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後追い小僧

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第二章

「振り向くだろ」
「こうしても」
 ここで高山は実際に振り向いてみた、すると。
 そこには何もいない、だが。
 岩の方に気配を感じる、高山はその岩を見つつ源内に話した。
「すぐに隠れます」
「人の気配感じるのに敏感らしいな」
「はい、そのせいか」
「我等は見えませぬ」
「じゃあ振り向かないといいんだよ」
「姿を見るには」
「ああ、そうしたらな」
 源内はここで言った。
「鏡使えばいいのさ」
「鏡ですか」
「こうしてな」
 源内は懐から手鏡を出した、そのうえで高山に話した。
「後ろを鏡ごしに見ればいいんだよ」
「成程、振り向くと隠れられるなら」
「こうしたらな、ほら見えるぜ」
 源内は鏡を見つつ高山に笑って話した。
「しっかりとな」
「後追い小僧が」
「ああ、見てみな」
 高山にも鏡を見てみる様に言う。
「しっかり見えてるぜ」
「これは」
 高山は源内に応えて見た、するとだった。
 そこにみすぼらしい着物を着たひょろ長い小僧がいた、草履は履いているがその草履もぼろぼろである。
 その小僧を見てだ、高山は言った。
「いや、まさか」
「姿が見えるなんてだな」
「はい、思いませんでしたが」
「いや、振り向いて見えないならな」
 それならとだ、源内は高山に話した。
「こうしたらいいと思ってな」
「やってみたらでござるが」
「見えたからな」
「それで、ですか」
「要は知恵の使い方ってな」
「思ったのでありますか」
「そうさ、それでな」
 源内は高山にさらに話した。
「姿が見えたからな」
「だからでござるな」
「ああ、もうな」
 源内は満足した声で話した。
「何も思うことはねえよな」
「姿が見えたなら」
「それならな、まあ相手は見られてることはな」
 鏡で、というのだ。
「気付いてないだろうな」
「だから後をそのままついてきているでござるな」
「そうさ、あとな」
「あと?」
「何か幽霊は鏡に映らないとか言うよな」
 源内はこんな話もした。
「阿蘭陀から来た学者さんが言ってたけれどな」
「本朝では別に」
「そんな話はあったかって話だよな」
「幽霊の話も多いですが」
「鏡に映らないとかな」
「そうした話もありますか」
「そうみてえだな、しかしな」
 鏡に映る小僧を見つつだ、源内は話した。
「後追い小僧は鏡にしっかり映ってるからな」
「少なくとも幽霊ではないですな」
「妖怪になるな、まあ妖怪でも悪さしないなら」
「それで、でありますな」
「別にいいな、じゃあな」
「それならば」
「ああ、気にせず先に行こうぜ」
 こう高山に言うのだった。 
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