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森の城

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第五章

「それ位ね」
「女湯の竹もそうか」
「それ位の大きさだったわ」
「そうだったか、そこも気になるな」
「そうね」
「うむ、そこも気になったわ」
「そうね、けれどいい場所だったから」
 その温泉がとだ、ティターニャはまた言った。
「夕食の後でね」
「そうだな、また入るといいな」
「そうしましょう」
「お互いにな」
 オベローンはティターニャに微笑んで答えた、そしてだった。
 夕食の海の幸や山菜等を揚げた天婦羅という料理に生の魚を切った刺身、豆腐という大豆を使った料理に。
 味噌汁や野菜を塩で漬けたもの、鍋の中にある猪や野菜の鍋に山芋を白いご飯と共に食べ米の酒も飲み。
 また風呂に入ってだった、オベローンは部屋でティターニャに話した。
「夕食も美味でだ」
「また入ったお風呂もよくて」
「実に素晴らしいな」
「全く以てね」
「うむ、しかしだ」
 ここでだ、オベローンは妻に話した。
「実は風呂上がりに涼みに少し散歩をした」
「この宮殿の中を」
「御殿と呼ぶらしいな、その中をだ」
「歩いていたの」
「そして実に素晴らしい左右対称でない庭も歩いたが」
「そのお庭で」
「あの老人と老婆がいた」
 彼等がというのだ。
「二人並んで縁側という渡り廊下でな」
「そこでなのね」
「共にたたずんでずっと夜空の月を見上げていた」
「月を。そういえば」
 今夜の月についてだ、ティターニャは言った。
「今夜は奇麗な月ね」
「黄色いな」
「素敵な月夜と言うべきかしら」
「その月を二人でだ」
 共にというのだ。
「ずっと見ていた」
「そうだったのね」
「それが気になった、しかも」
 オベローンは彼等から見れば陶器の小さなコップ、杯というものでティターニャと共に米の酒つまり日本酒を飲みつつ話した。彼等が普段飲んでいる麦や葡萄の酒と味が全く違う。妙に甘いと思った。
「その目は子供を見る様な」
「月を見てなのね」
「そうした目だった」
「不思議なことね」
「そうだな、暫くこの城にいるが」
「夜になると」
「あの二人はまたな」
 再び、というのだ。
「夜になるとな」
「今貴方が言った様に」
「月を見ているのかもな」
「子供を見る様に」
「そうしているのかもな」 
「では明日は私もね」
 ティターニャはオベローンの話を聞いて言った。
「夜には散歩をしてみるわ」
「御殿の中をだな」
「温泉と食事も楽しむけれど」
 それだけでなくというのだ。
「そちらもね」
「そうするか」
「ええ、気になるから」
 ティターニャもというのだ、こう言ってだった。
 そのうえで二人で温泉と食事を楽しみそのうえでだった、ゆったりとしたくつろいだ時間を過ごしていき。
 夜に湯上りに二人で御殿の中を散歩して。
 そしてだ、庭に出ると。
 池の中に鯉達がいて岩と草木を一見無造作だがそれでいて絶妙な配置により自然の美しさを見せている庭に面している縁側にだった。
 オベローンが言った通りに城の主である老人と老婆がいた、それでだった。 
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