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ウブ

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第四章

「やるべきことがある」
「と、いいますと」
「知ってる寺がある」
 この佐渡にもとだ、兼続は供の者に答えた。
「学識と徳を兼ね備えた僧の方がおられる」
「ではその僧の方に」
「頼むとしよう」
 こう話して実際にだった。
 兼続はその夜は休み朝起きるとすぐに供の者を連れてその僧がいる寺に赴き僧にことの次第を話してだった。
 ウブが出て来たその場で篤く供養してもらい地蔵の像も立ててもらった、兼続はことの次第を終えるとだった。
 越後に戻り謙信の前に参上し全てを話した、謙信は全てを聞き終えると感心した声で兼続に述べた。
「よいです」
「その様にしてですか」
「ただあやかしを退けるだけでなく供養し元を断つまでするとは」
「はい、既にウブのことは知っておりました」
「死んだ赤子や間引きされた子を野山に捨てた怨みがなったものだと」
「そのことは既に。ですから」
「その様にしたのですね」
「左様です」
「そうですね、そのことがです」
 まさにというのだ。
「よいことです」
「そう言って頂けますか」
「まことに。ただ」
「ただ、とは」
「供養し地藏尊の像も置いたことですが」
「思えば死んだ赤子、間引きされた子はこれ以上なきまでに哀れなもの」
「そう思うからですか」
「供養し怨みをなくさせて」
 そのうえでというのだ。
「地蔵尊のお力で、です」
「救いをですね」
「はい、来世では幸せに生きられる様に」
「そうも思ってですね」
「置いてもらいました」
「そうですね、武士は戦では殺生をするもの」
 謙信は自身も武士であることから述べた。
「ですが戦の場以外では人を殺めることは」
「なりませんね」
「はい、そしてそうした子達には」
「仁愛の心を」
「向けねばなりません。地蔵尊の像まで建てたことまことに天晴でした」
 謙信は兼続に微笑んで述べた。
「そなたを行かせてよかったです」
「有り難きお言葉」
「褒美です、取っておくのです」
 謙信は微笑み兼続に自分が愛用している三味線の一つを渡した。
「これにも御仏のお考えが入っています」
「それをそれがしにですか」
「はい、いくさ人であっても御仏の仁愛の心をこれからもです」
「忘れぬ様に」
「宜しくお願いします」
「わかり申した」
 兼続は謙信から彼がいつも愛用している三味線を彼への褒美として受け取った、そうしてだった。
 家に帰ると佐渡の方に向けて一曲鳴らした、そうしてあのあやかしの魂が救われ次の生では幸せになることを心から願った。佐渡に残る逸話の一つである。


ウブ   完


                  2020・1・12 
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