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アルゼンチン帝国召喚

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第二十二話「外交戦1」

第二十二話「外交戦1」
「間もなくアルゼンチン帝国の領空に入ります。先導目的のアルゼンチン帝国の戦闘機が二機来ますが戦闘の意志はないので安心してください」

機内アナウンスを聞き神聖ミリシアル帝国の情報局員ライドルカは漸くついたと息を吐く。彼は神聖ミリシアル帝国のアルゼンチン帝国使節団の一人として天の浮舟35型に乗っていた。彼の隣では外交官のフィアームがめんどくさそうにしている。

「本当に長かった。だが後数時間で極東の文明圏外国家と外交をしなければ言えないという事に頭が痛いです。しかし、戦闘機ですか。まさか文明圏外国家が持っているとは驚きですね。ムーの援助でも受けているんでしょうか?」
「分かりませんね。ただ、少なくとも列強の介入があったのは間違いなさそうですね」

そう話していると天の浮舟の隣を高速の何かが通過した。続いて轟音が響く。

「な、なんだ!?」
「まさか、戦闘機か!?」

二機の戦闘機は一機が先導しもう一機が片面につく。

「あの翼型は……なんと!後退翼か!速度が音速を超えた場合に翼端が超音速流に触れないために考えられた翼型!我が国ではまだ研究……というか、理論の段階だが、実物がまさか見られるとは!アルパナ殿、あの戦闘機は少なくとも音速を超えますぞ!」

興奮したように技官ベルーノが隣に座る武官アルバナに話しかける。

「馬鹿な……!我々の天の浮舟より早いというのか!?」
「そんなわけあるものか!我々は世界最強の国家だぞ!?我々は魔帝の遺産をどこよりも多く早く研究しているのだぞ!?なのに!我が国を凌駕する技術を持つなど……!」

外交官フィアームは怒りを零しながら隣を進むブリュームを見る。
やがてアルゼンチン帝国の本土が見えてくる。天の浮舟は今までの使節団の様にパラパライソから向かうのではなく直接ブエノスアイレスに向かう事になっていた。
眼下には神聖ミリシアル帝国より優れた都市がいくつも見え文明圏外国家のはずのアルゼンチン帝国の様子に一同は困惑する。

「確かアルゼンチン帝国には魔法がなかったんだな?」
「はい、魔法技術を集めている様ですがそれも最近のはずです」
「魔法なしでこれほどの都市がつくれるのか……?」

やがて天の浮舟はブエノスアイレスに到着する。そしてその奥にはブエノスアイレスを超える大規模で洗練され何処か威厳すら感じるアルゼンチン帝国の新帝都インペリオ・キャピタルの姿が見えた。

「っ!」

外交官フィアームはみじめな気持ちとなっていた。世界で最も素晴らしい都市と自負している帝都ルーンポリスより発展したインペリオ・キャピタルを見て誰もがアルゼンチン帝国をただの文明圏外国家と思う事は出来なくなっていた。

「神聖ミリシアル帝国の皆さまようこそおいでくださいました」

使節団はアルゼンチン帝国からの出迎えと挨拶をしてインペリオ・キャピタルへと車で向かう。神聖ミリシアル帝国の車より洗練され大規模に普及されているという事実に使節団は再び驚愕していた。
そしてインペリオ・キャピタルにあるホテルに一泊して会談は明日からという事になった。そのホテルすら神聖ミリシアル帝国のどのホテルよりも素晴らしい物であった。
そして一夜が明けインペリオ・キャピタル総統府にて両国の会談が行われた。先ずはアルゼンチン帝国の事を知ってもらうためにアルゼンチン帝国の歩んだ歴史に軍事力、経済などを教えていく。勿論技術を見せる一環でプロジェクターを使用した動画である。
スペイン副王領からの独立にアルゼンチン南北戦争、帝国白銀党の一党独裁と帝政への変換、そして転移。それらは分かりやすく教えていき次に軍事力の説明をする。神聖ミリシアル帝国より洗練された大規模艦隊に天の浮舟などよりも早いジェット機や爆撃機。そして一糸乱れぬ行進をする陸軍に戦車師団などが映っていく。
一旦休憩を兼ねて使節団にアルゼンチン帝国の料理がふるまわれた。

「おお!どれもうまいな!……ところでフィアームさん。先程の映像をどう見ましたか?私には神聖ミリシアル帝国よりあらゆる面で上だと感じましたが……」
「そんなわけあるか。転移国家というのも誠かどうか怪しいが何より科学技術でここまで出来るとは到底思えん」
「だが産業面では確実に上だぞ。大陸横断鉄道と呼ばれるものは我が国の構想上のものより洗練され何よりスペックが上だ。そして軍事面でも天の浮舟より早い戦闘機を持っている」
「海軍など特にだ。あの艦隊を見たかね?特にグレート・ディアボロスと呼ばれる艦種を。あれは確実にグラ・バルカス帝国のグレートアトラスターより能力は上だろう。それが三隻もいる」
「とは言え魔法を一切使っていないせいで国力自体は読みづらいな」

そんな話を会食後も続けていると一人の男が入って来る。

「皆さま、アルゼンチン帝国のアンデル・ベートルと申します。これから使節団の対応をさせていただきます。神聖ミリシアル帝国の担当となった事を光栄に思います」

ベートルはそう言うが決して光栄に思っているような雰囲気は持っていなかった。その事にフィアームは眉を潜めた。

「こちらこそ、初めまして。神聖ミリシアル帝国外務省外交官のフィアームと申します。ベートル殿、今後も我が国の外交担当も貴方となるという認識でよろしいか?」

「はい、特に政府の意向により変更が無ければ、このまま私が神聖ミリシアル帝国を担当いたします」

それを聞いたフィアームは邪悪な笑みを浮かべて持ってきた大きなバックから袋を取り出すと袋を外し中に入っていた物をベートルへと渡す。

「担当の外交官への私個人からのプレゼントです。我が国で開発された、一瞬で演算するための道具です。これを使用すれば、桁の多い掛け算や割り算であっても、一瞬で答えを導き出します。」

「これはありがとうございます。……ほう、結構重たいですね」

渡された計算機を受け取るとその重さに表情を僅かに変える。

「国力の発展には高度な演算が必要不可欠です。演算能力の速さが産業の発展に直結します。我が国では高価な物ですが私的にプレゼントします」

自信満々に言うフィアームに技官のベルーノは頭を抱える。少なくともアルゼンチン帝国は我が国より高度な演算能力をゆうしていることを先ほどの映像が察していたためだ。

「……確かに我が国でも同じ考えです。こちらをご覧ください」

そう言ってベートルはポケットからスマートフォンを取り出した。

「これは計算だけでなく通話やゲーム、辞書といった機能を有します。無論計算も一秒で一京回計算できます」

その途方もない能力に絶句するフィアーム。しかし、ベートルは次の一手を投下する。

「これほど素晴らしい物をありがとうございます。かつて我が国では計算機を他国から輸入しそれを元に自国で生産しました。なのでこのような骨董品は我が国ではありません。博物館に展示すれば歴史的価値が付くでしょう。ああ、そうそう我が国ではこのスマートフォンの様に軽く持ち運びができる計算機を子供のお小遣い程度で買う事が出来ます。素敵なプレゼントをありがとうございます」

既に外交の戦いは始まっている。フィアームが自国の力を誇示したようにベートルもアルゼンチン帝国の力の一端を見せた。如何に相手に自国の国力を見せ上だと認識させ外交を有利に進めるか。ベートルはそれに従い行動下に過ぎなかった。 
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