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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・45

     ~アイオワ:フライドポテト~

 カチカチカチカチカチカチカチカチ。静まり返った室内に、コントローラーを操作する音だけが響く。拮抗していた勝負はやがて、片方が防戦一方となっていき、次第にプレイヤーの顔色も悪くなっていく。やがてーーー

「NO!ガッデム!」

「うし、まぁこんなモンだろ」

 一人は頭を抱えて悔しがり、もう一人はさも当然といった様子で勝利を噛み締めた。今日の相手はアイオワ、リクエストは『フレンチフライ』……要するにフライドポテトだな。そんで、食べながらゲームをしようという事になり、俺は何度目かの勝利を収めた所だ。

「Uhh~……ちょっと強すぎるわよAdmiral。なんでそんなに強いワケ?」

 悔しげに唸りながら、山になっているフライドポテトから1本つまんで咥えるアイオワ。

「そりゃお前経験値が違いすぎるだろ。こちとらガキの頃からゲームで遊び倒してんだから」

 俺もフライドポテトの山から何本か取ると、口に押し込んだ。揚げて少し経っているが、まだ熱々の状態のフライドポテトを、ビールで流し込む。

「くぁ~っ!やっぱり揚げ物にはビールか炭酸が合うなぁ!」

「……お酒飲んで反射が鈍ってる人に負けるこっちの身にもなって欲しいわよ、全く」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ、何でもないわ。それより、もう一勝負よ!」

「今度はなんだ?『ストⅤ』か?『鉄拳』か?ちと古いが『バーチャ』でもいいぞ」

「格ゲーは暫くいいわ。今度は『テトリス』で勝負しましょう?」

 ほう、パズル物の定番である『テトリス』か。そういや最近対戦型のテトリスが出てたっけな。

「良いだろう、泣くなよ?」

「ふふん、その言葉そっくりお返しするわ!」

~数分後~

「Oh……」

 アイオワがリアルにorzってポーズになってる。実は俺、パズルゲームの方が得意なのよね……特に、『テトリス』とか『ぷよぷよ』とかの所謂『落ちモノ』って奴が。

「すまんな、格ゲーは苦手な方なんだ」

「あ、あれで苦手なの……?」

 アイオワは『騙された!』と顔にデカデカと書いてある。俺、格ゲーが得意だなんて一言も言ったこと無いんだが。





「それで?まだ勝負するか?」

「あーもうっ!暫くはいいわ。休憩よ、休憩」

 そう言って膨れっ面になったアイオワは、目の前の山盛りフライドポテトをモシャモシャと食べ始めた。自棄食いのつもりらしい。

「しかし……普段の制服から見たらスゲェ地味な格好だな?」

「あ、あれは仕事用の服装だもの。言わばユニフォームよ?仕方無く着てるの」

 仕事時寒中のアイオワの服装と言えば、あのメガトン級のおっぱいを見せ付けるような胸元の開いたジャケットに、これまた馬鹿デカい尻を強調するようなタイトなスカート、そこに星条旗がモチーフになっているであろうタイツに、白のロンググローブと一見モデルと見間違えそうな派手な服装をしている。だが、今の格好はその対極にある。黒のタンクトップにグレーのパーカー、ジーンズと地味の極致だ。その上普段はかけていない眼鏡までかけている。

「だろうな。しかし聞いてはいたがお前ホントにナード側の人間だったんだな?」

「そ、そうよ?悪い!?」

 ナードってのは、簡単に言えば英語圏で言われる『オタク』みたいな物だ。特徴としては『内向的』『特定分野の知識が豊富』『文化系の部活やサークルに所属』『スポーツに興味が無い』『恋愛に奥手』等の特徴が挙げられる。日本の『根暗なオタク』のイメージとほぼ合致するだろ?似た言葉にギークってのがあるが、あれはオタクはオタクでも技術オタクだ。ウチの艦娘で例えるならば、比叡とか秋雲はナード、明石とか夕張はギークと言えば解るか?まぁ、夕張の奴はギークとナード、両方の沼に全身どっぷりと浸かってそうだが。

「いや?俺もどちらかと言えばオタク気質だからな。寧ろ同類の方が落ち着く」

「そ、そうなの?」

「まぁ、この顔のせいで割と友達が出来にくい環境だったんでな……自然とそっち方面にな」

 ただ、何故だか知らんがよく絡まれたんだよ。学校を締めてるヤンキーのトップだとか、他校のそういう奴に。当然痛い目には逢いたくないから、昔から好きで続けてた柔道とかで撃退はしたが、自分から喧嘩を売った事は無い。

「そうなんだ……」

 同好の士が見つかった、とでも言いたげに軽く微笑むアイオワ。

「いや、別にウチの鎮守府オタク趣味の奴なんてゴロゴロ居るだろ?そういう奴らと語ったりしねぇのか?」

 比叡とか秋雲の他にも、オタク趣味の奴は結構居る。中には腐女子の沼に嵌まり込んでる奴もいるらしい。

「それが……その、私あのユニフォーム着てる時はああいう性格でしょ?だからジョックと勘違いされてるっぽいのよね」

 ジョックってのはナードの対義語的な名称で、陰キャに対する陽キャとでも言えばいいのか?……ホラ、あれだ。アメリカの学園モノドラマとかで男なら野球とかアメフト、女子ならチアリーダーとかやっててやたらとキラキラしててイキってる連中。ああいうのをジョックと呼ぶらしい。





「なんていうか……あのユニフォーム着てる時は、別の私になれるっていうか。コスプレしていてキャラに成りきってる感覚なの」

「あ~、成る程なぁ」 

 恐らくアイオワは無意識に、『自分の理想とする戦艦アイオワ』像を造り出して、制服を着ている時には演じてしまってるんだろうな。コスプレしていてキャラに成りきってる感覚……成る程、言い得て妙だ。

「別にいいんじゃねぇの?」

「……えっ?」

「今のままでさ。仕事の時ビシッと決める、オフの時には気楽に寛ぐ。人間それが普通だよ」

 芸能人とかはオフの時でも衆目に曝されるから気が休まらないかも知れんが、俺達ゃ軍人……公務員に近い存在だ。気の緩めすぎは禁物だが、そこまで気を遣う必要はない。

「何ならウチのオタクグループ、俺が紹介してやろうか?」

「ホントに!?ありがとうAdmiral!」

 そう言ってアイオワが抱き付いて来た。メガトン級のダイナマイトボディの持ち主が抱き付いて来たら、そりゃお前節操の無い愚息がアップを始めてしまうワケで。

「Admiral?」

「なんだ?」

「何か堅いモノが当たってるんだけど?」

「そりゃお前、ナニだよ」

「……スケベ」

「バッカお前、半分以上お前の責任だろうが」

「ん?」

 この戦艦、解ってねぇ。大体、あんな制服を着こなせる奴なんて、元々顔立ちやらスタイルやらが整ってないと似合わねぇんだっつの。そんなのが地味な服装をしてみろ?服装が地味な分中身の美しさが際立って……ストレートに言えばギャップ萌えが大変に好みです。デカ過ぎてパーカーの前のジッパーが閉まらない所とか、尻が大きすぎてジーンズがぱっつんぱっつんな所とか、目の毒でしたハイ。

「つまり、最初からAdmiralは私にムラムラしてたの?」

「……まぁ、ぶっちゃけちまえばな」

 それを聞いたアイオワ、爆笑。

「なっ、何も笑わんでも」

「あ~、おかしい。遠慮なんかしないで?Admiral。貴方は私のAdmiralでありmy sweet honeyなんだから!」

 そう言ってアイオワが腕を首の後ろに回して来て、唇が重なる。その左手の薬指には、シルバーのリングが輝いていた。後日、比叡達にアイオワを紹介した所、『え、オタクだって知ってたよ?』と言われてアイオワが真っ赤になって照れていたのがまた可愛かったなぁ、というのはここだけの話。

  
 

 
後書き
どうも、ナードアイオワ推進委員会の者ですwwwあの色気が匂い立つ様なアメリカン美人が、実はオタク気質とか堪らんと思うのですよ!(力説) 
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