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インフィニット・ソード

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SCENE5「蒼い雫」※修正

 
前書き
彩夏は、ニュータイプとネクストワンの両方を兼ね備えた力を持っているんだと思います。
※勝手ながら最後の方を修正させていただきました。 

 
 「ね、姉さま――!」
 「箒、貴様ぁ何故この学園にいるのだぁ? 詳しく十文字以内で簡潔に説明いたせ!」
 彼女が最も苦手とする身内に遭遇した箒は、
 ――やばい! 
 自身の第六感が身の危険を警告している。
 「すみません! 急用を思い出したのでお先に――」
 そういうと、彼女は仮設部署から外へ飛び出すように走って出ていったのだ。
 「待て箒ッ!」
 部署から出た箒を、豹のごとく追い詰めて、部署手前でその後ろ襟をとっつかみ、こちらへ引き寄せると、
 「この馬鹿者ガァ!!」
 と、彼女の脳天チョップが箒の頭上へ振り下ろされた。
 「ッ~!!」
 両手で頭を抱えながら、慈のチョップに苦しむ箒は恐る恐る慈を見上げた。
 「ね、姉様……」
 気まずそうにしている箒と両手を組んでご立腹の慈司令の対峙に、慌てて部署から飛び出してきた彩夏たちは何があったのかわからず、遠くから見ていた。
 「貴様、どういうつもりだ?」
 「ど、どう言うつもりとは?」
 「ふざけるな! IS学園だけには決して入るなと、あれほど私が注意したではないか」
 「ね、姉さまこそ遠距離の別居生活でろくに連絡もしないし、それどころか二年前から突然行方を絶ってしまうしで、心配したのですよ?」
 そう言い返すも、慈は正当な理由で倍返しに言い返した。
 「お前の入学先や安心して暮らせる地域を用意してやるのに多忙だったのだ! それを貴様ときたら、勝手にIS学園なんぞに入りおって……」
 「織斑先生が――千冬さんが、IS学園へ入れば安心だと入学させてもらったんです」
 と、彼女から視線をそらしてボソっと箒が答えた。
 IS学園にいる際、生徒や関係者は国家や組織などいった外部からの力や拘束からは一切受けけないという、学園の法で守られるのだ。
 しかし、慈の言っていることはそこではなかった。
 「私が言いたいのはそこではない! 確かにIS学園へ行けば入学期間中、外部からの魔の手から身を凌げることができるかもしれぬが、逆に``奴``から余計に目を付けられること請け合いだぞ」
 「あの人とは関係ないじゃないですか……」
 「あ奴の身勝手な行動で――父様がどれ程ご迷惑になられているのかわかっているのか? そんな奴に肩入れするようなことをお前はしているのだぞ」
 「ッ――!」
 そこまで言われると、箒は慈に言い返せぬと目をそらしてしまった。
 そんな妹を見て、慈はため息をついてから頭をボリボリかき回しつつこう続けた。
 「――こうなってしまった以上は仕方がない。もう一度あ奴と行き会うことになると思うが、その覚悟も決めておくか……千冬なんぞは当てにならん。何か困ったことがあれば姉である私に相談しなさい」
 そういうと、慈は箒を連れて部署へ戻ってきた。
 「大変お見苦しいところお見せしたようだ。申し訳ない、実技中や一組と接する場合の際、何かと末の妹が迷惑をかけてしまうかもしれんが、その時はどうか……」
 ネオファリアの面々に申し訳なく深々と頭を下げる慈を前に、一部始終を見た周囲は彼女を「怖ぁ~!」的な顔で見ているのだが、その中で彩夏だけは、「司令は優しい人だな」という顔で彼女を見つめていた。確かに怒ると怖いが、それでも彼女からはしっかりとして箒に対する愛情が感じられていた。
 「しかし、慈に末の妹がいるとはなぁ?」
 キースは彼女の下に三人目の姉妹がいるなんて初耳だった。
 「別に隠しているつもりではなかったのだが」
 「そうか……そうなのか」
 「……ひょっとして、篠ノ之束のこと?」
 ついネイナがその名を口から漏らしてしまった途端、
 「違うッ!!」
 「――?」
 さっきまで大人しくしていた箒は急にその名前を否定しだしたではないか。
 「私は違う! 私とあの人とは関係ないんだッ!!」
 そう発狂してしまう箒はついに耐えられず、その場から走り去ってしまった。
 「こら箒ッ!」
 呼び止める姉の声を振り払って彼女はそのまま校舎の角へ消えてしまった。
 「まったく――本当にああいう愚妹で申し訳ない。アイツの話をすると、ついああなってしまうんだ」
 「気持ちはわからんでもない。俺は別に気にしねぇがな」
 「あの――司令」
 すると、キースの隣に立つネイナは彼女に訊ねた。
 「どうしました、博士?」 
 いつも以上に真剣な表情を浮かべるネイナに、慈は目を見開いた。
 「お尋ねします。司令の妹さん、次女の御方は……篠ノ之束というお名前で間違いないのですね?」
 「ッ……」
 彼女にそう問われた慈は、表情を暗くして俯いた。その顔からは罪を代わりに背負い続ける篠ノ之家長女の悲しい瞳が見える。
 「ネイナ、お前さんの気持ちも十分わかるが、彼女の前でその名前はあまり言わないでやってくれ?」
 前々から付き合いの長いキースだからこそ篠ノ之家の詳細はちゃんと理解しており、同時にネイナについても彼女が篠ノ之束を激しく嫌っているのもわかる。
 キースは、仲間の事情や過去を重んじて当たり障りのない接し方を大切にする下士官なのだ。
 「そう――なの」 
 束のことをー酷く嫌っていても、さすがに司令の前では口と態度が過ぎたと思い、
 「大変失礼しました。以後、気を付けます」
 頭を下げるネイナだが、慈はそれを潔く受け入れてくれた。
 「いや、当然言われてもおかしくないので、お気になさらず」
 慈は笑んだまま気にしなかった。
 篠ノ之家の長女として、篠ノ之束の罪を背負って生きていくことを受け入れるしかない。彼女はこれまで束の影響で多くの人々から憎まれながら生きてきた。
 ――そうなのか、この人がやっぱり……
 司令が束というISの開発者の身内、彩夏は複雑な心境よりも実感がわかずにどうすればいいのかわからなかった。
 ISに関しては軍事の講習を除いては知識等に一切興味が無いため、篠ノ之という苗字が単に珍しい姓だとしか思っていなかった。
 綺麗で憧れる司令官のお姉さんという見方だった相手が仇の身内とは……
 「……」
 少し、落ち着くために彼は先に休憩室へ入った。
 「准尉?」 
 先に部署へ入っていく彼の様子が気になり、声をかけようとした慈だが、
 「司令――慈、よせ」
 と、キースが彼女の肩を掴んで止めに入る。
 「具合でも悪いのか不安だ。ソードを駆る若手のパイロットだしな」
 「それ、単なる言い訳だろ」
 彼の視線が冷たく彼女を見た。その様子からしてこちらへ一言言おうとしている目つきだ。
 「何が言いたい?」 
 険しい表情になる慈に、キースは彼女の心を読み当てるかのように淡々と言い出した。
 「准尉は、織部はな……」
 
  *
 
 「あんな兵器、非常識ですわッ!」
 寮のPCから調べたソードの詳細な機体情報をくまなく調べていくと共に、代表候補生である彼女の経験と知識から出した結論としては、ソードは極めて恐ろしいハイスペックを所持したオーバーテクノロジーの塊であることを知った。
 特にSEシステムよ呼ばれる推進機能はパイロットの腕次第で時空を歪めてしまうほどの強大なエネルギーを有しており、それによって次元や時空を破壊しかねない恐るべき兵器――否、破壊兵器である。
 これまで、ISが最強の兵器と思い込んでいた彼女からして、まさかの天敵が出現したことに心が絶叫してしまう。
 「どうすれば――でも、ここで降参するわけには……」
 どうすることもできずに、ただひたすら悩みこむ彼女であったが――
 コンコンッ――
 彼女の寮の部屋をノックする音が扉から聞こえてきた。
 「あら――誰ですの?」
 席から立ち上がって、扉へと向かうが――
 「……?」
 一瞬、何かよからぬ予感が扉の向こうから漂い始めた。
 ――いったい誰ですの?
 戸惑うも、再び扉のノックが聞こえてきた。
 きっと、ソードのことで心配性になったからそう思ってしまうだけだと、彼女は思い込んで自身の感じる予感なんて振り払い、扉を開けてしまった……

 日にちは過ぎ去って、決闘当日を迎えた今日。
 アリーナでは決闘相手の彩夏とハイペリオンを待ってカタパルト前から専用機ブルー・ティアーズが待っていたが、
 「……」
 無言無表情のままセシリアは立ち尽くしているだけだった。周囲の整備班の生徒らが気にかけて声をかけようとするも、彼女からは近寄りがたいオーラが漂い始めていたのだ。
 「どうしたんだろう? セシリアさん」
 「本番前の精神統一かも?」
 「でも、なんだか近寄りがたいオーラでいっぱいだよね」
 「さすがは代表候補に選ばれた人だけあるよ!」
 これなら、セシリアの勝利も過言ではないと思っており、彼女を後ろから機体の眼差しを向ける整備課の少女らであったが、そんな彼女たちの耳元へとソードの登場を知らせる放送が流れ出した。
 彼女立は外を見上げると、上空には全長二十メートル近い巨大な人型兵器の姿が見えた。
 「あれが、ソード?」
 上空から地上へ飛来するその青で統一された機体は実に優雅で美しい姿だという印象をISの生徒たちにも印象付けたのである。
 『最終調整、それでよろいいかしら?』
 機内の全面スクリーンからネイナの姿が映し出される。
 「はい、どこも異常はありません」
 「ねぇ……准尉?」
 「はい」
 すると、不安な顔でネイナはこう尋ねる。
 「セシリアさんに言った条件、本気なの? もし勝ったらISから手を引けなんて言うから」
 いくらISを敵視している彼女でも、十代後半の少女に代表候補を辞退してISもやめろと言われた彼女を見て、凄い動揺をしていたためにセシリアに対してわずかな同情が見られた。
 「ああ、それですか? すこし、反省してもらいたいために言っただけですよ。あの子に勝った後、容子を見て判断しようと思いますので」
 「彼方が負けたらどうするの?」
 「負けませんよ。ネイナ博士のソードを信じてますんで」
 「ふふ、そうよね?」
 すると、しばらくしてアリーナのフィールド上空にブルーティアーズという青と白で分けられた彼女の専用機が現れた。
 「あれがブルーティアーズ(青い雫)か……」
 データを見たが、ビットと呼ばれる浮遊砲台を用いたオールレンジ攻撃と、スナイパーライフル「スターライトマークⅢ」を用いた遠距離射撃という、重火器を用いたタイプの機体だ。
 「やっと、現れましたわね――」
 しかし、彼女のその声はいたって冷静沈着そのものであった。さすがは、代表候補とだけあってエリートの風格はしている。
 ――しかし、どこが妙だと彩夏は思った。様子からしてそう思われるが、どこか強い邪に近いオーラがあふれ出ているように感じられる。
 「この気配、ただ物じゃない――?」  
 それを感じた彩夏は全出力を最大限にして取り掛かった。
 「あれが、ソードか――!」
 観客席からあふれかえる女子生徒たちに交じって、箒と共に観戦している一夏は、その雄々しい巨大ロボットの姿に惚れ惚れしていた。
 そんなISとソードが対峙する緊迫した状況下で、彩夏の元へセシリアの通信が入ってきた。
 「いま此処で許しを請うなら全て許して差し上げてもよろしくてよ?」
 「……」
 だが、その呼びかけを無視した彩夏は「ネイナ博士!」と、ネイナへ通信を入れた。
 『ええ、ちょうどアップロードできたわ。受け取って!』
 ハイペリオンの右手に転送されられた武装が握られる。巨大なビーム状の刃をはやした斧であり、それを両手でぎっしりと構えだした。
 ハイペリオンの主要兵装、SE式ビームアックスがそれである。
 アックスを構えるそのハイペリオンの姿がセシリアに対する答えであった。
 「そう――では、容赦はしませんわよ!」
 ブルーティアーズから大型スナイパーライフル、スターライトマークⅢの銃口が向けられる。
 「いくぞ、ハイペリオン!」
 低空で浮上したハイペリオンは、そのまま高速でセシリアが纏うブルーティアーズへ突っ込んでいった。
 「踊りなさい! ブルーティアーズが奏でる美しき円舞曲で!!」
 スターライトマークⅢの銃口から図太いビームの柱が放たれた。
 「くっ!」
 それを予測して交わした彩夏は、ブルーティアーズの周りを散開する形で徐々に距離を縮めていこうとするが、それをさせまいとスターライトマークⅢに加えて浮遊砲台のビットの群れのオールレンジ戦術がハイペリオンの行く手を阻んだ。
 「もう少し、速度を上げて――!」
 はならかされたハイペリオンは、さらに質力を上げて、地を這うように超低空で加速を始めた。早めた、ハイペリオンが行き去った地面からビームで直撃した激しい土煙が次々に立ち上がって行くも、その照準は未だ定まらないままハイペリオンを捉えられないでいた。
 「図体のでかいわりにちょこまかと――!」
 そのとき、スターライトマークⅢの段数が一時的に止まった。
 「今か!」
 リロードする時間を見計らってスラスターを最大限にし、ビットの弾幕を一瞬で追い越して、ブルーティアーズの直前まで攻め入った。
 「くらえっ!」 
 「まだですわ!」
 そのとき、ブルーティアーズの機体から二発のミサイルが放たれる。この至近距離では、お互い爆発に巻き込まれるのを承知なのか?
 上空に黒煙が広がった。
 「これで、ダメージを……!」
 ブルーティアーズの防衛シールドは約半数を削られた。しかし、これであの人型兵器にも重傷を負わせられたはず――
 「ッ!!」
 しかし、黒煙を切り裂く二つの眼光が彼女を睨みつけた。消え去った煙から姿を現したハイペリオンは頭部のビームバルカンで反撃に出る。
 彼女の悲鳴がアリーナに響き渡ると同時に、ヒラヒラとブルーディアーズが地面へと墜落した。
 セシリアのシールドはビームバルカンの至近距離射撃によってゼロにまで削られてしまった。
 これで、彼女の敗退は呆気なくも勝負がついたのである。
 「す、すごいですね――織斑先生」
 管制室の内部より、山田は驚いた様子で千冬へ訊ねた。仮に自分だったらソードを敵に回したくはないという顔をしている。
 「うむ、しかしあと少し射撃が長引いたらセシリアは完全にミンチになっていたことだ。それをうまく調節できたのはパイロットの技量のようだな。恐ろしすぎる力だ、ソードとは……」
 腕を組んで、ソードを睨む千冬はアイツの標的、目の敵にされないことを祈るばかりだ。
 「こ、こんなところで――!」
 それでも立ち上がる彼女は、ふたたび手元から地面に転がるスターライトマークⅢへ手を伸ばそうとするが、
 「もうやめろ。お前は十分に戦ったんだ。それでいいじゃないか?」
 地に降り立ったハイペリオンから彩夏の声が聞こえた。
 「認めません――認めませんわ! こうも、あっけなくこの私が敗退を喫するなんて……」
 これじゃダメだ。もっと、自分に力が欲しい……!
 ――もっと……!
 自分に残されたものはISに乗ることだけ! それを取られたら、他に残る者なんてない! これまでの全てをISに捧げてきた自分にとって、これ以上大切なものが取りあげられるのだけは嫌だ! 幼い頃に父を亡くし、母を亡くし、次に唯一の心のよりどころであったISをなくすのだけは絶対に――!!
 「これ以上大切な物を取られたくないのぉーッ!!!」
 怒り悔しさに叫びあげる彼女であったが――
 ドクンッ――
 「ッ!?」
 突然、心臓の鼓動が高まりだした。それは緊張によって生じる者よりも体内から湧き上がる熱い何かのエネルギーが自身の心臓を高鳴らせている。
 ――な、何ですの!?
 それは突然起こった激しい鼓動と共に体内をとてつもない強い何かの感覚が駆け巡りだすのだ。
 そんな状態を抑えきれることはできない。これの感覚は何なのか、突然起きたの自身の身の異常に恐怖を覚えた。
 「い、いや――!」
 それはついにブルーティアーズにも異変が生じてしまう。その白と青の色合いは黒く変色し、ISという輪郭が粘土のように崩れ落ちて、装着者であるセシリアへ波のように襲い掛かったではないか。
 「い、いやっ―――たすけっ」
 「セシリア!」
 とっさに、ハイペリオンの片手が彼女へ手を近づけさせようとするが、それも遅かった。
 彼女を飲み込んみ、粘土のように変異したブルーティアーズはその姿を変え始めたのである。
 巨大な翼、に爬虫類を思わす生命体を象ったその姿に再び青と白の色合いが復活する。
 青と白で彩られたドラゴンの姿へ変わっていた。それも大きさすらハイペリオンに近い身長を誇っている。
 「な、何だコイツは!?」
 別の管制室から見ていたキースとネイナはブルーティアーズの豹変に酷く驚かされた。
 「ブルーティアーズにISとは違う未知のエネルギーが集結している!?」
 それは、全くもって彼女からも見覚えのないエネルギーであった。
 「例のVTシステムってやつじゃないのか!?」
 「違う、それよりもさらに恐ろしいほどの強大なエネルギーよ! このままじゃ、セシリアさんが危ないわ!!」
 「彩夏! 彼女を無力化できないか!?」
 キースが無線からハイペリオンへ叫んだ。
 「し、しかし――どうすれば!?」
 此方と対峙するドラゴンを前にどうやって――
 「解析終わったわ――准尉、ドラゴンの腹部が見えるかしら!?」
 「腹部――あれは!?」 
 ドラゴンの腹部には黄色い半球の埋め込まれており、そこにセシリアが蹲っている。
 ――まさか、セシリアはISに取り込まれてしまったのか!?
 途端、ドラゴンに変異を遂げたブルーディアーズからは、どす黒い独占欲と凶暴な殺意を感じ取った。
 そんな気配が敏感になる彩夏からして、まるで今のブルーティアーズは、セシリアの欲望が具現化し、その力が自身の合理的判断によってさらなる力のために主であるセシリアを取り込んでしまったのだと確信した。
 「……よし、やってみます!」
 彩夏は返答後、ドラゴンに向かってアックスを構えた。
 「ギァアッー!!」
 叫ぶドラゴンは口内を開けて、青い光のブレスを吐き出した。
 「ッ!」
 ブレスは広範囲でハイペリオンへ襲い掛かる。これでは満足に近づくこともできない。
 ハイペリオンは、頭部よりビームバルカンを打ち放ったが、それを二枚の両翼を胸元前へ重ね構えると、その翼の翼面にビームバルカンの光弾は弾かれてしまう。
 直をも襲い来るブレスを交わして、SEジェネレーター式ビームカノンで一気に決めようとしたが、
 「威力が強すぎる――!」
 このままではセシリアもろともドラゴンを撃破してしまう。
 「――こっちについてこい!」
 ハイペリオンはバーニアを全開に、高度上空へと垂直に上昇し始めていく。
 「ギィ――!」 
 ドラゴンも、逃すまいと上空へ逃げたハイペリオンを追って、その巨大な二枚の翼を羽ばたかせながら上空に向かってとびだった。
 上空から何発ものブレスを吐き散らすドラゴンであるが、アリーナと比べて範囲の限られていない空なら思う存分ソードのドッグファイトを生かせられる。
 「やめるんだっ、セシリア!」
 ブレスを交わしながらドラゴンの周りを旋回し、必死に彩夏はドラゴンの腹部の中で蹲る彼女へ呼びかける。
 「こんなの、人のする戦いかたじゃないよ! もう、こんなことはやめるんだ!!」
 しかし、一向にブレスを吐き続けるドラゴンは、彼に聞く耳を持ってくれない。
 「織斑先生! あれって――」
 「ああ、しかしVTシステムよりも強いエネルギーだ。これは一体?」
 ISに携わる彼女たちでさえもこの現象に関しては理解できなかった。
 そして、そのアリーナより離れた学園のオブジェである鋭い塔の周りから、こちらの状況を宥める一人の人影が。
 それは、黒いフードを被った一人の少年であった。
 「やっぱり単純だな――あのセシリアっていうの、代表候補って意気ってるわりには呆気なく、『オリジス』のシステムに取り込まれてんじゃん。ザコ感ありすぎ」
 だが、続けて「でもまぁ――」と少年は続けた。
 「例の組織共にコイツの実験台になってもらうのが楽しみだな。どんな醜い姿に化けるのか、さぞ見物だねぇ~」
 と、言い残して彼はアリーナから背を向けると最後に、
 「それまでの間は、あのソードとやらに頑張ってもおうか」
 少年の身はその場からフッと消え去った。
 セシリアのドラゴンは、今もなおブレスを吐きながらこちらへ近づけ冴えまいとしている。速度を上げて背後へ回り込もうとすると、とっさにこちらへ腹部を向けてくるではないか。
 「目を覚ませセシリア! その機体はISの影も形もないただの化け物だ」
 「ッ!」
 一瞬、ドラゴンの動きが鈍った。
 「動きが鈍った――?」
 先ほどの言葉に反応したのか? 
 ――やってみるか……
 彩夏は意を決した。ハイペリオンはアックスを構える両手を下ろすと、無抵抗のままドラゴンへ近づく。
 「あいつ! 何やってんだ!?」
 キースが咄嗟に攻撃しろと彩夏へ通信を取るが、
 「待って!」 
 ネイナに止められ、彼女のPCに映るドラゴンの体内エネルギー反応の映像を見させた。
 「これを見て、ドラゴンのエネルギーが徐々に低下しているの」
 「どうして――? これは……まさかネクストワンのちからか?」
 キースは、忘れかけていたあの力の存在に気付いた。
 「ニュータイプの力とネクストワンの力が中和しているのかもしれないの――准尉を、信じましょう」
 二人は管制室から彩夏のハイペリオンを見守った。
 「――いまのコイツは、お前を単なる動力源として利用しているだけの化け物なんだ」
 徐々に距離を近づけるハイペリオンに対し、ドラゴンはひるみ始めたではないか、それは腹部に封じ込まれているセシリアのドラゴンに対する必死の抵抗かもしれなかった。
 「人を利用するだけの心無いマシンに、これいじょう取り込まれ続けていたら、本当に人じゃなくなってしまう」
 すると、自然と彼の心から誰かの声が響いてきた。頭の中から響いてくるように聞こえるその声は、セシリアだった。
 『この子は私、私もこの子、この子はもう一人の私――』
 「ちがう! そいつはもう一人のお前なんかじゃない。お前をただの部品、道具として利用しているだけの残忍で冷酷な機械だ! それは、人と共に歩むはずの機械なんかじゃ決してない!!」
 『あの子が――ちがう! あの子はもう一人の私、私の唯一の家族なの!! この子には私が必要なんです』
 「お前を必要としてくれる本当の家族は他にもいるはずだよ。今は一人だったとしても、あきらめない限り絶対に人は孤独なんかじゃない。今までISだけで生きてきたわけじゃないだろ?」
 『ですけど――!』
 「……執事やメイドの人たちも、生きてくれていた大切な家族として君を見ているはずだよ――」
 『どうして――?』
 両親は鉄道の事故に遭い死んだ。それまでのあいだ、自分は孤独だった。家にいる家中の人間達も信用できず、唯一の心のよりどころがISだった――
 「わかるよ、君には両親がいない。俺も君と同じで両親がいないんだ――それでも、あきらめずに前へ歩き続けていけば、自分は孤独じゃないことに気づくことができるよ。何よりも、セシリアの周りにはまだ大切な人たちがこんなにもいてくれるんだ。冷酷なマシンに心を預けずに本当の自分の居場所へ戻るんだ!」
 「さい、か……さんっ」
 ドラゴンの半球に蹲る彼女は、俯かせていた顔をゆっくりとあげて彩夏の名を唱えた。その瞳には大粒の涙が頬を伝り、両ひざを抱える両手の片方がハイペリオンへ伸ばした。
 「たす、けてぇ……」
 「ギャアァァァーッ!!!」 
 ドラゴンは、目覚めたセシリアの意識によって激しく呻き苦しみだした。
 「今だッ!」
 再びアックスを掲げると、そのビーム状の刃がドラゴンの両翼と斬り裂き、トドメにその頭部を斬り飛ばした。
 飛行能力を失ったドラゴンの体は、そのまま重力に引かれるがまま落下し続ける。
 「セシリアァー!!」
 落下するドラゴンの体を受け止めるハイペリオンの姿を最後に、意識を取り戻したセシリアは、再び深い眠りについた。

 *

 それから数日後、セシリアは無事に復帰できたことで再び教室へ戻ってくることができた。
 何はともあれ一件落着と思われる中、昼休憩にアリーナでソードを展開して整備に入っている彩夏達のところへ彼女が訪ねに来た。
 「お忙しいところ、申し訳ありません――」 
 「セシリア?」
 ハイペリオンの足元まで歩み寄ってきた彼女をコックピットから見下ろす彼は、リフトで彼女の立つ地上まで降りた。
 「どうしたんだい?」
 「この前、助けていただいたお礼を申し上げたくて――それと、失礼な態度を取ってしまったことに対しての謝罪も……」
 「ああ、別に気にしてないからいいって」
 「ですが……」 
 「それよりも、これからどうするんだ?」
 ブルーティアーズは彩夏のハイペリオンが容赦なく壊してしまったし、今後はセシリアの母国であるイギリスも彼女に関してテンテコマイになるだろう。
 「もう一度、真剣に自分と向き合ってみようかと思うんです。そのためにも、一度イギリスの実家へ帰ろうかと」
 「そうか――とりあえずはしばらくのお別れか」
 「ですが、もう一度彩夏さんの元へ戻ってきたいと思います……それと、本当に危ないところを、ありがとうございました」
 「気にするな。それよりもせっかくここまで来てくれたのに――部署へ行くかい?」
 そこならセシリアの好きな紅茶もある。
 「いいえ、今日はその――お礼を言いたくて」
 「また、日本へ遊びにおいでよ。いつでも歓迎するし、俺の所へ訊ねてくれたなら観光案内ぐらいするよ」
 優しく彩夏が微笑むと、そんな彼に顔を赤くしたセシリアは、
 「ありがとうございます! あ、あの――あのお方にもお礼を言ってもよろしいですか?」
 と、セシリアはスッとハイペリオンへ掌を向けた。
 「ああ、そう言ってくれるとハイペリオンも喜ぶよ」
 すると、セシリアはハイペリオンの足元まで歩み寄ってくと、その白い両手でハイペリオンの踝の部位へそっと両手を添え、
 「助けていただき、ありがとうございます。ハイペリオン様――」
 彼女の唇が、ハイペリオンの踝にそっと触れた。
 するとどうだろうか、突如ハイペリオンの機体に備えられた各ダクトの穴から機体の熱した蒸気が勢いよく噴射されたではないか。
 ちなみに彩夏はコックピットには載っていない。
 「あ、あれ!? ハイペリオンがオーバーヒートしちゃった!?」
 近くでPCをいじるネイナは仰天した顔でハイペリオンへ振り返った。
 
  
 

 
後書き
次回「慈」 
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