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見越し入道

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第一章

                見越し入道
 相模ではこの時見越し入道という妖怪が出るということで噂になっていた、それはどういった妖怪かというと。
「ふむ、見上げるとですか」
「はい、何処までも大きくなり」
 そしてとだ、北条幻庵は甥であり北条家の棟梁である北条氏康に話した。
「そしてです」
「何処までも大きくなり」
「天まで届くと」
「そこまでになるとか」
「面妖な話ですな」
「狐か狸か鼬の悪戯ともです」
 幻庵はさらに話した。
「言われています」
「変化ですか」
「それで見上げ過ぎて後ろからこけて」
「それで終わりですか」
「それ以上は何もありませぬ」
「それはいいにしても」
 その話を聞いてだった、氏康は述べた。鼻が高くきりっとした目と眉を持ち非常に整った顔をしている。顔の向こう傷が武士らしい。白い北条家の衣も似合っている。
「別に命を奪われなければ」
「よいと言えばよいですな」
「はい、ですが」
「民を惑わすことであるので」
「何とかせねばなりませぬな」
 叔父に言うのだった、剃髪し白い髭を顔の下半分に生やした僧衣の老人に対して。
「やはり」
「それでどうすべきか」
「ここは叔父上の知恵を借りたいですが」
 氏康はその叔父を見て言った。
「宜しいでしょうか」
「拙僧のですか」
「叔父上は当家きっての学識と知恵の持ち主」
 その為家中で非常に重きを為している、北条家の者であることだけでなく。
「だからこそです」
「左様ですか、ではです」
「この度はですか」
「はい、少し外に出て」
 そうしてというのだ。
「その見越し入道に会って」
「そしてですか」
「拙僧が思うことをして」
「そしてですか」
「見越し入道にはどうすればよいか」
「天下に知らせますか」
「そうしてきます」
 こう言ってだ、そしてだった。
 幻庵は供の者を連れてそのうえで小田原城を出た、そうして供の者に話した。
「見上げて何処までも上がるな」
「そうしたあやかしですな」
「うむ、ならばな」
 幻庵は供の者に飄々とした声で話した。
「逆はどうじゃ」
「逆ですか」
「うむ、逆ならばな」
 それならというのだ。
「どうであろうか」
「といいますと」
「まあ見越し入道に会えばな」
「その時は、ですか」
「わかる、だからな」 
「今よりですか」
「見越し入道に会おうぞ」
 こう言ってだ、彼は見越し入道が出るという場所に向かった。する目の前に一人の痩せた入道がいたが。
 大きさは並の者と変わらなかった、だが。
 ふと幻庵が入道の頭のところに目をやると。
 入道は少し大きくなった、それで幻庵がさらに見るとだった。
 さらに大きくなった、そして見上げれば見上げる程だった。 
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