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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第79話『夏休み』

 
前書き
作品のタイトル及びあらすじをいじりました。 

 
今日は1学期最終日。思い返すと、色々なことがあった。GWに運動会、異世界に行ったことは学校とは無関係なのだが、実に内容の濃い学期だったように思える。
そんな余韻に浸りながら、終業式での校長の長い話を聞き流し、LHRでの山本の連絡は真面目に聞いていると、いつの間にか放課となった。

当然、晴登と結月と伸太郎は1学期最後の部活へと赴く。部室に入ると、既に2年生と3年生は揃っていた。


「「こんにちは」」

「よう、丁度良かった。それじゃ全員揃ったことだし、夏休みの予定を伝える。これを見て欲しい」


挨拶を軽く済ませた終夜は、数枚の紙を懐から取り出した。そこには、部活の今後のスケジュールが記載されている。普段特に何もしてないとはいえ、やはり魔術部にも予定はあるようだ。
全員、終夜からその紙を受け取ると、彼は話を続けた。


「夏休み中、魔術部は基本自由参加だ。部室は開放しておく。ただ、三浦と結月と暁には伝えておかないといけない行事が8月にあるんだ」

「8月・・・あ、この『全国魔導体育祭』ってやつですか?」

「そう、通称『魔導祭』。それが俺たちにとって、他の部活で言う"大会"にあたる」


大会。まさかその響きをこの部活で聞くとは思ってもいなかった。実感は無いのだが、やはり全国に魔術師はいるということか。何だかワクワクしてきた。


「そこで、魔術を使えるお前ら3人は特に調整をしておいて欲しい。この大会は結構ハードだからな」

「「わかりました」」


結構ハード・・・一体どんなことをするのだろうか。やっぱり戦闘(バトル)? それとも別の競技? でもどちらにせよ、楽しみなことに変わりはない。8月なら、林間学校の疲れとかも関係ないだろう。

そして終夜は、要件は伝えたと一息ついてから、全員を見渡しながら言った。


「詳細は追って連絡する。だから今日はもう解散だ。各々、夏休みを満喫してくれ。お前らは林間学校楽しんでな」

「「はい!」」


明日から、いよいよ夏休みが始まる。その期待に胸を高鳴らせ、晴登は自然と口角を上げた。

だがその刹那、部長が「あ」と一言だけ声を発する。


「言い忘れてたけど、夏休みの宿題が夏休み中に終わらない、なんてことがあったら罰ゲームだからな。覚えとけよ」

「「うげぇ…」」


終夜がニタリと不敵に笑う。ちなみにその忠告に音を上げたのは、主に2年生の先輩たちだった。あの表情から見るに、何だかヤバそうな雰囲気だ。去年に何かあったのだろうか。
さすがに大丈夫だとは思うけど、一応早めに終わらせておくか…。






時は流れ、いよいよ林間学校が明日に控える今日の昼。晴登と結月は2人で準備を進めていた。


「・・・よし、こんなもんか」

「こっちも準備できたよ」


パンパンになったバッグのチャックを閉めながら、2人は準備の完了を報告し合う。必要な物は何度もチェックしたので、もう心配は無い。


「でも最後に日程の確認はしとくか」

「そうだね」


そう言って2人は、林間学校のしおりを取り出す。その表紙には、漫画家が描いたのではと思うほど、躍動感に溢れた少年少女のキャラが上手に描かれていた。


「やっぱりこれ描いた人凄いよなぁ。美術部の人とかかな?」

「そうだねぇ」


2人は感嘆しながらページを捲り、スケジュール表を開く。


「一日目は海で遊び、夜は肝試し。二日目はスタンプラリーからの花火。そして三日目は掃除して帰宅、か。部長の言った通りのイベントだね」

「楽しみだなぁ」


結月は待ちきれないと言わんばかりに頬を緩ませている。その頬をつついてみたいと思いながら、晴登は次のページを開いた。そこには班の番号とそのメンバーの氏名が記載されている。


「大地とは違うけど、暁君や柊君と一緒なのは嬉しいな。ただ、他の人はあまり話したことはないな…」

「ボクもリナが一緒で良かったよ。でも他の子とも普通に話すかな」

「え、何この差…」


最近改善されてきたと思っていたが、やはりコミュ障はまだ晴登の中に根付いているらしい。誰とも気さくに話せる結月とは大違いだ。一応、学級委員長なんだけどな…。
とはいえ、このメンバーで夕飯を作り、同じテントで寝るようなので、仲良くしないといけない。


「頑張らないとな」


晴登は拳を握って、そう意気込んだ。隣を見ると、結月がニコッと笑いかけてきた。その笑顔を見てると、不思議と自信が湧いてくる。


「…あ、そうだ、ハルトは"花火の噂"って知ってる?」

「花火の噂? 何のこと?」

「林間学校の花火の話。でも知らないならいいや」

「何だよそれ」


やけに気になる言い方だが、知らないものは知らない。マンガでよくある展開だと「一緒に見たカップルが結ばれる」だとか、そういった類いなのだが、果たしてこの学校の噂はどういったものなのだろうか。まさか一緒だなんてベタな展開は・・・


「花火、一緒に見ようね」

「え?! あ、うん、いいけど?!」


たった今そんなことを考えていたせいで、結月の言葉に思わず必要以上に驚いてしまう。おかげで結月に変な目で見られてしまった。
待て待て、まだ噂の内容がそうと決まった訳ではない。勝手に勘違いしていたら、後で恥ずかしくなるのがオチだ。
だが、追及を断られたばっかりなので少し訊きにくい。どうしたものか。


「…まぁ、いずれわかるか」


とりあえず今は、"花火を結月と見る"ことだけを考えて、噂のことは意識しないでおこう。結月が一緒に見ようと言った時点で、たぶん悪い噂ではないのだから。


「お兄ちゃん!」

「うわ、どうした智乃」


突如、大きな音を立てて部屋のドアが開けられた。その音の正体──そこに立っている智乃は、なんだか焦っているように見える。何かあったのだろうか。


「明日からお兄ちゃんがいなくなるんだと思うと、いてもたってもいられなくなって!」

「たった2泊3日だぞ。それくらいで寂しがるなよ」

「無理!」

「堂々と言うな…」


どうやら智乃は、火急の用件という訳ではなく、ただ寂しいから晴登に会いに来ただけらしい。何とも人騒がせな妹だ。もう少し、我慢というものを覚えた方がいい。


「だから今からお兄ちゃんに抱きつきます。えい」

「ちょ、いきなりだな」

「あ、チノずるい。ボクも」

「え、結月まで!?」


女の子特有の柔らかさと甘い匂いが晴登の両腕を包み込む。妹ならまだしも、結月にまでそうされると、年頃の男子的には意識せざるを得ない。というか恥ずかしいのだ。


「さすがに離して欲しいんだけど…」

「「あと1時間ぐらい待って」」

「待てるか!」


無茶な要求に反抗しようとしても、両腕はガッチリとホールドされてしまい、無闇に動かすことができない。


「ちょっと、結月お姉ちゃん離してよ。今は私のお兄ちゃんタイムなんだから」

「む、それを言うならチノだって。ボクのハルトタイムを邪魔しないでよ」

「新しい言葉を作らないでくれる?!」


ここまで来ると、愉悦よりも羞恥が感情を席巻している。いい加減離して欲しいのだが、2人には当分その気は無いらしい。耳元で言い争いを続けられると、うるさいようでくすぐったいので、早く終わらせたいのだが…。


「じゃあ私はチューしちゃうもんね!」

「ならボクもする!」

「ストップストップ! どうしてそうなる?!」


話が飛躍し始めたので、慌てて大声で制止する。いくら何でもチューは待ってくれ、チューは。


「え〜昔はいっぱいしたじゃん〜。ほっぺたにさ〜」

「ちっちっち、甘いねチノ。ボクはハルトの…唇を奪ったんだよ」

「まさか、お兄ちゃんのファーストキスを…!?」

「頼むからやめてくれ!!」


結月のいた世界から帰還する瞬間のことを思い出して、顔を真っ赤にしながら暴走する2人を止める晴登。これ以上この話題を続けられると、顔から噴火しそうである。


「もうお兄ちゃんダメだよ、キスなんかで恥ずかしがってちゃ」

「そうそう、そのうちまたするんだからね」

「え、また…!?」

「あ、期待した?」

「し、してない!」


小悪魔の様な笑みを浮かべる結月。そのルックスとも相まって、実に可憐な小悪魔である。卑怯だ。


「勘弁してくれ…」


顔の火照りが冷めず、晴登は頭を抱える。その間も、この話題が途切れることは無かったのだが。






「はぁ…今日は散々だったな…」


夕食も風呂も済ませ、部屋に戻った晴登はため息をつく。明日から林間学校だと言うのに、今日はかなり気疲れしてしまった。


「もういいや、明日からのことを考えよう」


今日のことを思い出しても恥ずかしくなるだけ。ならば綺麗さっぱり忘れて、林間学校に気持ちを切り替えた方がいい。


「そう考えると、ワクワクで眠れなくなっちゃうな」


ベッドに入り、一人で苦笑する。小学生の頃は、遠足の日の前夜によくこんな風になっていた。楽しみで楽しみで寝つけないのだ。


「でも寝なきゃ明日に響くし、こういう時は羊を数えてだな・・・」


寝つけない時あるある『羊を数える』。これは試す機会は結構あるのだが、実によく効く。まぁカウントに限界が無いから、いつかは必ず寝てしまう訳なのだが。


「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が・・・」


そうして数え続け、100匹を数えた辺りから飽きて止めたのだが、次第に晴登は眠りについていった。






夢を見た。
地平線まで続く広い広い原っぱに、俺は一人で立っていた。見上げると、透き通った青空が広がっており、雲がちらほらと点在している。太陽の光が燦々と降り注ぎ、その眩しさにたまらず目を細めた。


「この景色…」


見覚えがある。前回がいつだったかは覚えてないが、確かにあの時もこの原っぱに立っていた。
その時だけじゃない。それ以前も、この現象に何回か遭遇した。夢のはずなのに、夢らしくない何か。そよ風が頬を撫でるのが、やけに現実的に感じる。


「今は晴れか」


というのも、この現象の天気は晴れだけではない。曇り空も、雨空も確認している。恐らく、雪も雷もあるだろう。
まぁそれが何に関係するのかと言われれば、何も答えられないのだが。


「・・・あれ、雲が…」


突如として、空が厚い雲に覆われた。これほどの量の雲なんて、さっきまでは無かった。いきなり現れたように感じる。


「あ、雨…」


そしてポツポツと、雫が空から降りてきた。夢の中ではあるが、ひんやりとした冷たさを感じる。
雨の勢いは次第に増し、ついに夕立の様な土砂降りになった。しかし俺は傘を差すこともできず、ただただその水流を浴び続ける。
冷たい。寒い。髪や服が濡れて気持ち悪い。このまま夢が覚めるまで、俺は大雨に当たり続けなければいけないのか。


「お、止んだ…」


だが雨は最後まで夕立らしく、すぐに止んでしまった。灰色の雲がすっと消え去り、再び日が顔を出す。さらに、


「虹だ」


まさか虹まで再現されるとは、随分と精巧な現象である。雨上がりの空に、地平線を繋ぐ大きな七色の光。加えて濡れた草原が、日光を反射してキラキラと輝いている。その幻想的な光景に、俺は思わず息を呑んだ。


「綺麗だな──」


そう感動を抱いた瞬間、俺の意識はふっと途切れた。






沈んでいた意識が急速に浮上し、覚醒の時を迎える。目を開けると、そこには見知ったいつもの天井が見えた。


「またこの夢か…」


晴登は寝起き早々ため息をつく。相変わらず、展開の早い訳のわからない夢だった。いや、そもそも夢というもの自体、よくわからない現象を引き起こすものではあるが。


「それでも、こうして似たような夢を何度も見ると疑いたくもなるよなぁ」


腕を組み、うんうんと唸る晴登。だが、朝っぱらではやはり頭が働かない。
とりあえず、このことは朝食をとってから考えることにしよう。何せ、今日から林間学校であり、そして出発の時間は早い。準備には時間を持っておきたいのだ。


「林間学校、楽しみだなぁ」


晴登は口角を上げ、今日からの行事に想いを馳せるのだった。
 
 

 
後書き
いいぞ、いいペースだ! 一人暮らしが大変、どうも波羅月です。

いよいよ次回から林間学校始まります。最近物騒な展開続きだったので、今回こそ学校生活らしいほのぼのとしたものを書きたいですね。是非ゆっくりと見ていって下さい。

今回も読んで頂き、ありがとうございました。では! 
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