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おっちょこちょいのかよちゃん

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50 清水の夜の花火

 
前書き
《前回》
 ありの住む札幌から清水へ戻る途中、三河口は東京駅にて平和を司るイマヌエルと出会い、京浜工業地帯の中のとある町へと寄り道する。一方、清水の教会では杉山がりえの持つ杯の能力(ちから)を試そうと彼女と喧嘩を始めており、かよ子は何とか止めに入る。そして皆で花火をする事を約束し、家に帰ったかよ子は同時に札幌から戻って来た三河口と再会した! 

 
 三河口は家に入ると、奈美子と利治に土産を渡した後、あり達が異世界の人間に会っていた事を伝えた。
「そうだったんね、それだけ準備を進めてるんだね」
「はい、それで、俺も東京で『(やつら)』がいるって聞いたんで寄り道して懲らしめてきました」
「そうか、それは大変だったね」
「他の人には危害は加えんかった?」
「はい、ていうか、住民達がそいつらに怒って袋叩きにしてました。あとは俺の能力(ちから)で遠くに吹き飛ばしましたよ」
「ふうん、よくやったね」
「そういえば、さっきかよちゃんに会った時、東京の子が遊びに来てるって聞いたんですが、ご存知でしたか?」
「うん、まき子ちゃんから聞いたよ」
「杖や護符と同等の道具である『杯』を持っているとか。俺が東京で退治した相手はその『杯』を狙っていたのかもしれないって思うんです」
「そうか、確かに間違ってないかもね」

 かよ子は食事を終えると、丁度電話が掛かってきた。
「はい、山田です」
『もしもし、長山ですが』
「な、長山君!?どうしたの!?」
『実は昨日、御穂津姫にあって来たんだ。僕の予測した通り、平和を司る世界にはその平和を維持する為の強力な能力(ちから)を持つアイテムが四つあるんだ。君の杖や名古屋のお姉さんの護符、そしてその東京からの女の子が持ってる杯、そして剣があるんだ』
「そっか、長山君の言ってる事は合っていたんだね。剣は何処の人が持ってるの?」
『それが・・・、剣は・・・』
 長山はこの続きを伝えるのに抵抗感を感じてしまった。
『広島にあるんだけど・・・』
「広島に?」
『日本赤軍に盗られたって聞いたんだ・・・!!』
 かよ子は一瞬凍りついた。そして、我に返る。
「・・・えええ!?」
『だから、君の杖や、あのお姉さんの護符、そしてその東京の子の杯は何としても守り抜かないと駄目だよ』
「うん、分かった。ぜ、絶対に、あの杖は渡さない・・・!!」
『うん、じゃあね』
 かよ子は電話を切ると共に、体が震えあがるのを感じた。
「かよ子、どうしたの?」
「お母さん、今、長山君から聞いたんだけど、この杖や名古屋にいるお姉さんの護符、りえちゃんの杯と同じくらいの能力(ちから)がある剣が広島にあったんだけど、日本赤軍に取られちゃったんだって・・・!!」
「ええ!?かよ子、これからもっと戦いは厳しくなるかもしれないわ。でも、大丈夫よ」
「どうして?」
「かよ子の仲間は沢山いるんだから」
「お母さん・・・。うん・・・」
 かよ子は思い出した。そうだった。自分は一人じゃない。両親、まる子やたまえ、杉山や大野、とし子、長山、そしてブー太郎などといった学校の友達、隣の家の人、そしてこの杖があるからこそ隣町の学校の子や東京の子、そしてフローレンスやイマヌエル、森の石松といった平和を司る異世界の人間と多くの味方がいる。日本赤軍に対抗する為の勢力を広げれば決して無力ではない。かよ子はそう信じた。

 翌日、かよ子は三河口と共に教会へ向かった。
「へえ、そのりえちゃんってのはピアノが上手なんだ」
「うん、今『亜麻色の髪の乙女』って曲を練習してるんだって。将来の夢はピアニストって言ってたよ」
「うん、そのくらいから練習を続けていたら、きっとなれるよ」
「そうだよね。ところで・・・」
「ん?」
「長山君って学校の友達から聞いたんだけど、私の『杖』や名古屋のお姉さんの『護符』、それからりえちゃんの『杯』に、広島にあった『剣』が異世界の中で影響力の大きい道具なんだって。でも、その剣が赤軍に盗られちゃったって長山君が言ってたんだ」
「え?!まずいな、取り返さんとな。でも、まだ、そこまで戦いは激しくはなってないから、そのタイミングも先になるね。イマヌエルは札幌の従姉の前にも現れて赤軍や異世界の敵と戦いになるかもしれないと呼びかけていたんだ」
「そうかあ、イマヌエルさんも大変だね」
 教会に到着した。ピアノの弾く音が聞こえる。りえは既にピアノの練習を始めていると察した。
「なかなかよく弾けてるな」
 三河口には音色を聴くだけで分かった。
「うん」
 ピアノの音が止まった。かよ子はそのタイミングを計らって礼拝堂のドアを開けた。
「りえちゃん、おはよう」
「あ、かよちゃん、おはようっ!」
 かよ子は同行している高校生の男子を紹介する。
「りえちゃん、この人は私の家の隣に住んでる人だよ」
「初めまして、俺は三河口健っていうんだ。君が異世界の杯を持っている、安藤りえちゃんだね?」
「は、はい」
 りえはシスター以外の年上の人が現れた為か畏まった。
「俺の従姉も異世界の『護符』を持っていて、君の杯やかよちゃんの杖と同じくらいの実力を持っているんだ。俺は特に異世界の道具は持っていないが、凡人(ひと)と違うものを持ってるんだ。昨日清水(ここ)に帰る途中、平和を司る異世界の人間に出会って東京にいる『敵』を追い払ってくれと頼まれたんだ。その時は俺の恐ろしい能力で追払ったんだが、恐らく東京にいたそいつらの狙いは君の杯じゃないかと思うんだ」
「そうだったんですかっ!?」
「うん、君の家族とかよちゃんの家族が同盟を結んだ事は正解だと思うよ。俺も協力するよ」
「は、はい、ありがとうございます。あの・・・」
「ん?」
「貴方が持ってる能力ってのは何ですか?」
「そうだな・・・、何ていうか自分に危害を加えそうな奴とか敵とかが近づくと胸騒ぎがするとか、相手をすぐに威圧させたりとか、何の攻撃も効かずにこっちからは相手を吹き飛ばしたりとかの災難を降りかける能力だな。それで実家を追い出されて親戚のおばさんの家に居候してるんだ」
「そうなんですか・・・」
「まあ、清水(ここ)に来てからはそんな事を平気で人前でする事は減ったよ。俺はこれで失礼するよ。君のピアノ、応援してるよ」
「あ、ありがとう。さよなら・・・」
 かよ子は三河口についていった。
「かよちゃん、今日は何か遊ぶ予定あるかい?」
「あ、うん、夜にりえちゃんや杉山君達と花火やるんだ」
「そっか。買ってあげるよ」
「あ、ありがとう!」

 その後とかよ子は皆と今夜花火で遊ぶ事を電話で伝えた。いつものメンバーは教会の付近にある空き地に集まった。皆は花火で遊ぶ。藤木は花火をしながらりえに見惚れていた。
(りえちゃんと花火するなんて最高の夜だな・・・)
 藤木はそう思っていた。
「ねえ、りえちゃんって普段友達と何して遊んでるのお?」
 まる子が質問する。
「皆とそんなに変わらないよ。缶蹴りとか鬼ごっことか・・・。でも、こうして花火をする事はないかな」
「どうして?」
 たまえが聞く。
「皆、電車で少し離れた所に住んでるの」
「って事はりえちゃんは電車で小学校に通ってるの!?」
 かよ子は驚いた。
「そうよ」
「羨ましいねえ~」
「別に羨ましくなんかないわよ。朝なんて凄く混んでて大変よ」
「そっか、東京は人がいっぱいいるもんね。偶然モモエちゃんに会えるなんてことは?」
 たまえは聞いてみた。
「別に東京に住んでるからって、テレビに出てる人に簡単に合えるわけじゃないわ」
「でも、東京っていっつもパーティーしてたり、高級な料理食べてるイメージがあるよね~」
「・・・残念ながら、私は普通の小学生よ」
 その時、大野が呼び掛ける。
「おうい、皆、打ち上げ花火やるぞ!」
「おお~」
 打ち上げ花火の準備を行う杉山が導火線に点火して、皆は離れた。しかし、何も起こらない。
「あれ、花火上がんないね?」
「不発だったのかな?」
「誰か様子見て来いよ」
「んじゃ、藤木、アンタ行ってきなよ」
「ええ~、僕がかい!!?」
 藤木は自分に振られて驚いた。
「『僕が命を懸けてりえちゃんを守って見せる!』って言ってたじゃん」
「・・・、で、でも」
「私が行くわよ」
 りえが名乗りを上げた。
「だ、ダメだよ、危ないよ」
 かよ子は止めようとする。
「大丈夫よ。杉山君、マッチの火をこの杯に入れて」
「え?ああ・・・」
 杉山はりえが取り出した杯にマッチの火を入れた。その時、杯からトカゲのような生物が出てきた。
「ひえええ~、食べられるう~」
 藤木は大袈裟に驚いた。
「違うわよ、これは炎の精霊よ。あの花火をつけてくれるかしら?」
「よかろう、楽しき花火をな」
 炎の精霊は打ち上げ花火のところに行き、改めて導火線に点火し、杯の中へと消えた。そして今度はちゃんと花火が上がった。美しく、赤や緑、金色の火を噴きだしていく。
「流石、豪華だねえ~」
「うん、夢のようだね」
 そしてりえが呟く。
「綺麗・・・」
 そのりえが見惚れる様を杉山は見ていた。 
 

 
後書き
次回は・・・
「別れの寄せ書き」
 花火を楽しんだかよ子達はりえが明後日東京に帰る予定だと聞き、寂しく思う。そしてかよ子はりえに対して別れの寄せ書きを書くことを提案する。しかし、杉山だけはそれを書く事を拒否し、その後、寄せ書きを受け取ったりえは・・・。 
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