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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第80話『出発』

林間学校当日、朝日が顔を出したぐらいの早朝に、晴登と結月は学校に登校した。当然制服ではなく、動きやすいように体育服のジャージを上下に着ている。
これはいつもの登校時間と比べて1時間は早い時間なのだが、晴登たちが着いた頃には半分くらいの人が集合していた。


「おはよう大地」

「おはよー」

「おう、おはよう、晴登に結月ちゃん」


とりあえず、一番最初に目に入った大地と挨拶を交わす。彼もまたジャージ姿な訳だが、運動部のせいかよく似合っていた。


「あれ、莉奈はまだかな?」

「それは俺よりお前の方が知ってるだろ。家が隣なんだから」

「それもそうか」

「まぁお前が結月ちゃんにかまけてばっかりで、莉奈ちゃんと一緒に登校しないことも多くなってきてるみたいだが」

「あ、それは…」


否定しようにも、事実なので言い訳が出てこない。
別に毎日一緒に行くのだと約束をしている訳ではないから悪いことではないのだが、結月といるとつい忘れてしまうのだ。


「あーやっぱり先に来てた! 置いてかないでって言ってるじゃん!」

「ごめんごめん」

「まさに噂をすれば、だな」


ここで莉奈のご登場だ。朝っぱらから元気な声である。まだ少し眠気があるくらいの時間帯なのに、よくそこまで大声を出せるものだ。感心してしまう。


「晴登曰く、結月ちゃんと居ると時間を忘れてしまうほど夢中になってしまうから、忘れるんだと」

「いや言ってない!」

「そっか・・・それじゃあ私は邪魔者ってことね。今度からは別々に登校しよっか」

「デジャヴ!」


大地は余計なことを言うわ、莉奈は最近聞いた気がするセリフを言うわで、晴登のツッコミは忙しい。ここで結月までボケ始めると、さすがに収拾がつかなくなってしまうので、晴登の思考は話をどうそらすかにシフトした。


「…あ、ほら、もうバスに乗り込めるみたいだぞ!」

「ん、ホントだ。行こうぜ」


晴登は辺りを即座に見回し、クラスメイトが大型のバスに乗り込む様子を見つける。それを利用して、何とか場を収めることには成功した。間一髪だ。


「それじゃあ俺たちも行こう、結月・・・結月?」


晴登は結月に声をかけるのだが、彼女はバスを見つめたまま棒立ちしていた。いや、正確には"目を奪われている"という表現が正しいだろうか。


「…ねぇハルト」

「どうした?」

「ボクね──バスに乗るの初めてで、凄く楽しみ!」

「あぁ〜そういうこと」


晴登はそれを聞いてようやく納得。
確かに、いくらこちらの世界に慣れてきたとはいえ、やはり結月にはまだまだ未経験の事柄が多い。水泳然り、バス然り、こちらが当たり前だと思っていることも、あちらではそうはいかないのだ。


「というか、車自体初めてなんじゃない?」

「そういえばそうだね。馬車くらいしか乗ったことないや」

「それはあるのか…」


異世界ゆえのファンタジーっぷりに驚きつつ、晴登は結月が自転車にしか乗ったことが無いのを思い出していた。
如何せん、うちは家族で出かけることよりも両親だけで出かけることが多いので、車に乗る機会は晴登さえも割と無いのだ。


「とりあえず行こうか。学校のバスは俺もちょっとドキドキするなぁ」


遠足とか修学旅行とか、何につけても学校行事でバスに乗り込むことは一種の想い出になる。しりとりにトランプ、果てはカラオケまで行われるその空間は、子供にとっては大いに特別な憩いの場であるのだ。

そんなバスに乗り込んだ2人は、奥から詰められているのに倣い、隣同士でシートに座る。ちなみに晴登が窓際だ。
ただし、ここで問題が一つ。


「・・・えっと結月、ナチュラルに俺の隣に座っているとこ申し訳ないけど、実は今日先約があって…」

「え、ボクと座るの嫌なの…?」

「いや、そうは言ってない! ただごめん、今回はダメなんだ…」


そう言うだけでも少し心が痛むが、何より結月が悲痛な表情をするので余計にいたたまれない気持ちになる。だがこれには事情があるのだ。
彼女はそれを察すると、残念な表情でため息を一つついて、すぐに笑顔に戻った。


「しょうがない。ならボクはリナと一緒に居るね」

「うん、ありがとう」


結月は晴登の隣から立ち上がると、手を振りながらバスの後ろの方へ離れていった。それに手を振り返して応えながら、晴登は振り返ってある人物を見やる。



「えっと・・・ホントに僕なんかが隣でいいの…?」

「一緒に回るって言ったでしょ? 今回の林間学校はとことん付き合うから」


おどおどしながら晴登の隣に座ってきたのは、例のごとくフードを目深に被った狐太郎だった。彼とは、『一緒に回るから林間学校に来て』という一方的な約束を交わしているので、これは当然の結果である。


「あの三浦・・・いや、えっと、結月…ちゃんとじゃなくていいの?」

「どうせ家でも一緒だから、今くらい大丈夫だよ」

「いつも思ってたけど、ホントに一緒に住んでるんだね…」

「え!? あ、それは成り行きというか!!」


狐太郎が興味深そうな顔をするので、晴登は慌てて補足を加える。
まずい、最近結月と居ることが当たり前のように感じてしまって、つい誤解を招く言い方をしてしまう。気をつけないと…。


「とにかく、柊君が隣で大丈夫だから!」

「それならいいけど…」

「ただ、女子の目が心なしか怖いんだよなぁ…」

「あ、やっぱり僕が座ってるから──」

「いやいやそうじゃないよ! どちらかと言うと、たぶん俺の方…」


狐太郎といえば、その端正な顔立ちや愛らしいルックスで、女子から絶大な人気を誇っている。そんな彼と隣同士に座りたかった女子も少なくないだろう。そんな中、晴登がその座を横取りしているのだから、視線が多少は冷たくなるのは無理もない。許して欲しい。


「それにしても、柊君とこんな風に一緒に居るのって初めてだよね?」

「そうだね。僕と違って、三浦君はたくさん友達居るから」

「さっきから何でそんなに卑屈なの!? 柊君だってみんなに人気だよ?」

「でも・・・」


自分に自信が無いのか、やたらと狐太郎はネガティブだ。やはり、人と違う容姿に少なからず負い目を感じているのだろう。何度も説得してきたが、それで拭い去れるものではないようだ。


「大丈夫、クラスのみんなは柊君のことを変に思ったりしないよ。体育祭だって、みんなで乗り越えたじゃないか」

「う、うん」

「無責任かもしれないけど、俺たちを信じて欲しい」


言ったそばから、顔が熱くなるのを感じる。こんなかっこつけたセリフを言うなんて、柄じゃないのに。
それでも、少しは彼の力になりたかった。


「はぁ…やっぱり三浦君はすごいね。僕の悩みをあっさりと風の様にどこかに吹き飛ばしてくれるんだから」

「え、そ、そうかな」

「そうだよ。尊敬するなぁ」


狐太郎は晴登の方に向き直り、眩しいくらいの笑顔で言った。そのつぶらでまっすぐな瞳に、つい晴登は目を逸らしてしまう。
なぜだろう。狐太郎は男の子のはずなのに、なぜかドキッとしてしまった。男の子のはずなのに。


「いや、俺にそんな趣味は無い…!」

「どうしたの?」

「何でもない! こっちの話。それより、何かゲームでもしない? しりとりとか」

「いいね! 僕、友達とそうやって遊ぶの夢だったんだ」

「あっ……」


晴登が華麗に地雷を踏み抜いた頃、バスは目的地に向けて出発したのであった。






「はい、1抜け〜!」

「うお、マジか。またかよ。強いな莉奈ちゃん」

「いやいやそれほどでも〜。今日はツイてますな〜」


バスが出発して早2時間。今は晴登と狐太郎、後ろの席に座っている莉奈と結月、そして通路を挟んだ席に座っている大地の5人でババ抜きをしている。やはり、バスの中で遊ぶといったらこれだろう。
ちなみに、今しがた莉奈が3連勝したところだ。


「おやおや、晴登君はまだ上がらないのですか〜?」

「気が散るから話しかけるな。ちょっと運が良かったからって」

「はっはっは。運だけの女に君は負けたのだよ!」

「うっぜぇ…」


連勝して気分が良いようで、莉奈の煽りが主に晴登に突き刺さる。全く、迷惑なことこの上ない。だから早く負かしてやりたいところなのだが、どうも上手くいかないのが現状だ。


「あ、今結月ジョーカー引いたでしょ」

「え、何でわかったの?!」

「すごい顔に出てるよ」


一方、先程から連敗を続けているのが、表情筋ユルユルな結月だ。大体最後の一騎打ちで負けている。ルールを覚えたてではあるが、そろそろポーカーフェイスを身につけるべきだ。


「やった、上がり!」

「取られちゃったか〜。これであと3人だな」


狐太郎が上がったため、残るは晴登と大地と結月。次は晴登が大地のカードを取る番だ。ゲームももう終盤なため、お互いの手札も残り少ない。一手一手が命取りである。


「さぁ来い晴登」

「なら、これでどうだ!」


晴登は思い切りカードを引いた。そこに書かれていたのはスペードの4。残念ながら、手元にペアは見つからない。


「うげぇ…」

「残念だったな晴登。それじゃあ俺の番だな・・・お、来た、上がり!」

「嘘だろ…」


大地も上がってしまい、これで晴登と結月は一騎打ち。現在の手札は合わせて5枚。1ペアでも揃えば、あの地獄の2択が始まる。


「じゃあ引くよ・・・よし、同じ!」

「ならここからが正念場だな」


結月がペアを引き当て、残り3枚。晴登の手元にはクローバーのエースがあるので、結月がジョーカーとエースを持っていることになる。
さて、これからが本当のババ抜きというものだ。50%の確率に全てを賭ける、ハラハラドキドキの瞬間である。


「…それじゃあハルト、選んで」


結月は2つの手札を差し出してきた。どちらも裏から見れば大差のない、ただのカードである。しかしどちらかが天国で、どちらかが地獄への切符なのだ。


「どっちだ…」


右か左か、どちらを引くべきか晴登は迷う。勝つ確率が5割とはいえ、ババ抜きに至ってはその確率は正しくないように思える。不思議な話だ。


「あ」


しかし、ふと結月の顔を窺った晴登はあることに気づいた。
右のカードに手を置くと彼女は安心したような表情をするのに対し、左のカードに手を置いた時は表情が明らかに曇ったのだ。
やれやれ、まだまだポーカーフェイスが足りないな。それでは、当分ババ抜きを勝ち上がることはできまい。


「じゃあこっち引いて・・・はい、上がり!」

「えぇ、何でわかったの!?」

「やっぱり無自覚かぁ」


一瞬、わざと表情を変えて嵌めてくる可能性も頭を過ぎったが、やはり結月は単純である。これで彼女はさらに連敗記録を伸ばしたのであった。
一方、ワースト2とはいえ、晴登は勝利の余韻に浸る。やはり、ババ抜きは最後の一騎打ちに勝つのが1番気持ちいい。


「次は負けないからね!」

「何度でも受けて立つぞ」

「なら結月ちゃん、私と組んで晴登を倒そうか」

「うん!」

「それはもはやババ抜きじゃないだろ!?」


やんややんやと叫ぶ晴登たち。だがそれだけ騒いでも、テンションの高い中学生たちが乗るこのバスの中では、大して目立つこともなかった。

すると、晴登たちのやり取りに笑いながら、窓の外をちらりと一瞥した狐太郎があることに気づく。


「あ、海だ!」

「おぉ、ホントだ!」


その声につられて窓の外を見てみると、水平線が見えるほど広大な海と砂浜の光景が目に映った。太陽の光を乱反射し、海水の表面はキラキラと輝いていて美しい。
近くには、林間学校の舞台と思われる山と森林も見えた。


「ついに、着いた…!」


自然と心臓の鼓動が速くなる。この興奮を、もはや抑えられようものか。いや、抑えられない!


──いよいよ、楽しい林間学校が幕を開ける。

 
 

 
後書き
おい、話が何も進んでないじゃないか! 仕事しろよ!
どうも、たまには日常編を挟みたかった波羅月です。

今回書いてて思ったんですが、ババ抜きって意外とルールややこしくないですか? 特に、誰かが上がった時、次に誰が引くのかとか。まぁ、今回の話ではその辺適当なんですけど()

次回からいよいよ林間学校編スタートです。まずは海だ! 待ってろ大海原!(どこへ行く)
今回も読んで頂きありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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