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アルゼンチン帝国召喚

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第十二話「外交2」

第十二話「外交2」
「……問題ありません。貴国の要求を受け入れましょう」
「あ、ありがとうございます!」

アイルサン・ヒドゥラーの言葉にシエリアは思わず感謝の言葉を零す。少なくとも暗い未来になる事はない。繁栄するかどうかも分からないが。

「それで我が国の要求ですが」
「っ!」

シエリアは思わずしまったと思う。アイルサン・ヒドゥラーはあくまでこちらの要求、国交樹立と不可侵条約を受け入れてくれたに過ぎない。ここからアルゼンチン帝国がどんな要求を出してきてもある程度は飲まねばなるまい。シエリアの顔に緊張が戻って来る。

「実はここだけの話ですが我が国はとある“列強”に宣戦布告する事を決定しました。これは数日前に決まったばかりの事で知っている人はあまりおりません」
「は、はあ?」

シエリアはアイルサン・ヒドゥラーの言葉の意味を測りかねた。グラ・バルカス帝国も列強の一角であるレイフォル王国を降している。アルゼンチン帝国も同じような事をしたとして特に咎める事など出来ない。

「貴国が知っているかどうかは分かりませんが我が国は転移時に存在した友好国の国民の為にロデニウス大陸に建国しました」
「一応存じております」

建国されたのはヌナブト連邦共和国や高天原帝国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国と言った国というのは知っている。しかし、ヌナブト連邦共和国以外の国はロデニウス大陸直轄領とは反対側にあるため詳しくは知らなかった。

「私としては友好国の為に広大な土地を用意してあげたいのです。その事を話したら神聖オーストリア・ハンガリー帝国が是非力を貸したいと申してましてな。合同で列強へと宣戦布告する事にしました」
「神聖オーストリア・ハンガリー帝国ですか……」
「幸か不幸かちょうど合同演習を行っておりましてな。軍事力なら大量に持っています」

合同演習はアルゼンチン帝国建国時からの友好国である神聖オーストリア・ハンガリー帝国と行っているものだ。十年に一度と歳月は長いがお互いいい刺激を与えあっていた。

「そこで貴国に提案ですが観戦武官を派遣してはどうでしょうか?」
「観戦武官?」
「ええ、戦争相手であるとある“列強”では一方的でしょうが我が国の力を知っていただけると思っています。そこから得られる技術もあるでしょうから、ね」

シエリアはアイルサン・ヒドゥラーのいいたいことを理解する。この男はアルゼンチン帝国の力を見せたいのだ。自国の軍事力はこれだけあるのだぞ、と牽制も兼ねて行いたいのだろう。絶対に逆らおうとは思わせないように。
だがシエリアにこの提案を断る事は出来ない。アイルサン・ヒドゥラーも言っていた通りアルゼンチン帝国の戦い方や力がどれほどの物なのか実際に見るべきだしもしかしたら使える技術もあるかもしれない。その事を考えれば断る理由など存在しなかった。

「……分かりました。貴国の提案を受け入れます。戦争の時はどうぞよろしくお願いします」
「勿論ですとも。観戦武官がいるのです。無様な戦争にはならないと約束しましょう」

西暦2020、中央暦1639/10/3グラ・バルカス帝国とアルゼンチン帝国は国交を樹立すると同時に不可侵条約を締結した。
そして2020、中央暦1639/11/4アルゼンチン帝国は神聖オーストリア・ハンガリー帝国と連名で列強パーパルディア皇国に宣戦布告した。この事実は東側世界に少なくない混乱と震撼を与えるのであった。











「アルゼンチン帝国と名乗る野蛮な国が宣戦布告してきたそうだな、カイオスよ」
「そ、その通りです」

パーパルディア皇国第3外務局長カイオスは頭を下げ皇帝の言葉に汗を流していた。子との発端は三日前に発せられた宣戦布告である。カイオスは情報収集の結果皇国監査軍は全滅しそれを行ったのがアルゼンチン帝国である事を掴んでいた。しかし、抗議しようにもアルゼンチン帝国はパーパルディア皇国との外交を打ち切って完全に撤退しており連絡の取りようがなかった。それならばと文明圏外国に頼もうとするが関わりたくないのか要求を断っていた。ロデニウス大陸以外の国はアルゼンチン帝国に対して警戒を強めていた。
特に大東洋諸国会議ではそれが顕著でありクワトイネ公国はアルゼンチン帝国に危険性は無いと必死に伝えたが全く聞き入れてもらえず挙句に参加国からアルゼンチン帝国の属国とみなされる程だった。
そんな訳でカイオスはアルゼンチン帝国につていの情報を全く持っていなかった。これからどうやって集めていくかを考えていた時に今回の宣戦布告である。しかも神聖オーストリア・ハンガリー帝国という訳の分からない国付きで。

「アルゼンチン帝国については把握していましたがどのような国なのかは未だ判明しておらず……」
「それは第3外務局の怠慢ではないかね?」

カイオスは皇帝の追及に何も言えなくなる。実際はいろいろと考えてきたのだが皇帝は明らかに怒気を含んでおり何か言い訳などしようものなら怒声が飛んでくるだろう。

「急ぎアルゼンチン帝国についての情報を集めよ。些細な事でも構わない。第1、第2もいいな?」
「「はっ!」」

必ずや滅ぼしてくれると皇帝が思った時であった。

「か、会議中に失礼します!飛行物体の大軍が向かってきています!」

パーパルディア皇国に情報収集の時間は既に残されていなかった。
 
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