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命の為に

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第三章

「そうしないと駄目よね」
「ええ、それはね」
「本当に同じ命だしね」
「人間も犬も」
「それならね」
「犬を捨てる位薄情な人は」
 三咲はこうも言った。
「人も捨てる」
「犬にそうする位らね」
「普通にそうするわよね」
「それこそ」
「ええ、お母さんが昔言った言葉だけれどその通りだって思うし」
 それでというのだ。
「私はね」
「この子を助ける為に」
「それで新居にしたの」
「わざわざ引っ越したの」
「ええ、敷金と礼金がかかって」
 それでとだ、三咲は同僚達に話した。
「会社から遠くなったけれど」
「それでもいいのね」
「その子を助けられたから」
「それで」
「しかもこの子凄く優しくて大人しくて」
 三咲は今度はタロウ自身のことを話した、その優しい目で自分と同僚達を見て部屋の中にいる彼を。
「私によく懐いてくれてるの、会社から帰ったらいつも出迎えてくれておトイレもちゃんとするしね」
「本当にいい子なのね」
「その子は」
「随分賢いみたいね」
「ええ、本当に賢いから」
 三咲は笑顔で話した。
「私も一緒にいられてよかったわ、けれどね」
「けれど?」
「けれどっていうと」
「悪い子でも命が助けられたら」
 それでというのだ。
「いいわよね」
「そこでそう言う三咲ちゃんに会えてよかったわね、その子」
「まさに神様の配剤ね」
「それでここに来て」
「これから新しい生活に入るのね」
「ずっと一緒で仲良く暮らしていくわ」 
 三咲はタロウを暖かい目で見つつ話した。
「これからね」
「ええ、そうしなさいね」
「折角出会えて一緒になれたから」
「それならね」
「そうしていくわ」
 笑顔で言ってだ、そのうえでだった。
 三咲は皆と乾杯してタロウにも声をかけた、犬にアルコールは禁物なのでお水をあげたが彼と共にこれから暮らしていこうと決意した。折角出会えて一緒に住める様にしたのだから。


命の為に   完


                    2020・2・26 
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