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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
  第19話 悪魔嬢レミリア:後編

 勇美との戦いで全世界ナイトメアを発動したレミリアは得意気に言う。
「それも、ナイトメア……即ち『夢魔』という奴さ! これから覚めない悪夢を噛み締めるといい!」
「いえ、私はこの歳でおねしょはしたくないので遠慮しておきます」
 だが、相手側の発言により見事にオジャンにされてしまった。エンターテイナーの面目丸潰れである。
「あなたの悪夢に対するイメージはそんなんかい!」
「ええ、これだけは譲れません。小さい頃苦労しましたから」
 キッパリと言ってのける勇美。
「……まあいいわ」
 調子が狂ってしまったレミリアだが、やる事は変わらない。
「私の可愛い夢魔達よ、獲物を喰らい尽くせ!」
 レミリアは指を勇美に指すと、夢魔達に迎撃命令を下したのだ。
「うわあ、来た!」
 当然勇美は慌ててしまう。今までのレミリアの攻撃とは趣が違う禍々しいものであったから尚の事である。
「こうなったら仕方無いか」
 だが、勇美の方も腹を括る事にしたのだ。
「祇園様、天津甕星様、お願いします」
 勇美は二柱の神に呼び掛けると、右手に筒上の機械を現出させた。
「ふんっ!」
 その掛け声と共に筒を一振りすると、先から眩く輝くエネルギーの刃が放出されたのだ。
「勇美、貴方好きねえ、あの映画……」
 妹紅の時も似たのやったじゃないかと、依姫は頭を抱えながら突っ込みを入れた。
「甘いですよ依姫さん」
 だが、勇美は左手で人指し指をチッチッと振るりながら得意気に振る舞い、
「【機符「一年戦争の光の剣」】!」
 と宣言した。
「そっちかい!」
 依姫は再び頭を抱えた。ちなみに一年戦争のそれは超能力で戦う騎士のそれのオマージュであるため、元は同じであるのだが、それはどうでも良かった。
「じゃあ、行くとしますか!」
 依姫の哀愁をよそに勇美は意気込み、自分に迫りくる夢魔の群れへと目をやった。
「まずは一匹目!」
 高らかに言いながら勇美は夢魔の一体目掛けて光の刃を振り下ろした。ハサミで厚紙を切るかのような音を立ててその夢魔は斬り裂かれて雲散した。
「勇美、いつの目にそんな身のこなしが出来るようになったの?」
 依姫はその事に驚いていた。
「依姫さんや、その他の私が戦ってきた人達に鍛えられたって事ですよ」
 私は人間だから、力任せに武器を振るう事が出来ないから、こうしてエネルギーで攻撃してますけどねと勇美は付け加えた。
「それでも凄いわよ」
 だが依姫は素直に感心するのだった。
「やるじゃないか、でもまだ夢魔は沢山いるわよ!」
 レミリアのその発言に呼応するかのように二体目の夢魔が勇美に迫り、その爪を振りかざした。
「甘い!」
 そう言って勇美は爪の攻撃を難なくかわしてみせる。そして振り向きざまに光の剣を突き立て夢魔を無に還した。
「ふうん……」
 その様子をレミリアはじっくり見つめていた。次々に自分の使いが倒されているにも関わらず、どこか余裕である。
「この調子で掛かって来なさぁ~い」
 そんなレミリアの様子は露知らず、興に乗った勇美は勢いづいていた。
「やっぱり一体ずつじゃあ足りないみたいね」
 その最中、レミリアは呟く。
「あなた、私が夢魔を一度に大量に出した意味が分かってないようね」
「うっ……」
 勇美は言葉を詰まらせた。何か、とても嫌な予感がしたのだ。
「見せてあげるわ、全世界ナイトメアの真骨頂を!」
 そしてレミリアは再度勇美に指を向ける。だが、今度は命令の内容が違ったのだった。
「夢魔よ、『一斉に』あいつに襲い掛かりなさい!」
「ああ~っ、やっぱりぃ~!」
 勇美は同時に大量の夢魔に襲われて嘆くしかなかった。
「この卑怯者~!」
 立派な自身の力で作り出した弾幕に対して、勇美はやや筋違いな発言をするのだった。
 そんな中でも夢魔の群れはグイグイと勇美に差し迫ろうとしていた。
「こうなったら、これしかない!」
 言って、勇美は光の刃を夢魔の群れに向けた。
「【乱符「拡散レーザー」】!」
 そして突如の新たなるスペル宣言。
 すると、筒から生えていた光の剣が引っ込むと、そこから無数のレーザーが放出された。
 そしてそのレーザー郡は次々と夢魔の群れを撃ち貫いていったのだ。
「何っ!?」
 これには驚愕してしまうレミリア。彼女がそうしている内にも夢魔の群れは消し飛ばされていた。
 そして次々に放たれるレーザーは、とうとう夢魔を全滅させたのだった。
「やった!」
 勇美は筒を構えながら歓喜の声を出す。だが物事は最後まで気を抜いてはいけないもの。
「後は……」
 勇美はそう言うと筒の向きを変えてレミリア本人に向けたのだ。
「くうっ……!」
 思わず呻き声を漏らすレミリア。そんな彼女にレーザーの一斉照射は容赦なく襲い掛かったのだった。
「ぐああーーー!!」
 次々に雨あられの如くレミリアに浴びせられるレーザーの洗礼。何とか数秒は耐えていたレミリアであったが、とうとう堪らずに弾かれてしまった。
「はあ……はあ……」
 体制を崩し、息を荒げながらも、辛うじて宙に浮く姿勢は保っているレミリア。
「どんなもんですか!」
 ここまでレミリアを追い詰められると思っていなかった勇美は得意気に言ってのけた。
「……あなたも卑怯さ加減は大概じゃないの」
「この武器の光は剣の形として出しましたけど、剣にしか出来ないとは言ってませんから♪」
 えっへんと控えめな胸を逸らして威張る勇美。余り威張れた事ではないのだが。
「まあ、面白いものを見させてもらった事には変わりないわね」
 そうレミリアはしみじみと言う。その様子に悔し紛れさは感じられない。
「だから、私の方からもお楽しみを受け取ってもらうわよ……パチュリー、例の物を」
「分かったわ」
 突然レミリアに呼び掛けられた外野のパチュリー・ノーレッジは両手を目の前にかざした。
 そして何やら呪文を唱え始めると足元に魔法陣が浮かび上がる。
 続いてその魔法陣から細長い物が出現し始めたのだ。
「何、あれ……?」
 勇美はその異様な光景に目を見張った。
 それをよく観察してみると、ライフルのような銃器である事が分かった。
 ただし、色は目に焼き付くような真紅色、持ち手にはこうもりの翼のような物が生え、更には所々に血管のように脈動する機関が存在する、普通の銃とはかけ離れた禍々しい物であった。
「さあパチュリー、それを私によこしなさい!」
 意気揚々とレミリアは友人に命令じみた要求をするが。
「いや、レミィが取りに来なさい」
 ……何か変な流れになってきていた。
「って、こういう場面では投げて渡すのがセオリーでしょう」
「私にそんな体力があると思う?」
 そして暫し起こる沈黙。
「ごめんパチェ、私が悪かったわ」
「分かればよろしい」
 レミリアが折れるという意外(?)な結果となった。
「貴方のご主人、所謂中二病という奴かしら?」
「ええ、そういう年頃ですわ」
 依姫に突っ込みを入れられるも、咲夜は温かい目でレミリアを見守る事にしたのだった。
 そしてレミリアはパチュリーの元へと舞い降り、丁寧に銃を手渡しで受け取ったのだった。
「うん、やっぱり締まらないわね」
 自分で取りに行ったレミリアだが、やはり納得はいかないようだ。
 そんなレミリアを、勇美は共感の眼差しで見ていた。
「レミリアさん、あなたの気持ち、よく分かりますよ」
 ──ここにも中二病な人がいた、依姫はそう思いながら嘆いた。
 しかし、勇美はそのものズバリな年齢である為仕方ないかと依姫は目を瞑る事にしたようだ。
「待たせたわね。では弾幕ごっこを再開といきますか」
 レミリアはその幼女の姿に不釣り合いな禍々しいライフルを担ぎ上げながら言った。
「……」
 改めてその銃を垣間見た勇美には思う所があり、それを口にする。
「あの、レミリアさん」
「何かしら?」
「何だこの銃は~?」
「少なくともクリムゾンじゃないから安心しなさい」
 勇美に言われてレミリアは首を横に振った。
 ──あの銃は色々問題がある。特に照準が右下にずれている所が。
 気を取り直してレミリアは銃を担ぎ上げながら地面を蹴り上げると、その勢いに任せて空高く舞い上がったのだ。
「空から銃を使うんですか?」
 勇美はそうレミリアに問う。
「ええ、空からの攻撃は私の十八番だからね」
 対するレミリアはニッと笑みを浮かべる。
「それじゃあ喰らいなさい! パチュリーと共同開発した秘密兵器【魔銃「D.O.ヒナアラレ」】を!」
 ……。
 またしても辺りに起こる沈黙。
「レミリアさん」
 漸く勇美は口を開く。
「あなたも大概じゃないですか」
 クリムゾンを意識した自分よりも問題だと。
 名前がパチもん臭いのだ。しかも複数の要素が入り雑じっている。
「まあ、余り気にしなさんな。ちなみにD.O.は『Destiny Over(運命超越)』の略よ。じゃあ、一撃目喰らいなさい!」
 そう言ってレミリアは銃口を勇美に向け、引き金を引いた。
 そして、銃口から発射される真紅色の弾丸型のエネルギーが勇美目掛けて襲いかかったのだ。
「来た! でもその程度の弾なら!」
 レミリアが仕掛けてきた攻撃に、勇美は強気の態度でいた。
 そう、この程度の攻撃なら問題なく攻略出来るだろう。勇美はまだ弾幕ごっこの経験の日は浅いものの、今まで戦ってきた少女達との勝負の経験が抜かりなく生きているのだ。
 勇美は迫って来た弾丸をひらりと容易にかわしてみせた。
「これくらい簡単に避けれますよ」
 勇美は、したり顔で言ってのけた。
 だが、上空に佇むレミリアには落胆の様子はまるで見られなかった。そして口を開く。
「甘いわね」
 その凍りつくようなトーンで発せられた言葉に、勇美は背筋に冷たいものが走るのを感じた。嫌な予感がする。
 続いて、レミリアが放った弾丸が地面に着弾した。すると、激しく爆ぜる音と共に、そこから大量のエネルギー弾がばら蒔かれたのだった。そう、まるで雛あられの如く。
「うわっ……!」
 その光景に、思わず上擦った声を上げてしまう勇美。
「驚いたようね。ショットガンってのは散弾銃って意味なのよ。覚えておくといいわ」
 レミリアは上空で得意気にのたまった。
「へぇ~、そうだったんですか♪」
 勇美はそれを聞きながら感心した。
「レミィ、それ私が教えた事だから……」
「パチェ! そこは黙っておくのが友達ってものでしょ!」
 折角決めたレミリアだったが、この流れで台無しになってしまった様だ。しかも本当の友達は『友達』という言葉を安易に使わない傾向にあるため、その不甲斐無さは一入であった。
「レミリアさん、私本気で感心したのに……」
「言わないで。これ以上大人の世界に首を突っ込まないで」
「いえ、レミリアさんは500年生きているけど吸血鬼だから子供ですよね」
「理屈はいい。それよりも、そんな余裕でいいのかしら?」
 それを聞いて勇美は、はっとなった。そう、先程爆ぜた弾丸から、雨あられと四散したエネルギーが勇美を襲おうとしていたのだから。
「これは厄介ですね……」
 その洗礼を一つ一つ避けて攻略していく勇美であったが、如何せん弾の量が多かったのである。最初は何とか避けきっていたが、徐々に足取りが覚束なくなり、ついに被弾してしまったのだ。
「痛っ!」
 自分に当たった弾が弾けた衝撃に、勇美は苦痛の声を上げた。
「効果覿面ね」
 レミリアは満足気に呟いて笑みを浮かべた。
「さすがは私の能力とパチェの技術で作った最新兵器だけの事はあるわね。精度も申し分ないから、これならあの手が使えるわね」
「あの手?」
 勇美が聞き返す間もなく、レミリアは羽ばたき、更に上空へと高度を上げたのだ。
「どういうつもりですか?」
 勇美はそうレミリアに聞いた。それ程まで高度を上げたら自分を狙うのは困難に……。
「まさか!?」
 またしても勇美は嫌な予感に苛まれたのである。
「いい勘してるわね、霊夢ほどじゃないけど」
 レミリアは上空から勇美に言った。
「それじゃあ、第二弾、喰らいなさい!」
 そしてレミリアは再び化け物銃の引き金を引いた。
 より高い高度から放たれた銃弾。そんな所から撃っても狙いなどたかが知れているだろう。普通なら。
 だが、勇美の予想通り、その銃撃は寸分違わぬ狙いで彼女目掛けて突き進んできたのだった。
「やっぱり!」
 勇美はそこで咄嗟に先程二柱の神の力を借りた攻撃を再び行った。
「クェーサースプラッシュ!!」
 再び機関銃の形態になった自分の分身から、星の飛沫を放出し、紅の散弾目掛けて攻撃したのだ。
 間一髪の所で撃ち落とされる散弾。するとエネルギーが四散するが、それも星の飛沫に掻き消されていった。
 こうして、相手の攻撃は防ぎ切った勇美であったが、ここからが最初にクェーサースプラッシュを放った時のようにはいかなかったのだ。
「届かない……」
 これこそが最大の問題であった。最初の時は相手の攻撃を防いだ後に本体に攻撃出来たのだが、今度はレミリアは遥か上空にいるが故に再び攻勢に持ち込む事が出来なかったのである。
「参ったね……」
 勇美は口惜しそうに呟いた。
「さすがね、この銃は……」
 レミリアはその勇美の様子と、友人との共同開発の銃の性能に酔いしれる。

◇ ◇ ◇

 レミリアがこの魔銃をパチュリーと作り始めたのは、彼女が月から帰ってきてからであった。
 彼女は月には遊びに行く感覚で攻めに行ったのである。故に依姫との勝負に負けた事も遊びの一環であるから特に気にしてはいなかった。現にその後に月の海を再現して遊ぶという娯楽に浸っていたのがその裏付けである。
 だが、『完全に』という訳にはいかなかったのだろう。体当たりに返される形で天照大神の力を打ち込まれた事に、心のどこかで引っ掛かるものを感じていたのかも知れない。
 それが魔銃を完成させるモチベーションに発展したようだ。体当たりだけじゃない自分の強みを作るという。
 そしてレミリアは心の奥底で、この銃を使いこなせるようになっていずれ依姫に打ち勝つ事を望んでいた。だが、まずは今この勝負に決着を着ける事が当面の目的だろう。
「この銃を使いこなせるのは、私の吸血鬼の視力があってこそね。デビルアイは千里眼……なんてね」
 そう満足気に呟きながら、レミリアは卓越した視力で遥か地上の勇美へと狙いを定めて三度引き金を引こうとする。
「どうしたものか……」
 対する勇美はどう対処したものか迷っていた。相手の攻撃を防いでも、距離が開きすぎていて反撃の糸口が掴めないのだ。
「レミリアさんのような視力は私にはないし……」
 言いかけて、勇美は頭に電流が走るような感覚に襲われた。私『には』であると。
 心当たりのある『神』を勇美は知っていたのだ。そして、勝利のピースが徐々にはまり始める。
 そして勇美はそれを実行に移し始めた。
「『アルテミス』よ、私にその力を!」
 勇美はとある女神の力を自分の分身に注ぎ込んだ。そう、狩猟の女神の力である。
 機関銃の形態を取っていた勇美の分身『マックス』は、そこで一旦解体される。そして新たな姿を形作るべく金属辺が集まり徐々に形を成していった。
 そして出来上がったのは、全身迷彩色に包まれた、機械の狩人とでも呼ぶべき姿であった。
「うん、いい感じに仕上がったみたいだね。それじゃあ行きますよ! 【狩符「メカニカル・スナイパー」】!」
 スペル宣言をする勇美。そして彼女には、機械の狩人のアイセンサーを通してよくレミリアの姿が見えていたのだ。
「何をする気か知らないけど、これで終わりよ!」
 その光景を見ていたレミリアは何をやってもこの状況は変わるものではないと決め込み、三度引き金を引いて紅の散弾を射出した。
 だが、今度は勇美は慌てる事はなかった。何故ならこの銃弾もアイセンサーによりくっきりと勇美の脳に映像の情報が送り込まれていたからである。
「マックス、迎撃して♪」
 そして自信満々に勇美は分身に指令を送ると、彼は手に持ったボウガンを上空目掛けて構えた。
 勇美に迫っていた散弾であったが、マックスがボウガンの引き金を引くと勢いよく矢が射出され、散弾を寸分違わぬ狙いで貫き撃ち落としたのであった。
「何っ!」
 これにはレミリアは驚いた。先程まで魔銃の攻撃に右往左往していた勇美が、今度はいとも容易く対処してしまったのだから。
「驚くのはまだ早いですよ!」
 そう勇美が言う事が示す通り、これだけで終わりではなかったのだった。
 散弾を打ち砕いたボウガンの矢はそのまま勢いを弱める事なく、進路をレミリア本人に向けて突き進んだのだ。
 このままいけばレミリアに命中するだろう。だが、レミリアとてそう易々とは攻撃を許しはしなかった。
「私の動体視力をなめてもらっちゃ困るわね」
 そう言って、レミリアは手を目の前に出し、ものの見事に矢を掴んで見せた。
「ええっ!?」
 メカニカル・スナイパーのアイセンサーが捉えた視覚情報から、勇美は驚愕してしまった。
「ふんっ!」
 そしてレミリアは掛け声と共に、矢を握りしめてへし折ってみせたのだ。
(残念だったわね。いくら視覚に捉えられても、攻撃が通らなければ意味がないのよ)
 レミリアは得意気に心の中で呟いた。

◇ ◇ ◇

「……」
 対する勇美は放心状態となってしまっていた。折角の渾身の一撃が防がれてしまったからだ。
「ここまでなのかな……」
 相手の攻撃を防ぐ事が出来ても、自分の攻撃を通す事が出来なければ勝てない。そして、何度も相手の射程外からの攻撃を何度も撃ち落す程の技量は勇美にはないのである。
 万事休すか。そう諦めようとした時、以前依姫がレミリアに勝った時の映像を思い出したのである。
(依姫さんは太陽の力を使ってレミリアさんの弱点を突いたんだよね)
 弱点を突く。それは立派な戦術であると勇美は思った。
 相手の弱みに付け込むのが常套手段な傲慢な者は多い。挙句の果てには弱みに付け込むという行為は『手段』であるにも関わらず、それを『目的』とする場合すらある。
 一言で言って卑怯な行為である。だが、勇美はまだ未熟であるため、正々堂々として戦える程立派ではないので、なりふり構わず勝利を掴もうとするのが今の彼女の心情なのだ。
 依姫はレミリアの弱点を突く形で勝利したが、それは寧ろ相手の弱みを知りながら敢えて突かないのは失礼に当たると思っての事であった。特にレミリアのように自尊心の高い者に対しては。
 だが、同時に依姫は正々堂々を心情とするため、相手の攻撃を全て攻略した上で弱点を突くという武人的な結論で決めたのだ。
 しかし、それは依姫程の洗練された者だからこそ出来た行為である。勇美には到底真似出来ない事なのだ。
 だから、勇美は何としてでもこの勝負に勝利しようと心に決めたのだ。
「でも、天照大神の力を私が借りてもレミリアさんへの一撃必殺にはならないと思う」
 故にどうすればいいのか考えていた勇美であったが、ここで先日阿求との勝負の時の内容を思い出した。
「あの時は確か……」
 そして勇美は思い出した。レミリアの弱点は流れる水だと発言したのを。
「それだ!」
 勇美は頭の中が弾けるような心持ちとなった。思い立ったら吉日、後は実行するまでだ。
「何もして来ないなら、続いて行かせてもらうわよ!」
 レミリアは再度狙いを勇美に定め、紅の銃の引き金を引こうとしていた。
「その攻撃、ちょっと待って下さい! 『ネプチューン』に『ナーガ』よ、私に吸血鬼を打ち破る力を貸して下さい!」
 そう言って勇美は新たに二柱の神に言葉を示した。
 すると彼女の目の前に半人半魚の神と、蛇の神が現出し、勇美の手元にその身を預けたのである。
「何をする気か知らないけど、これで終わりよ!」
 そして、とうとうレミリアは引き金を引き、紅の散弾を放ったのだった。
 それとほぼ同時に、勇美の手に水色の細長い物が現れ始めたのだ。
「何あれ?」
 レミリアは目を凝らして、それを凝視したがその正体を掴めない。
「【鞭符「ハイドロヴァイパー」】!」
 そう宣言して、勇美はその武器をレミリア目掛けて放ったのだ。
「それは……流れる水で出来ているの!?」
 レミリアはそれを確認すると驚愕してしまった。
 予想外であった。水という液体を凝縮して固形にする芸当など思いも付かなかったのだ。
 そしてレミリア目掛けて水流の鞭は飛び掛っていった。
 咄嗟にレミリアは手を翳して受け止めようとするが……。
「しまった、流れる水では……!」
 手で鞭を掴んだものの、それは自分の弱点である流れる水で出来ていたのだ。レミリアの手に電撃のような衝撃が走り弾かれてしまった。
「くうっ……!」
 思わず呻くレミリア。その隙を勇美は見逃さなかった。
「まだまだぁー!」
 勢いづいて勇美は鞭の持ち手に力を込めた。すると水の鞭は船上に打ち上げられたうなぎの如く暴れ回り、レミリアの周辺を薙ぎ払い始めたのだ。
「!!」
 その奔流に巻き込まれたレミリアは、もはや言葉を出す事も出来なかったのだった。
 暴れ狂う水が容赦なくレミリアを幾度となく打ちのめしていった。
 このまま攻撃を続けていこうと勇美は思っていた。だが……。
「ネプチューン様、ナーガ様……? はい、分かりました」
 そう勇美は呟くと、攻撃を解除した。
 するとレミリアはフラフラと上空から地面に降り立つと、膝を付いてしまったのだ。続いて彼女は言葉を紡ぐ。
「見事ね、私の負けよ」
 ここにレミリアは敗北宣言をし、勇美の勝利を労ったのだった。先程二神は勇美にもう勝負が着いた事を知らせたのだった。
「私の勝ち……。やったー!」
 自分が勝利した事を確信すると、勇美は喜びの余りその場で飛び跳ね始めたのだ。
「喜んでいる所悪いけど、一つ聞かせてくれる?」
 自分が負けた事にレミリアは疑問を抱いていない。だが、それとは別に疑問が芽生えていたのだった。
「……何で鞭にしたのよ?」
 流れる水をそのまま放水すればいい所を何故鞭の形にしたのか、レミリアは腑に落ちなかったのだ。
 それを勇美は聞き、
「決まっているじゃないですか。吸血鬼退治は鞭でするものですよ」
 と答えたのだ。
「……」
 その答えをレミリアは聞くと、「あなた、ゲームのやり過ぎよ」と呟き、脱力感の元意識を手放していったのだった。 
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