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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第14節「秋桜祭」

 
前書き
お待たせしました、学祭編!
出店のアイディアを寄せてくれたフォロワーの皆さん、本当にありがとうございました!

当然ながら砂糖警報を発令しておきます。
読む前に必ず、ブラックコーヒー用意してね!

それではリディアン秋桜祭、どうぞお楽しみください!
 

 
正午、リディアン女学院

「クリスちゃん……流石にちょっと、歩きにくいんだけど……」

純は困ったような顔で、先程からずっと腕にしがみついて離れないクリスを見つめる。

クリスは少し涙目で、それを隠すように純へとくっ付いていた。

「う、うっさい……バカ……」
「でも、クリスちゃんが平気だって言うから……」
「それは……うう……」

事の発端は10分ほど前に遡る。

純と二人で学祭を回る事にしたクリスは、初めての学祭を思いっきり満喫していた。

二人で出店を渡り歩き、たこ焼きを二人で分け合い、クレープを食べさせ合った。

射的でクリスが目当ての景品を一発ゲットしたり、ヨーヨー釣りでは純が苦もなく二人分の水フーセンを釣り上げ、二人で喜んだ。

傍目から見ても明らかな学祭デート。二人が満喫しているのは、一目で分かるだろう。

そんな二人が通りかかった先で見つけたのが……そう。カップルがやって来るアトラクションのド定番、お化け屋敷である。

純は一昨日、クリスがお化けに苦手意識がある事を知った。
いや、正確には思い出したと言うべきか。

小さい頃から怪談話となると、純の背中に隠れてしがみついていたクリス。

クリスの嫌がる事はしない、それを心情としている純は、そのまま素通りしようとしたのだ。

「お、おい……何で素通りしようとしてんだよ!」
「え……」

しかし、それに待ったをかけたのは他でもないクリスだったのだ。

「クリスちゃん、オバケとか苦手だから……」
「なっ!? そっ、そんなわけねーだろ! おおおオバケが何だってんだ! あたしがそんなフワフワした奴なんかに負けるわけねぇっての! そもそもオバケなんか実在するわけねぇんだよ! そんなモン、迷信か見間違えに決まってらぁ!」
「う~ん、わかりやすいなぁ……」

どうやら、純がお化け嫌いの自分を気遣うのが気に食わなかったらしく、意地を張ってしまったのだ。

この歳になってもオバケが怖い、など恥ずかしくて仕方がないのだろう。
意地になってでも否定したいらしい。

「と・に・か・く! あたしはオバケなんか怖くねぇ!」
「じゃあ、入ってみる?」
「ああ! 作りもんだって分かってんだ。ビビる理由がねぇ、楽勝だぜ!」

──10分後、クリスはこの時の言葉を心底後悔していた。

2年のとあるクラスが作ったこのお化け屋敷、生徒の中にホラーマニアがいたらしく、そのクオリティは段違いだったのだ。

リアルなメイクの脅かし役に、不安を煽るBGM。
転がっているだけかと思いきや、振動と共に動き出すマネキンのパーツに、首に触れた冷たい感触。

クリスは絶叫した。
脅かし役の生徒達が面白がって、他の客よりも脅かし方に気合いが入るくらいには、何度も絶叫した。

そして今に至るのである。

「クリスちゃん」
「うう……なんだよぉ……」

純は廊下の端に寄り、足を止める。
クリスが顔を上げると、純は彼女を抱き寄せた。

「もう怖くないよ。僕が居るから……ね?」
「……ん」

純の腕に抱かれながら、クリスは彼の背中に腕を回した。

ついでに彼の背中に腕を回して、思いっきり抱き着く。

普段は意地を張って強がっているが、実は結構子供っぽい性格をしている事を、純はよく知っている。

もう暫く、こうしてあげれば落ち着くだろう。
純は自分達の方を見て足を止める他の生徒達の方を見ると、人差し指を口元に当て、首を傾けながら微笑んだ。

その仕草だけで、野次馬があっという間に避けて通るようになった。

チラ見してくる生徒も何人かいたが、校内での二人のラブラブっぷりを知っている者達には最早見慣れた光景。

しかもアイオニアン校内ナンバーワンのイケメン男子が「邪魔しないでね」とアピールしているのだ。避けない理由があるわけないのだ。

(もう暫くしたら、翔達に合流しようかな……)

この後は、弓美達3人のステージもある。
恭一郎達も出るらしいので、遅れるわけにはいかない。

抱き着くクリスの頭を撫でながら、純はこの後の予定を組み立てていくのだった。

ff

同じ頃、翔と響もまた、二人っきりで出店を回っていた。

最初は午前中は未来と、午後から翔と回る予定だったのだが、未来に「わたしの事は気にしないで」と送り出された響は今、こうして翔との学祭デートを楽しんでいるのだ。

折り紙教室で翔が手先の器用さを発揮したり、お化け屋敷では響が怖さ……ではなくビックリした勢いのままに翔に飛びついたり。

中でも、ウエイターではなく来店した客にコスプレさせる「逆コス喫茶」では、メイド響が翔のハートをズキュンと射止めたり、執事姿の翔が響をドキドキさせたりと、互いにコスプレの良さを知ることとなった。

そして今、そろそろ腹の虫も鳴き始める頃。二人は出店の並ぶ校庭へと降りて来ていた。

「さっきのクラスの、すごく凝ってたな。響、次はどこにがいい?」
「ん~、わたしとしては、そろそろお腹を満たしたいかな~と」
「それなら、あそこのたこ焼き屋台はどうだ? 表面がカリッとして、すごく美味しいと評判らしいぞ」
「それは中々……そそられるね」
「響、涎が出ているぞ」
「あっ! ごめん、つい……」

響にポケットティッシュを渡しながら、翔はクスッと笑った。

「飲み物も欲しい所だな。確か、すぐ近くに絞りたてのフルーツジュースがあったと思うんだが……果たしてたこ焼きには合わないだろうか……?」
「合わない……」
(分かり合えたと……思ってたんだけどな……)

響の脳裏に先日の装者達と、新生したフィーネを名乗ったマリアの姿がちらつく。

正義では守れないものを守る。そう宣言した調と切歌。
分かり合えたと思っていたのに、敵対するフィーネ。

響の中で、迷いが渦を巻いていた。

「自販機のお茶にでもしておくべきだろうか……。響はどっちがいい?」
「え? あ、ああ、うんッ! お茶にしよう、お茶ッ! わたしお茶大好き~なんちゃって」
「……響、さてはあの装者達の事で悩んでるな?」
「ッ!?」

心の中を見透かされた気がして、響は肩を跳ね上げた。

「わかるさ。響はすぐに顔に出るからな」
「翔くん……。師匠にはああ言ったけど、わたし……」
「どうすればいいか分からない……そうだな?」
「うん……。何が正しくて、わたしに何ができるのか……分からないよ……」

俯く響。翔は響の頭にそっと手を置くと、優しく撫でた。

「俺だって分からない。あいつらが何を背負っているのか、フィーネが何を考えているのか。姉さんのライブを滅茶苦茶にした事は事実だけど、なんであんな真似したのか……俺はまだ、あいつらから聞けていないからな」
「翔くん……」
「けどな。フレーズも浮かんでないのに弦を弾いても、綺麗な曲にはならないんだ。だから悩むのは、一旦後回しにして……今は一緒に楽しもう。悩みながら食べるたこ焼きが、美味しいと思うか?」
「ううん、きっと美味しさも半分になっちゃう」
「だろ?」

翔の一言に、響は顔を上げる。
思っていた通りの答えに、翔は満足げに笑った。

「よし! そうと決まれば、まずは飯だ。おばあちゃんが言っていた……“食べるという字は”――」
「“人が良くなると書く”……だったよね?」
「正解! ほら、並ぶぞ! 折角だ、隣の店の焼きそばとアメリカンドッグも買って行こう!」
「だったらわたし、クレープとフルーツ飴とベビーカステラも食べたい!」
「おいおい、時間までに全部食い切れるのか!?」
「えへへ~、へいき、へっちゃらだよッ!」

翔は響の手を引いて、たこ焼き屋へと並ぶ。

(やっぱり翔くんは、わたしのヒーローだなぁ……)

翔の横顔を見つめながら、響は心の中でそう呟くのだった。

ff

一方その頃、未来と恭一郎もまた、校内を歩き回っていた。
しかし、こちらは他の二組とは違い、あまりいい雰囲気だとは言えない様子である。

「C組のピ○ゴラ装置、すごくクオリティー高かったね~」
「うん……」
「まさか、あれを作る為だけに半年分も○ックのバリューセットを買い続けるなんて、よく思いついたよね。しかも教室を丸々使って作るなんて……」
「うん……」
「……小日向さん?」
「うん……」

先程から、心ここに在らずといった様子でいる未来に、恭一郎は表情を曇らせていた。

(小日向さん、さっきからずっと上の空だ……。僕と居ても楽しくないのかな……?)

ふと浮かんだ不安に、恭一郎は首を横に振る。

(いや、違う。小日向さんの様子をよく観察するんだ……。彼女は何かを悩み続けている。その悩みが何か、知ることが出来れば……。いや、小日向さんの事だ。素直に話すとは思えないし……)

恭一郎は必死に考えた。
そして、ある答えに思い至る。

「小日向さん、喉乾いてない?」
「え?」
「飲み物買ってくるけど、何がいい?」
「うーん……じゃあ、お茶が良いな」
「お茶だね。じゃあ、ここで待ってて」

恭一郎は校内の自販機へと向かって行った。
その背中を見送り、未来は再び思考の底へと意識を沈めていった。



最近、響を遠く感じる……。
それは物理的な距離だけじゃなくて、わたしの心の問題だ。

そう感じ始めたのは、多分この前のライブの時……ううん、もっと前。
多分、響が翔くんと同棲したいって言い始めた時からだったような気がする。

ルナアタックの一件を経て、わたしは自分がどれだけ響に依存しているのかを実感した。

響が傍にいないと不安で仕方ない。そんな自分が嫌で、だからそんな自分を変えるために、わたしは響を翔くんに託す事にした。

響が認めて、わたしも折れるしかないって思っちゃったくらい、しっかりした男の子だもん。
託すに値するだけの想いを、彼は証明してくれた。

でも……わたしは未だに、変わることが出来ていないらしい。

響が戦場(せんじょう)に立つ姿を、皆を助けるために戦う背中を応援するって決めたつもりだったのに。気がつけばそれは、響が傷付く事に他ならないんだって、分かってしまった。

どこまでも、どこまでも前向きで、一直線な響。
でもその真っ直ぐさは、同時にとても危うい。誰かを助ける為なら、自分の事なんてお構いなし。どんなに傷ついても進み続けて、帰ってくるときはボロボロになっている。

この前のライブの後から、響はずっと悩み続けている。
きっとまた、響は傷付いたんだって分かってしまう。だって親友で、幼馴染なんだもの。

そんな響の『前向きな自殺衝動』、その原因はきっと……わたしだ。

わたしがあの日、響をライブに誘わなければ……。
わたしが二年前、もっと響を守る為に……翔くんみたいに踏み出せていれば……。

翔くんはずっと後悔しているけど、一度だけでも前に踏み出せた。
今のわたしにとっては、その一歩だけでも称賛に値する強さだ。

それに比べて、わたしはどうだろう。
ただ、響の傍にいただけだ。ただ、響の隣を一緒に歩き続けていただけだ。

身を挺して庇う事も出来なければ、声を荒げて抗う事も出来ない臆病者。
わたしがもっと強ければ、響の手がこの指をすり抜ける前に……。

「……わたしにもシンフォギアがあったら、響を守れるのに」

ポツリと呟いた、その直後だった。

「ひゃっ!?」

頬にピトッとくっつけられた冷たい感触に、思わず変な声を上げながら飛び退く。

「驚かせちゃったかな?」
「加賀美くん!?」

冷たいジュースの缶を手に、いたずらっ子みたいな笑みを見せたのは、飲み物を買いに行った加賀美くんだった。
わたしの頬に当たったのは、自分用に買った缶ジュースをわたしの頬に当てたみたい。
反対側の手にはわたしが頼んだ、ペットボトル入りのお茶が握られていた。

「ごめんね、驚かせて。でも、小日向さん……さっきからずっと、何か悩んでるみたいだったから……」
「あ……ごめん……」

そういえば、加賀美くんが一緒に回ろうって言ってくれたのに、わたしはずっと響の事ばっかり考えていたような気がする。

なんだかとっても、申し訳なく思えてきた。

「小日向さん……悩みがあるなら、僕でよければ聞かせてくれないかな?」
「え……?」

突然の申し出に、思わず首を傾げてしまう。

すると加賀美くんは、わたしにお茶を差し出しながら言った。

「僕にできることなら、力になりたいんだ。頼りないかもしれないけど……何もできなくても、せめて話を聞かせてくれるだけでもいいから……」

そういって、わたしを見つめてくる彼の目は真剣だった。

心の底から、本気でわたしの事を心配してくれているのがわかる。

……でも、これはわたし自身の問題だ。
加賀美くんに話したって、困らせてしまうだけだろう。

彼の気持ちは嬉しいけど、迷惑はかけられない。

「ごめん、加賀美くん。気持ちは嬉しいけど、これはわたしの問題で……」
「だったら……無理に話さなくても構わない」
「……え?」

予想外の切り返しに、わたしは少し困惑した。

加賀美くんは優しいから、わたしが断れば余計に心配する。
てっきり、もう少し食い下がって来ると思っていたから……。

「他人に話せない悩みもあるだろうし、無理に聞き出そうとするのもよくないからね」

紳士的な答えに、わたしは納得する。

そういえば、加賀美くんは女の子に対しては紳士であろうと努めている。
レディに何かを強要するなんて、紳士のやることじゃ無いもの。

「……でも……」

と思っていたら、まだ続きがあるみたい。
加賀美くんは深呼吸して、ゆっくりと口を開いた。

「もしも気が変わったら、その時はいつでも相手になる。だから、その……あんまり無理して、押し込めたりしないで……ほしい……。未来さんには、いつも笑っていてほしいんだ」
「……ふふっ」
「小日向さん……?」

気付いたら、わたしは笑っていた。

加賀美くんが一生懸命、わたしを心配して言葉を選んでくれた。
それが思いの外、嬉しかった。

何でだろう……重苦しく肩にのしかかっていたものを、少しだけ忘れられている気がする。
胸の何処かが少しだけ、温かくなった気がする。

もしかして、これって……。

ピコン♪

わたしと加賀美くん、両方のスマホからLINEの通知音が鳴る。

「あ、板場さんからだ」
「こっちは紅介から。ステージまであと三十分だって」

この後、新校舎の劇場で開催するのは初となるリディアン秋桜祭の名物、カラオケ大会が予定されている。
板場さん達三人もエントリーしてるから、皆で応援しようと約束していたのだ。

「行こう、小日向さん。いい席取られちゃう前に」
「そうだね。人もたくさん集まって来るだろうし、今から移動しよっか」
「じゃあ、その……はぐれたら大変だし……」

そう言って、加賀美くんはわたしの方に手を差し伸べる。
そういえば、翼さんの復帰ライブの時も、こうして手を繋いでくれたっけ……。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

加賀美くんの手を取ると、彼は一瞬目を大きく開いて、それから歩き出した。
ちょっと顔が赤くなっていたように見えたけど、黙っていよう。

でも、男の子に手を引かれて学校を歩くのは……ちょっと、ドキドキしちゃうなぁ……。



こうして、リディアン新校舎の劇場に、役者は揃おうとしていた。
果たしてそれは、喜劇の始まりか……それとも悲劇の幕開けなのか。

それを知る者は、誰もいない……。



「もぐもぐもぐ……チョコバナナ……もぐ……」
「あむ……はむ……カスタードいちご……あむ」
「あああ……美味しいデス~」
「うん、幸せだね……」 
 

 
後書き
砂糖だらけと思いきや、とんでもない爆弾を仕込んでいく作者。
ちなみにお察しとは思いますが、未来さんの独白は『歪鏡・シェンショウジン』の歌詞見ながら書きました。

学祭なので、砂糖は多めに。
ただし物語も動かしておかねばなので、不穏要素も少々仕込まなければいけないのが困ったところ。
え?甘すぎて不穏要素が消し飛んでるって?そんな事、俺が知るか!(by赤い電気カブトムシ)

次回は学祭後半!お留守番中のマリアさん達も出るよ!
あと今回入りきらなかった面々も……。

それでは、次回もお楽しみに! 
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