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おっちょこちょいのかよちゃん

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46 ピアノへの情熱

 
前書き
《前回》
 教会でピアノを弾いていた安藤りえと遭遇した杉山達。まる子達は早速りえと友達になるが、杉山はいきなりりえと喧嘩を始める。そして三河口は札幌にて従姉のありとその夫・悠一から平和を司る異世界の人間に出会っていた事を聞かされる。そしてかよ子は母が嘗て出会った御穂津姫と対面し、異世界の杯の所持者が清水に訪れていると聞き、教会にてその所持者であるりえとの接触に成功した!! 

 
 杉山は今日会った東京の少女の事を考えていた。
(何だよ、あの気の強え女・・・)
 あの気の強さ、腰を抜かした事で臆病者と馬鹿にされた事・・・。
(山田かよ子とはえらい違いだ・・・。女じゃないと言っていいな)
 しかし、杉山にはあの安藤りえという女子に何かがあると感じていた。

 かよ子はりえと話をしていた。
「それで私ね、将来ピアニストになりたいの。それでピアノを練習してるんだ。来月コンクールもあるし」
「ピアノのコンクールか・・・。頑張ってね!」
(そういえばたまちゃんもピアノやってたよね・・・。たまちゃんには失礼かもしれないけどたまちゃんよりもピアノ上手そう・・・)
「そうだ、かよちゃんにピアノを聞かせてあげるわ。今練習してるのは『亜麻色の髪の乙女』って言って今度のコンクールで弾く予定なのっ!」
「いいの?ありがとう!」
 りえはピアノの方へ向かう。そして「亜麻色の髪の乙女」を弾き始めた。曲調も、りえの指使いも、素晴らしかった。だが、途中で音をミスしてしまった。
「あ、ごめんね、ミスしちゃって」
「大丈夫だよ、凄い上手だったよ!」
「ありがとう」
「そうだ、りえちゃんはどうして清水に来たの?」
「ああ、それはね、私、実は東京って空気が汚れてるから、喘息気味になっちゃって・・・。それで私のおばあちゃんがこの清水に住んでるから、ここに来たの。清水(ここ)は空気綺麗だからね。おばあちゃんの家にはピアノがないから、お父さんがここの教会のシスターと知り合いで教会からピアノを借りる許可も貰ったの」
「そっか、大変だよね、練習しないと」
「ええ、でも、午前にもここに来た子達と早速『友達』になれたから明日はその『友達』と遊ぶつもりでいるの」
「えっ、もう友達できたの!?凄いね!」
「ええ・・・。そうだ、かよちゃんも一緒に遊ぶ?」
「私もいいの?」
「勿論よっ」
「うん!」
 かよ子とりえは約束した。

 かよ子は帰宅した。
「只今」
「あ、お帰り、かよ子。その『杯』を持ってる子と会えたの?」
「うん、会えたよ。すっごく可愛い子だったよ!」
「よかったわね」
「明日も会いに行っていいかな?」
「構わないけど、その子はピアノの練習をしているんでしょ?あまり練習の邪魔しないようにね」
「大丈夫だよ。遊ぶ約束もしてるんだ」
 かよ子は明日を楽しみにしていた。
「あ、そうだ・・・」
 かよ子はある事を思い出し、電話を掛けた。掛けた相手は長山だった。
『もしもし・・・、あれ、山田?』
「な、長山君。じ、実は・・・、この前、長山君が言っていた事、間違ってなかったんだ」
『え、本当かい?』
「私の杖はトランプの『クラブ』、さりお姉さんが持ってる護符は『ダイヤ』を表したものだけど、今、その『ハート』を表す杯を持ってる人が清水に来てるんだ。私、今日、その人に会ったんだよ」
『本当かい?どんな人だった?』
「私達と同じ三年生で、東京から来て教会のピアノを借りて練習してるの。名前は安藤りえっていうんだ」
『やっぱりそうだったのか・・・。それは誰から聞いたんだい?』
「御穂津姫って御穂神社の神様が現れて聞いたんだ」
『御穂神社の神か・・・。分かった、ありがとう』
「うん、じゃあね」
 お互い電話を切った。

 長山は電話を切った後、考える。
(御穂神社の神が山田のお母さんにあの杖を渡し、その隣の家の人のおばさんに護符を渡したって訳か・・・)
 そして長山はある事を考えた。
(行ってみよう、御穂神社へ・・・)

 翌日、かよ子は早速例の教会へと向かった。入口に到着すると、他に何名かがいた。よく見ると、学校の友達だった。まる子にたまえ、藤木、そして大野と杉山だった。
(す、杉山君達がなんで教会に・・・!?)
 かよ子には理解できぬ事であった。まる子たちは教会に入っていく。かよ子も後を付いて行った。
(そういえば、りえちゃんは私が来る前にも他に友達ができたって言ってた・・・。もしかして、それってまるちゃんや杉山君達・・・!?)
 かよ子は気づかれずについて行こうとしたが、おっちょこちょいをここでやってしまう。廊下の曲がり角を曲がろうとした途端、肘を壁にぶつけてしまったのだ。
「何だ!?」
 前にいた皆が振り返った。かよ子はばれてしまい、あたふたした。ぶつけた肘の痛みを手で抑えながら、かよ子はその場で動けなくなってしまった。
「か、かよちゃん!?」
「な、なんでお前がいるんだよ!?」
「あ、いや、その・・・」
 その時、礼拝堂のドアが開いた。
「あら、皆、おはよう」
「ああ、りえちゃん」
「あ、遊びに来たよ~」
「ありがとう」
 その時、りえはその奥にかよ子がいるのを見つけた。
「あら、かよちゃんっ!」
「り、りえちゃん・・・」
「り、りえちゃん、山田とも友達なのかい・・・!?」
 藤木が驚いて聞いた。
「うん、昨日皆が帰った後に会ったの」
「そうだったんだ・・・」
「そっか、りえちゃんが友達になった子って、杉山君達だったんだね・・・!!」
「うん、もしかして、皆かよちゃんの友達なのっ!?」
「そ、そうなんだよ」
 りえは世界の狭さに驚愕した。
「そうだ、かよちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
 たまえが呼んだ。
「う、うん!」
「山田あ、おっちょこちょいに気を付けろよお!」
「す、杉山君・・・!」
 かよ子は好きな男子から冷やかされて恥ずかしくなった。
「まず、何からやろうかあ?」
 まる子が聞く。
「俺、空き缶持ってきたんだ、缶蹴りやろうぜ!」
 大野が提案した。
「いいわねっ!」
 こうして皆は外に出て遊びに行った。

 皆は缶蹴りをして遊んだ。缶蹴りというのはスリルがあるが、鬼の方も逃げる方もかなり走り回るので労力がいる。かよ子も何度か鬼になったりした。そしてある時、藤木が鬼になって逃げている所、杉山はある姿を発見した。少し離れてりえがせき込んでいた。
(あ、あいつ・・・)
 杉山は考えた。風邪が流行っているわけでもないのに彼女だけむせこんでいるのは普通じゃないと。彼女にいったい何かあるのか、と。

 皆は汗びっしょりになって疲れた。
「はあ~、缶蹴りって案外体力使うなあ~」
 藤木はもうくたくたになってしまっていた。
「うん・・・」
「何を言ってんだ。次はドッジボールだ!」
 大野が提案する。
「ドッジボールもいいけど、その前に休憩しねえか?」
「そうだね、アタシゃアイスが食べたくなってきたよお~」
「うん、僕も、丁度アイスが食べたい気分だったよ!」
「じゃあ、みんなでみつやにアイスを買いに行こうかよ!」
 たまえが提案した。
「みつや?」
 りえが聞く。
「私達がよく行くお菓子やアイスを売ってる店だよ」
「へえっ、行きましょうっ!」
 皆はみつやへと向かった。途中、かよ子は歩きながら、杉山の顔を盗み見た。普段なら大野と楽しく話すはずだが、この時に限ってはりえの方ばかりを見ている。
(す、杉山君・・・)
 かよ子は疑った。大野と同様、本来杉山は硬派のはずだ。にもかかわらず、りえの事を気にしているという事は・・・。
(もしかして、す、杉山君、りえちゃんの事が・・・)
 かよ子は心の奥底にて猜疑心と嫉妬が込み出した。しかし、杉山に確認する勇気は出なかった。

 皆はみつやでアイスを買った後、神社の木陰でそれを食べる事にした。
「りえちゃんは毎日ああやってピアノの練習してるのお~?」
「うん」
「夏休みだって言うのに、毎日練習してるなんて偉いね!」
「ホント、アタシなんていつも宿題もしないでダラダラしてるだけだよお~。いつもお母さんに怒られてるよ」
(まさか、まるちゃん、まだ宿題やってないんじゃ・・・)
 かよ子は推測した。
「私ね、将来ピアニストになりたいのっ!それが夢なのっ!」
「ピアニストか、凄いね!」
「りえちゃんならきっとなれるよ。凄いピアノが上手いんだもん!」
 まる子とたまえは感心した。
「昨日弾いてた曲は何なのお?」
 まる子が聞いた。
「『亜麻色の髪の乙女』って曲よ」
「亜麻色?どんな色?」
「薄い茶色って意味よ」
「じゃあ、りえちゃんにぴったりの曲だねえ~!」
「まさに亜麻色の髪の乙女って感じだなあ~」
 まる子と藤木はそう思った。しかし、杉山はそうは思わない。
「コイツのどこが乙女なんだよ」
「それどういう意味っ!?」
「だって乙女ってもっとおしとやかだろお?お前全然そうじゃないもんな」
「悪かったわねっ。臆病者のくせして」
「臆病なんかじゃねえよ!」
 杉山はカッとなった。
「私を幽霊だと思って腰抜かしてたのって誰だっけ?あの時の杉山君の顔、とても変だったわよ」
 りえはさらに杉山を挑発した。
「お前な!」
「す、杉山君!りえちゃん、やめてよ!」
 かよ子は思わず、二人の喧嘩を制止した。
「そうだぞ、山田の言う通りだ、喧嘩はよせよ」
 大野も止めた。お互いはそっぽを向いてしまった。かよ子はやはり先ほどの杉山のりえが気になるような素振りに見えたのは気のせいだと思うのであった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「喘息のハンデ」
 長山は御穂神社に行き、御穂津姫との対面を試みる。一方、りえは皆とプールに行かないかと誘われるが、拒否する。杉山は缶蹴りの時に彼女が咳をする姿を見て、何らかの理由があると推測するが・・・。 
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