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バモンタンひゃくれつ観音!怒りのターボ説教が止まらない!!

作者:8x81000'sA
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釈迦牟尼の愛

バモンタンひゃくれつ観音!怒りのターボ説教が止まらない!!

勝負は一瞬にして決まった。

まだ春雨が濡れそぼる種子島。江戸時代の種子島。

いや、我々の歴史とは全く違うけど、そう大して違わなそうでほんのチョッピリ違う種子島。
かっこいい言い回しでいえば別の世界線の種子島。
ラノベチックに表現すれば異世界の種子島。

時代は鉄砲伝来である。火縄銃である。斬り捨て御免宮本武蔵オワコン涙目の種子島である。
それ撃て、やれ撃て、これ打つな蠅が手をする足をする。

「うぜえ! 小林一茶!!」
「死ね!」
バッキューンと号砲一発。俳人の眉間を鉛の弾丸が貫いた。

「ウッ! 鐘がなりゅなRiほuりゅ寺」
小林一茶は凶弾に斃れた。種子島のマングローブジャングル。
うっそうと茂る、緑翠碧よりどりみどり、宇津美みどりミドレンジャイアカレンジャイキレンジャイ早口言葉いいにくい。
な、原生林がみるみる鮮血に染まっていく。

脳漿をところかまわずまき散らし、小林一茶が大の字に死んでいる。
そこに黒い影がさした。ひとつ、ふたつ、大柄の男たちが廃人となった俳人を睥睨している。

「死んだか?」

臭そうな足が半分だけ残った一茶の顔を蹴る。ぐったりとして返事がない。まったくのしかばねだ。

「ああ、死んどる。ものの見事に死んどる!!」
ガアhッハhッは!とグーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンが束になって逃げだしそうな笑いが巻き起こった。

「俺たちの邪魔をするからだ。時代は鉄砲伝来!ナウなヤングの刀離れ。火縄銃はトレンドよ」
男たちは銃を突き上げた。
時に西暦1778年。種子島は一大鉄砲ブームに席巻されていた。
サムライの国に兵器革命を起こさんと、海を越えて火縄銃ヤーが押し寄せていたからだ。

「許せん!俺が、俺が、奴らを止めて見せる」
「あなた、無茶よ」
泣きすがる妻を右腕で振り払い、小林一茶は立ち上がった。
四諦(したい)と言って人生は苦痛に満ち溢れている。それがあるから争いはとまらないのだ。
仏陀の教えである。
信心深い小林一茶は四諦のひとつ、滅諦(めったい)を実践しようとしていた。
だって、種子島である。異論、言い分、突っこみがもろもろあろうが、彼は当該世界線上の住人であって、種子島の善良な市民なのだ。
住民税もちゃんと納めている。米2升ほどだが。
とにかく、小林一茶は愛してやまぬ種子島の自然が血で染まることに耐えられなかったのだ。
滅諦とは、人間の苦痛を取り除くマニュアルの一つだ。
一茶はその方法をやろうとした。

ある晩のことだ。
「俳句なんか詠んでる場合か!」
火縄銃ヤーが伝来する、との噂を聞いた一茶は筆を投げ捨てた。
「あなた! コロナの影響で句会が自粛してるのに、どこへ?」
妻は営業休止要請を盾に怠けまくる一茶をなじった。
「ぃやっかましい! 槍でも刀でもねぇ。鉄砲が降ってくるんだぞ」
「あなた!本当は働くのが嫌なんでしょ」
「うるぇ…」
売り言葉に買い言葉。一茶が啖呵を切ろうとした、その瞬間。
タァン。
妻の胸元に大輪の薔薇が咲いた。即死である。
「おいっ!」
庵の外に不審な人影が消えていく。
「火縄銃ヤー、ユルサン!」
一茶は妻の亡骸を抱きしめて涙ぐんだ。



「で、このバカは筆一本でしゃしゃり出てきたって次第よ」
血だるまの一茶をボスらしき男が蹴り転がす。
「なーにが仏様の教えだ。メッタイだ」
火縄銃ヤーに「怒りや憎しみなどの感情にとらわれず、正しく善悪を見極める」と正思惟(しょうしゆい)―滅諦の一つだ―は通じなかった。
ペンは剣より強いかもしれないが、鉛のつぶてには勝てなかった。
さあ、どうすればいいのか。
仏陀の教えが通用しない。

「があhっはhっはhっはグーグル!」
火縄銃ヤーは哄笑しながら種子島の緑を踏みしだいていく。


さぁ、どうする。
さぁさぁどうする。

「よろしい。ならば、戦争だ」

バモンタンひゃくれつ観音が立ち上がった。衆生に期待できないのならば神仏が介入するしかない。

それで、今日も世界のありとあらゆる場所、津々浦々で銃弾が無辜の人々を撃ち殺している。

諸行無常、何事も永遠にはつづかない。
銃砲の天下もいつか終焉を迎える。釈迦の化身のひとつであるバモンタンひゃくれつ観音はそう悟った。

人はいつまで愚かな撃ち合いを続けるのか。

ひゃくれつ観音は放置する。
それがいわば説法なのである。身をもって知れ。
バモンタンひゃくれつ観音のターボ説教がとまらない。
今日もどこかで銃が吠えている。それは観音の愛でもある。















 
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