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不愛想でも

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第一章

                不愛想だけれど
 三原真理は自宅で飼っている雄のセントバーナード犬のペペについていつも言っていた。
「本当にこいつはね」
「不愛想だっていうんだね」
「お姉ちゃんには」
「そうよ、私には挨拶しないのよ」
 ポニーテールの黒髪ではっきりとした目だ、面長で色白である。背は高く一六五はありすらりとしたスタイルだ。その彼女が弟の淳二と淳三に言う。四人兄弟の二番目で一番上には大学生の兄淳一がいるが今は東京の大学にいて家にはいない。
「この男は」
「そうなんだよね」
「淳一兄ちゃんにも懐いてるけれど」
「お姉ちゃんにはね」
「ペペ挨拶も何もしないわね」
「彼氏には懐くのよ」
 家に連れてきた彼にはというのだ。
「そうするのにね」
「不思議だよね」
「お姉ちゃんにだけとか」
「実は女嫌いとか?」
「そうだとか」
「お母さんには懐いてるでしょ」
 女嫌いという弟達の指摘にはこう返した。
「それで私だけになのよ」
「それは仕方ないだろ」
 ここで父の惇太が言ってきた。一八〇近い長身で丸々としているので力士に見える。
「お前最初ペペに不愛想だっただろ」
「この子がお家に来た時ね」
「そうだっただろ」
「それはね」 
 真理も否定せずに答えた。
「実際にね」
「そうだったな」
「あの時受験で忙しかったし」
「反抗期だったしな」
「だからね」 
 ペペが家に来たのは真理が高校受験の時だった、それで忙しくてペペが家に来た時まだ子犬だった彼に愛想が悪かったのだ。
 志望校には無事合格して反抗期も収まったがそれでもだったのだ。
 そこからペペは真理にだけは不愛想で今もなのだ。それで父は言うのだ。
「そういうことだからな」
「ペペが私にだけ不愛想なのは」
「仕方ないだろ」
「私が悪いっていうのね」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「このことはもう言うな」
「そういうことね」
「ああ、だからな」 
 父は娘にさらに話した。
「別に吠えたり噛んだりしないだろ」
「それはないわ」
「だったらな」
「もうそれでいいとして」
「付き合っていけ」
 家族としてそうしろというのだ。
「いいな」
「それじゃあね」
「あとな」
 父は娘にさらに話した。
「今度の旅行はか」
「私行かないから」 
 真理は父にあっさりとした口調で答えた。
「お父さんとお母さんとね」
「淳二と淳三でか」
「ゴールデンウィークのそれ行ってきてね」
「そうするな」
「お兄ちゃんも帰って来ないし」
 何でもゴールデンウィーク中もアルバイトで忙しいそうでだ、お金を稼ぐ為に帰らないというのである。 
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