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白き竜の少年

作者:刃牙
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始動

卒業試験に合格した30名余りの卒業生達。彼らは忍者学校のある教室に集められ、説明を受けている。真新しい木ノ葉の額当てを巻いたハルマとレツは中央の最前列に座り、2人を始めとする卒業生達は教壇の前で話をしている潮に意識を向けていた。

「諸君、まずは卒業おめでとう。しかし、これからが本番だ。気を抜く事のないように……さて、今後は3人1組(スリーマンセル)の班を作り……各班に担当上忍が一人つく事となっている。君達はその上忍の指導のもと任務に従事する事となる」

潮の話を聞いて、皆があからさまに顔を顰める。しかし、これも毎年のことだ。潮は右手に握った紙面に視線を落とし、第1班から順に名前を呼んでいく。

「次、第6班。千手ハルマ‥‥猿飛レツ」

ハルマはレツと同じ班である事に安堵し、ホッと息を吐く。第5班で既にアズサの名前は呼ばれている。後は誰がなってもあまり変わらない筈だ。

「日向カナ」

潮が呼んだこの名前には聞き覚えがあった。日向の恥晒し。裏切り者の娘。そう呼ばれる、自身と似た境遇の少女だ。

「次、第7班」

「先生!納得がいきません‼︎」

乱暴に机を叩く音が教室に響き渡る。左に目を向ければ、腰ほどまである黒髪を靡かせた白眼の少女 日向カナが立ち上がり、鋭い目を潮に向けていた。

「何がだ?」

「何故、私がこの二人と同じチームを組まなければならないんですか⁉︎」

カナの激しい剣幕にもまるで動じず、潮は答えた。

「班のバランスを均等にした結果だ。これ以上の文句があるならば、火影様に言うことだ」

火影の名前を出されては何も言えず、渋々ながらも着席するカナを見て、潮は班の発表を再開する。

“面倒な事になりそうだな”

ハルマは先程の様子から一転して、溜息を吐く。理由は分からないが日向カナは自分達を酷く嫌っているようだ。先行きに不安を感じ、また一つ溜息を落とす。

「……昼休み後は担当上忍との顔合わせだ。遅刻はするな」

潮の解散という言葉を聞き、卒業生達が一斉に外に駆け出す。残ったのはごく僅か。自分もこのままいようかと思ったが、千手アズサがいる以上、また絡まれる可能性がある。ここは外で食べた方がいいだろうと判断し、扉を潜り抜けた。

途中、どこかに向かう潮と鉢合わせた。彼の視線はハルマを観察するように伺っている。すると溜息を落とし、ハルマに険しい表情で問いを投げかける。

「……相変わらず窮屈そうに生きているな。お前は……」

"世界を変えるつもりは……ないのか?”

潮のその言葉にハルマは酷く動揺した様子を見せる。

「……何を言って……」

そう言うハルマの声は震えていた。突拍子もない発言に理解が追いつかない。いや、理解するのを拒んでいるようだった。

「そのままの意味だ。自分を偽り、覆い隠し続けて何がしたい?近い将来、その仮面は脱げる」

何も言い返す事が出来ない。ハルマは今まで自分を偽って生きてきた。暗部の者達の暗躍などもあり、今日まで隠し通せてきたが、それがいつまで保つかは分からない。

仮面が取れた時、自分がどうなるのか。ハルマには想像もつかなかった。想像すらしてこなかった。もし、その時が来たら自分はどうなっているのだろうか。

「自分で変えるしかないぞ。世界を自分の思うがままに動かせる位置に立つしか、な」

動悸が速くなる。気付いた時には潮から距離を取ろうと駆け出していた。

「まだまだ子供か……」









里の外れにある千手一族自治区にある木造のアパートの1階1号室。3代目火影・猿飛ヒルゼンはそこにいた。そばには犬の仮面をつけた暗部と黄色の浴衣を着た女性 葛葉リンネがいる。茶髪をルーズサイドテールにして纏めている彼女は部屋の中をぐるりと見回す。

部屋にあるのは冷蔵庫と幾つかの皿やコップ。テーブルと椅子、それとベッドにタンスぐらいだった。後はクナイ、手裏剣、巻物といった忍具が置いてあるのみだ。

「……ここがハルマ君の家ですか」

あまりにも物が少ない。それが最初に彼女が抱いた感想だった。無駄な物を一切置いていないのは忍らしくもあるが、忍者学校の評価とは一致しない。

「(ダンゾウ様の仰る通りかなぁ、これは。何年前から自分を偽っているのかしら……うちはが滅ぶよりも前?後?)」

「そうじゃ」

とても興味深い。流石ははたけカカシが教育係なだけはあるという事か。それとも、うちはの教育が良かったのか……。そう考えると彼らが滅んでしまったのは少し勿体ない気もする。

「火影様。千手の居住区に長居するのは危険です。なるべく手短に」

「……心配するな。千手一族はそんな事をする程愚かではない」

暗部の男の言葉に、ヒルゼンは顔を曇らせる。千手一族は木ノ葉創設に関わった一族。初代火影は千手柱間が務めていた。しかし、今の彼らは害虫のようなものだ。さっさと取り潰してしまえばいいとも思うが、腐っても千手一族というべきか。その影響力は健在だ。

だからこそ、その対応に苦慮しているのだろう。苦々しい顔をしていた主の顔を思い出し、リンネは苦笑いを浮かべる。

「千手一族はハルマ君に刺客を送り込んでいるみたいですが、やり方に杜撰さが目立ちます」

「ハルマ君を殺すか、利用するか迷い始めているみたいですね」

ハルマの持つモノの価値は魅力的だ。千手側も木ノ葉側もそれを手放したくないのだろう。危険視して排除する方向から、利用する方向に舵を切り始めている。

ハルマがどちらを選んでも居場所はないが、その方が根にとっては都合が良い。

「……どちらにせよ、ハルマを犠牲にするわけにはいかん。頼んだぞ、リンネ」

やっと見つけたのだ。しっかりと育て上げ、最高の忍にしなければならない。そして、彼にしかできない役割を果たして貰わなくては。

「それとお前の班にはレツと日向カナもいる。健闘を祈る!」

居場所のない子供達。彼らはどんな化学反応を起こしてくれるのだろうか。リンネはハルマ達を会うのが楽しみになってきた。

「ふふ。それはとても楽しくなりそうですね……」 
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