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七匹の命

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第一章

               七匹の命
 掛布幸正は社宅の中で隣の部屋に住む自分の部下の枝野主男について妻の弘子に話した。
「あいつは駄目だ」
「いつもそう言ってるわね」
「仕事も全く駄目だが」
「人としてよね」
「最悪な奴だ」
 苦い顔で言う、その猿に似た顔で言う。見れば髪の毛は結構薄くなってきていて腹も出て来ている。おっとりとした目で優しい口元に少し大きな鼻を持ち黒のショートヘアの弘子は一七四センチの夫より二十センチ程低いがまだ若さが残っている顔立ちだ。家族は息子二人に飼い猫が一匹という構成だ。
「本当にな」
「自分勝手な人らしいわね」
「ああ、自分が都合が悪くなるとな」
 その時はというと。
「もう簡単にな」
「お友達でも誰でもよね」
「切り捨ててな」
 そうしてというのだ。
「自分だけ助かる」
「そうすることをする人なのね」
「実際に一緒に仕事をしている奴がな」
「そうされているのね」
「あいつが言ったことをして失敗するだろ」
「枝野さんの責任でもあるわね」
「言ったからにはな、しかも自分ではしないでな」
 その言ったやり方なりをというのだ。
「相手に全部責任押し付けてな」
「逃げるのね」
「それがいつもだ、だからな」
「一緒にお仕事する人は」
「皆嫌がっている」
 枝野と仕事をすることをだ。
「いつもそうだからな、そして自分が出来ない仕事はな」
「他の人に押し付けるとか」
「それがいつもでしかも図々しくて厚かましい」
 こうした要素もあるというのだ。
「自分の都合のいい時はへらへら諂ってだ」
「そうじゃないとなのね」
「横柄になる、機会を見てな」
 そしてというのだ。
「八条グループは基本多少のことでクビにはならないが」
「それでもなのね」
「あいつは多少どころじゃないからな」
「そうしたいのね」
「人事部に行ってな、あいつは癌だ」
 そこまで悪質な輩だというのだ。
「課長になって三年、いや入社して以来な」
「枝野さんみたいな人ははじめて見たのね」
「本当にな」
 こう忌々し気に言うのだった、だが。
 ここで枝野は妻にこうも言った。
「あいつは猫飼っているな」
「あの人の奥さんが言うには七匹飼ってるそうよ」
「七匹もか」
「母親猫と六匹の子猫ちゃんがね」
「多いな」
「七匹共大事にしているらしいけれど」
 それでもとだ、妻は夫に話した。
「ご主人は可愛がっていないってね」
「あいつはそんな奴だ」
「自分だけの人なのね」
「自分だけが可愛くてな」
 それでというのだ。
「誰にも愛情なんか抱くか」
「だから平気で誰でも切り捨てられるのね」
「それで態度もころころ変えるんだ」
「自分しかないから」
「ああ、自己中心的で卑怯で卑しい」
「最悪な人なのね」
「そんな奴が猫を可愛がる筈がない」
 こう言い切った、そして実際にだった。
 妻は枝野の妻から話を聞くと枝野は実際にそうした人間だった。 
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