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インフィニット・ソード

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SCENE2「ソード、日本へ」

 
前書き
今回から今作のヒロインが登場します。原作ヒロインもちょいで登場。 

 
 
 サイレンが鳴り渡る半壊したトリントン基地にようやくレスキュー部隊が駆けつけに現れ、消防車が直ちに消火へと取り掛かる中、瓦礫に埋もれていた織部彩夏の親友、五反田仁は無事に救出され、片足を骨折というダメージを負うも、人体に大きな後遺症などの影響は皆無で済んだ。
 彼も、あと少し遅かったらテロのフィーメイル・キャットらに見つかってしまうところだったが、間一髪のところでハイペリオンが現れたことにより、そちらに目が行ったことから瓦礫に埋もれた彼は何とか助かったのだ。これも、違反を覚悟でハイペリオンに搭乗してくれた彩夏に感謝である。
 さて、その肝心の彩夏であるが……
 「こいつは、軍法会議だな」
 最低でも軍法会議にかけられるだろう。ただの警備兵の端くれがソードの試作二号機を勝手に起動させた挙句、独断で好き勝手に暴れたんだから無理もない。
 そんなこなんをしている考えている間にコックピットの無線から通信がとどいた。目の前の司令部からである。
 『こちら司令部、ハイペリオン応答せよ!』
 「――ハッ! こちら、ハイペリオン」
 すると、彼が身を収める球状の全面180度スクリーンの一部に画面枠が現れ、そこにあのハワード中将がこちらを厳つく覗いて、彩夏はとっさに敬礼した。
 『パイロットは誰か?』
 初めて問われる中将の声に緊張しながらも彩夏は敬礼と共に答えた。
 「だ、第04警備部隊所属サイカ・オリベ二等兵であります!」
 「なに? 貴様、警備隊の者か!?」
 驚く顔を見せる中将に、彩夏は動揺しながらも恐る恐る答えた。
 「は、はい――そうで、あります……」
 『うむ――』
 「も、申し訳ございません! 勝手に本機体を起動させてしまったことには処罰を受けます」
 『――とりあえず、機体から降りてくるんだ』
 そう言うと、通信画面は途絶えた。
 「やっぱり、軍法会議モノだよな。大切なソードを荒っぽく使っちまったせいで――」
 と、言いつつも彩夏は「でも――」と言いかけて、
 「――これが、憧れのソードかっ……」
 今でも自分が、あのソードのコックピットに座っていることが信じられずに全体が震えて興奮気味であった。
 ――この機体を、俺が動かしたんだよな……
 満足げにしたった後で彩夏は覚悟を決めて機体からケーブルリフトにぶら下がっておりてきた。
 地面に着いた時は、さきほどの興奮が残っていたのかふらつきが止まらない。 
 すると、彼の元へ一人が兵士が恐る恐る近づいてきた。
 「あ! お前――」
 ライフルを持った状態で声をかけられたのか、彩夏は振り返ってビクッとする。
 「!?」
 同じ警備隊の同僚だ。よかった、無事だったのかと言おうとしたとき、
 「このソードでISのテロ共をやっつけたのはお前か?」
 「あ、ああ――うん」
 恐る恐る答えた途端、その兵士は大声で後ろにいる仲間たちを呼び出した。
 「おおーい! ヒーローが戻ってきたぜぇ!!」
 すると、周囲から生き残っていた警備兵の仲間たちが大勢こちらへ駆け出していくではないか。
 全員が、自分たちと基地を救ってくれた彩夏を称え、全員が彼を囲いだした。
 「すげぇーよお前ッ! あの機体で連中を返り討ちにしたんだろ」
 「仇を取ってくれてサンキューな!」
 そうして、歓喜に満ちる仲間たちを見て、彩夏もまた涙ぐんだ。その中には03部隊の兵士たちも加わっていた。
 「み、皆さん――無事だったんですね!」
 「お前のおかげで命拾いしたぜ」 
 と、タトゥーの03部隊の面々は彩夏を肩車で持ち上げてた。
 「今日のヒーローはコイツだぁ!!」
 そうやって大はしゃぎしている中、
 「静まれぇ!」
 その声は大円満の外から響いて、この一声が興奮気味であった彼らを静まりさせた。
 「ちゅ、中将!?」
 一人が叫ぶと、一斉に彼を通す道を開けた。向かい先は当然彩夏の元である。
 肩車から降ろされた彩夏も先ほどの覚悟を思い出して、ハワード中将に全員が敬礼した。
 「まずは、今回の一件に関しては大変苦労だったなオリベ二等兵」
 「ハッ!」
 「本来ならば軍法会議の監禁処分に処されるか、軍を解職のどちらかだろう――が、今回は貴様の活躍で基地が救われ、我々も命拾いしたために今回ばかりは特別に目をつむってやろう。
 しかし、貴様は完全に無実とはいえん。少なくとも無許可でソードを起動したことには非がある。今後の指示があるまで謹慎処分だ。以上!」
 それを言い渡すと、中将は彼に背を向けて去って行った。するとすぐさま歓声が再開して、それを中将に同行していた士官が大尉に止めるも、背を向ける中将はニヤッと微笑んだ。
 その夜は、外れのバーで包帯だらけの兵士たちが大宴会を開いて主役の彩夏を持ち上げていた。
 「俺たちと基地を救ったヒーローと、この戦いで死んでいった多くのヒーローたちに乾杯ッ!」
 03部隊のリーダー格がそれを合図に面々は一斉に酒を飲みだした。
 未成年である彩夏であるが、こっそりと酒を飲んで顔を赤くしては03部隊の面々と楽し気に飲酒を堪能した。
 「俺はよぅ~! こいつが入ったとき、やるときはやるような奴だって感じてたんだよう~!!」
 片足にギプスを付けた仁も真っ赤になって他の部隊と盛り上がっている。
 「ははは、本当に無事でよかったよ仁。お前が死んだら寝坊助の俺を誰も叩き起こしてくれないんだからさ」
 同じように酔って赤くなる彩夏がいた。
 「へへーん! さすがの俺も死神からトコトン嫌われちまったようだぜ」
 そういって、こっちに来た仁が彩夏の肩に片手を絡めて騒ぎ続けた。
 それから明け方近くまで飲み明かした後、ベロンベロンに酔っぱらったまま寮のベッドへ勢いよく身を投げてから泥酔したまま深い眠りについてしまった。
 鼾と一緒に酒の臭いが部屋中に充満し、汗臭さの染み渡ったベッドの上で彩夏はふと目を覚ました。
 「うぅ……」
 頭痛と吐き気のダブルパンチですぐにもトイレへ駆け込みたくなった。これは人生で初である完璧な二日酔いである。
 「頭いてぇ気持ちわりぃ……」
 重い足取りでトイレへ駆け込んでいき、思い切って昨晩飲んだ物を全部便器の底へ戻してしまったのである。
 当分は酒を見たくないというトラウマを抱えながら、長い苦痛を得てようやくトイレから戻ってきた矢先に玄関からインターホンが聞こえた。
 「あぁ?」
 口をゆすぎ終えてからもう一寝入りしたかったのだがと、こんな朝から――いや、もうお昼過ぎであるが、いったい誰だろう?
 「はい――?」
 「おはよう。お目覚めはいかが?」
 そこには、白いスーツを着た三十路半ばほどの女性が笑顔で立っている。彼女が、彼の部屋を訪ねてきた来客だ。
 「その、どちら様ですか?」
 低姿勢な物言いで訊ねる彩夏に、
 「ふふふ、日本人の男性は二日酔いの状態でも礼儀正しいのね。感心するわ」
 「ど、どうも……えっと?」 
 「申し送れたわ。私、ネオファリアのネイナ・ラフィット・ファルム開発主任です。彼方が大好きなソードの開発者でもあるのよ?」
 「ソード――そ、そ、そ……ソードの!? ああぁ~ッ!!!」
 とたん、彩夏は肝がひっくり返るほどに仰天して腰を抜かしそうになりつつも、昨日のことも踏まえて深々と頭を下げて真っ先に謝罪を始めた。
 「も、申し訳ありませんでした! 自分のせいで大切なソードを――」
 「あらあら、別にいいのよ。私も危ないところを貴方に助けてもらったんだし、命の恩人よ。今日わね、そのお礼も兼ねて貴方をスカウトしに来たの」
 「す、スカウト? って……」
 「もちろん――サイカ・オリベ二等兵ッ!」
 「は、ハッ!」
 いきなりの彼女の大声に彩夏はシャキッと立った。
 「今日付けで、彼方をSSEプロジェクトのテストパイロットへ任命します。今日からハイペリオンのパイロット、頼んだわよ♪」
 「は、ハイペリオン?」
 「ハイペリオン・ソード、昨日あなたが乗りこなしたあのソードよ。ハイペリオンって、結構ジャジャ馬な子だから、多少荒っぽく使ってあげないと振り回されちゃうわよ」
 「えっと――へ?」
 どういうこと? この人はいったい何を言っているんだ? 自分は単なる警備兵の端くれで二等兵のペーペー新米で、士官学校とかの訓練性や卒業生でもない。家は土器にでもある一般の家庭で、軍属の名門家でもない。
 そんな自分が、「ソード」を? これは何かの間違いじゃないか?
 「あの~……今日はエイプリルフールではありません、よね?」
 「そうじゃなかったら、彼方をハイペリオンのパイロットになんて選んだりしないわ」
 「……」
 彩夏は、その場で膠着状態に陥った。
 「あら、警備兵君?」
 ツンツンと、人差し指で動かなくなった彼の肩をつつくと――
 バタンッ! 
 と、彩夏の膠着した身がバタリと仰向けに倒れてしまった。
 「ちょ、ちょっと君! 大丈夫!? だ、誰かぁーッ!!」
 最期に聞こえたのはネイナ主任の声で意識を失ってしまった。
 
 「う、うぅ……」
 次に気づくと、基地内に設けられたラウンジあり、そのベンチに彼は横たわっていた。
 「ああ、やっと起きたか!」
 目覚めたばかりの彩夏の視界へ真っ先に入ってきた顔は見覚えのあるあの男の顔であった。
 「あ、あなたは……うぅ」
 まだ残っている二日酔いに唸りながら起き上がった彩夏は改めて男を見た。
 「覚えているか? 俺のこと」
 「えっと――たしか、ソードの格納庫でお会いした」 
 「ああ。あの時は俺のハイペリオンが随分と世話になったじゃねぇか。それと、ネイナ主任や中将達を助けてくれてありがとうな」
 「いいえ、兵士として当然のことです。えっと――」
 「キース・マクレガー大尉だ」 
 「ああ、そうでした。大尉、もしかして自分をここまで?」
 「ははは、背負うまでに随分と苦労したぜ。ネイナから連絡があってな、二日酔いの上にハイペリオンのパイロットに選ばれた衝撃で気絶しちまうんだからさ」
 「ああ――そうだった!」
 つかさず、さらに迷惑をかけてしまったと彩夏は深々と詫び入れた。
 「申し訳ありません! 自分としたことが……」
 「気にすんな。これから同じ釜の飯を食う仲間だ、よろしくな織部准尉」
 「は、はい! こちらこそ――って、自分はまだ二等兵ですが?」
 キースの差し伸べた握手を両手で丁寧に握りしめる彩夏は、自身の階級に首を傾げた。
 「無断でソードを起動させたとはいえ、ISを撃墜して司令部を救った功績はデカかったらしくてな、お前は今日付けで二等兵から准尉だ」
 「そ、そうなのか――」
 昇進できるとはいえ、なんか実感がわかない彼であった。
 「あら、もう気づいたのね?」
 すると、キースの後ろから歩いてくるネイナに気づいた。
 「ね、ネイナ主任!」
 パッと敬礼して、彼女にも詫び入れる。
 「主任にも大変ご迷惑をおかけして――」
 「いいって、もう~。それよりもネオファリアの一因になった気分はどう?」
 「はい――本当に夢みたいで、いや夢を見ているんじゃないかって――これがもし夢だったら本当にどうしようもなく怖くて震えが止まりませんよ」 
 「大丈夫よ」
 そういって、ネイナは彼のもとへ近くに迫ってきた。
 「しゅ、主任?」
 三十路半の彼女とは言え顔は実の整った美人であり、そんな彼女に見つめられると彩夏も顔を真っ赤にする――が、
 「いててっ!」
 思いっきりネイナの片手が彼の頬を抓り上げた。
 「ねっ、夢じゃないでしょ?」
 「ははは――そ、そうですね」
 苦笑いして真っ赤に晴れた頬を摩り彼を見て、隣で見ていたキースは、まさかあったばかりの新米にキスで証明するんじゃないだろうな? と、反面心配していたが彼女のお茶目な行動にを見てホッと胸をなでおろした。
 「当然、聞くまでもないけど」
 「はい! 是非とも喜んでハイペリオンのパイロットに――あ」
 しかし、ふとキースの方を見て彩夏は表情を曇らせた。
 「お? どうした」
 こちらを見て顔を暗くする彩夏にキースは首を傾げた。
 「し、しかし――自分がパイロットになると大尉はどうなさるんですか?」
 「ああ、そいつなら心配ねぇ。俺はお古の機体を使ってお前のサポートをさせてもらうつもりだ。コーチとしてビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけ?」
 ニヤニヤと笑むキースに、彩夏は笑顔が戻って「はい!」と答えた。
 「それじゃきまりね! ささ、織部准尉も荷造りの支度をして一緒に行きましょうか?」
 「行くって、どこへですか?」
 両手を合わせて、はしゃぎだすネイナに何処へ向かうのか彩夏は首を傾げた。
 「日本よー! 日本!! 貴方の母国よね、私実は前々から日本の伝統技術とかに少し興味があるのよ」
 「ネイナ主任、遊びに行くんじゃないんだぜ?」
 「てへへ……」
 「し、しかし――何故日本で?」
 「それは当然! ソードの実技試験を始めるのにはうってつけの場所なんだから」
 「えっと、その場所で自分がパイロットになって試験を行うんですか?」
 「そうね。今回君の初陣を見て私確信しちゃったんだもの、ソードなら『IS』にも余裕で勝てるんじゃないかってね♪」
 「へぇ――えっ?」
 どういうことだ? ソードでISをって――
 「先方にはもう確認と許可は取ってあるわ。あとは准尉の荷造りを済ませるだけよ」
 「でも、本当自分でいいんですか?」
 「いいに決まってるじゃない? 仮に断っていたら脅迫や洗脳してでも貴方を連れ去っていくつもりだけどね……」
 「あ、あははは」
 彩夏の多くの苦笑いを浮かべることになった。
 それから後日、彩夏は荷造りを終えて旅立つ日に滑走路で警備兵の仲間たちから涙を惜しみながら見送られることになった。
 「元気でやれよ!」
 「毎日三食飯はしっかり食うんだぞ?」
 「体に気をつけてな?」
 ほかの隊や03部隊の面々が次々に彼と握手を交わしては全員が男泣きで見送る中、
 「彩夏ーッ!」
 「仁!」
 警備隊たちが群がる奥から、ギブスをしながらこっちへ歩み寄る仁のもとへ彩夏は駆け寄った。
 「ソードのパイロット、おめでとう!」
 「ありがとう! 本当に――本当に夢みたいだよ」
 「彩夏、俺も後からこっちへ行くよ」 
 「仁もか?」
 「ネイナ主任に頼まれてな。俺がいねぇと誰が寝坊助のお前を叩き起こしてやれるんだ?」
 「仁、先に待ってるぞ!」
 「ああ、俺もこの足が治ったらすぐに行く!」
 仁達に見送られながら、彩夏はネオファリアのメンバーと共に輸送機に乗り込んでオーストラリア・トリントン基地を出ていった。
 
 *

 日本へ着いたのは、ちょうど夕日がかかってきたころだ。
 国連の在日基地へ着陸した輸送機から、彩夏は降り立って久しぶりに故郷の地面に足を付けて夕日の空を見上げた。
 「ああ――やっぱり日本の夕日はいいなぁ」
 やっぱり祖国が一番だ! 久しぶりに日本の大地を踏みしめて満足げに彩夏はネオファリアのメンバーと共に基地に向かって、着任の挨拶をしに本基地の司令官の元へ向かった。
 「緊張するな――」
 夕暮れの日差しが窓辺から指し照らす通路を、歩いている彩夏とキースがいた。
 「ははは、リラックスだぞ彩夏」
 「二等兵の自分にとって、司令官なんて雲の上の存在ですし……」
 「そうか? 命令違反ばっかやってる俺にしちゃあなじみ深い相手に見えるんだがな」
 ――この人、そういう人だったのか!?
 国連軍の暴れん坊という異名は、もしや彼のことでは?
 「まぁ、一様俺もここの基地の指令とは知人でな。緊張するな」
 「大尉は緊張しませんけど、自分は初対面ですし……」
 「さて、そう言っている間にも着いたぞ」
 司令室の扉をノックして、キースは口を開いた。
 「キース・マクレガー大尉、織部彩夏准尉、両名入ります!」
 すると、彼の声に返答して「入れ」と、扉の向こうから冷徹な女の声が聞こえた。
 ――司令官は女性か?
 彩夏は、意外と思いながらもキースと共に司令室へ足を踏み入れた。司令室には初めて入るのだから緊張が止まらない。
 威厳ある机に椅子、左右の棚にはいくつもの勲章が飾られており、さらに天上付近の壁際には多くの賞状が額縁に……
 ――先ほどから冷や汗が止まらない!
 いったい、司令官はどういう女性なのだろうか――
 しかし、目の前の机からこちらを見つめる司令官の容子を前に、先ほどまで続いた彩夏の緊張は心臓が止まるかのような衝撃と共にピタリと止み終わった。
 「ネオファリア所属パイロット、キース・マクレガー大尉他一名、只今着任いたしました!」
 「うむ、長旅ご苦労であった。私が在日国連軍基地司令の篠ノ之慈(しののの・めぐみ)だ。移動中疲れただろう、二人とも休め」
 背まで伸ばした黒髪を白い紐で束ねた、清楚で武人肌が漂う美しい女性が目の前でキリっとした瞳をこちらに向けていた。
 「ハッ!」 
 「……」
 そんな彼女に見とれてついついボーっとしてしまった。
 「どうした、貴様?」 
 そんな若い兵士に訊ねる司令官と、
 「准尉!」
 キースの声にハッと彩夏は我に返る。
 「え――ハッ! 失礼しました」
 ――ほう~、コイツは……
 キースは、そんな慈司令に見とれてしまった彩夏を見て笑いをこらえた。
 「長旅、苦労であったな。さて――大尉、例のハイペリオンのパイロットは?」
 「こちらの織部彩夏准尉です」
 と、キースの手が隣に立つ彩夏に向けらえた。
 「お、織部彩夏准尉であります!」
 「うむ、貴様には期待しておるぞ。准尉」
 そう言うと、彼女はまた凛と笑顔で微笑んだ。
 ――女神、観音様だ……
 再び、彩夏がボーっとしてしまう。
 すると、 
 「おいおい(めぐみ)、そろそろ堅ッ苦しい挨拶はその辺で終いにしないか?」
 「え?」
 突然の指令に対するため口を叩いたキースに彩夏はあっけにとられた。
 「やれやれ――``親しき中にも礼儀あり``という言葉をお前は知らんのかキース大尉」
 ため息をついて、席から立ち上がって、その軍服越しのスタイルの効いた身体を表して歩み寄った。 
 ――わうあぁ~……
 スリムで、制服から盛り上がった胸元が異常にデカくて胸元のボタンがはちきれそうだ。おまけにスカートからむき出した、ストッキングに包まれた太もも……
 い、いかんいかん! 今は勤務中だぞ織部彩夏!!
 妄想を振り払って、勤務に集中するがどうも頭から彼女のストッキングの太ももと胸元が離れられない。
 「どうした二等兵? 先ほどから視点をずらし続けて居るが」
 ぐわいでも悪いのかと聞こうとしたが、それをキースが察したのか彼女の耳元でささやいた。
 「慈、こいつはな……」
 「え、いやはやこれは――」
 赤くなった慈司令は、すぐさま彩夏に申し訳なく話した。
 「それは気を使わせてしまったな、織部准尉。何分内勤は性に合わず現場肌でな、常に動きやすいようにスカートの丈をやや一段小さいサイズに替えているのだ。上着に関しては生憎、ちょうどいいサイズが見つからなくてね――」
 しかし、今更女性の体を男性が気にするのなんて当たり前のことだと慈は思った。
 学生の頃から、よく異性から自身の体を見られているのには慣れている。それは生物学的に男性だから仕方がないのだ。それに、彼らは内勤とはちがって外の現場で日々汗を流して勤務してくれる兵士ゆえにストレスは自分よりも重かろう。
 世の女尊男卑に被れた低能極まりない女共は、そんな男性達を犯罪予備軍と貶しているが、自分たちよりも一段と辛い仕事を続けて、その女尊男卑の社会を支えている男達を何だと思っているのやら。同じ女性として実に恥ずかしい。
 だが、そんな彼女に彩夏は、
 「い、いえ! 自分のほうこそ申し訳ありません。以後心身共に気を付けます」
 彼女から彩夏の純粋が見て取れた。
 「ん、そうか――」
 ――准尉は見てはならぬと紳士的に気を使ってくれたのか、``アイツ``もそうだったな……
 『ごめん! 姉さん、見るつもりはなかったんだよ――』
 「……」
 ふと、あの時の懐かしい思い出が蘇った。アイツもそうやって体を見ないようにと気を使ってくれたものだ。
 「まぁよい、気にするな」
 目の前の二人に向けて彼女は今後の予定を伝えた。
 「今日は明日に備えてゆっくりと休むといい。翌日からはネオファリアでソードの準備を整えておくように。その間に私が『IS学園』へ連絡して明後日から始まる貴様たちの試験運用等及び模擬戦闘のカリキュラムの最終調整を確認しておこう」
 「やれやれ、IS学園にねぇ~」
 「あ、IS学園っ――!?」 
 実をいうと、彩夏は次の運用場所を詳しく聞かされていなかったのだ。
 IS学園、それはすなわちIS操縦者育成を主とする女子高であり女尊男卑の巣窟でもある学園施設ではないか。まさか、そこを次の試験運用場にするつもりじゃ…… 
 「IS委員会の連中からして、今回の共同訓練ではすんなりと許可を下したが、おそらくソードが目当てだということは想定できる。厳重なシステムガードが必要のようだ」
 「そのへんは心配いらん。ネイナ主任が腕によりを振るって最強のセーフティーシステムやブラックボックスを用意してくれたんだ。そう簡単にSEシステムの技術はわされることはない」
 「それなら安心だが、しかしソードよりも二人も自身のを気を付けるんだ。連中は女だ、男に対して弱みに付け込んでくる可能性だって十分ある。命令まがいであるが、IS学園では常に冷徹に振る舞え、相手に自分の心を許すんじゃない。暴力的な女には暴力で対応せよ、女尊男卑を掲げて男性を見下す女がいれば拳で殴り倒しても構わん、好戦的な女は精神に異常をきたすまで完膚なきまでに打ちのめせ、スパイに関しては捕縛して死と隣り合わせの拷問を浴びせろ、軍の先鋭が学園に来たら迷わず殺しても構わん。色仕掛けしてくる愚かな女がいれば即処刑しろ、これらの対処に関しては護身として携帯しているSEシステムをつかっても良い」
 「慈、お前の方がよっぽど冷徹だよ」
 彼女の言う命令にはさすがの二人も顔を青くした。
 「当然だ! IS学園の連中やISかぶれの女、女尊男卑に毒された女など、女としての特権や人権など無い。デリカシーやらレディーファーストなんぞ一滴も与えるな!」
 ――この人、IS関連の人が嫌いなんだな……
 何となく、共感してしまう彩夏は、
 「ハッ! 粉骨砕身で努めます!!」
 「お前まで何言ってんだ――」
 額を抱えてためキースがため息を漏らした。
 「うふふっ……」
 そんな彩夏を、微笑みながら慈は見つめていた。
 ――やっぱり、あいつにそっくりだな……
 まだ会ったばかりというのに准尉の面影がアイツと重なってしまってしまった。もし生きていたら、今頃准尉ぐらいの年だろうか。
 「――?」
 そんな視線に気づいた彩夏はふと慈司令の方へ振り向いたが、彼女は同時にソッポを向いていた。
 司令から視線を感じたような――しかし、こんな下っ端の自分を司令官たる上の者が気にするわけないだろう。
 「……」
 しかし、司令の視線が徐々に准尉の方へ注がれているのをキースは気づいていた。
 ――確かに、似てるわな。
 考えてみれば准尉はアイツにそっくりだ。しかし、目の前にいる准尉は慈の知っているアイツじゃない。赤の他人だ。これ以上彼女が深く関わらなければいいのだが。
 「やれやれだぜ……」
 ため息をつくキースは苦労しそうな予感を感じた。
 「では、健闘を祈るぞネオファリアのソードパイロット諸君」
 「ハッ! キース・マクレガー准尉、他一名これにて失礼します!」
 「失礼します!」
 「うむ、准尉も気を付けてな」
 その視線を、彩夏に向けて彼女は再び微笑んだ。二度の微笑みに見惚れて再びボーっとなりそうな彩夏は危ういとこと振り払いながら、キースと共に敬礼をして司令と別れた。
 「その、大尉?」
 「お?」
 通路を行く道中、彩夏はキースに、
 「この基地の司令官は、大変お美しい方ですね」
 「そうかぁ? 面倒だし男口調で、堅苦しいわで俺にとっちゃ恋愛対象外だな」
 「そうですか――」 
 「なんだ、ひとめ惚れか?」 
 意地悪そうに隣を歩く彼の図星な顔を覗き込んだ。
 「ち、ちがいますよ! 自分はその――憧れです」
 「ほう? まぁいい――ああそうだ、今後の仕事に関してこれだけは言っておく」
 「はい」
 視点を前に戻すと、キースは真剣な表情をして彩夏にこれだけはと言い聞かせた。
 「あいつの言ったことは大方間違ってはいねぇ。いいか、お前は俺が見るに――童貞だろ?」
 「な、何ですかいきなり!?」
 「童貞か卒業したか答えろ」
 真顔な口調で聞いてくる彼に、少しビクッとした彩夏は恥ずかしくもきっぱり答えた。
 「――童貞です」
 「だろうな、いいか俺たちは今からIS学園の敷地を借りて、そこでISとの模擬試験を行うことは司令から聞いているな。いくら女子高とはいえ女だらけの場所だ。教員から用務員まで女だらけってことは肝に銘じておけ、そしてソードの仮想対象がISだってことも忘れるな。 
 連中は、SEシステムの情報を欲しているのは間違いない。そのためならどんなことだってしてくるに違いない。色仕掛けうんぬんのハニートラップとかな。俺も十分気を付けるが、何よりも一番気を付けなきゃならねぇのは童貞のお前だ。いいな?」
 「は、ハッ! 気を付けます」
 「まぁ、慈の言ったような冷徹スタイルを貫き通すのが理想だけど、無理は――」
 「あのスタイルか、よし!」
 「言うんじゃなかった……」
 とはいえ、あまりにも冷徹態度に奮闘する彼を見て、キースはさらに先が思いやられそうな気がしてならなかった。
 ちなみに、会話中に慈が言っていた携帯用SEシステムとは、ソードのパイロットに与えられた護身機能であり、パイロットはそれを随時身に着けているため小型のSEシステムを使用して、生身でもISに対処出来たりもすることが可能なのだ。
 二人は、ネオファリア部署の部屋へ戻ってネイナから今後の予定について詳しい説明を受けた。
 とりあえず、今日は持ってきた私物を新しい寮へ運んで整理するようにとのことだ。明日からソードの準備をして機体の歩行と飛行の動作確認を行い、明後日のIS学園までに万全の準備を整えておくようにとのことであった。
 「さて、これで今日は終いか――」
 一通りの説明を受けた後、部署から出てきた彼は私物の荷物を背負って基地内の寮へ向かおうとした。トリントンとよりも設備は従事していると聞いているため、窮屈なプライベートが若干軽減されると嬉しい。
 「おう、彩夏!」
 そこへ、あとから部署の部屋から出てきたキースに呼び止められた。
 「大尉?」
 「准尉、これから予定とかあるか?」
 「いえ、自分は特に――」
 「なら、居酒屋ってとこに行かないか?」
 「ああ、飲みに行かれるんですね」
 とはいえ、二日酔いになったばかりだしどうしようか――
 「すみません、自分昨日二日酔いになったばかりで……」
 「そんなことじゃ何時まで経ったっていっぱしのパイロットに慣れねぇぞ? いいか、男ってのはまず酒に強くならなくちゃならねぇ。二日酔いの一回や二回がなんだ! 酒を強くならねぇよソードの操縦もおろそかになる原因にもつながるんだぞ」
 「え! そうなんですか?」
 しかし、ソードがらみになると彩夏はうっかり信じてしまう青年であった。
 「そうだ! そこでどうよ、ソードをうまく扱えるために練習として酒も強くならなきゃならねぇ。ソードにはかなりのGもかかるときがある。それも踏まえて酒の酔いにも慣れておく必要もあるのさ。素人のお前を鍛えるには打ってつけなんだ」
 「それじゃあ――是非」
 ソードに関係するのなら、自分の操縦が上達することにつながるのならと、彩夏は迷わず彼の誘いを受けた。
 その後、彼はキースと共に東京のとある飲み屋街に足を運んだ。そこで適当に立ち寄った店先で梯子を続けながら、気づけば彼は案の情にもベロンベロンに酔っぱらってしまった。
 「う~い……ヒック、准尉! もう一軒はしごすんぞ!!」
 「りょ、了解でありま~す!」
 夜の飲み屋街で、多くのサラリーマンが行きか人ごみに流されながら次の目についた店へと寄っていく。
 女尊男卑になってもスーツを着た人は男性が多くてOLの人は少なかった。結局、女共はあくまでも男性を労働力として働かせては、自分たちにとって都合のいい社会を作っているにすぎないのだ。
 女尊男卑になったことで女性は同権を得たというものの、女性の就職率は下がりって男性の多くが働き、代わりに多くの女性は上手い理由を付けて生活保護とかを受け取っては遊んで暮らしているのだ。そんな世界を嫌っている慈司令は、同性でも誇りを重んじているのだから立派だすぎる。
 居酒屋の席でも、近くでゲラゲラ笑いながら楽しく飲んでいる女性たちも、所詮は遊んで暮らしている人間なんだろう。あるいはスーツ姿で店員の男性に酷く絡んでいる女は働いている女性で、自分が男性よりも一番権利が高いと勘違いしているバカ女なのだな。
 「彩夏よぉ! 近頃のおんなどもってのはなぁ~!!」
 「大尉! 聞こえてますよ!?」
 酔っぱらったキースを止めながらも、居づらくなった店では彩夏が店員に勘定を頼んでは大尉を担いで店を出た。
 自分も酔っているっていうのに、その倍も酔っているキースにはあきれながら、ここからそう遠くない公園の敷地に入ると、近くのベンチに彼を寝かしつけた。
 「大丈夫ですか? 大尉」
 「おう、どうってこたぁ~……」
 「自分、水を持ってきますのでそれまでここで待っていてくださいね」
 「あぁ、すまねぇ――」
 ――これって、本当にソードに関係したことなのか?
 次第に疑い出す彩夏は、とりあえずキースをそのベンチに横たわらせてから近くのコンビニへ水を買いに走った。
 「キース大尉は、本当に人騒がせだよ――」
  運よく近場にコンビニを見つけることができた。そこで500のミネラルウォーターの一本を手に入れた彼は急いでキースの寝転がる公園のベンチへ向かうべく急ぎ足でコンビニから出たのだが――
 ドンッと、入り口付近で誰かと当たってしまい、ぶつかった相手は尻もちをついてしまった。彩夏は酔っぱらっているとはいえ軍人として鍛え上げた肉体から尻もちをつくようなさまにはならなかった。
 「あ、すみません! お怪我はありませんか?」
 見た限り、自分よりも年下の少女と見た。見る限りかなりの美少女である。
 「い、いえ――こちらこそよそ見をしていたのもので……」
 そういって、少女はポニーテールの結んだ髪を揺らしながら起き上がってこちらを見ると、
 「……一夏?」
 「――?」
 突然、こちらを強い視線で見つめてくる少女に彩夏は苦笑いして、
 「どうしました?」
 そう問うと突然にも少女がつかみかかってきたではないか。
 「一夏! お前、一夏なのか!? どうしてここに――」
 突然両肩を掴まれて激しく揺さぶられるのだから、何が何だかわからずに混乱してしまう。
 「どうして一度たりとも連絡してくれなかったんだ! 長い間心配だったんだぞ!?」
 「ち、違います! 人違いですって!!」
 「え――?」
 人違いという言葉に少女も気づいたのか、ぱっと両手を話した。
 「うぅ――アルコールがさらに回る……」
 あんだけ揺さぶれたら、吐き気で飲んだ物が口から戻してしまいそうになった。
 「あの、織斑一夏という人物では?」
 少女が冷静に問うと、
 「すみませんが、自分は``織部``という者です」
 「ッ!」
 それを知ってか、人違いで取り乱してしまったことに少女は顔を真っ赤にしてしまった。
 「す、すみませんっ!」
 深々と頭を下げて彩夏に詫びた少女は、彼が自分が知っている一夏という人物ではないことを認めた。
 しかし、少女からして本当によく似ていると思ったのだろう。
 ――確かに、見る限り年上の年代に見える。一夏じゃない……
 「取り乱いしてしまい大変申し訳ありません」
 律儀に謝罪する彼女を見て、誰かと面影が重なった。
 黒い髪を結んだ、凛とした女性像、それは紛れもなく在日国連基地の慈司令官の容子や雰囲気と重なってしまった。
 ――慈司令?
 いや、しかし違う。年下に見えるし、司令はもっと落ち着いてキリッとした美しい女性だ。目の前の彼女も可愛いが、慈司令官よりかは遠くに及ばない。
 「――その、失礼します!」
 人違いだと知ったのか、恥ずかしそうに走り去っていく少女を見て、彩夏は首を傾げたままとんだ災難に遭ったとため息をついた。
 「あ、大尉が待ってるんだった!」
 こちら側も本来の目的を思い出して、泥酔しきっているキース大尉のもとへ、酔いが悪化するのもお構いなく大尉が待つ公園に向かって駆け足で戻って行った。
 一方、キースが酔っぱらったしがない外国人とみられてパトロール中の警官に職務質問されてしまったのは言うまでもない……
  
 

 
後書き
次回
「IS学園」 
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