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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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三十五 かわき

 
前書き
大変お待たせしました!!短いですが、ご容赦ください…


 

 
いつからだろうか。
最初はただ純粋に、亡くなった両親に会いたい一心だった。

いつから違えてしまったのか。
再生と幸運の象徴の蛇に憧れただけ。ただ、それだけだった。

いつから間違えてしまったのか。
幾度もの死を経験して、度重なる死を目の当たりにして。

だからこそ、強さを求めた。不老不死を望んだ。
全てを手に入れる、その為に。


いつから…────。












「なんだろう、これ」

陽光に透ける透明なソレ。
見たこともないソレを手に乗せ、問う教え子に、若き猿飛ヒルゼンは「おお。よく見つけたな」と感心の吐息を零した。


「それは白蛇の脱皮した皮だ」
「はじめてみた…」

両親の墓の前で拾った蛇の抜け殻を、幼い大蛇丸はマジマジと眺める。
滅多に見ることのできない珍しいモノだと説明するヒルゼンに、大蛇丸は無垢な瞳で「どうして白いの?」と訊ねた。
「さぁな…」と首を傾げたヒルゼンは「ただ…」と顎を撫でさすって言葉を続ける。


「昔から白蛇は幸運と再生の象徴とされておるぞ」



師の話を耳にして、大蛇丸は手の内にある白蛇の抜け殻を指でなぞった。
中身はとうに無いのに、透明で陽光に鱗が透ける蛇の皮は、大蛇丸にとっては、どこか神秘的なモノに見えた。

「此処で見つけたのも何かの因縁じゃな」

大蛇丸の両親の墓に、ヒルゼンはチラリと視線を投げる。
そうして、明るい物言いで「お前の両親もどこかで生まれ変わっているかもしれんのう」と何の気もなく笑った。


「いつかまた…大きくなったお前と会う為に」

俯いて、手の内の蛇の抜け殻に視線を落としていた大蛇丸は、そこで顔を上げる。
師を見上げるその双眸には、微かな期待の色が宿っていた。



「それって…いつだろう」
「さてなァ…」

ヒルゼンの言葉を聞きながら、大蛇丸は再び視線を手の内に落とす。
風でカサカサと音を立てる白蛇の皮。


幸運と再生の象徴である蛇の抜け殻を見つめる大蛇丸の口許は、確かにその時、緩んでいた。
再生の象徴である蛇のように、亡くなった両親もどこかで生まれ変わっているかもしれない。



そう期待に瞳を輝かせる幼き大蛇丸は、その頃は確かに、純粋な想いを抱いていた。


どこかで生まれ変わった両親へ会いたいという、ただ、それだけの無垢な願いだった。





















幼少の頃より忍の才は抜きん出ていた大蛇丸はいつしか、自来也・綱手と共に『伝説の三忍』と呼ばれるほどの強さを手に入れていた。
けれども度重なる戦争の最中、人の死を何度も経験し、人は脆い、と達観する。
だからこそ、死をなにより恐れ、死ねば全てがそこで終わりという考えに至った。

よって、老いや寿命と言った限界を超越すべく『不老不死』の研究に没頭する。
全ての術を知るためには長い時間が必要だと考える大蛇丸の根底には、いずれ、どこかで会うかもしれない生まれ変わった両親への想いもあったのかもしれない。

自分の器はこの身体でも木ノ葉でもないと、必死で止めようとする自来也の行動を一笑に付した大蛇丸の脳裏には、かつて両親の墓前で拾った再生と幸運の象徴が常にあった。


己は小さな器に納まるべきではない。
蛇のように脱皮し、再生するのだ。
器を脱ぎ捨て、全てを手に入れる。



その決意を胸に、木ノ葉を抜けた大蛇丸は、しかしながら、うちはイタチの力を垣間見て、自分は井の中の蛙だと思い知る。三忍と称される己が惨めに思え、イタチの身体を手に入れようとするも、その瞳術の前に完敗した。

だから、焦がれた。うちは一族の血を。
写輪眼を持つ、うちはサスケを。

そして……────決して届かぬ高みに既に座している、うずまきナルトを欲した。



ナルトを初めて見た瞬間の大蛇丸の衝撃と言ったら、言葉では言い尽くせない。

全ての術を知る。
永い時を経なければ辿り着けぬ理想を、うずまきナルトはまさにその身で体現していた。


だから大蛇丸は、うちはイタチ以上にナルトに執着し、そしてその力に溺れた。
ナルトの計り知れない強さを垣間見るたびに、大蛇丸は酷く羨望し、渇望した。


『木ノ葉崩し』にて、師である猿飛ヒルゼンによって封じられた【屍鬼封尽】。
その後遺症で自らの肉体が限界を来たしても、他の人間の肉体を奪って転生しても、その渇きは癒えなかった。

けれど同時に、うちはイタチ以上の力を持つナルトには、どんな手段を使っても敵わないと心の底から理解もしていた。
だから、せめてイタチの弟であるサスケに、大蛇丸は己の未来を見たのだ。












「我慢…我慢よ…」

転生し、新たな肉体になったとしても、以前のように術を上手く扱えない。
その歯痒さから、大蛇丸は日々、鬱屈した思いを抱いていた。

信頼できる部下────薬師カブトに、己の肉体を調整するように命じているものの、大きな術を使えば疲労はかなり大きい。
特に今は、木ノ葉の忍びと対戦し、九尾化した波風ナルと闘ったばかり。


「もう少し…もう少しで…」

更に、発動させた【八岐の術】によって、チャクラを根こそぎ持っていかれた。
大蛇丸は喉が渇いていた。酷く、かわいていた。


「我慢…がまん…」

アジトに戻り、戦闘で興奮した我が身を落ち着かせるも、大蛇丸の蛇の如き双眸は無意識に、サスケの居場所を捜していた。
そして、長年の願いを口にする。


「…時期尚早かと思っていたけど…もう我慢できないわ…」


ねっとりとした声音が、室内に這うように響く。
サスケの部屋の扉の隙間。
そこに長く細い指を這わせて、大蛇丸は囁いた。


「さぁ…サスケくん…」



数多の蛇がサスケを取り巻く。
逃げ場を逃すように殺到した蛇の主は、恍惚とした笑みを湛えた。


「────君の身体を私にちょうだい」


















いつからだろうか。
最初はただ純粋に、亡くなった両親に会いたい一心だった。

ただ、それだけであったはずなのに。





















ガラガラ、とアジトが瓦解する音が響く。
暗く、澱んだ空気にあった其処は、今や外気に曝されていた。

その巨躯で地下にあった大蛇丸のアジトを突き破る。
太陽の光が射し込むかつてのアジトの成れの果ての中、春野サクラが口寄せした巨大な猫が、ぐるる…と喉を震わせた。


「まさか…サクラちゃんが【口寄せの術】を使うなんて…」
「いつまでも昔の私と思わないことね」

驚愕で青い瞳を大きく見開くナルと、サクラは冷ややかに見下ろす。
巨大な猫の背に乗ったサクラを警戒態勢で見上げていたヤマトは、ピクッと反応した。

直後、かぶりを振る。

(そんなバカな……ありえない)


だって、既に彼は────彼らは死んでいる。








木分身の応用術である【送信木】。
細胞を種子に変化させ、敵の服や靴等に仕込むことで追跡のマーカーとして扱える。
一見、ただの種に見えるソレは、ヤマトのチャクラとだけ共鳴する忍具である。

簡単に言うと追跡用の発信機だ。

温泉宿で泊まった際、ダンゾウ率いる『根』から派遣された忍びということで、ヤマトは対象の服に、【送信木】の種を仕込んでおいた。
しかしながら、念のためにと仕込んでおいたソレが、早々に使い物にならなくなったのだ。

理由は至極簡単。対象が死んだからだ。

遺体は動かない。死んだ相手の服に【送信木】を仕込んでおいても意味はない。


裏切者としてカブトに殺された右近/左近・鬼童丸。
死んだ彼らに仕込んだ【送信木】が反応したことを、ヤマトは気のせいだと思い、目の前の戦闘に集中した。





















木々はなぎ倒され、地面が抉れたように穿たれている荒地。
荒涼としたその場は、ほんの少し前までは緑豊かな森だった。


クレーターと化した其処へ、音もなく降り立った彼は、周囲を見渡す。

人の気配どころか、生き物の気配もない。
大方、九尾の力の一端に怯えて、ここら一帯の生き物達は遠くへ逃げ去ったのだろう。

(……ナル……)

その力を宿し、小さな九尾となって暴れた彼女を懸念しながら、彼は────うずまきナルトは軽く、地面を蹴った。


カサカサにかわいた地面。
今や、草一本も生えていない乾き切った土が、不意に、ボコりと蠢いた。


「あ────…疲れた」

ボコボコ…と盛り上がった地中から這いあがった彼は、大きく伸びをする。
凝り固まった身体を解すように柔軟するその腕は、六本。


「やれやれ…【土遁の術】でずっと地中で息を潜めるのも楽じゃないぜよ」
「まったくだ」

鬼童丸に同意を返したのは、地面。否、同じように地中から這いあがった右近が溜息をつく。
右近の溜息を間近で聞きながら、左近は身体中に纏った土をパンパンと叩き落とした。



「待て」

死んだふりをするように命じていたナルトは、生きていた鬼童丸と右近/左近に制止の声をかける。
静かに近寄ったナルトは戸惑う二人に、細く長い指を伸ばした。

服裾から、ヤマトが仕込んだ【送信木】を無造作につかむ。青く澄んだ双眸を細め、ナルトは指先で種をパキッと握り潰した。





「また会えて嬉しいよ。右近・左近…鬼童丸」


握り拳をそっと開く。

粉々となった発信機である種がパラパラ…と、生きている三人の間をすり抜け、やがて、かわいた大地に散っていった。 
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