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戦国異伝供書

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第七十九話 初陣その一

               第七十九話  初陣
 弥三郎は元服し諱を元親とした、ここですぐに初陣となる筈が。
 家臣達は国親に口々に言った。
「やはりです」
「若殿の初陣はまだです」
「まだ早いです」
「元服されましたが」
「それでも」
「わしはよいと思うが」
 国親は口々に言う家臣達に己の意見を述べた。
「もうな」
「そうでしょうか」
「まだ非常に頼りないです」
「おどおどとされ」
「如何にも弱々しく」
「戦の場では」
 とてもというのだ。
「働けぬとです」
「そうとしか思えませぬ」
「ですから」
「あの方については」
「それで弥三郎の初陣はか」
 国親は口々に言う家臣達に問うた。
「早いとか」
「まだです」
「まだ早いです」
「どうしてもというのならです」
「うんと多くの兵が必要です」
「数だけで勝てるだけの兵達が」
「当家にそこまでの兵はない」
 とてもとだ、国親は述べた。
「到底な」
「少なくとも今はです」
「当家にはないのなら」
「今はとてもです」
「若殿の出陣には賛成出来ません」
「我等としては」
「そうか、しかしな」
 それでもとだ、国親は述べた。
「今はお主達の言葉を受けるが」
「やがてはですな」
「若殿の初陣を行う」
「そうされますな」
「その時は弥五良や他の者達より後ではない」 
 このことも言うのだった。
「幾ら何でも弟の方が兄より初陣が先というのはないな」
「はい、それは」
「我等も承知しております」
「幾ら何でもです」
「それはありませぬ」
「ならよい、しかしまことにな」
 国親は家臣達にさらに言った。
「わしは今でもじゃ」
「若殿についてはですか」
「心配はない」
「そう思われていますか」
「確かにな。あ奴が出陣すれば」
 その時はというのだ。
「土佐で一番の働きをするぞ」
「殿はいつもそう言われますが」
「しかしです」
「果たしてそうなるか」
「我等は不安ですが」
「それが杞憂ということをな」 
 まさにというのだ。
「あ奴自身が見せてくれるわ」
「そうなればいいですが」
「ですがそれでも」
「我等にはです」
「そうは思えませぬが」
「その時にわかるわ」
 国親は今は家臣達の言葉を受けて元親の初陣を行わせなかった、だが。
 やがてそれを行う、それも弟達より遅くはしないと言った。それで今は元親にはこう言うのだった。
「よいか、その時が来るまでな」
「それがしは、ですな」
「これまで通りな」
「武芸と学問に励む」
「そうするのじゃ」
「徳が来るまでは」
「その時が来る、そしてな」 
 国親は我が子にこうも言った。 
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