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勇者戸希乃を信じてほしい

作者:Clifford榊
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第二話

 どうすれば魔王討伐が終わっている事実を信じてもらえるんでしょう?

「そりゃ、俺の配下の魔物たちが撤退したらじゃないか?」

「でもあんたを倒したのに、撤退してないじゃない!?」

「まあ魔王城の広間で対決でもしてりゃ、すぐに広まったんだろうけどな」

 なんで人間界まで出向いちゃったの、魔王。

「じゃあ テレパシーかなんかで魔王は倒されたって、知らせなさいよ」

「あのなあ、俺がそれやったら逆に生きてる証明になるじゃないか」

「……あー……」

 そんなわけで魔王軍は今日も人間界を絶賛侵略中です。

 鎧の重さにはなかなか慣れないけれど、立ち止まっているわけにはいきません。
 魔王を倒して世界を救わないといけないから!

 ……嘘をつきました。
 もう野宿が嫌なだけです。



 魔王軍のモンスターとは日に1回遭遇するかしないか。
 今のところ遭遇するのはでかいネズミみたいなやつばっかりですが、勝率は100%です。これは自慢できます!
 まあ1回負けたら死んじゃうわけですけど……。

 ゲームみたいに連戦連戦また連戦なんてことはありません。
 ていうか、ゲームの勇者ってどれだけ死体の山を築いてるんでしょうね。

「魔王軍が勇者個人や王様のいる人間界の首都を最初から全力で攻撃しないのはなんで?」

「そりやぁ、それで決着したら面白くないから……」

「殴るよ!?」

「冗談だってば。魔王軍の人間界侵攻の主目的が言ってみればガス抜きだからだよ。魔界の連中はあれで気のいい奴らだけど、何しろ荒っぽくてな。たまには戦争でもやらないと内戦が起こっちまう」

「それって人間界を都合よく利用してるってことじゃない!やっぱり殴る!」

「しょうがないだろ、魔界には俺ですら手こずるような奴らが結構いるんだ。そういうのが暴れ始めたらマジで魔界が滅びる」

 私はあなたの強さがどのくらいか知らないんですけど……おじいちゃんだったし、赤ちゃんだし。

「まあ今回はいろいろやったからな。500年は抑えられたぜ」

 魔王はどこか嬉しそうに言う。

「え、あんた500歳超えてたの?」

「こないだ死ぬまではな。今はもちろん0歳だぜ。今までのを累計すると……すまん、忘れた。8000歳ぐらいか?」

 魔王は8000年もこんなこと繰り返してきたのか……。

「あ、最初に言ってたいろいろって……」

「まあそれもそのうちの一つだが、他にもいろいろやってたな」

「他には何をやったの?」

「いろいろさ。お前は別に知らなくてもいいことだ」

「なんでよー」

 本当に魔王は何をしてたんだろう?
 なんで話してくれないんだろう?
 信頼してもらってないから?でも魔王と勇者の信頼関係って。うーん……。



「マリアさんって、どこまでついてこられるんですか?」

 考えてみればマリアさんはごく普通の一般人なわけで、魔王討伐とかによくついてくる気になったなぁ、と。

「勇者様が必要とされる限り、お傍にてお仕えいたしますよー」

 それってことと次第によっちゃラストの魔王との決戦までってことなんですけど、いいんですか!?
 ……まあ、魔王は私が抱っこしてお昼寝中ですけど。



 そんなこんなで五日間の旅の末、やってきました隣街。
 隣、遠すぎませんか?

「それでは勇者様、私は市場に買い出しに行ってきますね」

今夜の宿泊先を決めるとマリアさんは今後の旅のための買い出しに行ってくれます。
その間に私は仲間集め。作業は分担して進めるのが効率が良いのです。

 この街は過去にもたくさんの勇者の同行者、つまり冒険者を輩出してきた街だそうで、伝統的にそういった人々が集まるそうです。
 頼りになる仲間が見つかりそう。

 仲間を募るといえば冒険者の酒場とかギルドとか!
 私はまだ未成年だけど、この世界の法律ならちょっとぐらい呑んでもいいよね?ね?ね?

「冒険者の酒場?ギルド?なにそれ?」

「え……冒険者たちが集まる……」

「冒険者?」

 道行く人に勇気を出して聞いてみたけど、いきなり話が通じません。

「そりゃそうだ。冒険者なんて仕事はないからな」

「え、でも……」

「定職についてるわけでもなく、日がな一日武器持ってうろつきまわって、モンスターを殺して金品を強奪する。よく言って無職、はっきり言えば強盗だよな」

「ご、強盗!?でもモンスターは悪いやつだから……」

「悪いやつだったら裁判もなしに殺すのか?」

「巨大ネズミに裁判なんて」

「あいつらはまあそうだな。でもそれはあいつらが悪いからじゃない。あいつらは本能に従って生きるために食べようとしているだけだ。だからお前があいつらと戦うのは言ってみりゃ害獣退治だな」

 害獣ですか。いきなり勇者から市の衛生局員にクラスチェンジしちゃった。

「ゴブリンとかオークとかは……」

 まだ出会ってないんですけどね。

「あいつらは確かに低いながらも知性はあるな」

「でもいちいち裁判なんかしてたら、殺されちゃうよ!」

「だが、あいつらだって悪いわけじゃない」

「???……どう言うこと?」

「あいつらはただ単にお前の敵なんだよ。そしてお前は勇者なんて祭り上げられているけれど、要は兵隊。まあ常設軍に属しているわけじゃないから傭兵だな」

 今度は傭兵にクラスチェンジ。

「敵なら殺していいの!?」

「いいんじゃないか?敵なんだし」

 そんなあっさり。

「いいかよく聞けよ?今は魔王軍が攻めてきているのだから戦争状態だ。そしてあいつらは敵、お前は傭兵。本来なら仕事として雇用主からそれなりの給与を得て戦うわけだが、お前みたいにあっちへフラフラこっちへフラフラ旅する身だといちいち給与を届けるのも取りに行くのも難しい。だから代わりにお前には倒した敵の所持品を奪う略奪権が与えられる」

 あ、そういえばお城で受けたレクチャーでそんなこと言ってたような……。

「傭兵なら武器や防具は元手として自前でそろえないといけないが、まあ召喚されたお前の場合は事情が特殊だから王様もその辺は配慮してくれたんだろう」

「それがこの初期装備……」

「多分それ、この世界の住人の一般的な収入で考えると数年分ってところかな?」

「ええっ、そんなに!?」

「店で買ったら金貨数十枚から数百枚。金なんて産出量はごくわずかなんだから、金貨1枚の価値だって相応になるわけだ。一般人なら金貨自体一生見ることなく過ごすかもな」

「じゃあ普通の人はどうやって買い物をしているの?」

「銀貨や青銅貨なんかのもっと額面の少ない通貨を使うか、あるいは物々交換だろ?」

「でもゲームでは大抵金貨だけで……」

「武器やら防具やらは高価だからそうなるかもな。宿代とか薬草みたいな日用雑貨を金貨で払ってるなら……」

「なら……?」

「確実に、それも盛大にぼったくられてるぞ?」

「えーっ!?」

 知りたくなかった真実。
 宿屋や道具屋のオヤジはぼったくり野郎だった!?


 そ・れ・は・さ・て・お・き


「冒険者ギルドとかがないなら、どうやって仲間を集めればいいのよ?」

「街の広場で演説でもぶって、人を募ればいいんじゃないか?」

 それ、17歳女子にはかなりハードル高いんですけど……。
 でも背に腹はかえられない、的な?



 というわけで、広場に来ました。
 この街は大きな街のようで、背後には立派な建物があります。
 なんとなく宗教建築物みたいです。

「わーすごーい、あのたてものはなにかなー」

「誤魔化すなよ。仲間を募る演説をするんだろ?」

「えー、だってー……大きな声を出すの苦手だし、人前で話すのはもっと苦手だし……」

「そんなこと言っていると、ずっと一人旅だぞ」

 一人じゃないもん。マリアさんがいるもん。
 魔王は意地悪だから数えてあげない。

 ……仕方ない。
 ここは意を決して!覚悟を決めて!清水の舞台から飛び降りるつもりで!

「早くしろ」

 くっ、魔王め……。

「あ、あの〜……」

「ちっさ!声ちっさ!」

 うるさいなぁ……。

「すいません。みんな、聞いてください!」

 広場を行き交う人々の中の数名が、なんだろうという感じで立ち止まりこっちを見る。
 鎧を着て帯剣して、おんぶ紐で赤ちゃんを背負っている女の子はみんなには何者に映っているんだろう。

「今、この世界に、危機が、迫って、いる……みたいな?」

「おい」

 うっさい、魔王黙れ。

「それで、えーと私は勇者として王様に召喚されたので、えーと……仲間が……一緒に旅する仲間が、欲しい、なぁ〜……」

 立ち止まった人たちは首を傾げている。

「最後の方、多分聞こえてないぞ」

「わかってるわよ、そんなこと!」

 その時、立ち止まった人たち中から一人が歩み出てきた。
 もしかして最初の仲間、ゲット!?

「すいません、今なんて?」

 あうー。

「だから……私……勇者……仲間……欲しい……」

「どこ原人だよ」

 再び街の人。

「あの、すいません。もうちょっと大きな声で」

 あーもう!

「だから!私は勇者で!一緒に旅をする仲間が欲しいの!」

 人生で三番目くらいに大きな声、出た。
 ちなみに二番目はデパートでお母さんに魔法少女変身セットをねだって駄々をこねたとき。一番目は生まれたときだってお母さんが言ってた。

「あ、ああー……」

 立ち止まってくれた街の人たち、なんかすまなさそうにして、行っちゃった。

 ……もしかして、イタイ人と思われた!?

「仕方ない、もう一度だな」

「えー……」

 もう無理、おうち帰る。
 なんか涙が出そうです。

「おい!」

 そのとき突然背後からやたら野太い声が。

「え?」

 振り返るとそこには髭面で筋骨隆々といった感じの大男が立っていました。
 モヒカンだったら世紀末救世主伝説に出てくる悪人Aです。
 そういえばあの悪人たち、だいたい髭はきれいに剃ってるなぁ。

「お前、勇者なのか?」

「……あっはい」

 あなたはもしかして伝説の戦士!……かその子孫……の友達くらい?

「この小娘が?」

 ムカ。
 そんなことわかってるけど、面と向かって言うことないじゃない。

「何か証拠はあるのか?」

 証拠?えーとなんかあったかな?
 うーん?
 あ、あれがあった!

「王様と一緒に撮った写真が!召喚されたとき記念に撮ったんですよ!」

 手荷物からスマホを取り出して、スイッチオン!……あれ……?スイッチオン……。

 つかない……。
 もしかして、充電切れですか?

「お前……さっきからなにしてるんだ?」

 見てわかんないですか?絶望で泣きそうになってるんです!

ごでに(これに)ー、じゃじんがはいっでどぅんでづ(写真が入ってるんです)ー。でぼじゅうでんがぎででで(でも充電が切れてて)ー。じんじでぐらざい(信じてください)ー」

 鼻水垂れて、涙腺も大決壊です。
 私の勇者らしさが1さがりました。

「1ですめばいいけどな」

 魔王うっさい。



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