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インフィニット・ソード

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SCENE1「ソード始動」

 
前書き
知っている人は少ないですかね?月刊ホビージャパンに連載されていたセンチネルのライバル作品なんですよね……
本作の機体は原作機体のタイラント・ソードの発展機兼量産化計画に向けた試作機という設定です。
いわゆる「2号機」ってやつですよ。 

 
 ソード開発研究部署「ネオ・ファリア」、国連オーストラリア基地「トリントン」より開発が進められている超機動人型兵器の開発部門である。
 先の白騎士事件の参戦によって、かの「白騎士」を撃墜寸前にまで追い詰めたほどの強大な威力と高性能を発揮した試作一号機「タイラント」を元に次期試作二号機への開発を進めていた。
 そして、その量産化計画の第一プロジェクトとして今回開始されているのが「S(セカンド)SE計画」と呼ばれる今プロジェクトによってタイラントに続く試作二号機のソード「ハイペリオン」がそれである。
 その戦術思想は、ISと呼ばれる女性にしか扱う事のできないパワードスーツ兵装や他の想定対象に対し、高機動によるドッグファイトを生かした戦術機体であるため、頭部の20ミリビーム機銃や武装は後方のバックパックのブースターユニットに装備されたSEジェネレーター式ビームガトリングカノンと主兵装のビームサーベルを装備した、シンプルに近い兵装を施してある。
 また、この試作二号機ハイペリオンは今後量産化機種のベースともなりうる機体ゆえ、数ある試験データから生み出された性能結果も十分に期待されていた。
 さて、そのソードのテストパイロットであるが、初期試作一号機において白騎士事件に参戦し、かの白騎士を撃墜にまで追い詰めた噂のテストパイロット「キース・マクレガー」大尉である。
 その、事件後に中尉から大尉へと昇進した彼はS(セカンド)SE計画においても中心に近い位置づけで今回のハイペリオンのテストパイロットとして奮闘していたのだ。

 青で統一されたソード試作二号機「ハイペリオン」がネオ・ファリア専用デッキにおいて起動前の最終チェックに入っていた。
 数十名の整備士らが機体の各出力調整に目を通す中で、そんな彼らが行き交うデッキの地上には一人、テストパイロットであるキース・マクレガー大尉がパイロットスーツに着替えて、デッキに雄々しく立つハイペリオンを満足げに見上げていた。
 「前回のタイラントと比べて、こいつの『SEシステム』のレベルは格段に上がっているな」
 そう口にする彼であるが、そんな彼が発したSEシステムとは「Subject・Effacement」の略であり、反重力機能をもち、その多くを慣性制御フィールドとして、特にソード起動時に生じる異常なGによって機体の自壊を防ぐために用いられるのであるが、このハイペリオンに関してはSEシステムの暴走や故障時を細かく想定して、起動中に停止した場合は数十分間Gに耐えきれる機体強度で保ち、故障時には最新の自己修復ナノマシン機能を搭載しているため機体やシステムの復帰に向けて瞬時に早期修復し、SEシステムのトラブルを確実かつ安全に解決できてしまうのだ。前回のタイラントではシステムに異常をきたさないためにいくつもの安全装置やプロテクトシステムが何重にも張り巡らされていた対処仕様のため、機動までにやや時間がかかってしまっていた。
 それに比べてこのハイペリオンは起動時間がこれらのプロテクトを最低限に簡略化したため、推進システムのSEドライブを始動させたと同時に防御システムSEフィールドを展開しながら起動するために、実戦における状況においても安心だ。
 「キース大尉」
 見上げる彼の隣から、指揮官帽を被った士官の男が歩み寄ってきた。見た目は恰幅だが、柔道と空手で鍛え上げた餃子耳が特徴的で、見た目は若い新兵を驚かせるほどの怪力の持ち主である。
 「ハワード中将!」
 つかさずキースは敬礼する。
 ハワード・ドナルド中将は、キース達ネオ・ファリアを膝元に置く、この基地の指令でもある。今回のSSEプロジェクトの総責任者としてキース達の活躍を見守っているのだ。 
 「本格的な量産までこぎ着ければ、この『女尊男卑』などという風潮も終わらせることができるであろう。いやはや、最近私のオフィス付近の女性たちは随分とIS信者に成り下がった者らが多くて困るよ――」
 と、輪髭のきいた顎を撫でまわしながらため息をついた。
 「黒人男性の士官に入れる茶は無いとまで言いおった。ミルクコーヒーの一杯ぐらいいいではないかと論争になってな。まぁ、それ以前に上官に対する無礼によってここからカナダの片田舎へ輸送してやったわい」
 今頃、安月給の事務職に嘆いているに違いない。
 「人種的な発言をするなんて――解雇処分でよろしいかと」
 「あのお嬢さんは、お上のコネで入れられたようなものだから下手には出来んよ。しかし、最近我が軍内でもIS思想の女性達が増え続けていることに不安を抱く。米軍も条約で禁じられているISを上手い言い訳を述べて軍事へと転用してしまうのだから恐れ入る」
 「お気持ち、お察しします」
 キースの部署にもそういう人間が少なからずいる。
 「ところで、コイツの調子はどうかね?」
 「ハッ、すこぶる快調であります!」 
 「ははは! それは頼もしい。いつかこの機体が量産された暁には、IS女共の青っ白いケツをひっぱたいてやりたいわい」
 そういって、ハワード中将は懐っこい笑顔を向けたまま彼に背を向けて部署に戻って行った。
 中将が去った後、キースもそろそろ搭乗命令が来る頃だろうと思い、その場でしばしハイペリオンの雄姿を見上げながら待っていると、
 「見ろよ仁! こいつが噂のハイペリオン・ソードだ」
 「彩夏のソード好きには本当に呆れるぜ――」
 隣で自分よりも若手と思われる二人の兵が自分と同じように機体を見上げていた。見る限り、二人とも日経人だろうか?
 「そこの二人!」
 もうじきハイペリオンも起動試験に入るころだからその場から離れろと注意をかけた。
 「は、はっ!」
 途端に二人は反応で敬礼をキースへ向けだした。
 「もうじきハイペリオンが起動する。時間があるのなら遠くから見ていてくれると嬉しい」
 「は、はい! 是非ともそうさせていただきます」
 と、と笑顔を見せるほうの兵士へキースも続けて問う。
 「ソードに、興味があるのか?」
 「はい! ソードは自分にとって憧れであります」
 「二人とも、名は何という?」
 「第04警備部隊所属サイカ・オリベ二等兵であります!」
 「同じく、所属のジン・ゴタンダ二等兵であります」
 「日系人か?」
 「いえ、両名とも日本人であります!」
 「日本? あぁ、あの国はISやロボット物の聖地だったからな。興奮するのも納得できる」
 『キース大尉、そろそろハイペリオンへ搭乗願います』
 「はい、直ちに」
 右腕にはめられた通信機に返答して、
 「そういうわけだ。二人とも時間があったら見ていてくれ」
 「し、失礼します!」
 彩夏はそう言って、仁と共にその場から離れていった。
 「さて、行くか! 頼んだぞ相棒」
 そう言って、キースは見上げつつハイペリオンの足元に設置されたリフトへ足を踏み入れた。
 「頑張ってください、中尉!」
 「整備長の男がそう言い残して、彼にサムズアップを向ける。
 「ああ、言ってくる!」
 *
 数時間前、オーストラリアから離れた海域では数か月前に米軍から奪取した飛行型パワードマルチフォームスーツ「IS/インフィニット・ストラトス」のフィーメイル・キャット数十機が、ステルスの纏った潜水艇甲板より各自発進準備に取り掛かっていた。
 「例の人型機動兵器がトリントンに配備されているっていう情報は本当のようね」
 機体を纏ううちのブラウン髪をしたパイロット一人がつぶやくと、
 「白騎士事件に突如介入し、彼の白騎士を撃墜寸前にまで追い詰めたっていうあの人型兵器がね?」
 赤髪のパイロットが問う。
 「噂だと、機体のプロジェクトは一時期凍結されるもISの復旧によって女尊男卑の風習が世界へ広まったことで再びプロジェクトを再起動。男女平等とかいう生ぬるい風習をねちっこい男共は納得いかないようね」
 と、今度は金髪のパイロットが返した。
 内の一機は呆れたようにため息をついた。
 「男だろうと女だろうと、力を手にしたものが世界を支配するというのがこれまで歴史でつづられてきた人間としての掟だという事をわからせてあげましょーよ!」
 天真爛漫な態度をとる桃色の髪をした、幼気なさが残るパイロットが元気よく声を上げると、
 「もうじきで作戦を開始する。私語は慎め!」
 そんな彼女たちの会話を後ろの指揮機とおもわしき青い髪の女性が制止させた。
 指揮官は、今作戦の予定を出撃前の最後に確認し合った。
 「我ら亡国企業はこれより、国連軍のオーストラリア・トリントン基地へ襲撃に向かう。今作戦には敵IS部隊との戦闘もありうるため、各自十分に気を引き締めてかかれ!」
 いつものように基地の襲撃ではないようだ。今回だけは国連の新兵器「ソード」の奇襲破壊作戦以外にも同じIS同士のドッグファイトも待ち構えている。
 「それも、敵ISは情報によれば第三世代機の「クイーン・バイパー」で数はこちらの倍、十機だ。第二世代のフィーメイル・キャットよりも第三世代機であるあちらの方が格段と性能に差がある。各自の腕前が試される。今回だけは生きて帰投できる保証はないと思え!」
 「たいちょー!」
 すると、桃色髪のパイロットが手を挙げた。
 「なんだ?」
 「えっとぉ、時間開いたら『男狩り』やっちゃってもいいですか~?」
 その容子とはうらはだに残忍なオーラを漂わせながら指揮官の銀髪に訊ねた。それに対して指揮官はため息を漏らして、
 「――好きにしろ」
 と言って彼女をご機嫌を取った。
 「全機、出撃!」
 指揮官機の支持と共に五機のフィーメイル・キャットは潜水艦の甲板から一斉に空へ飛びだった。


 
 忍び寄る凶器が迫りくるのもしらず、トリントン基地ではいつもの通常勤務の日常が続いていた。警備隊の面々は束の間の休憩を後退しあって、ようやく彩夏たちの第04部隊の休憩が回ってきた。
 「ふぅ~トリントンは今日もあっついぜぇ~!」
 自販機でコーラの缶を片手に織部彩夏の親友、五反田仁は手で僅かな風を仰いだ。
 「一方のISの姉ちゃん共は外で汗かいた後はシャワー浴びて数時間の休憩かよ、後退時間30分の俺たちとはえらい差だぜ?」
 そうやって休憩室のベンチに座って愚痴ってる仁の隣で彩夏も、
 「ハワード中将は、俺たちにも休憩をせめて一時間にって頼んでも、それに反対する女性隊員が大半だったっていうからね」
 「アイツらのことじゃあるめぇし、関係ねぇだろ! ISじゃない女共の方でも休憩が二時間だぜ二時間! 不公平にもほどがあるだろうよ」
 「今回のソードの件で大きく改善してくれればいいんだがな」
 そういって、彩夏は窓辺からソードが格納されているあの倉庫を見下ろした。
 「お、またソードかよ」
 「仁は、興味ないのかい?」
 「そりゃあ興味あるけどよ――どうせ俺たちには無縁の職種だぜ、ソードのパイロットなんてさ」
 「でもいいよなぁ――俺もいつかチャンスがあるなら是が非でもアレに乗りたい!」
 なぜ、彩夏がこうもソードにあこがれを持つのか、それは彼がまだ日本で学生時代を過ごしていたころの話だ。
 当時、白騎士事件に巻きまれた時のこと。一機のISによって日本に数百発のミサイル一斉に向けられたのだが、そのミサイルを一発も漏らすことなく白騎士とよばれる一機のISが迎撃に成功して彼女が日本を守ったという結論に至ったのだが、所詮はテロリスト束と白騎士による自作自演だということが浮き彫りになったのはいうまでもない。
 そんな白騎士に国連軍の航空部隊がテロと認定した白騎士を攻撃にむかったのだが、現状の近代兵器である航空機はISの前では無力に終わり、あっけなく航空部隊は返り討ちにあった。しかし、しかし航空部隊が全滅した次に現れたのは国連軍の切り札として登場した白い人型機動兵器「ソード」が白騎士の前に立ちふさがったのである。大きさの比率は差があっても互いに互角の戦いを繰り広げる白騎士とソードであったが、あと一歩で白騎士にとどめを刺す寸前でソードは謎の撤退を始めてしまった。おそらく、命令があったんだろう。
 彼がソードと出会ったのはあの白騎士事件が切欠であった。上空で雄々しく戦う巨大なロボットの姿は当時学生時代の男子の彼には男心を燻ぶられた感じだった。
 それからしばらくして、ISが復旧していくにつれて世の中は「女尊男卑」と呼ばれる男性差別の風習社会が到来した。
 それによって各国より女性中心主義を掲げたISによるテロ活動が勃発し、彼と彼の両親は成田の空港でそのテロリストの襲撃に会い、目の前で両親が一機のISに殺されてしまったのだ。
 自分も殺されるかと思った。死を覚悟した直後に外部の各地で激しい爆発が起こり、彼を殺そうとしたISは背後から襲い掛かる巨大な手によって握り潰された。
 同時にターミナル内が崩れ落ち、彼は瓦礫の下敷きにされてしまった。瓦礫に動けずに今度こそ諦めかけていた時に、先ほどISを潰してあの巨大な手が彼を瓦礫から好きだしてくれたのだ。
 その巨大な手の主こそ、あの白騎士事件上空で彼が目撃した白いソードがそれであった。彼は二度もソードに命を救われたのだ。そして、あの機体から聞こえてきた「大丈夫か?」と呼びかける男の声を今でも忘れられない。
 そんな憧れから、気づくと今の民間社会を嫌って高校から同期の蓮と共に国連軍に入った。
 「ソードか……」
 過去を思い返す、そんな彼の後頭部から何かの物理的衝撃が襲ってきた。
 「痛ッ!」
 彼の後頭部を襲ったのは一本の足だった。ISの専用スーツで太ももを露出した足先が彩夏の後頭部を蹴ったのである。
 「テメェらなにしやがるッ!!」
 仁もベンチから立ちあがった。
 「邪魔よ、虫けら」
 そうゴミを見るような目で二人を見下ろす操縦者の一人に彩夏はキレそうになった。
 「ッ!」
 彩夏は、そんな傲慢なISの女達を嫌な目で睨みつける。こいつ等されいなければと、家族の死を思い出してしまう。
 「働きアリはアリらしく私達の足元で地を這いながら作業していればいいの」
 「男のくせに粋がるのもいい加減にしないさい」
 「フン! アジア人の分際で――」
 そんな警備隊の青年たちに対する軽蔑に仁も怒りが頂点に達した。
 「ふざけんな! 男だアジアだとか下らねぇこと言いやがって!!」
 彩夏よりもキレそうになっていたのは仁だったが、互いは一触即発になる。
 ――が、
 「おうおうどうしたよ!」
 すると、タンクトップからでもわかる鍛え上げられた肉体にタトゥーが彩る何人かの警備兵たちが彩夏たちの後ろから来た。
 「さっきのは聞き間違いじゃないよな。誰が俺たちのことを『働きアリ』だってぇ?」
 ボキボキと両手を鳴らす、怖い形相をした警備兵たちを前に、まだ二十歳前後の彼女たちはビクビクと怯えだしてしまった。
 「こ、こないで! こっちにはISがあるのよ!!」
 そういって、待機状態のブレスレットを一人が見せつけたが、
 「やってみろよ?」
 気迫と殺意を向きだしたタトゥーの一人が鬼のような形相で睨みつけた。
 「ひっ――」
 それに怯えた彼女立に向けて、
 「他者を尊重できねぇ醜い豚共はとっとと軍から抜けろ!」
 「くぅ――!」
 そう言われた彼女たちは苦虫を嚙み潰したように悔し気な顔を浮かべて彼らに背を向けていった。
 「ケッ! 青っ白いケツを見せつけくれるぜ!!」
 背を向ける、ISのスーツを纏った彼女立の尻の割れ目を指しながらそう言い捨てると、目の前の若い彩夏たちへ視線を向けた。
 「大丈夫か? ああいうガキどもに構うこたぁねぇぜ」
 「あ、ありがとうございます! 貴方達は――03部隊の?」
 「おう、覚えててくれたか!」
 嬉しそうに彩夏の両肩をバンと叩いた。
 警備兵たちは基本全員仲がいい。ISの女達の権力に屈しないよう互いに協力し合っているのだ。この前、女性兵士に絡まれているところを彼らに助けられた。
 「あいつらは自分が身に着けている武器に精神が負いついいていけねぇだけの悪ガキだ」
 「本当にありがとうございます! この前だって――」
 「ははは! 水くせぇこたぁ言いっこなしだ。それよりも今晩一緒に飲みに行かねぇか?」
 その時だった。
 内部からでも聞こえる巨大な爆発音と、激しい地響きが基地内を駆け巡った。その揺れに彩夏達は膝をついた状態で衝撃に耐える。
 「な、なんだ!?」
 「これは――」
 突然外部からの爆発音と地響きに彩夏達は何が起こったのがすぐに気づいた。
 「――襲撃だ!」
 「かもしれねぇ!」
 彼らはその場から立ち上がってすぐさま外に向かって走り出した。
 そんな矢先、自分たちよりも冷静になる警備兵達をみて通路に立ち止まっていたIS側も我先にとデッキへ走り出した。
 「しゅ、出撃するわ! 私達の足を引っ張らないことね」
 そう言い捨てて彼女たちはすぐにもISのデッキへと駆けていく。
 「彩夏!」
 「ああ、俺たちも外へ行こう」
 二人も後に続いて基地の外へ飛び出していった。


 
 格納デッキ付近の外部より突然数発の爆発音と激しい揺れが響いた。
 「うわッ――!」
 その揺れはハイペリオンが配備されている彼らのデッキにも響き渡り、リフトの手すりへ必死にしがみつくキースがいた。
 上空からはいくつかの小型な機影が空気を裂く音、それはこちらへ近づくにつれて次々と基地各地で爆発が生じた。
 近くの格納施設が爆発し、路上に停車されていた軍用のジープが炎に包まれながら宙を舞う。
 「な、なんだッ!?」
 それは奇襲であった。訓練ではなく紛れもない実戦が始まっていたのだ。基地上空からいくつものミサイルが施設中へ降り注がれ、配置されていた米軍のIS部隊が直ちにスクランブルで滑走路から飛びだって、上空の敵とドッグファイトを繰り広げていた。
 地上にいる兵士たちの上空でいくつもの閃光が飛び交った。
 『キース中尉、例のISのテロリストよ! 直ちにその場から非難してください』
 「了解――!」
 通信から聞こえる女性士官の声に返答し、大声で自分が乗るリフトを地上へ戻そうと操作するのであるが、
 「ぐあぁッ!!」
 リフト近くで誘爆が起こり、リフトは半壊して巻き込まれた彼はリフトから地上数メートルの地面に落とされてしまった。
 「ぐっ、うぅ……ッ!」
 「大尉!」
 その痛みに呻きながらも、骨折した片足を引きずりながら、生存していた整備班たちに担がれて地下シェルターへと非難を急いだ。
 一方、第04部隊に戻った彩夏たちはその場で手短な説明を受けた後に、各自武器を下げて隊列の中に加わって例のISテロ機体の元へ向かっていた。
 「敵の数は!?」
 第04警備部隊の面々はデジタルスコープから除く視界より敵ISの正体を特定した。
 「先日、米軍から盗まれた双発の可動翼機フィーメイル・キャットだ! 数は5機」
 「コイツなら――!」 
 各自ロケットランチャーを肩に、一機の目標へ照準を定めるが――
 そのとき、彼らの頭上にもう一つの機影がレーダーに映っていたのだが、それに気づくのが遅すぎた。
 「う、上からも!?」
 しかし、目の前の一機よりも上空から支援に回っていた二機目の機体から既に捕捉されてしまった。
 「死んじゃえ♪」
 桃色の髪をなびかせるISの一機が舌なめずり、真下からこちらに気づいた警備兵に向けて容赦なく引き金を引いた。
 全体紫という毒々しいイメージに塗装された、その元米軍の強奪機は両手に装備する20ミリビーム機関砲を上空から乱射して、警備部隊の兵士らを虫けらのように呆気なく蹴散らしていくではないか。
 爆風と共に消し去られた部隊の中では多くの肉片が転がったという惨状が広がり、それはまさに一方的な虐殺であった。
 「く、くそっ――」
 気づくと、爆発の勢いで瓦礫の影まで飛ばされた彩夏は、全身に擦り傷や火傷を負いながらも、どうにか自身が五体満足で生きていることを知ってホッとした。
 「ジ、仁! 生きてるか?」
 「ああ、お互い様のようだ――」
 一方の仁であるが、しかし彼とは違って瓦礫に下半身が埋められて動けずにいる状態だった。
 「敵は行っちまったようだな」
 「脱出できるか?」
 「無理だ。鉄骨やコンクリートに足が挟まって動けねぇ」
 「無理をするな、応援を呼んでくる!」
 しかし、所持している無線は先ほどの先手を突かれた際に故障して使えなくなっていた。
 立ち上がった彩夏は、そのままマシンガンを肩かけなおして弾薬を確認する。
 「弾はまだあるか――」
 もっとも、ロケットランチャーやナパーム、手榴弾のような装備が無ければ心細い。マシンガン一つなんて単なる気休め程度だ。
 「無いよりはましだが……」
 「仁、お前はここで隠れてろ」 
 「お前も隠れていたほうがいい、また見つかったら今度こそ死ぬぞ!」
 「このまま――いいようにされてたまるかッ!」
 男を甘く見るなと闘志を燃やし、彩夏は戦場と化したトリントンの外施設を駆けていった。
 「別動隊はいないか!?」
 マシンガンを下げて必死に崩壊した外の施設内を走り回った。何処もかしこも多くの滑走路や格納庫、専用道路が破壊され、建物の天井がむき出しにされたり、原型を留めないぐらいに溶解した車両、そして迎撃にあたっていたいた兵士の死体など、ひどい惨状が続いているばかりだ。
 上空には先ほど出撃したと思われる米軍のISクイーン・バイパー数機がなおも敵のフィーメイル・キャットとドックファイトの戦況が続いていた。しかし、
 「た、助けてぇッ!!」
 その悲鳴は地上のここからでも響いてきた。一機のクイーン・バイパーが自身の防御シールドを貫かれ、腹部を至近距離で20ミリビーム機関砲で貫かれ、上下に分離した死体と残骸が羽を毟られた蝶のように彩夏の目の前に振ってきた。
 「あぶなッ!!」
 間一髪、墜落から逃れられたが、その撃墜によって生じる爆発は相当なもので、再び彼の体は飛ばされて滑走路の地面に転がってしまった。
 「くぅ――!」
 早く応援を呼びに行かないと、仁が危ない!
 袖を捲った両肘や頬をひどくすりむいて、大きな切り傷から血をながしがならも痛みに耐えながら立ち上がった彩夏であるが――
 「ッ!?」
 何者かが彼を呼んでいる――そんな気がしてならなかった。
 誰かが俺を呼んでいる?
 誰かは知らない。それは呼ぶ、というよりも彼を導くように「この場へ来い」というような、彼を呼び出そうとしているようで、その気配に導かれるように自然と彩夏の足は自分を呼ぶその場所まで駆けていった。
 「こ、ここは――!」
 幾つもの半壊した倉庫や建物を抜けてたどり着いたそこは、とある格納庫の施設であった。しかし、見覚えがある。この倉庫は襲撃にあう前に自分と仁がいた例のソードが配備されていたはずの場所ではないか?
 倉庫は半分が破壊され、内部が外から露出していた。
 「これって――まさか!」
 背後の気配に振り返ると、そこには仰向けに倒れている一機の人型起動兵器が誰かを待つように頭部のツインアイカメラの瞳で、露出した戦場の空を見つめ続けていたのだ。
 ――お前が、俺を呼んだのか?
 あり得ない事だった。もちろん、そんなのは自身の勝手な妄想だろうとさえいえる。しかし、その導きの声が無事にここまで辿り着かせてくれたことに関しては何かの意味があるのではないかという信憑性も疑えなかった。
 混乱する彼を、さらに焦らすかのように再び近くでクイーン・バイパーの一機が墜落して火柱を起こす光景が見える。
 味方のISの半分以上がやられているのか?
 先ほどまで彼ら警備兵を「働きアリ」という蔑称を言っておきながら、テロリスト相手に劣勢になってどうするんだ!
 当てにできない航空戦力を前にどうすればいいのか――今の自分を、この機体が此処まで呼び出してきたと想定するのなら、考える方法は万に一つかもしれない。
 無謀だという事はわかっている。軍法会議に駆けられることだって覚悟の上だ。このまま此処にいても死ぬだけなんだ。仁を助けることもできない!
 「くっ!」
 ――やってやるッ! 
 彩夏は、仰向けに倒れた機体の腹部までよじ登り始める。途中で再び起こった爆発と地響きの揺れで機体から落ちそうになるも、必死に個所へ掴まりながらどうにか胸辺りのコックピットと思われるハッチ部分まで登り切ることができた。
 「ここが――コックピット?」

 *

 「敵の特定は――なに、例のテロリストだと!?」
 指令室より指揮を執るハワード中将であるが、そんな彼の元へソードの開発責任者である女史、ネイナ・ラフィット・ファルム開発主任がこの場へ駆け込んできた。
 「中将! ハワード中将は居られますか!?」
 白衣を着た、三十路半ばの彼女は本来なら民間人として立ち入ることを禁じられているこの場へ足を踏み入れたのにはハワード中将へ折り入って話があったのだ。
 「中将ッ!」
 「ネイナ博士、今は戦闘中だ! 地下シェルターへ避難しているんだ」 
 「お願いです。この状況を打破するためにもハイペリオンの仕様をお願いします!」
 「しかし――その肝心の機体は戦闘に巻き込まれて無事であるかどうか……」
 「自動的にSEフィールドを展開するよう施してあります」
 「だが、肝心のキース大尉が負傷している今、誰があの機体を?」
 「それなら、この私にハイペリオンの操縦を託していただけませんか」
 「無茶を言うな! 今、貴女にもしものことがあったらどうするんだ」
 「量産型ソードの設計データなら既に私達の手元にあります。私に何かあっても、そのデータさえあれば――」
 「馬鹿者! 民間人である貴女を戦闘へ参加させるわけにはいかんと言っておるんだ」
 「しかしッ――」
 「ひいぃ!!」
 とたん、オペレーターの一人が恐怖で顔を歪ませた。
 司令室の窓側前方よりテロリスト機である紫のIS、桃色の髪をしたパイロットが駆るフィーメイル・キャットが20ミリビーム機関砲の両腕を浮上していた。
 「しまったッ――」
 護衛のクイーン・バイパーの防衛網が突破されてしまったというのか。
 ――キースッ……!
 死の間際、ネイナは思い人である彼の姿が頭をよぎった。
 しかし、
 「あれぇ? 一人女の子がいるや――っていてもオバサンだしいっか」
 そして、彼女の両手から20ミリの銃口が向けられる。
 「死んじゃえ――っん?」
 フィーメイル・キャットを纏うISテロはレーダーより何かの巨大な機影に自機を補足されたことに気づいた。
 突如、桃色髪の彼女を真横から襲う幾つもの閃光の雨が降り注がれ、フィーメイル・キャットの全体を貫通していくではないか。
 「うぐっ――!」
 一瞬でハチの巣状態になっていく桃色髪の彼女は肉片に変わり、上空で爆散してしまった。
 「な、なにが起こった!?」
 ハワードが状況の確認を急がせると、閃光が放たれた方向より一機のブルーで彩られた巨大な人型兵器が司令室にいる彼らの目の前を通過した。
 「は、ハイオペリオン・ソード!?」
 中将は叫んだ。
 「キース!?」
 救いに来たその機体に乗り込めるパイロットは彼しかいない。しかし、何故だろう。彼女はそんなハイペリオンの動きから生じる過剰な高出力で飛ぶ飛行体制は、キースの的確かつ適度な出力調整とは違っていた。
 そして、彼女は気づいた。
 「違う――あれに乗っているのはキースじゃないわッ!」
 「何だと!?」
 中将も目を丸く見開いて、目の前の窓越しから移っている飛行中のハイオペリオンを見た。
 *
 そう、そのハイペリオンのコックピットに身を収めているパイロットはキース・マクレガー大尉ではなく、第04警備部隊に属するあの日本人の青年だった。
 「SEシステム及びジェネレーター機能正常、SEドライブ及び各部バーニアを出力最大に! 各兵装機能、異常なし! SEフィールド全開で突っ走れえぇッ!!」
 両肩部に取り付けられたシールド装甲兼大型ブースターの噴射口から青い火柱が立つ。
 腕部内より収納されていた筒状が右手の中へ流れ渡ると、その筒の先から高出力のエネルギーが放出し、それはたちまちに光の剣へと姿を変えた。
 その光の剣、ビームサーベルを握りしめ、高出力によって自身よりも小型なISの数機へ突っ込んでいく。
 「なんだあれは!?」
 「巨大な人型兵器だと!?」
 「一機がやられた――アマンダの機体だ!」
 「ひるむな! 相手は図体がデカいだけで的にすぎな――」
 刹那、彼女たちフィーメイル・キャットの間合いにその巨体はいた。
 「うおおぉッ!!!」
 額の汗を散らしながら、彩夏のハイペリオンはビームサーベルを振りかざして突っ込む。
 各機はSEフィールドを纏った巨大な装甲と、一振りの巨大なビームサーベルの刃によって、内二機の銀髪の指揮官と金髪の機体が衝突して大破、もう残りのブラウンと赤毛の二機はビームサーベルの一振りで上半身と下半身を失ったままヒラヒラと地上へと落ちていった。
 「馬鹿なッ――相手はたった一機でISを一度に二機も!?」
 大破した内のリーダー機はもう片方の大破した一機を呼ぶ。
 「た、退却だッ! なんて予想外なことに――そっちは飛べるか?」
 「予備ブースターで何とか……」
 二機のフィーメイル・キャットはボロボロに大破しつつもかろうじて飛行継続は可能であった。
 二人はそのまま目の前の巨大な人型へ背を向けて戦前を離脱しようとしていた。
 「逃がすかぁ!」
 お前たちに殺された仲間の仇だ!
 ハイペリオンのブースターバックパックユニットよりから展開される二門のSEジェネレーター式ビームガトリングカノンの束なった各砲口が離脱を図る二機を捉えた。
 「いっけえぇッー!!」
 双方の砲口より連射されたエネルギー弾の群れは容赦なく二機のフィーメイル・キャットへ迫った。
 「あれがソードの力だというのか――」
 この言葉を最後に、上空より二つの爆散した黒煙が浮かんだ。
 「いったい、誰があの機体を……?」
 司令室より、ハワード一同はそのサイズとは対照的に圧倒的な機動力と火力で五機のISを殲滅した、ソードと呼ばれる機動兵器のすさまじさに度肝を抜かされていた。
 「じ、上空周辺より敵IS部隊の機影無し! 終わりました――」
 オペレーターも自分が今こうして生き延びていることに奇跡を感じ、ホッと胸をなでおろすように体の力がどっと抜けて、立っていた者も思わず席へ脱力する形で腰を掛けた。
 「生き残った味方のIS部隊は?」
 「……残存、3機です」
 「なんてことだ――」
 まさか、我が軍の最新鋭機であったクイーン・バイパー十機が五機の先代機体のフィーメイル・キャットにここまで追い込まれるとは、空軍の女達はメンツが丸つぶれだと嘆くことだろう。
 一方、地上へ着地したハイペリオンは握りしめていたビームサーベルの刃を収めたまま目の前にそびえる指令室の窓を見上げた。 
 

 
後書き
次回
「ソード、日本へ」 
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