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ガールズ&パンツァー 戦車道 雄型 大洗雄型第1分隊 戦闘記

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プロローグ

 
前書き
この作品は過去にハーメルン及び、自作ホームページにおいて公開していたガールズ&パンツァーの二次創作のリメイク作品になります……と言っても、殆ど設定等を新しくしておりますので、事実上の「新作」ともいえます。 

 
<?Side>
記憶にある限り、俺の中で”最も古い家族”との記憶だ……。

確か俺が4歳ぐらいの頃……。
とある日の昼飯時、俺が訳も分からずお昼のワイドショーを見つつ、昼飯をかっ込んでいる。
そのワイドショーでは、MCが原稿を片手に専門家の先生、コメンテーターの芸能人たちと議論を交わしている。
『先生、先の火砕流では多くの報道関係者や消防団等が巻き込まれ、犠牲になると言う大変凄惨な物でしたが、今後も同様の火砕流が起きる可能性が高いのでしょうか?』
『えぇ……今回噴火した火山は過去に何度も大きな火砕流を起こしている危険な火山です。ですから、今後も先の火砕流と同じ規模の……』
……と言った感じで4歳だった俺には何のことか分からないことをグチグチ話すのを聞きつつ、ふと玄関に目をやると陸上自衛隊の迷彩服……迷彩服2型に身を包んだオヤジが母さんと話していた。
「……でも」
「心配するな……必ず帰ってくる。龍を頼むぞ」
よく覚えていないが、そうオヤジと言葉を交わす母さんの眼には涙が浮かんでいた。
4歳だった俺には、この時母さんが流した涙が理解できなかった。

(母ちゃん、大人のくせして泣いてる……)

理解できないが故、そんなガキまるだしの事を思いつつ、休むことなく昼飯を掻っ込んでいると玄関のドアを叩く音と共に迷彩服2型に身を包み、頭に66式鉄帽を被った自衛官が「失礼します」と言いつつ、部屋に入ってくるなり敬礼しつつ、こう続けた。
「喜多川二佐、お迎えに参りました」
「ご苦労、状況は?」
「……龍、こっちに来なさい」
そう迎えに来た自衛官と言葉みじかに話している親父を見つめていると、俺はやってきた母さんに抱っこされるような形で玄関に向かう。
これに訳も分からず、口の周りに昼飯の食べかすを付けた状態で親父の元に母さんによって抱き抱えられてきた俺。
そんな俺に対し、親父は短くこうポツンと口を開いた。

「龍……母さんを頼むぞ」

この言葉の意味が理解できないまま、俺は母さんに抱き抱えられたまま、玄関から出ていくオヤジの姿を見つめるのだった……。





……

………



それから約13年が経った今現在、大洗学園と聖グロリアーナによる戦車道の練習試合が行わている大洗町にある戦車道専門の試合会場に俺は居た。
試合会場の一角、凄まじいキャタピラの金属摩擦音とエンジン音、それに伴う土煙を上げて、草が転々と生えている岩場を隊形を組みつつ、前進しているのは”チャーチル歩兵戦車”1台と”マチルダ2歩兵戦車”4台。
その後に続く様に1台の”トータス重駆逐戦車”と3台の”セントー巡航戦車”が同じように体型を組んで前進する。

「おー、聖グロさん凄いの持ってきたな~……あー、めんどくさそう……」

少し離れた場所から、その様子を双眼鏡越しに見て、ボヤいているのは、大洗学園戦車道男子チーム……通称『戦車道 雄型』の隊長兼第1分隊長の俺……喜多川龍(きたがわりゅう)だ。
自分で言うのもなんだか、この物語の”主人公”だ。ま、いつまでの付き合いになるか分からんが宜しく。

んで、そんな俺の傍で俺と同じ様に双眼鏡を除いていた男子生徒が呆れた口調でこう言い放つ。
「お前、ホントに愚痴言わないと気が済まない性格だよな……」
「るせー、シスコンのお前に言われたかねぇー」
「この状況、姉さん関係ないだろ?」
といった感じで、俺の言葉に「( ゚Д゚)ハァ?」と絵文字さながらの表情で返してくるのは、俺の同級生にして、俺の乗る戦車の砲手の神崎裕也(かんざきゆうや)だ。
そんな裕也と俺がギャーギャーやっている傍で、双眼鏡を手に一人の女子がこう言う。
「凄い、綺麗な隊列組んでますね西住殿」
口調こそ冷静だけど、興奮を抑えきれない抑揚で話すのは、大洗学園戦車道女子チーム……通称『戦車道 雌型』の隊長車、装填主を務める秋山優花里|《あきやまゆかり》である。
一言で言って、超が付く程の戦車マニアである彼女からすれば、目の前で戦車が動いているだけで興奮物の光景なんだろう……自分も乗っていると言うのに……。
「うん、あの速度で動いで全車両、隊列を乱さないなんて流石……」
そんな胸の内の俺のことなど知る由もなく、秋山の言葉に感心した様に頷きながら返すのは、大洗学園戦車道女子チームの隊長にして、”俺の幼馴染”である西住(にしずみ)みほだ。

日本を代表する戦車道の流派の1つ”西住流”の家元に生まれた娘の一人であり、かつては日本を代表する戦車道の名門校『黒森峰学園』に居たのだが、まぁ……色々とあって、ありにありすぎて、今現在は此処(大洗学園)の戦車道雌型チームの隊長になっている訳だ……。まぁ、コレに関しては追々、俺の知っている範囲で話そう。

俺はそんな幼馴染であるみほに対し、手にした双眼鏡を下ろしつつ、代わりに無線機を手に取りながら、こう話しかける。
「で……どうするんだ、みほ?奴らの装甲を真正面から撃ち抜ける戦車なんて、うち()の分隊の2号車ぐらいだぞ?」
「そこは戦術と腕かな……」
そんな俺の問いかけに対し、みほは少し微笑みながら、そう言い放つみほ。まー……アバウトな気もするが、現にそれしかないよな。
みほの返した言葉に思わず息を「はぁ……」と吐いている傍で、みほは俺に向け、続けてこう言い放つ。
「じゃあ、今から部隊を展開させよう。龍君は他の戦車にもエンジンを始動させたらエンジン音を控えめにする様に伝えてくれる」
「OK!じゃあ、万が一に備えてウチの3号車に退路を確保しておくように連絡するぞ」
「うん、お願い」
みほはそう言って、先に後ろに止めてあったみほと秋山の搭乗する戦車……Ⅳ号戦車D型へと戻っていく。
その様子を見ながら、俺は一昔前のバカでかい携帯電話の様な無線機を手に取り、無線機の電源をONにした後、素早くチャンネルを合わせて分隊メンバーの一人に連絡を入れる。
「分隊長から、3号車。繰り返す、分隊長から3号車」
『はい、こちら3号車』
俺の呼びかけに無線機越しに返した来たのは、分隊メンバーの一人であり3号車の戦車長を務める南雲由紀恵(なぐもゆきえ)先輩だ。

え、なんで男子チームに女子が居るんだって?んなことは、後に劇中で説明してやるからギャーギャー言うな!!

トまぁ、そんな事は置いといて……俺は由紀恵先輩が応答したのを確認すると、直ぐに指示を出す。
「由紀恵先輩、これより戦闘態勢に入ります。由紀恵先輩の3号車は地点437に向かい、周辺で警戒しつつ、待機をお願いします。万が一の場合、そこから脱出するので交代援護をお願いします」
『退路を確保して、万が一の場合に援護すれば良いのね?』
「えぇ、お願いします」
『3号車、了解!』
そうやり取りを終えると同時に無線機のスピーカーから、ガッ!と言う音が聞こえると同時に通信が切れる。
「連絡終わったか?」
その音を聞き、そう問いかけてくる裕也に対し、俺は「あぁ」と短く返しながら、無線機のアンテナを収納しつつ、続け様にこう言う。
「よし……いくぞ!」
「あぁ!!」
といった感じで短く言葉を交わした俺と裕也は、先程のみほと秋山と同じ様に後方に停車している俺達の戦車……”M24チャーフィー軽戦車”へと、駆けていく。


そうして駆けつけたM24チャーフィーに俺と裕也は素早く転輪に足を掛けつつ、車体にある工具箱等を掴み、体全体を持ち上げる様にして上によじ登る。
それと同時に俺は操縦主ハッチから、顔出しつつ、手には『NEW STAR』と赤い文字で書かれた黄色と茶色のタバコの様な箱を手にしつつ、口にはメントールスティック……言うなれば、”ココアシガレット的な奴”を咥えて”一服”している操縦主こと、操縦担当の木場正純(きばまさずみ)に対し、こう指示を飛ばす。
「木場、エンジン始動用意!始めるぞ!!」
「……これ吸ってからじゃダメ?」
「馬鹿言ってないで、さっさと用意しろ!このヘビースモーカーが!!ちったあ節煙しろっ!!!」
「了解」
俺の飛ばす檄を受け、そう短く返した木場は惜しむ様に勢いよくメントールスティックを吸うと素早く車内に持ち込んだ灰皿……もとい、ゴミ箱にスティックを放り込む。
よーやるよ……全く。俺もメントールスティック自体は愛用しているけど、流石に戦車道の試合の真っ最中に戦車で吸うなんてことはしないぞ……。
名残惜しそうにゴミ箱にスティックを放り込んだ木場が手にしていたメントールの箱を制服の胸ポッケにしまうのを見て、そう思いつつ、俺はチャーフィーのハッチから上半身を出しつつ、戦車長用無線機を手に取り、ズラっと並んでいる戦車のクルー達に対し、指示を飛ばす。

「分隊全車、エンジン始動よぉーい……始動!」

そう無線機越しに言うと木場がエンジン始動スイッチを押し込む。
瞬間、ブォン!と言うエンジンの音と共に排気口から黒い煤交じりの排煙が吐き出され、それと同時に隣や直ぐ近くで止まっていた戦車達も同様にエンジンを始動させていく。
辺り一面に戦車のけたたましいエンジン音が鳴り響く中、俺は再び無線機を手に取り、指示を飛ばす。
「こちら分隊長。分隊全車、エンジン始動問題なしか?」
『2号車、エンジン始動問題なし』
『3号車、同じく問題なしです』
「了解」
分隊メンバーの応答を聞き、分隊の戦車に問題がない事を確認した俺は近くに居るⅣ号のハッチから顔を出している、みほに対して、この事を伝える。
「みほ、俺達の方は大丈夫だ?そっちは?」
「こっちも問題ないよ、龍君」
「……よし、始めるか、みほ」
そう俺の言葉に対し、「うん」と短く頷きながら言葉を返すみほ。
みほは続けざまに、サッ!と手を上げ、一回息を吸うと目を思いっきり見開きつつ……。

「全車、パンツァー・フォー!」

……と指示を飛ばすと同時に、振り上げた手をサッと振り下す。
これを合図として一斉に停車していた戦車達がエンジンを唸らせ、履帯を地面に食い込ませ、地を這うかの様に動き出していく。


まるで眠っていた怪獣が寝ざめ、動きだしたかの様な光景をハッチの上から見つつ、俺は改めて周囲を確認する。
すると周りには、何処ぞの独裁者かと思わせう程”金ピカの38t軽戦車”や、”旗頭が立ち、赤やら青やら白やらで塗られたⅢ号突撃砲”、”異常なまでに真っピンクなM3リー中戦車”、”横にデカデカと『バレー部復活!!』と書かれた89式中戦車”が走り、その89式の後ろを”野球ボールが書かれた一式中戦車”が付いて行くように進む。

(うーん……、カオス……)

到底、普通の人がイメージする戦車のイメージとは余りにもかけ離れた戦車達を前に思わず顔をゆがませていると、無線機がガッ!と言う音と共に受信する。
その音に間髪入れずに無線機のマイクを手に取りつつ、耳に差し込んだイヤホンに注目するとイヤホンからは、先程、指示を出した由紀恵先輩の声が。
『では、喜多川隊長。私達は先程の指示通り、地点437に向かいますね!』
「了解です。お願いします」
そう言って無線機が切れると同時に、俺の乗るM24チャーフィーとすれ違う様に”Ⅳ号突撃砲”が走っていき、そのハッチからは由紀恵先輩がニコッと微笑みながら、向かっていく。
その様子を見ながら、思わずペコリ!と頭を下げつつ、地点437地点に向かう由紀恵先輩が指揮する突撃砲を見送っていると、今度は別の通信が飛び込んでくる。
『ふーん……珍しく丁寧じゃないの、龍』
「うるせーぞ、織田(おだ)!お望みなら、中学の時みたいに容赦なくぶっ飛ばしてやろうか?」
『結構です!』
と、まるで茶化す様な事を言ってくるのは、俺の乗るM24チャーフィー戦車のすぐ隣を走っている”コメット巡行戦車”の戦車長を務める織田碧(おだみどり)だ。

かつて日本戦車道代表選手団、強化選手だった事のある母を持ち、幼いころから戦車道に親しんできた彼女の実力はその幼いから積み重ねてきた確かな物である。
また、その母が一時期は台湾チームのコーチを務めた事があり、その際に台湾に住んでいた事もあってか中国語が堪能……とまぁ、地味に高スペックなメンバーだ。

んで、まー……、俺とは中学時代からの知り合い……っていうか、あれだ……中学時代の所属していた戦車道チームにおいて同じチームに居たメンバーだ。要は腐れ縁的な?(※ほぼテキトーな回答)

そんな腐れ縁的な(?)関係にある恵は続けざまに、こう話を続ける。
『んで、私は雄型チーム副隊長として、龍とみほちゃんが偵察に行ってる間の指揮を執ればいいのね?』
「あぁ……このチームで試合経験があるのは、俺とみほ以外では、お前だけだ。頼むぞ」
『了解しました、分隊長殿!』
「茶化すなっての」
とまぁ……中学からの仲と言う事で気取らず気楽な感じで話す俺と恵だが、先の会話にある通り、この立ち上げホヤホヤな大洗学園戦車道チームにおいては、俺とみほを除くと彼女が数少ない実戦経験者になる。
例えるならば、俺とみほが”程々 or 一応、実戦経験のある中尉か少尉ぐらいの士官”ならば、恵は"数々の修羅場を体1つで潜り抜けた歴戦バリバリの軍曹”と言った所だ。
まー、それに加えて中学からの知り合いという事で安心して彼女に背中&チームを任せられる……ホント、指揮官にとって頼れる下士官程ありがたい存在は無いよ……。

あー、とりあえず神様感謝しま~す!
……と、何処の神かも分からないず、とりあえずテキトーに神に感謝する俺。

そんな俺はどこぞの神への感謝もそこそこにし、みほに対して無線機越しにこう告げる。
「みほ、とりあえず作戦の最終確認を頼む」
そう無線機のマイク越しに『うん!』と呟くと、続け様にチームメンバー全員に対し、作戦の最終確認を始める。
『敵は8両が前進中です。先程の打ち合わせ通り、私と副隊長が囮になりますので、雄型3号車の皆さんを除いて、他は例の峠で待機して下さい』
『『『は~い』』』
みほの最終説明に対し、M3リーに乗っている1年生達の気の抜けた返事が返ってくる。
そんな1年生達の返事を聞きつつ、俺は散開地点のすぐ近くまで来ている事を確認し、ハッチの上から手を横に振って進む方向を後続のメンバー達に知らせつつ、織田に対して、再び連絡する。
「織田、俺とみほが戻ってくるまで、お前が指揮を執れ。へまするなよ、頼むぞ!」
『了解!そっちこそ、へましないでよ!!』
「るせーっ!!」
織田の言葉に若干キレつつ、俺が織田の乗るコメットを先頭に峠へと向かう他のメンバーを見送った後、俺はチャーフィーの砲塔内へと身を戻す。


俺が砲塔内に身を収めた瞬間、むわっとした暑苦しい様な、汗臭い様な、息の詰まる様な独特の何とも言い難いむさ苦しい空気に襲われる。
(くは~!!技術的に進歩しているアメ車でも、このむさ苦しさは相変わらずだな~……)
思わず顔をしかめつつも、俺は久々に感じるこの空気に何処か懐かしさと興奮を覚えていた。
「なぁ~……、龍……」
そんな俺に対して、何処と無くと恨めしそうな声で話しかけてくる奴が……。その招待がこの戦車の通信主兼機銃主を担当する葵直政(あおいなおまさ)だ。
葵は車体前方右側にある通信主兼機銃主席の方で、前に据え付けられたM1919A4機関銃に寄り掛かりながら、俺の方に顔を向けると相変わらず恨めしそうな声で口を開く。
「お前、な~んで……そんなに女子と話せるの?通信主兼機銃主の俺よりも」
「俺、戦車長!この戦車の中で一番偉いの!!あと雄型隊長兼副隊長!!!この分隊&雄型チームのナンバー1にして、チーム全体のナンバー2なの!!!!それだけの立場であると同時に責任があるの!!!!!お前はそれが分かってるの!!!???」
「あー、ハイハイ。分かりました、分かりましたよ……」
そうやって再び悪態を付きつつ、再び前を向く葵を見て思わず「ったく!」と俺も悪態に近い言葉が漏れる……。

まー……読者の皆さんの予想通り、このヤローは、かーなーりーの”女好き”であり、隙あらばそこら辺に居る可愛い女子にナンパ吹っ掛けているアホでなのだが……。
これまた、なーぜーかー!?その頭脳はピカ一であり、学園における男子全員の成績を束にして、ぶん投げてでも余裕のトップをブッちぎちゃってるんだから、世の中どうなっているのか分からない!
更にその頭脳の優秀さは、諸説ある物の……一説によれば、なんとアメリカが世界に誇る名門大学にして、エリート中のエリート、世界を牛耳る物にとってはある意味で”登・竜・門!”ともいえる『ハーバード大学』に”余裕で合格可能”と噂されるんですから、もー本当に世の中どうなってんのやら!!(※2回目)
あー、なんで神はこんなどーしよーもないっ!女好きにこれだけの頭脳を授けたのか、本当に!本当に!世の中、どーなってんのか分かんない!!(※3回目)

この様に行動と頭脳がまーーーーったく一致しない葵を前に世の中の不条理さを感じていると、今度は俺の右側に居る男子がこう口を開く。
「おい龍、ちょっと声のボリューム下げろよ。こんな狭い車内でギャーギャー騒ぐな、耳が痛いは。痛すぎて、耳にタコができるわ」
「耳にタコができるっていうのは、同じ話を何度も何度もされて聞き飽きたって事だ!耳が痛いって事じゃないわ!!このノータリンが!!!」
「は?どういう事?」
「もういい!お前に説明したところで無駄だ!!」
そう俺の説教&説明に対し、顔全体で「?」と表現している救いようのないバカ……もとい、コイツの名は玄田高次(げんだこうじ)
この戦車における装填主を担当するメンバーなのだが、マーとにもかくにも、アホ&バカの極みである。ぶっちゃけ!なんで高校進学できたのか、ハッキリ言って謎!!
んでもって、そんな葵とは正反対にバカ全開の玄田に対して、もはや構う気力すら無くなってきた俺は頭をポリポリと掻きつつ、当の本人に対してこう指示を出す。
「あー、もう!とりあえず、お前は弾薬庫から砲弾取り出しとけ!!もうすぐ戦闘開始だぞ、用意しろ!!!弾種、徹甲弾!!!!装填急げ!!!!!」
「おっ……おう!!」
俺の指示に対し、玄田は座っていた装填主席から立ち上がる、座席収納レバーを下げて、装填主席を上げ、スペースを確保するなり、砲塔床にある弾薬庫の蓋を開け、中から75㎜砲弾を取り出していく。

あ、因みにここで説明させてもらうが、M24チャーフィーには、ドイツのⅣ号やパンター、アメリカのシャーマン、ソ連のT-34と言った他の戦車で見られる様な即応弾(そくおうだん)……咄嗟の戦闘などの際に直ぐに装填できる弾を置くための弾薬庫は無く全て砲塔床に設置された弾薬庫から、砲弾を取り出して装填する事になる。
それと同時にチャーフィーは、アメリカ戦車にしては珍しく砲塔バスケット……砲塔の床面が、砲塔から吊り下げられたバスケット状の構造になっていない。
その為、砲塔を回転させる度に砲塔中にいる砲手や装填主、そして戦車長も一緒に砲塔と共に右へ、左へ移動する事になるから、地味に大変だったりする。
幸いな事に俺達の乗るM24チャーフィーは、砲塔リング……砲塔を回転させる機構に直接、戦車長、砲手、装填主席が取り付けられているので、砲塔を回転させる度に右に、左に……って事は無いから、ありがたい。
まぁ~……専門書とか見る限り、戦時中に製造されたチャーフィーには、この座席はなかったそうだから、恐らく戦後に取り付けられたか、あるいは戦車道用のカスタムパーツかもしれないけど、それでもやっぱり有難い物は有難い限りである。

そんな構造のチャーフィーの弾薬庫から、徹甲弾を取り出した玄田は砲弾にヒューズをセットする。
続け様に片手で砲弾を持ちつつ、床下弾薬庫の蓋を閉じると閉じた蓋に乗りつつ、素早く砲尾へと砲弾をセットする。
「半装填良し!」
「装填!」
「了解、装填!!」
俺の指示と共に半分だけ、砲尾に入っていた砲弾のケツを玄田は素早く拳骨で勢いよく押し込む。
すると、砲弾はガチャン!という音と共に砲の中に納まっていき、それと同時に勢いよく75㎜砲の閉鎖機が作動し、砲尾を閉じる。
「装填良し!」
「おし!次の砲弾も出しとけ!!」
ガチャン!と砲尾の閉じる音と共に玄田の装填完了の合図を聞いた俺は直ぐに次の指示を玄田に出しつつ、俺は砲手席に座る裕也に話しかける。
「よし……裕也、準備OKだな?」
「まぁな……訓練通りで良いんだろ?」
「あぁ……それ以上、それ以下、それ以外何もないさ。頼むぞ」
この言葉に「任せろ」と返してくる裕也の言葉を聞きつつ、俺は再び車長席に足をかけ、砲塔ハッチを開けて、体を肩まで外に出すとみほのⅣ号に視線を向けた。
視線の先に居たみほは、肩までしか出してない俺とは違い上半身全部をⅣ号のハッチから出して、来るべき作戦開始の時を待っているかのような表情を浮かべている。
そんなみほの表情を見ながら、俺は無線機のマイクを手に取り、みほと通信を繋ぐ。
「みほ、大丈夫か?緊張か?」
『う、うん……ちょっとね』
「安心しろ。俺もお前も久々の戦車道だ……ま、所詮は練習試合だ。肩の力抜いていこうぜ」
みほの緊張を溶かす様にそういう俺に対し、みほは再び「うん」と短く言葉を一言だけ返すと、また視線を前に向ける。

まー……こういうのは緊張しない方が、おかしいか……。内心、俺だって緊張しているし……。
うーん……いざとヤバい事になったら、織田に何とかしてもらうか……当の本人は「テメェ、ふざけんなー!」の一言だろうけど(苦笑)

胸の内でそう思っている間にも、戦車は作戦ポイントへと進んでいき、遂にその作戦ポイントへと差し掛かろうとしていた。


ハッチの上から、その作戦ポイントへと近付いている事を確認した俺は素早く砲塔内にあるペリスコープを覗き込む。
そうして、覗き込んだペリスコープの先には先程、みほ達と見ていた聖グロのチャーチル、マチルダ、トータス、そしてセントーと言った戦車達が土煙を上げつつ、前進する様子が映し出されていた。
「総員、戦闘用意!玄田、安全装置解除!!」
聖グロの戦車達の姿を確認するなり、俺はそう声を張り上げ、他のメンバーに戦闘態勢に入る様に伝えると同時に玄田に対し、安全装置の解除を指示する。
この指示を受け、玄田は「了解っ!」と復唱ながら、砲尾の傍にあるマニュアルリリースを押し、安全装置を解除すると同時にハンマーを作動させ、何時でも砲撃できるような態勢を取る。
「安全装置解除良し!」
「了解!裕也、砲撃準備!!」
玄田の報告に復唱を返しつつ、続け様に裕也に対し、砲撃準備及び待機の指示を飛ばすと、裕也は「了解!」と復唱を返しつつ、砲手席の前にある自動砲塔旋回ハンドル及び仰角調整ハンドルを握りしめ、更に仰角調整ハンドルに設置されている”発射ボタン”の傍に指を置き、何時でも砲撃できる体制をとる。
「砲撃準備良し!」
「了解、発砲指示あるまで待機!!」
玄田と同じく報告してくる裕也の言葉に対し、そう待機を指示した俺は三度、みほに連絡を入れる。
「みほ、準備OKだ!いつでも始められるぞ!!」
『了解。じゃあ、前方左側200メートル先の見下ろせるポイントに移動したら私達の横に付けて。移動次第、照準を合わせて。砲撃を開始するよ』
「分かった!木場、前方左側200メートル先まで前進!!みほ達のⅣ号の横に付けろ!!!」
「了解!」
みほとの通信を終えると同時に、変わりざまに木場に対して、移動指示を飛ばすと木場は操縦桿を操作しつつ、アクセルを踏み込んでいく。
そうして走っていくチャーフィーは、先程、俺が出した指示通りにみほ達のⅣ号の隣に付く様にして、砲撃ポイントへと侵入する。
「操縦主、車両停止!」
砲撃ポイントに侵入すると同時に、木場に停車指示を出し、戦車を停車させる。
止まった瞬間、戦車の上に被っていた埃などがザッ!と舞い上がる中、俺はペリスコープを覗き込みつつ、次なる指示を飛ばす。
「砲手!目標、トータス重駆逐戦車!!照準定め、急げ!!!」
「了解!」
俺の指示に対し、裕也は砲塔旋回ハンドル及び仰角調整ハンドルを操作し、聖グロの隊列を走るトータス重駆逐戦車に照準を定めていく。
「照準良し!」
「了解、撃ち方待て!!」
主砲の照準を定め終えた裕也がこう報告してくるのを聞き、俺は裕也に待機を命じつつ、みほに連絡を入れる。
「みほ、照準OKだ!いつでも行けるぞ!!」
『分かった、龍君。こちらも準備完了しているよ』
「よし……始めるぞ!」
俺の言葉に対し、『うん!』と頷きながらみほは一回息を吸うと目を大きく見開き、こう言った。

「撃て!」

そんなみほの様子を見ながら、俺も続けざまにこう言い放つ。

「砲手、射撃用意……撃てぇーっ!!」


そう言い放った次の瞬間には、裕也は発射ボタンを押し込む!


次の瞬間、2発の砲声が試合会場に鳴り響くのであった……。 
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