
 そして、もう一つの要素――。
 キルヒアイス艦隊である。
 キルヒアイス艦隊は後方にあってフィオーナ艦隊を守る態勢を構築しつつ、戦線が崩壊しそうなポイントを見極め、そこに麾下の高速機動艦隊を派遣して戦線崩壊を食い止めていた。
 さらに、キルヒアイスの発案で指向性の強力な電磁照射システムを搭載した各艦隊は、突入してくる敵めがけて照射し、艦の航行を狂わせ、体当たり突入を阻止した。これによって体当たり戦法は無効化され、今のところは純然たる艦隊戦で推移している。
 そして、ダイアナの中央艦隊10万余隻もコアとしての責務を果たし続けていた。彼女の真髄は、鉄壁ミュラーやフィオーナにも負けず劣らずの緩急自在な防衛戦闘である。
 ラインハルト、ヤン、キルヒアイスらの支援を受けているとはいえ、10万余隻はまるで一枚の壁と化したかのように敵軍の攻勢を跳ね返し続けていた。

 それでも、戦力イコール体力であり、それが少ない連合軍側は徐々に削られつつあった。



 
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