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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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戦姫絶唱シンフォギアG
第1楽章~黒の装者達~
  第2節「争乱へのシンフォニア」

 
前書き
第二話、今回のハイライトは勿論あの人!
そう、皆大好き英雄志望のマッドサイエンティスト!

流石は二次創作家泣かせな杉田キャラ。原作にない台詞言わせようとすると、あのはっちゃけっぷりまで再現しないといけないから物凄く大変ですw
少しでもあの人らしく描けてるといいのですが……まあ、大丈夫だと信じましょう。

それでは、英雄劇場の開幕です。どうぞお付き合い願います。 

 
「これで搬送任務は完了となります。ご苦労さまでした」
「ありがとうございます」

岩国基地のゲート前にて、米軍から渡されたタブレットに判を押した友里は握手を交わす。

これにて、ソロモンの杖の搬送任務は完了。この後は、ウェル博士の手により研究が進む事となるだろう。

「いやー、良かったです。あの後はノイズもなく、順調な旅路で」
「そうだね。これなら、翼さんのライブにも余裕で間に合うよ」

翔やクリス、純と顔を見合わせる響。
特に響は、既に今夜開催される翼のライブが待ちきれないらしく、ウズウズと抑えられない気持ちを全身で表していた。

そんな四人を、ウェル博士が微笑みながら見つめる。

「確かめさせていただきましたよ。皆さんがルナアタックの英雄と呼ばれる事が、伊達ではないとね」
「英雄ッ!?わたし達が?」

ウェル博士からの賛辞に、響は自分を指さし、照れ臭そうに頭を搔いた。

「いやー、普段誰も褒めてくれないので、もっと遠慮なく褒めてください。むしろ褒めちぎってくださ──あいたッ!?」
「このバカッ!そういうところが褒められないんだよッ!」

調子に乗ってもっと、もっとと手を振る響。
その頭に、クリスは溜息とともにチョップを叩き込んだ。

「痛いよぅ……クリスちゃん……」
「あはは……お騒がせします」
「フフッ、いえいえ。良いじゃないですか、年相応の女の子らしくて」

純は今日も変わらずどつきあい漫才を繰り広げる二人を見ながら、ウェル博士に頭を下げる。

だが、ウェル博士は特に気にする事もなく、ただ笑っていた。

「世界がこんな状況だからこそ、僕達は英雄を求めている……」

(ん……?)
(英雄、か……)

ウェル博士の言葉に、翔と友里は違和感を感じ取る。

その言葉は響達にではなく、博士が自分自身に言い聞かせているようにも見えたのだ。

英雄……その言葉について嬉々として語るウェル博士の様子には、何処か子供じみた落ち着きのなさが垣間見えており……。

「そう、誰からも信奉される、偉大なる英雄の姿を──ッ!」

一瞬だけ、その瞳には狂気の色が浮かんだように見えた。

「あははー、それほどでも」

しかし、他の誰もがそれに気付いていないらしく、響に至ってはその言葉を自分達への賛辞として受け取り、頭を搔いていた。

「皆さんが守ってくれたものは、僕が必ず役立てて見せます」

そう言ってウェル博士は、恭しく胸元に手を当てた。

「その事なんですが……ウェル博士。一つ、宜しいでしょうか?」
「はい?」

先程より口を閉ざし、ウェル博士を観察し続けていた翔は、自分の仮説を立証する好機を見計らっていた。

(列車を降りるまで、下手な事は出来なかった。でも、今は米軍の隊員達がいるし、友里さんにもこっそり伝えてある。チャンスは今しかないッ!)

「そのケースの中身、念の為にもう一度確認させてもらえますか?」
「……は、はい?」

一瞬だけ、ウェル博士の表情が引き攣ったような気がした。

「翔くん?」
「お前、まさか……!」
「皆も気付いてたと思うけど、列車を襲ったノイズの動きは明らかに制御されていた。この世界でノイズを自在に操る術なんて、ソロモンの杖以上の物があると思うか?」

そう言って翔は、輸送用のケースを睨んだ。

「まさか、博士を疑っているのかい!?」
「本部から杖を運ぶまでの中で、あのケースに触れたのは友里さん達二課の職員を除いて、ウェル博士……あなた一人だ。ノイズを操り、列車を襲わせた黒幕である可能性が一番高いのはあなた以外に有り得ない」
「証拠はあるのですか?」

ウェル博士は指先で眼鏡の位置を直すと、翔に問いかける。
反射したレンズと手に隠された口元で、その表情は伺う事ができない。

「あの時、俺達が聖詠を唱えた直後だ。ノイズ達が天井に刺さっていたのを、皆覚えているよな?」
「そういや……ッ!?」
「言われてみれば……」
「えっ?どういう事?」

クリスと純が納得する中、響だけが首を傾げている。

「最後尾の武装車両に乗っていた軍の人達は、全員残らず死んでいた。天井を貫通してきたノイズに貫かれて、な」
「ッ!?」
「響、あの時のノイズ達の動き方を覚えているな?」
「貫通しないで……刺さってた……」

そう説明すれば、響も全てに察しがついたらしい。

ケースを持っていた米軍が、慌ててケースの留め金を弾く。
開かれたケースの中には──






──あるべき筈の聖遺物の姿は無かった。

『ッ!?』
「くひッ!」

その場にいる全員の表情が、驚愕に染まる。

しかし、その中で唯一……ウェル博士だけが、口元を釣り上げて笑っていた。

「ウェル博士……?」
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒ……。バレちゃいましたか」

ウェル博士の表情は一転。
その瞳には、先程までと同一人物だとは思えないほどの狂気が滲んでいた。

「動かないでッ!両手は頭の後ろにッ!ウェル博士、これは一体どういう事ですか!?」

友里がウェル博士に拳銃を向け、米軍達も銃口を彼へと向けた。

「まさかこうもあっさり、それもこんな劇的にタネを明かされてしまうとは。いつから気づいていたのか、聞かせてくれませんか?」
「昨日、ある人から聞いたんだ。ドクター・ウェルはフィーネと認識がある、ってな」
「櫻井了子ですか……。やれやれ、フィーネもとんだ置き土産を遺してくれたものですねぇ」

任務前日、入院生活中の了子の部屋へとお見舞いに行った翔は、持って行ったソロモンの杖搬送任務の資料に目を通した了子から、ウェル博士の事を聞かされていたのだ。

曰く、優秀だが少々マッドな面を持つ生化学者。

曰く、スイッチが入ると止まらない、ジェットコースターみたいな男。

そして……フィーネがかつて、了子の姿で取り入っていた米国研究機関の一員だ、と。

「てめぇ、一体何モンだッ!」
「そうですねぇ……。折角ですし、改めて自己紹介させて頂きましょうか……ねッ!」

次の瞬間、ウェル博士はコートの袖から取り出した黒い筒を地面に叩きつけた。

「しまっ──」

次の瞬間、周囲が白い煙に包まれた。

「発煙筒だ!!」
「アッハハハハハハハハハハハハハハッ!引っ掛かりましたねぇ!」

ウェル博士が投げつけた、煙を噴出しながら転がる黒い筒。

煙はあっという間に、その場にいた全員の目を眩ませた。

その隙にウェル博士は、スタコラサッサと早足で装者や米軍達と距離を取る。

「構わんッ!撃てッ!」

上官からの命令に、米軍達が慌てて銃を向け直すも、既に博士の手には白衣の内側から取り出した白銀の杖が握られていた。

そう。ノイズを自在に使役する、最悪の完全聖遺物──ソロモンの杖が。

次の瞬間、ウェル博士を囲うように召喚されたノイズ達が実体化する。

そして舞台は整ったと言わんばかりに、博士は右手に杖を携え、左手の人差し指でズビシッ!と装者達の方を指さしながら、改めて自らの名を名乗り上げた。

「天が知る地が知る我が知るッ!僕こそ真実の人ぉぉぉぉぉッ!ドクター・ウェルゥゥゥゥゥッ!!」

声高らかに名乗りを終え、ウェル博士は満足気に笑った。

「そんな……わたし達を騙してたんですかッ!?」
「言ったじゃないですか。これは僕が必ず人類の役立ててみせる、ってねぇ」
「それで方便のつもりたぁ、しゃらくせぇ!」
「何のつもりでこんな……ッ!」

困惑、怒り、疑念。装者達の間に様々な感情が渦巻く。

それでもなお、ウェル博士の表情から笑みが消えることはない。

まるで、自分こそがこの場の主役であるかのように、彼は怖じる事無く語り続けた。

「目的?そうですねぇ……僕の、いえ、“僕達”の目的はただ一つですよ。まあ、今はまだ語るべき時じゃあないんですけどね」

(僕達……だと?)

ウェルの言葉に、翔は眉をひそめる。
これはウェル個人による犯行では無い、という事なのだろうか?

「さて、これで僕のお仕事は終了です。後は適当にノイズとでも戯れててください」
「ッ!逃がすかてめぇッ!」
「クリスちゃんッ!待つんだッ!」

踵を返して立ち去ろうとするウェルに、クリスが走り出す。

ウェルがソロモンの杖を一振りするのと、クリスがペンダントを手に聖詠を口ずさむのは、ほぼ同時だった。

「──Killter Ichaival tron──」

イチイバルのシンフォギアを纏い、アームドギアを手に走るクリス。

彼女に向かって真っ直ぐに、ノイズ達は襲い掛かる。

「僕達もッ!」
「友里さん、避難誘導を頼みますッ!」
「任せるわッ!」
「わたし達で止めなくちゃッ!」

ウェル博士は更にノイズを召喚しながら、基地の外へと走り去ろうとしている。

「待ちやがれッ!!」

自身を取り囲むノイズを蹴散らし、ウェル博士を追いかけようとするクリスを追い越して、純は叫んだ。

「ここは僕に任せろ!クリスちゃんは残って、皆をサポートしてくれッ!」
「けど……!」
「君の力が必要なんだ!クリスちゃんのイチイバルで、君の歌で、少しでも多くの人をノイズから守ってくれ!」
「ッ!ジュンくん……」

周りを見れば、米軍の隊員達もまた、通常兵器でノイズと応戦している。
しかし、弾は全て位相差障壁に阻まれ、このままではその身体を炭素へと分解されてしまうのは明らかだ。

「くッ!てめぇらの相手はあたしらだッ!!」

離れた場所のノイズ達へと狙いを定め、引き金を引く。

(あたしの歌で守れ、か……。ジュンくんはやっぱり、あたしの王子様なんだな……)

純からの激励を受け、クリスは迷わずその引き金を引き続けた。



「アキレウスの瞬足から、逃げられる奴はいねぇッ!」

純は迫るノイズらを、振るう盾でなぎ倒しながらウェル博士を追跡していた。

このままでは埒が明かない。一気に距離を詰めなければ……。

そう判断した純は、踵のジャッキを起動させる。

思いっきり一歩踏み込むと、ジャッキは勢いよく伸縮し、アスファルトにハッキリと足跡を残しながら、純はその身を跳躍させた。

ウェル博士の頭上を飛び越えてのショートカット。
空中で身体を反転させると、着地姿勢を整える。

次の瞬間、純はウェル博士の十数メートル先に降り立った。

「なッ!?」
「僕とアキレウスから逃げようなんて、2万年早いぜッ!」

そのまま純は、もう一度瞬間加速して真っ直ぐ、ウェル博士の方へと突き進む。

「うわああああああッ!?」

狙いは右手に持つソロモンの杖。
だが、純の手が届くよりも一瞬早く、ソロモンの杖からは緑色の閃きが放たれた。

「──なーんてね、くひッ!」
「くッ!?」

博士を取り押さえるために減速していたため、純は召喚されたノイズにはね飛ばされる。

一瞬地面を転がるも、受身を取り、直ぐに体勢を立て直す。

だが、博士は更なるノイズを召喚していた。

「生憎、君に捕まる僕じゃないのさ。ほーら、こいつと楽しく遊んでいなよッ!カモンッ!」

出現したのは、巨大な芋虫のような特徴を持つ強襲型ノイズ……ギガノイズだ。

「それじゃ、今度こそ帰らせてもらいますよ。僕は残業はしない主義でしてね。アデォオ~~~スッ!」
「待てッ!ぐっ……!?」

ギガノイズが吐き出す溶解液に阻まれ、ウェル博士を追いかける事が出来ない。

博士の後ろ姿を見失い、純は歯噛みしながらギガノイズの方を向き直った。

ff

その頃、都内のライブステージでは、設営が着々と進んでいた。
今日の夕刻、日の入りと共に開催される『QUEENS of MUSIC』は、世界の主要都市へと生中継される大規模なイベントだ。

中でもメインイベントは、日本が世界に誇る羽撃きの歌姫と、デビューからたった二ヵ月ほどで全米ヒットチャート第一位へと上り詰めた気鋭の歌姫。
その二人による、一夜限りのスペシャルデュエットである。

イベントスタッフ達はせかせかと会場のあちこちを、右へ左へと動き回っている。

スクリーンに表示するド派手なエフェクトや、ステージの両脇から噴き上がる火柱など、歌姫達の舞台を盛り上げるための仕掛けの最終チェックが行われ、会場内は本番へと向けた関係者らの熱意で満ちていた。

その会場内で唯一誰もいない観客席の中腹にて。
すらりとした細長い脚を組み、カジュアルな私服の下からでも自己主張する豊満な胸の下で腕を組みながら、静かに鼻歌を口ずさんでいる一人の少女がいた。

薄桃色のロングヘア―を頭頂で猫耳のように纏め、そこに青い花の意匠の髪飾りを挿した少女の顔立ちはその名前に相応しく、まさに聖母のような美しさを湛えていた。

会場を見渡しながらハミングを続けていた少女だったが、ピリリ、ピリリと単調な着信音が耳に届いた瞬間、その切れ長の目が一層鋭くなる。

一昔前のスライド式携帯電話……いわゆるガラケーを耳に当てると、彼女にとっては聞きなれた老年の女性の声が、淡々と通達した。

『こちらの準備は完了。サクリストIの欠片も回収が完了しています。後はサクリストSが到着次第、始められる手筈です』
「グズグズしてる時間は無いわけね」

少女は席を立ちあがり、誰にともなくその言葉を告げる。


「OKマム。メインイベントの後、派手に花火を打ち上げましょう」

通話を終え、ガラケーを仕舞った少女。そのタイミングを見計らい、後方から一人の青年が歩み寄る。

「いよいよ、だな」
「ええ。そっちもお疲れ様」
「いや、そこまで苦労はしなかったよ。ただ、帰る時にちょこっと挨拶しただけさ。堂々と忍び込んで盗んだんだ。アピールは大事だろう?」

日に焼けたような褐色気味の肌と灰色の髪。少女より10cm以上高い背丈で、右手に黒い皮手袋をした青年は、その赤い瞳を片方閉じて首を傾ける。
茶目っ気溢れる、綺麗なウインクだ。

「はあ……それで予定が遅れたら意味ないでしょう?」
「俺が仕事に遅れるとでも?」
「それは……確かに、あなたのスケジュール管理が徹底してるのは認めているけれど……」
「君の歌は、俺にとっても大事なものなんだ。何があっても裏切るもんか」

そう言って、青年はニカッと笑う。
少女は呆れたように、それでいて何処か安心したように溜息を吐いた。

「さて。それじゃあ始めようか、マリィ。いや……()()()()

フィーネ、と呼ばれた少女……米国の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴの表情は、その一瞬で厳しいものへと変わった。

「ええ……。私達で、世界最後のステージの幕を上げましょう」

マリアのマネージャーを務める青年……ジョセフ・ツェルトコーン・ルクスは、右手に持ったトランクの取っ手を静かに握りしめた。 
 

 
後書き
というわけで、第二話でした。

了子さんは諸事情あってまだ入院中です。
ウェル博士の事についてハッキリと警告できなかったのも、記憶の混濁でF.I.S.に関する情報がハッキリしていないからだったりします。
具体的には、搬送任務の資料で名前を見た時に初めて思い出したくらい。
フィーネの記憶が引き継がれたとはいえ、何かしら切っ掛けがなければ引き出せないのです。

次回はおがつば登場。ついでに、次回からは後書き恒例のアレも復活させていこうかなと思います。
後書き劇場第1話は、やはりしなフォでも話題だったあのシーンこそが相応しいでしょうw
それでは、次回もお楽しみに! 
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