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人徳?いいえモフ徳です。

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五十五匹目

いらっしゃいませー、と店員が客を出迎える。

貴族街と平民街のちょうど中間地点に開店した猫カフェ『サニャトリウム』。

客を出迎えるのは人に化けたケットシーだ。

バーストが第一環から呼び寄せたケットシー20匹がシフト制で接客。

彼らがバーストが王都で配下にしていた猫を管理する。

建物は二階建て。

一階に厨房があるが、一階二階とも大部屋で個室は無し。

一階はテーブル席で二階は座敷だ。

トイレは一階二階どちらにもある。

「さて、繁盛してくれるといいんだが」

と僕は一階の奥に作ったマジックミラースペースにソファーを置いて様子を見ていた。

膝の上にバーストを乗せて。

「ご主人様。ずっとこうしているつもり?」

「暇だし」

「いや暇ではにゃいとおもうのだけど」

「見ときたいんだよ。上手く行ってるか行ってないか」

看板には30分につき大銅貨五枚ずつ加算と書いておいた。

時間に追われるようで嫌かもしれないが、そうしておかないと客が捌けない。

なお飲食や猫用玩具セット(席備え付け以外)は別料金。

細かいルールは外の看板にもテーブルのメニューの表紙にも書いておいた。

「ふにゅぅ……そういえばエリザは元気?」

「元気だよ? どうしてエリザのこと聞くの?」

「エリザは私の娘なの」

「へー」

エリザってバーストの娘なんだ。

娘?

「娘!?」

「タマモから聞かなかったの?」

「聞いてない」

「まだ一つ目だけれどね」

ひとつめ? なにが?

僕が首を傾げていると、膝に乗せたバーストがため息をついた。

「ご主人様って、本当に無知なのね」

「わるかったな」

「まぁ、普通の人は知らないのだけれど」

じゃぁなんで僕を責める。

「それでもタマモの孫なのに知らないのはダメよ。
貴方には知識が足りなさすぎる。力を扱うための知識が」

「ふーん……」

「ご主人様は、きっと強い力を持つようになるわ。そのときに、その力を振るうための知識を持ってなければいけない」

そう言うと、バーストは僕の膝から降りた。

一瞬バーストが光ると、スレンダーな猫耳美女が立っていた。

バーストの人化モードだ。

サラサラと流れる茶色い長髪が美しい。

着ている服は何故か家のメイド服だけど…。

バーストがスッと手を水平に伸ばし、マジックミラーの向こう側を指差す。

「見なさい」

マジックミラーの向こう。

人に化けたウェイトレスとウェイター。

「彼らは三つ目か四つ目よ」

「何がさ」

「命が」

「え?」

命が四つ目? どういうこと?

「私達ケットシーは九つの命を持っている。エリザはまだ一つ目を生きている。ここに連れてきている者達はもうすぐ半分の命。そして私はもう九つ目の命」

「九つの命……」

ん? どこかで聞いたような…………。

あ。

思い出した。漫画だ。

僕が転生する前、読んでいた漫画。

その漫画に確か、猫は複数の命を持つって…。

「君は、その九つ目の命が終わったらどうなるの?」

「さぁねぇ。私にもわからないよ。だって九つ目まで生きた奴を他に知らないからさ」

「どうして? 病気で死んだりしてもまだ命はあるんでしょ?」

「皆生きる事に飽いたり、何かの為に命を使ってしまうの。
私だって、私だってそうしたい時もあったわ。
でも私には管理者の使命があったからね。生きたくて生きている訳じゃないのよ。私は。
ただただ使命感で生きているだけ」

生きたくて生きている訳じゃない、か。

それは聞く人が聞けば激怒するような言葉だ。

「儘ならないなぁ。生きたい人は死んで、死にたい人は生かされて」

「見てきたような口をきくのね。貴方の周りには、死んだ人はまだ居ないと思うのだけど」

「僕が言ってるのは僕の事だよ」

あの時。僕を斬った女。

心臓が貫かれた時の、月をバックに刀振り下ろす奴の事は忘れられそうに無い。

自分で陰陽師とか名乗っていた。

≪私は陰陽師さ。君に恨みはないけど、仕事なんだ≫

僕は死にたくなかった。

死ぬという事がどういうことなのかを考えた事も無かった。

生きたいなんて思った事も無かった。

生きている事が当たり前だったから。

でも、例えそうであっても死は唐突だ。

幸い僕は転生できた。

でも、生きたくても死んでしまった人は居るだろう。












問題発生。

「な"ーぅ!」

一部の亜人種族がめっちゃ猫に威嚇されてる。

特にオーガーとかドラゴニュートとかの大型亜人に対して。

一番威嚇されてるのはドラゴニュートの女性客三人。

しかもあの真ん中ドラゴニュート、身なりや所作を見るに貴族のお嬢様っぽいし。

取り巻きっぽいドラゴニュートもかなり強そうだ。

いまは猫に逃げられ落ち込む主人を慰めるのに必死そうだが。

「バースト~」

隣に座る猫耳美女に泣きついてみた。

「許してあげて。龍種に怯えるのは仕方ないわ」

「うー…仕方ない…。休憩中のケットシーに猫モードで出てもらおう」

「ま、それが一番ね」

マジックミラースペースから出て、店の裏のロッカールームへ向かう。

ドアを開けると、中に人の姿はない。

皆猫状態だ。

「済まない、シフト外ではあるがドラゴニュートとオーガーに猫が怯えてしまってるんだ。
誰か出れないか?」

ケットシー達が互いに見合わせる。

「もちろんその分の給料は追加するよ」

「シラヌイ様シラヌイ様! お給料要らないのでお魚くださいな!」

「うにゃ! 私も私もー!」

「さ、魚?」

確かに君ら猫だけど…。

「川の魚じゃなくて海の魚が食べたいにゃ!」

とケットシー達が口々に言う。

「う、うーん……ごめんね。その期待には答えられないかなぁ。
川魚でよければあるんだけど……」

「じゃぁそれでいいのにゃ~」

と数匹のケットシーが表に出ていったのでその名前を記録しておく。

マジックミラースペースから覗くと件のドラゴニュートの女性が目をキラキラさせながらケットシーをモフっていた。

「ほあぁ~にゃんこだ~もふもふだぁあ~」

メインクーンサイズの猫モードケットシーを軽々抱えてモフっている。

さっきまで装甲のようだった手は人の物と変わらない物になっている。

「もう私ここに住む~」

気に入って貰って何より。

ドラゴニュートのお嬢様の他にも、さっきまで怖がられていた客の所にケットシーが向かい、愛でられている。

冒険者らしきオーガーの男性もふにゃふにゃした顔でケットシーを撫でている。

どうにかなったようだ。






猫モードケットシーを導入して暫く。

「ほほう。ここが猫カフェか」

「父上、時間があまりない事をお忘れなく」

王様と王子様が来た。

うせやん。 
 

 
後書き
すいません。投稿するのをずっと忘れてました。66までは書いてるので逐次投稿します。 
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