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曇天に哭く修羅

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第二部
  折れた心

 
前書き
_〆(。。) 

 
かつての《レックス・ディヴァイザー》は《立華紫闇/たちばなしあん》と同じように決して『諦め』を受け入れない人間だった。

努力すれば運命が変わる、変えられるのだと信じて強くなったのだから。

しかし彼は大きく変わってしまう。

事の発端はイギリスの【古代旧神(エルダーワン)】がレックスの母に対して明らかに無理な任務を命じたことから始まる。


「母は捨て駒だったんです」


レックスと彼の父は母を止めた。

古代旧神に反発もした。

しかし母は古代旧神の命令通りに任務へと臨み惨殺されてしまう。

家やレックス達を守る為に。

返ってきた母の遺体は酷い状態。


「気が狂いそうでしたよ」


何せ彼女が死ぬその時まで生き地獄を味わったのだろうことが手に取るように解るような凄惨さだったのだから。


「私は母を手にかけた者達よりも古代旧神のことを憎悪しました。奴が無理をさせなければこんなことにはならなかったと。そして復讐を計画し実行に移したんです。でも……」


レックスは古代旧神に指一本も触れることが出来ずに敗北を喫し、抗いようの無い恐怖を骨の髄まで叩き込まれる。

復讐が叶うなら死んでも構わないと意気込んでいたことが嘘のように震えて縮こまり、命乞いをしてしまうほど。


「古代旧神は笑って許しました。その代わりに私は心が折れたんです。今までやってきたことに意味は無かった。そんな風に思うようになってしまったから。結局のところ、クリスと出逢った頃の『出来損ない』と言われていた自分と何も変わっていないんですよ」


積み重ねた努力に意味は無く、運命を変えることが出来る人間ではない。

そう思い知らされた。

レックス・ディヴァイザーとはその程度の人間でしかなかったのだと悟る。

故に彼は古代旧神に従って生きるだけの人形となり果ててしまう。


「私の事情を知った《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》が激怒しましてね。御存知の通り大英帝国の全戦力を敵に回して暴れ狂ってしまったんです。そして古代旧神を引っ張り出すところまで行きました」


当時のイリアスも自国の古代旧神を滅するだけの力を持っていたが異能制御の関係上、広範囲を巻き添えにしてしまう可能性が有ったため断念し、日本へと亡命する。

現在はピンポイントで古代旧神を滅ぼせるのだがイギリス国内ならもはや巻き添えにしても構わないと思っているようだ。

クリスへの刺客を送り込んできた時点でイギリスに対する配慮は消えた。


「私は人形としての生に疲れた。命乞いして生き長らえた身ですが今は惜しくも何とも無い。愛する者さえ手に掛けなければならない人生は送りたくありません。だからこそ今回のクリス殺害指令は決め手になった。彼女と紫闇(あなた)を殺し、私も死ぬ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


語り終えたレックスは人形を動かす。

再び紫闇と《クリス・ネバーエンド》に対して攻撃を仕掛けていく。


(力が欲しい)


都合の良いことは解っている。

それでも紫闇は認められない。

自分もクリスもレックスも救う為に。


『“門は開かない“』


しかし紫闇の内から響く声は無情。


「だったらどうすんだよッ!」

『“(はや)るな。今のままで勝てる“』


紫闇に情報が伝わっていく。

現時点で使える力。

それでしていなかったことの。

人形をクリスに任せて距離を取ると彼は右腕を天に向けて【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】を発動。

外装に走る青いラインから蒼穹色をした強い輝きが放たれ周囲を照らす。


「悪足掻きを。また戻るだけですよ」


しかしレックスは焦る。


「【異能】が働かないッ!?」

「今さっき解った。珀刹怖凍は俺の『体感時間』をベースにして干渉してるんだ。その影響で俺からは他の奴が止まってるように見えるし現実時間との差分だけ高速移動が出来る。これが普段(・・)の珀刹怖凍らしい」


しかし今使ったものは違う。


「この辺りに在る空間。その時間を凍結した。擬似的な時間の停止だ。空間の時間自体は流れてるけど進みも戻りも出来ない。だから時間の逆行は出来なくなってる」


レックスは歯軋りした。

時間の逆行が使えない間にクリスはレックスの人形を破壊していく。


「レックスの任意じゃない自律モードでも思ったよりやるじゃない。レックスの思考をコピーしてるのかしら。お陰で良い運動になるけど」


王冠の人形が剣を振り下ろすもクリスはただの魔晄防壁で弾いてしまう。

ぐらついた相手にカウンター。

頭部が破壊された人形が倒れる。

後ろから迫る僧侶は手に持つメイスごと裏拳で豪快に薙ぎ払った。

馬頭の騎士が奔らせる双剣を掴み取りながら蹴り上げ股下からボディを引き裂いていく。

骸骨の人形は複数出せたようでクリスを取り囲むも、人形の中で一番脆かったのであっさりとバラバラにしてしまった。

大盾の鎧は【音隼(おとはや)】で突っ込みながら盾ごと後ろの人形本体に風穴を開ける。

最後は長い髪をした女剣士の人形。

レックスの母に似ているという彼女はレックスの思考にレックスが覚えている母の動きが混ざり合い相乗効果をもたらして見事に舞う。


「今までの人形と違うわね」


しかしやはり届かない。

今のクリスはもっともっと強いから。

クリスは二丁の銃を召喚。

女剣士の手足と頭を撃ち抜いた。


「さて。これで人形は全部オシャカよ」

「外装が無いなら異能も使えないぜ?」


しかしレックスはまだまだ余裕。

紫闇とクリスに気勢を上げていく。


(あんたは凄いよ。本当に)


こんなに追い込まれた状況で覇気を増すような人間がどれだけ居るだろう。


(だからこそ尊敬してるんだ)


紫闇とクリスはそんなレックスだからこそ強い想いを持って彼を救いたい。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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