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ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(旧版)

作者:hastymouse
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中編

 
前書き
さて、パレスに突入です。
といっても特別課外活動部は怪盗団とは違ってこういうことには素人の集団ですから、ただただモルガナについていくだけですね。とにもかくもいよいよパレスの主の登場です。(まあ、あの人ですが・・・) 

 
「さて、こういう危険な奴がいるなると、素直に正面から入るわけにもいかないからな。ついて来い。」
モルガナは宮殿をかこむ塀をまわりこんでいく。
しばらく行くと、太い木の枝が塀の内側から外に張り出している場所があった。
「吾輩の侵入ルートだ。あそこに吾輩を放り投げ上げてくれ。」
『彼』が言われるままにモルガナを放り上げると、器用に枝にしがみついたモルガナはそのまま枝を伝って塀の内側に向かい、姿が見えなくなった。そしてそのすぐ後に塀の上から縄梯子が下ろされてきた。
「いいぞ。上ってこい。」モルガナが声をかける。
「ええっ。ちょっ・・・あたしスカートなんだけど・・・」ゆかり が情けない声を上げた。
「じゃあそこにいるか。」モルガナが冷たく返す。
「うー・・・」ゆかり は口を尖らせてモルガナをにらんだ。
まず真田が軽々と上り、続いて『彼』も塀によじ登った。さらに今日はパンツスタイルの美鶴も躊躇無く上っていく。
最後に残された ゆかり がしぶしぶと上りはじめた。
真田が先に弓を引き上げ、『彼』が上から手を貸してくれる。苦労してようやく全員が塀の上に揃った。
「ジャージかなんかで来ればよかった・・・」
ぼやく ゆかり に「こんなことになるとは思わなかったからね。」と『彼』が笑いかける。
続いてモルガナは塀の反対側の木の幹を伝い降りていった。さらに真田、そして『彼』が降り、美鶴もてこずりながらなんとか降り立った。
「ええっ。これ絶対無理。」ゆかり が声を潜めながらも悲鳴を上げる。
「じゃあ受け止めてやるから、いっそのこと飛び降りろ。」真田が声をかけ、『彼』も手を広げてうなずく。
ゆかり はしばらく考え込んだ後、涙目になりながら「覗かないでよ。」と力なく言った。 

中は庭園となっている。月明かりの中、モルガナに続き、木立に隠れながら宮殿に近づいていく。
やがてモルガナは井戸の側の抜け穴に潜りこんだ。中は四つん這いで進まなければならない。今度は ゆかり もあきらめたようにしんがりでついてくる。出た場所は屋敷内の厨房だった。。
そこからは宮殿の中だ。広い廊下を抜けて階段を上り、ところどころにあるホールを過ぎる。
先ほどと同じシャドウ・アイギスが時々巡回しているが、その隙をついてモルガナは身を隠しつつ着実に宮殿の奥へと案内していく。
途中、仕掛けのある扉や隠し通路などもあったが、すでに攻略済みだったらしくまったく留まる事が無い。
その手際の良さは、本格的な忍者かスパイ、もしくはプロの窃盗犯を思わせた。
モルガナは風花同様に、周囲の状況を感知する力を持っているらしい。
「まるでコソ泥になった気分だ。」
真田が言うと「コソ泥はやめてくれ。どうせなら怪盗と言って欲しいな。」とモルガナが返す。
「ふん。怪盗は気取り過ぎだろう。せいぜいドロボウ猫だ。」
「猫じゃねー!」
すっかり定着してきた掛け合いに、ゆかり は『彼』と顔を見合わせてため息をついた。
時折、回避できないところにシャドウがいることもあったが、ペルソナを呼び出して周りに気づかれないよう速やかに処理した。

「お前ら、なかなかいい素質がある。見どころあるぜ。」
モルガナが上機嫌で言った。
どれだけ進んだろうか。ある小部屋に入り込んだところで一息つくこととなった。
彼の話によると、この部屋は認知の歪みにより、敵に気づかれずに居ることができるらしい。
さすがに緊張の連続で、皆疲れた表情を浮かべていた。
「吾輩も前回ここまでは潜り込めた。もうすぐ目的地だ。この先に、大きなホールがあって、そこにこのパレスの主の玉座がある。」
「玉座・・・王様気取りというわけか・・・。いったいどんな人物なのか。」
美鶴がつぶやく。
「だがそいつと対決する前にまずやる事がある。」モルガナがひと際声を上げた。
「やる事?・・・なんだ?」真田がモルガナに聞き返す。
「オタカラをいただくのさ。」
モルガナがニヤリと笑った。
「オタカラ?・・・お前、本当にコソ泥するつもりなのか?」
真田がさげすむような口調で言う。
「オタカラというのは、奴を歪めている欲望の源のことだ。それを奪えば、奴の心の歪みが無くなり『改心』する・・・はずだ。」
「はずっ・・・て、試したことないの?」ゆかり が問いかける。
「う・・・まだ・・・成功したことが無い。」モルガナの声が小さくなる。
「じゃあ、本当に改心するかもわからないわけだな。」真田がたたみかける。
「いや、改心はする・・・はず・・・」
モルガナのもの言いがだんだん自信なさげになってくる。
「改心するとどうなるの?」『彼』が訪ねた。
「歪みが治り、自分のしてきたことを後悔する。つまり真人間になる・・・はず。」
「はずって・・・」ゆかり がため息をついた。
「それって、どこにあるの?」
「まだわからねーが、すぐ近くに感じる。方角的に、きっと玉座の近くにある・・・はず・・・。」

しばらく休息した後、再びモルガナの導きで先に進むことになった。
やがて広い空間にある、ひと際豪華な扉の前に出た。
しかしモルガナはその扉を開けず、近くの物置部屋の中から床下の穴へもぐり、やがて目的地である大きなホールの物陰に抜け出た。
全員でそこに身を潜めながらホールの中の様子を伺う。
広く天井が高い。3階分ほどの高さだろうか。豪華なシャンデリアがいくつも下がっている。壁沿いには彫刻の像が間隔をあけて立ち並んでいる。
入口からは赤いカーペットがまっすぐに敷かれ、その先の一段高くなったところに玉座はあった。玉座の前に人影が見える。
人の声が聞こえてきた。
「侵入者はまだ見つからないのかい? 馬鹿に手間取るじゃないか。そんなことでこの宮殿の治安が守れると思っているのかい?」
蔭から覗くと、おかしな扮装をした男が玉座に座ったまま、並んだ5体のシャドウ・アイギスに説教をしている。
「あの声・・・」『彼』がつぶやいた。
「まさか」真田も驚きの表情が隠せない。
「幾月だ。あの男がなぜ!」
美鶴が絞り出すような声を出した。
彼らにとっては絶対に許すことのできない因縁の男。そして美鶴の大切な父を殺した張本人だ。
しかし幾月は死んだはずだ。一体どうなっているのか。美鶴はその場に飛び出したい気持ちをぐっと抑えた。
幾月はシャドウ・アイギス達に語り続ける。
「僕はこの宮殿に賊が入り込んでると思うだけで、ゾクっとしちゃうんだ。」
シャドウ・アイギス達が爆笑した。
「うわー、あの寒いギャグ。間違いないわー。」
ゆかり が顔をしかめた。
「しかも、ギャグに反応するようにシャドウに仕込んであるみたいだね。」
『彼』もあきれたように声を洩らす。
「知ってるやつなのか?」モルガナが驚いたように聞いてきた。
「裏切り者よ。もともと私達の顧問だったけど、実は私達を利用して世界を滅ぼそうとしていたの。美鶴先輩のお父さんはあいつに殺されたし、私達も危うく殺されるところだった。」
ゆかり が手短に説明した。
「そうだったのか・・・」モルガナは驚いたように美鶴に目を向ける。美鶴は思いつめたような険しい表情を浮かべていた。
「しかしあいつは死んだはずだろう。死んでもパレスは残るのか。」
真田が不思議そうに尋ねた。
そう、そこが問題だ。美鶴もモルガナに目を向ける。
「いや、そんなはずはない。死ねばその人間のパレスは消滅するはずだ。もしかしてその男、まだ死んでないんじゃないのか?」
モルガナが首を振りながら、逆に問いかけてきた。
「いや、それはない。確実に死亡は確認されている。しかし・・・ならば、なぜ奴はここにいる!」
美鶴が厳しい表情で身を震わせた。
「なにか裏がありそうだ。お前たちと因縁がある奴ということは、お前たちがこのパレスに迷い込んできたことにも何か理由があるのかもしれないな。」
モルガナが考え込む。
「考えたところで答えは出ないだろう。本人に確認するのが一番だ。そもそも奴が本当は何をしようとしていたのか、それもわからないままだしな。きっちり吐かせてやろう。」
真田が不敵に両こぶしを合わせた。
「まあ、待て。オタカラが先だ。」モルガナが慌てて制する。
「それ、どこにあるのかわからないんでしょ。」ゆかり が言った。
「いや、ここならはっきりと感じる。玉座の後ろにある扉。あの奥だ。奴に気づかれずにあの奥に入るルートを探そう。」
「まだるっこしいな。俺たちが奴を問い詰めて注意を引き付ける。その間にお前がオタカラとやらを奪いに行け。」
真田が闘志を燃やして言った。とても止められる雰囲気ではない。
「荒っぽい作戦だなあ。怪盗はもっとイキにやるもんだぜ。」
モルガナが呆れたような声を出す。
「あいにく怪盗とやらになる気はない。障害は正面から叩き潰す。」
「そうだな。私も奴には問い質したいことが山ほどある。後回しにする気はない。」
普段冷静な美鶴も、怒りに震える声で同意した。父の仇であり、裏切り者でもある幾月を前にして、これ以上は心を抑えきれなかった。
「どうする?」といった表情で ゆかり が『彼』を見る。
「先輩達だけに突入させるわけにもいかないし・・・」彼が肩をすくめて答えた。
「そうね。・・・まあそういうことだから、モルガナ。敵はこっちで引き付けるから、そっちはよろしく。」
ゆかり が申し訳なさそうにモルガナに言う。
「しかしなあ・・・」モルガナが渋る。
その時、「ここはもういいから、お前たちも探しに行け。」と幾月の声がした。
シャドウ・アイギスたちは礼をすると、部屋から出て行った。
ホールに残っているのは幾月だけになった。
「うまいぞ。ヤツが一人になった。」モルガナが笑みを浮かべた。
「よし、その作戦で行こう。吾輩が先行する。気をつけろよ。」
そういうと、モルガナは物陰から這い出し、幾月に見つからないよう身をひそめつつ進み出した。
モルガナがある程度進んだところで今度は真田が物陰から飛び出し、幾月の正面に立った。取り残された3人が慌てて後に続く。
突然目の前に現れた4人を見て、幾月が驚きの表情を浮かべた。
「幾月!」美鶴が厳しい声で呼びかける。
「おやおや、君たち。これは驚いた。まさか侵入者が君たちだったなんて・・・。」
幾月は芝居がかった様子でそう言って立ち上がった。
絵本の王子様のごとくきらびやかな服装。カボチャパンツにマントというふざけた出で立ちだ。
「僕の宮殿にようこそ。君たちなら、こそこそ忍び込んだりする必要なかったのに・・・。正面から来てくれれば大歓迎したんだよ。」と手を広げてにこやかに語りかけて来る。
「ふざけるな。お前は私達をだまし、お父様を殺し、世界を滅ぼそうとした。何が目的だ。説明してもらうぞ。」
美鶴が前に進みながら、怒りを込めて厳しい口調で問い質す。
「世界を滅ぼす?とーんでもない。滅ぼしたりするもんか。ただ僕は世界を作り替えようとしただけだよ。まあ・・・僕の都合の良いようにね。」
幾月は相変わらずゆったりとした口調で穏やかに話し続ける。
「なんだと。」
「全てのアルカナのシャドウを揃えることで、全ての人間からシャドウが抜け出し、世界は意志力を失った影人間だけになる。そこから作り直すのさ。僕の思い通りの世界にね。桐条君。これはもともと君のお爺様である桐条鴻悦の発想だ。」
「な・・・」美鶴は絶句した。
「前回の試みは、岳羽君のお父さんのせいで台無しになってしまったけど、10年間 ひそかに準備しながらリトライのチャンスを待っていたのさ。邪魔な君の父上、武治氏ももういない。今度こそ、うまくいく。世界を思い通りに作り直して、僕はその新世界の皇子となるのさ。」
幾月が両手を広げたまま、マントを翻し、舞い踊るようにくるくると回った。狂気の沙汰としか言えない。一同、唖然としてその姿を見つめた。
「お前はもう死んでいるだろう。」
真田があきれたように言った。
「僕が?・・・何を言ってるんだい?」
幾月はぴたりと動きを止め、不思議そうに真田の方に顔を向ける。
「覚えていないのか。お前は学園の天文台から落ちて死んだんだ。」
真田が厳しい声で決めつける。
「なにを馬鹿なことを・・・そんなこと・・・そんな・・・ばかな・・・」
幾月に動揺した表情が浮かんだ。そしてみるみる青ざめていく。
「そうだ・・・僕は・・あの時落ちて・・・」
次第に何かを思い出してきたのか、口を開けて凍り付いたように動きを止める。
やがて「あああああ」と声を張り上げながら頭を抱えてうずくまった。
皆が顔を見合わせる。
その時、突然、玉座の背後にある豪奢な扉がふっとんだ。重たい扉が地響きを立てて倒れる。同時に扉を失ったその奥からモルガナが転がってきた。
「モルガナ!」
倒れたモルガナに全員が駆け寄った。モルガナが体を起こして叫ぶ。
「気をつけろ!あれは・・・あれはオタカラなんかじゃねえ。宝箱に入ってたのはもっととんでもない何かだ。」  
 

 
後書き
塀を乗り越えるところを書きだした時点で、まともにダンジョン攻略してたらものすごく長くなってしまうんじゃないかと思いました。しかもダンジョン攻略ってゲームならではの楽しさってところがあるので、文章で書いてもダルいんですよね。ということで、既に侵入ルートを攻略済みのモルガナが案内するという展開になった次第です。
次回、完結編では黒幕とのバトルとなりますので、最後までよろしくお願いします。
 
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