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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第17節「奴らがUFZ」

 
前書き
クリスの次は、そう、きりしらのターン!

しかし、ここで作者は考えたのです。
このシーンも原作と同じでは味気がない、と。

……というわけで出した答えが今回です。
前々から歌ってもらいたかったわけですよ、彼らにも。

というわけで、始まります!
推奨BGMは『ORBITAL BEAT』、そして『奴らがウルティメイトフォースゼロ』です。

今回もお楽しみください! 

 
勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生!

クリスの優勝が決定したその直後……彼女達は名乗り出た。

「チャンピオンに……」
「挑戦デェスッ!」

調と切歌、二人の登場に響達は驚く。

「翔くん、あの子たちは……ッ!」
「ああ……だが、何のつもりで……」
「翔、お前らあのちっこいのと知り合いなのか?」
「まあ、その……」
「調ちゃん達が、どうかしたの」
「なんで流星があの子の名前を!?」

流星の口から調の名前が出た事に驚く純。

身を乗り出して聞いてくる紅介に、翔は口ごもりながら姉を見る。

未来や紅介らは二課の外部協力者だ。このくらいの情報は共有しておくべきだ。
そう判断した翼は、彼女達について簡潔に説明する。

「彼女達は、世界に向けて宣戦布告し、私達と敵対するシンフォギア装者だ」
『ッ!?』

紅介らの表情が驚愕に染まる。
特に、直前に二人と言葉を交わしていた飛鳥と流星の驚きは、他の面々の倍であった。

「じゃあ、マリアさんの仲間なの? ライブ会場でノイズを操って見せた……」
「そう、なんだけど……」
「あの子達は、一体何を……」

詳しい事まで説明するには、事情が複雑に過ぎる。
歯切れの悪い響と共に、翔は舞台へと向かって行く少女達を見つめていた。



「べぇぇ~っ」
「なッ……ぐぬぬ」

ステージ脇の階段まで降りてきた切歌は、クリスを睨むと舌を出し、あっかんベーで挑発する。

「べ~っ……」
「切ちゃん、わたし達の目的は」
「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取ること、デースッ」
「だったら、こんなやり方しなくても……」

客観的に見れば、調の意見は正しい。
しかし、切歌には切歌なりの考えがあった。

「聞けば、このステージを勝ち抜けると、望みを一つ叶えてくれるとか。このチャンス逃すわけには――」
「おもしれぇ。やり合おうってんなら、こちとら準備は出来ているッ!」

正面からぶつかって力ずくで奪い取るには、最大2対5では分が悪く、こっそり盗むにはペンダントである以上隙が無さすぎる。どちらもリスク、難易度共に高く、危険な賭けだ。

だが、丁度お誂え向きにな事に、このカラオケ大会に勝ち抜けば、その苦労はしなくて済むことになる。
優勝賞品として、装者達のペンダントを貰えばいいのだから。

その上、クリスは挑発に乗り、やる気でいる。
この絶好の機会、逃す手はない。

調は渋々納得せざるを得ず、溜息を吐いた。

「はぁ……。特別に付き合ってあげる。でも、わすれないで。これは……」
「分かってる。首尾よく果たして見せるデスッ!」

二人がステージへと昇ろうとした、その時だった。

「ちょっと待ったァァァァァッ!!」

会場内に響き渡る、暑苦しい待ったの声。
観客達、司会、スタッフ、審査員、そしてクリスと切歌、調までもが、そこに視線を向けた。

「その勝負、俺達も受けるぜッ!」

親指で自身を指さし、自信たっぷりに宣言したのは、アイオニアン一の熱血バカ。UFZ(アルティメイトフレンズゼータ)の名付け親、穂村紅介であった。

「おおっとぉ!? ここでアイオニアンからの生徒が名乗りを上げるーッ! 挑戦者が二組、チャンピオンの座を狙い、挑戦者の部が始まったーッ!」

司会に煽られ、観客達が一斉に歓声を上げた。

恭一郎は驚きながら、紅介の肩を揺する。

「紅介! 何勝手に僕らまで巻き込んでエントリーしているんだ!」
「だってよぉ、もしあのちびっ子達が雪音先輩に勝っちまったらヤバそうじゃねえか」
「雪音先輩の歌はさっき聞いたばかりだろう!? 僕らじゃ足元にも及ばないじゃないか!」
「あのなぁミラちゃんよ、俺ぁ別に絶対勝つなんて言ってねえだろうが」
「はあ?」

わけが分からない、という顔で紅介の顔を見る恭一郎に、飛鳥がなるほどと手を打つ。

「雪音先輩はさっき一曲歌ったばかりだ。連戦となればコンディションが落ちる可能性も捨てきれない。だから僕たちで時間を稼ぎ、少し休憩させようという算段か。紅介にしては考えたじゃないか」
「そうそう、それそれ……」
(本当は、そんな細かいとこまでは考えてなかったけどな。雪音先輩を休ませるってとこ以外……)

飛鳥の補足を聞き、流星も席を立つ。

「そうと決まれば、異論はないね。僕達、エントリーするつもりで練習してきてたんだから」
「ミラちゃんが恥ずかしがって、エントリー用紙出さなかったからおじゃんになったけどな」
「なッ! そッ、それは……」

恭一郎は頬を赤くしながら、未来の方をチラリと見る。

紅介は恭一郎の肩に腕を回し、声を潜めて耳打ちした。

「ダチを助けて、小日向とも付き合える。ここを逃せば男が廃るぜ、恭一郎」
「た、確かに……」
「よおぉし、それじゃ行くぜぇ!」
「って、うわああああ!?」

紅介に引っ張られ、恭一郎はステージへと引き摺られていく。
それに飛鳥、流星も続いて行った。

「あいつら……」
「いつも通りだね~……」

親友達の気遣いと変わらないノリに、翔と純は苦笑しながら彼らを見送るのであった。

ff

同刻、都内のとある廃工場。

誰も寄り付かない建物内に隠されているのは、先日二課の前に姿を現したF.I.S.の特殊ヘリ、エアキャリアだ。

その作戦会議室で、マリアは昨日の調と切歌の言葉を思い出していた。

『マリアが力を使う度、フィーネの魂がより強く目覚めてしまう。それは、マリアの魂を塗り潰してしまうという事。そんなのは、絶対にダメッ!』
『俺も反対だ。二課にやられてバグが生じてるとは言え、アウフヴァッヘン波形に触れた分だけフィーネの意識は強くなる。それは俺だって嫌だからな……』
『アタシ達がやるデスッ! マリアを守るのが、アタシ達の戦いデスッ!』

(私は……いつまでツェルトを、あの子達を騙し続けなくちゃいけないの……)

胸が痛い。家族同然、兄妹同然に思っている三人に嘘を吐き続けなければならない現状が、この上なく苦しい。

でも、そんな弱音を吐くことは許されない。
何故なら、彼女は組織の象徴なのだから。

「後悔しているのですか?」

顔を上げると、ナスターシャ教授が厳しい目でこちらを見ていた。

「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うして見せる」

首を横に振り、その言葉を否定する。
しかし、ナスターシャ教授の表情は変わらなかった。

その時、エアキャリア内全域に警報が鳴り響く。

驚いて立ち上がるマリア。ナスターシャ教授が開いた机上モニターに映し出されたのは、完全武装で工場を包囲する特殊部隊だった。

「今度は本国からの追手……」
「もうここが嗅ぎ付けられたのッ!?」
「異端技術を手にしたといっても、私達は素人の集団。訓練されたプロを相手に立ち回れるなどど思い上がるのは、虫がよすぎます」

ナスターシャ教授の言うことは尤もだ。

学者が二人と、装者ではあるが軍人ではない青年と少女達が四人では、米軍の特殊部隊を相手にいつまでも逃げられるものではない。
いずれこうなるのは目に見えていたのだ。

「どうするの?」
「踏み込まれる前に、攻めの枕を抑えにかかりましょう。マリア、排撃をお願いします」

その一言は、マリアにとってはあまりにも酷なものであった。

「排撃って……。相手はただの人間、ガングニールの一撃をくらえば――」
「そうしなさいと言っているのです」
「ッ!?」
「ライブ会場占拠の際もそうでした。マリア、その手を血に染めることを恐れているのですか?」
「マム……私は……」

有無を言わせない、厳しい視線。
言葉なくとも、それはマリアを鋭く射抜いている。

数瞬の沈黙の後、ナスターシャ教授は再び口を開いた。

「覚悟を決めなさい、マリア」

次の瞬間、爆音と共に工場の壁が爆破され、炎がヘリキャリアの周囲を包み込んだ。

「始まりましたね……。さあ、マリアッ!」
「くッ……」

マリアは、重大な決断を迫られていた。

この手を血に染め家族を守るか、血に汚れるのを恐れて何もかも失うか……。

苦渋の決断。迫る米兵。

その時、会議室の自動扉が開いた。

「そんなにマリィをフィーネにしたいかよ」
「ツェルトッ!?」
「……」

そこにはRN式用のインナースーツに着替え、銃に弾を込めるツェルトの姿があった。

ff

「それでは歌って頂きましょう! アイオニアンの男子四人……」
「ああ~、待った待った。自己紹介は自分でやるぜ」

司会を手で制し、紅介はコードレスマイクを握り、会場全体を見回しながら言った。

「ここに集いしオーディエンス!ボーイズ、ガールズ、とーちゃんかーちゃん、じーさんばーさん皆々様に至りますまで、耳かっぽじってよく聞きやがれッ!」

毎朝セットしているオールバックの前髪をかき上げて、紅介は親指を自分の方へと向ける。

「覚えていけよ、俺達はッ! 穂村紅介ッ!」
「加賀美恭一郎ッ!」
「大野飛鳥ッ!」
「同じく流星ッ!」

マイクを片手に、四人は名乗りながらポーズを決める。

「全員合わせUFZ! この会場全員のハート……燃やし尽くしてやるぜェェェェェェッ!!」

観客席から拍手と口笛が飛ぶ。
リディアン、アイオニアンの生徒らは「ま~た四バカがバカやってるよ」と言いたげな顔の者が大半ではあるが、拍手はしてくれている……といったところだ。

その反応には慣れている。だが、これまでは両学園で“翔と純(イケメンツートップ)の取り巻き”程度にしか認識されていなかった彼らの評価は、ここで大きく変わることとなる。

「そ……それではUFZの四人に歌って頂きましょうッ!」

始まるイントロ、それぞれの配置につく四人。

顔を上げた瞬間に、四人の顔つきが変わった。

『さだめの元に集った力――』
『あの流星に誓った絆――』
『遥かに挑め、無限のギャラクシー!』

「あの唄はッ!?」
「翔くん知ってるの?」

首を傾げる響に、翔は興奮気味に答える。

「元号がまだ平成と呼ばれていた頃、巨大特撮の金字塔と名高いヒーロー番組を制作し続けていたとある映像作品会社、その低迷期を支え、危機を救ったとされる作品のエンディングテーマ……『奴らがウルティメイトフォースゼロ』ッ!」
「お、おお……なんかすごそう……」
「UFZの名前の由来とは聞いていたが……あいつら、結構やるじゃないか……」

四人の歌声は、見事に観客の心を震わせていた。

更には練習してきた振り付けもキレッキレであり、歌いながらのフォーメーションも完璧。
見事に見るものの目をくぎ付けにしている。

「燃え上がる炎の闘志ッ!」
「曇りなき鏡の心ッ!」
「揺るぎない鋼の勇気ッ!」
「突き進む、光の道を――ッ!」

一人づつ、ローテーションしながらの個人パート。
もう、四バカなんて呼ばせない。そう言わんばかりに、歌って踊る彼らの姿は輝いていた。

どんな危険も恐れない。巨大な敵に怯まない。
心に愛を忘れない。小さな涙を見捨てない。

背中を預けて戦う仲間と共に、かけがえのないその笑顔を護りぬく。

マルチバースを流れ星のように駆け抜けていく、そのヒーロー達の在り方こそ、彼らが目指す『漢』の姿。

最初は呆れ気味だった生徒らも、手拍子と共に彼らの歌に聞き入っていた。

『くじけない 最後の勝利掴むときまで――!』

歌い終え、ステージ中央に集まる四人。
拍手喝采を受ける彼らの表情は、とても晴れ晴れとしたものであった。

「す、すごいデース……」
「かっこいい……」
「デスが、アタシ達も負けてはいられないのデースッ!」

客席に手を振る流星を見つめる調の手を引き、切歌はステージに登る。

「確かに、中々のパフォーマンスだったデス。でも、アタシ達に勝とうなんざ、二万光年早い事を教えてやるのデースッ!」
「切ちゃん、光年は時間じゃなくて距離だよ」
「ほえ?」

舞台袖に引っ込んでいくUFZを指さしながら宣言するも、イマイチ締まらない啖呵となってしまった切歌が首を傾げる。

微笑ましいやり取りではあったが、マイクを握った瞬間、二人のまとう雰囲気も一転した。

「それでは続けて歌っていただきましょうッ! ……あ、えっと……」
「月読調と」
「暁切歌デェスッ!」
「オーケー! 二人が歌う『ORBITAL BEAT』、勿論ツヴァイウィングのナンバーだッ!」

イントロが流れ、二人は首を振りながらリズムを取り始める。

「ッ! この唄……」
「翼さんと奏さんの!?」
「なんのつもりのあてこすりッ! 挑発のつもりかッ!?」

響、未来が驚き、この曲を歌った本人である翼は表情を険しくする。

しかし……。

「幾千億の祈りも」
「やわらかな光でさえも」
「全て飲み込む暗闇(ジェイル)のような闇の魔性――」

翼のパートを切歌が、奏のパートを調が唄う形で、曲が進んでいく。

「いや……これは……彼女達の、本気の歌……」
「姉さん達には及ばないが、こんなに綺麗な歌声が……挑発でたまるかよ……」

歌詞、音程、発声に加え、振り付けまで完コピしたそのパフォーマンスに、響達やクリスはおろか、シスコンの翔でさえ感嘆の声が隠せない。

曲は既に二番に突入しており、最初は挑発かと言っていた翼も、二人がこの曲を選んだ意味に気付き始める。

防衛組織とテロリスト。立場の違いから敵対してきたものの、切歌と調もまた、心の底から歌を愛する少女なのだ。

「「この手この手 重なる」」
「刹那に」
「「砕かれたParanoia 熱く熱く奏でる」」
「記憶でリフレインしている」
「「命の向こうで――」」

二番まで歌いきったところで曲が終わり、二人はそれぞれ反対側の手を上げながら背中を合わせる。

クリスやUFZにも劣らぬほどの大喝采。
切歌は観客席を見回しながらガッツポーズし、調はぽけーっと口を開き、目をぱちくりさせていた。

「姉さん……」
「翼さん……」

翔と響は、翼の方を見つめる。

「何故、歌を唄う者同士が戦わねばいけないのか……」

翼は胸の前で拳を握りながら、静かにそう呟いた。


「両者、チャンピオンとてうかうかしていられない、素晴らしい歌声でしたッ! これは特典が気になるところですッ!」

採点役の教師三人が、ボードに特典を書き込んでいく。

「二人掛かりとはやってくれるッ!」
「あっちはアタシらの倍の四人デス! 不公平とは言わせないデスッ!」
「歌は人数じゃないと思うんだが……」
「ぐぬぬ……そこのムラサキ眼鏡、正論っぽいこと言うなデスッ!」
「むッ、ムラサキ眼鏡!?」

自分達を指さしてくる切歌に、飛鳥が真顔で反論する。

そうこうしている間に採点が終わる……その直前だった。



調と切歌が耳に付けていた通信機が、緊急のアラートを鳴らす。

通信に出た二人に、ナスターシャ教授は淡々と通告する。

『アジトが特定されました』

「「えッ!?」」

予想外の通告に、二人は同時に目を見開くのであった。 
 

 
後書き
いかがでしたか?

UFZでも歌いたい。そんな思いで彼らが歌うシーンがあるならここだなと思い、遂に実現させることが出来ました。
四バカと言われる彼らも、本当はカッコいいってことを学園に知らしめたかったですし。
ってか声が良すぎるんだよなこの四人w

いやいや、元ネタそのまんまじゃんって?
そこはお口スティッキーフィンガーズしてくださいw

さて、次回はツェルマリパート。
ああ、トラウマがもう目の前じゃないか……。

何がとは言いませんが、喪失へのカウントダウン……次回もお楽しみに! 
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