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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第13節「大野兄弟とザババの少女」

 
前書き
日を空けてしまいましたが、なんとか出来ました!
もし毎日更新が途切れても一週間以内には続き出しますので、Twitterをフォローしてない皆さんもご心配なく。
フォローしたい皆さんは、プロフに貼ったリンクから飛んでください。

更新途切れたら週一更新に鞍替えかな……。いや、毎日更新してる俺が頭おかしいだけなんだろうけど()

また、R18集「夜に交わる伴装者」の非ユーザーコメントを解放しましたので、まだ読んでない読者さんはそちらもよろしくお願いします。

さて、今回は前々回名前がチラッと出ていたあの人も出ます。
それでは、お楽しみください! 

 
その日の正午、弦十郎は了子の現場復帰について話を通す事を兼ね、斯波田事務次官と現在揃っている情報の確認を行っていた。

「──では、自らをフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者達によって構成されていると?」
『正しくは米国連邦聖遺物研究機関、F.I.S.の一部職員が統率を離れ暴走した集団という事らしい』

ちょうど昼食時に通信を入れた為、今日も斯波田事務次官は蕎麦を啜りながらの対応だ。
ちなみに前回はざる蕎麦。今回食べているのはかけ蕎麦である。

『こいつはあくまでも噂だが、F.I.S.ってのは日本政府による情報開示以前より、存在しているとの事だ』
「翔くんが聞いていた通り、米国と通謀していた彼女が……フィーネが由来となる研究機関というわけですか」
『出自がそんなだからな。連中が組織にフィーネの名を冠する道理もあるのかもしれん』

ここで一口、蕎麦を啜る。大事な話をしながら飯テロしてくるので、弦十郎や緒川はともかく、藤尭が蕎麦を啜る音だけで腹の虫を鳴かせているのは内緒である。

『テロ組織の名に似つかわしくないこれまでの行動も……存外周到に仕組まれているのかもしれないな』
「ううむ……」

斯波田事務次官は器に残った蕎麦を啜ると、汁を飲み干して箸を置く。

『まあ、その辺も櫻井女史が戻れば分かるだろうな。こっちでどうにか話は通しといてやる。数日はかかるが、必ず復帰させてやるさ』
「恩に着ます。了子くんをどうか、自由にしてやってください」
『おう。お前もあんまり無茶すんじゃねぇぞ』

そう言って斯波田事務次官は通信を切った。
彼がやると言ったのだ。後は任せて、自分達に出来る事に専念すべきだろう。

弦十郎が席を立とうとした、その時だった。

「司令、官房からも通信が入っています」
「官房?」

回線が開かれ、モニターに映し出されたのは、黒髪を後ろで結び、胸元にループタイを巻いた男。

男は弦十郎の顔を見るなり、開口一番に叫んだ。

『弦! ノーチラスが損傷を負ったというのは本当か!?』
九皐(きゅうこう)兄貴!?」

風鳴九皐。弦十郎の兄であり、翼の父である八紘の弟。内閣官房次長を務め、二課に仮設本部として次世代型潜水艦『ノーチラス』を与えた張本人である。

「九皐さん、報告した通り、損傷はそれほど酷くはありませんので……」
『分かっているさ、慎次くん。しかしだな……自分で名付けた艦が、あわや潜航不能になるところだったと聞かされては、居ても経ってもいられなくてな……』
「すまない、九皐兄貴……」
『いや、相手もシンフォギアだったというのなら仕方ない。お前や部下が無事だった事を喜ぼう』

そう言って九皐は椅子にかけ直し、咳払いした。

「それで、今回はいったいどういう用件で? まさか、世間話をしにってわけじゃないんだろう?」
『ああ、そのことなんだが……今、そっちに翼ちゃんと翔は居ないな?』
「この時間は学校だからな。明日の学祭へと向けて、準備を進めているはずだ」
『そうか。明日は学祭なのか……。見に行ってやれないのが残念だが、そこは慎次くんに任せるとして、だ』

昔から翼と翔を可愛がっていた九皐は、学祭と聞いて口元を綻ばせる。
だが、次の瞬間には表情を引き締め、本題へと移った。

『最近、風鳴訃堂(ふどう)は大層機嫌が悪いらしい』
「それは……なんとも……」

弦十郎の表情が曇り、九皐は溜息を吐く。

風鳴訃堂……弦十郎や九皐、八紘の父親にして翼や翔の祖父。二課の前身、特務諜報組織『風鳴機関』の初代司令官であり、元特異災害対策機動部二課司令。
護国の鬼と称される通りの苛烈な性格であり、国を護るという名目の元、外道な手段さえ手段を厭わないそのやり方は、息子達どころか孫の翔からも嫌悪されている男である。

二課設立に前後してイチイバルを紛失したことから引責辞任したことで、その座は弦十郎へと引き継がれた。
今思えばそれもフィーネの策略の一つだったのだろう。それが幸いしているのは、訃堂を知る者達にとってはありがたい偶然なのかもしれない。

その風鳴訃堂が不機嫌、という事実は息子達にとっては間違いなく頭痛の種だろう。
現場に居ない立場でありながら耳が早く、権力がある上に高圧的。そんな父親から理不尽な雷が落ちるまで秒読みだというのだから。

『先の防衛大臣暗殺にシンフォギアの流出。そして例のテロ組織を未だに逃し続けてしまっている現状……。このままいくと、いずれ風鳴機関を動かして自ら出張りかねない……俺はそう見ている』
「あの子達には聞かせられん話だな。余計なプレッシャーを与えるわけにはいかん」
『ああ。あちらには俺が何とか口利きしておく。だから弦、お前はお前達に出来る最善を尽くす事に専念してくれ』
「すまねぇ、兄貴……」
『気にするな。ノーチラスはあらゆる海を踏破する、自由の証だ。それに乗るお前達を縛らせたりなどするものか』

風鳴家の中でも、弦十郎に次ぐ程に遊びの利く人間。弟に与えた艦に大海原への夢を、漢の浪漫を詰め込んだ彼は、自由を何より愛する男だ。
その頼もしい笑みが、弦十郎にはとても嬉しかった。

『そろそろ切るぞ。翼ちゃんと翔によろしくな。また休暇が取れたら、ドライブでも行こうと伝えてくれ』
「ああ。もしかしたらその時は、響くんも付いて来るかもしれんぞ」
『響くん? ……って、立花響か!? ガングニール装者の!? おい弦、まさかその子……』
「それは次に本人と顔を合わせた時、直接聞いてみるといい」
『なるほど。八紘の兄貴が聞いたら驚くな、こいつは……』

小指を立てて身を乗り出す九皐に、弦十郎は敢えて含みのある笑みを見せるのだった。

ff

秋桜祭当日、朝。

「じー……」
「……な、なんデスか調……? アタシの顔に何かついてるデスか?」
「切ちゃん……顔がこわばってる」
「そ、そんなこと……ッ! なくはないかもデスけど……」

都内、リディアン新校舎近辺。
切歌と調は地図を片手に、リディアンへと向かって歩いていた。

切歌の表情は調の言う通り、少し強ばっていた。

「マムの回復を待たずに出てきたこと、後悔してる?」
「……いえ、してないデスよ。だってこれは今、アタシ達がやらなきゃならないことデス」
「そうだね」

ナスターシャ教授は持病の発作が出たため、ウェル博士に治療を受けている。

同時に、F.I.S.から持ち出した聖遺物の欠片を失った今、次にネフィリムが目覚めた時の餌がもうないのも事実だ。

ここで動かなければ八方塞がり、これまでの苦労が全ておじゃんになってしまう。

「あの時、あいつ……アタシ達のペンダント見てたデス。このままだとネフィリムの餌にされるかもしれないデスッ!」
「それだけじゃないよ。ここでわたし達が奪取できなければ、マリアが出てくる事になる」
「それも絶対駄目デスッ! そんな事をすればいつマリアがフィーネに……」
「わかってる。だからこそ、わたし達は決めたんだ。何としてでも、あの装者達から聖遺物を奪うって」

今、フィーネの覚醒は不完全な状態だ。だが、力を使えば使うほどフィーネの魂はマリアを侵食し、やがてはマリアの自我を塗り潰してしまう……というのが、ナスターシャ教授から聞かされたマリアの現状だ。

マリアが無理をすればする程、彼女が彼女でいられなくなる時間が迫って来る。
切歌と調にとって、それは耐え難い言葉だった。

無論、マリアを誰よりも案じているツェルトにとっても……。

「何がなんでも手にして戻らないと……デスね」
「うん。ちょうど装者達の学校は学園祭だから、一般人が紛れ込んでも大丈夫。絶好のチャンス」
「よぉ……し、やるデスよーッ!」

切歌が気合いと共に伸びをした、その時だった。

「……きゃあああッ!?」
「うわぁぁ、ノイズだーッ!!」

街ゆく人々の悲鳴が轟く。

そう。今なお、バビロニアの宝物庫は開け放たれたまま。
ソロモンの杖の有無に関係なく、自然とノイズは溢れ出てくるのだ。

「ッ!?」
「調、行ってみるデスッ!」

二人は顔を見合わせて頷き合うと、悲鳴の方向へと走り抜けて行った。

ff

「嫌ぁぁぁーッ!」
「ノイズだーッ! うわぁぁぁ!」

ノイズ襲来により、逃げ惑う人々。

登校中だった学生。通勤途中の会社員。朝のセールに向かっていた主婦に、店を開け始めていた店員達。

人々は皆一様に悲鳴を上げ、迫り来る災害から逃げ延びようと走り続ける。

平穏な朝は一転し、恐怖が街に広がって行く。

その雑踏の中、シェルターへと向かう雑踏を逆走する二人の少年がいた。

「早く逃げるんだッ!」
「ほら、行ってッ!」

人々を避難誘導したり、転んだ少女を立ち上がらせたりと、逃げ遅れる人が一人でも出ないように動いている少年達は、どちらも紫髪で金色の瞳をしている。

翔や純のクラスメイトである、大野飛鳥と大野流星、双子の兄弟だ。

「兄さん、そっちは?」
「今ので最後だ。……そろそろ潮時か」

二人の視線の先には、こちらへと向かって来るノイズの群れが見え始めていた。

「後は翔達に任せよう」
「そうだね。……ッ!? 兄さん、あそこ!」
「え?」

流星の指さす方向、そこには──

「あ、ああ、あ……」

逃げ遅れたリディアンの生徒が、腰を抜かして後ずさっていた。

ノイズはすぐそこまで来ている。
しかし、ここで彼女を見逃すわけにはいかない。

困っている人を見過ごすなど、UFZの理念に反する真似が出来るほど、臆病な二人ではないのだ。

「大丈夫か!?」
「肩借りるかい? ほら、立って!」
「ひ、ひいぃ……!」
「ッ! まずい……ッ!」

女子生徒と流星を突き飛ばし、自分も道路に身を投げる。

そのすぐ側を、身を捩らせたノイズが掠めて行った。

「兄さんッ!」
「くッ……流星! お前はその子を連れて先に逃げろ!」
「ッ!? 兄さんは!?」
「僕が囮になって、ノイズを引きつける! この辺りの道は熟知してるから心配するな!」
「馬鹿な事言わないでよ! そんな危険な真似、兄さんにさせられない!」
「僕だって流星にそんな真似、任せられないさ!!」

言い合っている間にも、ノイズは迫ってくる。
兄弟は決断を迫られていた。

「その子を連れて逃げろ、流星ッ!」
「兄さん……ッ!」

立ち上がった飛鳥が、囮となって走り出そうとしたその時──



「やいノイズッ! こっちへ来るデスッ!」

反対側の道路から、少女の声がした。

「……そこの人、早く逃げてッ!」
「え……」
「いいから逃げるデスッ!」

語尾の特徴的な金髪の少女に、黒髪ツインテールの無口そうな少女。

二人がノイズの方へと空き缶を投げつけ、注意を逸らそうとしていた。

「兄さん……行こうッ!」
「し、しかし……!」
「あの子達にだって考えがあるはず。その勇気を無碍にできるの?」
「ッ……!」

流星の言い分は尤もだ。
今、優先すべきはリディアンの生徒と共に逃げる事だ。

飛鳥はノイズの注意をひきつけ、走り去る少女達を見て立ち上がった。

「行くぞ流星」
「うん! さあ、立って!」
「……は、はい……ッ!」

兄弟はリディアンの生徒の手を引き、シェルターの方へと向かっていった。

(ありがとう……無事で居てくれよッ!)
(あの女の子……どこかで見たような?) 
 

 
後書き
というわけで、今回は学祭前半をお送り致しました~!
大野兄弟にきりしらと接点が。流星くん、その日運命と出会う。

それから仮設本部のオリ設定を引っ提げてさりげなく登場、九皐さん。
XDUではあんまり掘り下げられてなかったので、並行世界だしIF翼さんくらい性格違ってもいいよね!という事で、とっつきやすそうな親戚のおじさんタイプに。
知らない人の為に今回も解説しておきましょう。

風鳴九皐。XDUのイベントシナリオ、『BAYONET CHARGE』にて登場。装者が存在せず、八紘が特異災害対策機動部二課の指令を務める並行世界で、風鳴家を出奔した弦十郎が作った非合法組織「影防(カゲモリ)」の現司令として組織を率いている。

風鳴一族の例に漏れず堅物であり、世界を守る為なら悪にでもなる覚悟でこの立場に就いていたが、組織の命令に背いてでも少女の救出を優先しようとする翼とクリスの姿を見て、かつての弦十郎が常に「弱い者の味方」として活動してきたことを思い出し、考えを軟化させた。

伴装者世界ではそんな堅物キャラから一転。甥っ子達に甘く、浪漫に溢れる性格にの内閣官房次長というキャラ付けに。
まさかここまで変わるとは、書いた自分でも予想外でしたw

二課仮設本部 次世代型潜水艦ネオ・ノーチラス:十数年前、二課設立時に風鳴訃堂が建造を進めさせていた二課専用の潜水艦。
風鳴訃堂の失脚後、完成目前で放置されていたが、それを内閣官房次長 風鳴九皐の手により完成・改良され二課へと譲渡された。

中東方面にて出土した『バグダッドの電池』を解析する事で得られた次世代型特殊発電システムによって、艦内全ての電力が賄われている。

ちなみに『ノーチラス』という艦名は、九皐の趣味によるもの。
男達の浪漫、あらゆる海を踏破する艦名は、堅物揃いの風鳴家に自由を求めた九皐の遊び心が込められている。

次回もお楽しみに! 
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