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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百六十一話 打ち上げの時にその九

「気付いてもね」
「自分も手を出そうとしない」
「そうした人もいるから」
「お吉さんは手を出さなかったのかな」
「気付いても。それでもね」
 あまりにも酷い迫害を受け続けて絶望しきってだ。
「そうしてね」
「誰も救えなかったんだね」
「本当にそうした人いるからね、悪人じゃなくても」
 それでもだ、お吉さんは非常に不幸な人生を送ることになった。
「もうあれこれ言われてお酒に溺れて」
「明らかにストレスだね」
「もうどうしようもなくなって」
 何でもいつもお酒を飲んで道の往来で寝そべって子供に石を投げられる、完全に人生を投げてしまった姿だ。
「そうして、今お吉ヶ淵と呼ばれている場所で」
「そこで自殺したんだ」
「そう言われてるよ、けれど死んでも三日ものざらしで」
「死んでからもって聞いたけれど」
「しかも菩提寺も吉さん引き取らなくて」
 死んでも本当にそんな扱いだった。
「心配していたあるお寺の住職さんが引き取って弔ったんだ」
「ようやく眠れたのかな」
「そうしたら今度はその住職さんが言われて」
 周りからあれこれとだ。
「その場所を去ったんだ」
「そうなったんだね」
 当時の偏見はそこまで酷かったということかとだ、アタクルク君も考える顔になって僕に言ってきた。
「もう徹底しているね」
「人には偏見があって」
「お吉さんはそれに殺された様なものだね」
「そうだね、本当に時代の犠牲者だよ」
「弱い何も持たない人だったから」
「そうなったんだ、けれど」
「けれど?」
「もうお吉さんみたいな人はね」
 偏見、何の科学的根拠もないそれによって苦しむ人はだ。
「絶対には無理でも出来るだけね」
「出さないことだね」
「そうしないと人間としてね」
「やっぱり駄目だね」
「人間ならね」
 本当にそれならだ。
「ちゃんとしたね」
「そうしたことをしないと」
「本当にね」
 まさにというのだ。
「またお吉さんみたいな人が出るよ、ただ人間は愚かな一面もあるから」
「そのことは否定出来ないね」
「だからね」
「お吉さんみたいな人はまた出て来るね」
「正直人間過去は変えられないよ」
 それこそタイムマシンでもないとだ。
「だから過去を言われたり責められるとね」
「難しいことになるね」
「お吉さんのことなんて」
 今から見ればだ。
「何てことはないよ」
「外国人の接待とかね」
「所謂看護婦だったから」
 ハリス領事はそうした人を頼んでいたらしい、敬虔なキリスト教徒でしかも当時健康を非常に害していたという。だからそうした人に来て欲しいと言ったらしい。
「一緒にいた通訳のヒューストンさんはわからないけれど」
「看護婦さんならね」
「この職業にも偏見があったみたいだしね」
 ナイチンゲールのお話を聞くとだ、この人はイギリスの人だけどそうした話は日本にもあったかも知れない。
「余計に言われたんだ」
「偏見なんてって人なら」
「お吉さんはああなっていないよ」
 そこまで強い人ならだ。
「最初からね」
「そうだよね」
「弱いからね、けれど弱いことは」
「罪じゃないよ」
 アタクルク君は僕にこの場で一番強い声で言ってきた。 
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