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雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ

作者:かびちゃ
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第九話 シアとミーナ



「とりあえず名前は?」

「早くしないとまたティラノモドキのとこに戻すからな」

マジックで俺たちの目の前に移動させたウサミミ二人に蜂起とハジメが問う。ハジメは脅迫にも見えるが、スルーだ。

「え、えっと‥‥‥。私はシア。シア・ハウリアです」

「シアね‥‥‥で、そっちの黒髪ロングヘアのウサミミは?」

「はい、ミーナ・ハウリアです。あの‥‥助けてくれてありがとうございます」

「とりあえず、何でそこにいた?」

「そうだよ。兎人族は樹海の奥深くにいるんじゃ‥‥」

俺もハジメに教えてもらったことを思い出し、シアとミーナに問う。兎人族は身分が低く、ひっそりと暮らしているはずなのだが‥‥。

「実は‥‥」

シアが説明を始めた。

シアたち、ハウリアと名乗る兎人族たちは【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。悪く言えば性奴隷だ。

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が二人も生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、シアの髪は青みがかった白髪で、ミーナの髪は黒だったものの、瞳が普通の兎人とは違った。吸い込まれるような、濃い青色だったのである。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族年もの間ひっそりと育ててきた。

しかし、亜人族は魔力を持つ者をとても嫌う。嫌うというか憎むに近いらしい。これまでも、魔力を持って産まれた子供は即刻処刑してたらしい。このままだといずれ見つかる。ならば一族で逃げ出そうということで、彼らは樹海から脱出したそうだ。
 
行く宛もない彼らは、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだというのだろう。

しかし、彼らの試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったらしい。

女子供を逃がすため男たちが追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれるか殺されてしまったと言う。

一族全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼らは、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

「‥‥俺たちを見つけた、と」

「はい‥‥最初は六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません‥‥。男は基本的にその場で見せしめのように殺され、女は帝国兵にその場で犯される‥‥そんな状況です」

「このままでは全滅してしまいます。どうか助けて下さい!助けてくれるなら何でもしますから!!」

「シア‥‥‥ごめんなさい。この娘、美人だけど残念なところがあって‥‥」

シアは残念美人で、ミーナはしっかり者。把握した。

「んで?蜂起どうすんのよ」

「助けるに決まってるだろお?」

「デスヨネー」

一応確認をしたが、即答で返ってきた。

「まあ‥‥助けるってことで」

「ほ、本当ですか!?」

「耳元で叫ぶな残念ウサギ」

ハジメがたまたま近くにいたらしく、うっとおしそうにシッシッと手を振る。

「残念美人か‥‥ミレディだな」

遠い目をするオスカー。

「ミーナちゃんもシアちゃんも可愛い‥‥これは弄りがいがあるな‥‥」

「ん‥‥楽しみ」

聖とユエが悪そうな笑顔を浮かべる。俺と拓人はアイコンタクト。互いの心情を察して苦笑いした。

「いつも通りですね拓人さん」

「いつも通りですなコウさん」

「そんなことより?」

「「おうどん食べたい」」

「だが俺はうどんが嫌いだあ!」

「だがもっと嫌いなのは‥‥」

「「無礼な襲撃者だよなあ?」」

そう言って俺はツェリスカを、拓人は戦車隊の砲台を襲撃者に向ける。勿論その先にはティラノモドキがいる。

「「ギャアア!?」」

頭が二つなので声も二つだ。

「吹っ飛べやあ!!」

「撃ち方始めえ!!」

ドガアン!!

ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!

俺と拓人が頭を一つずつ潰した。

「「グギャアアアアア!!」」

「うるせえよ」

ドガアン!!

俺はトドメにもう一発発砲した。

今度こそ絶命したティラノモドキ。オーバーキルだが気にしない。気にしたら負けなのだ。

「う、うそ‥‥‥あの魔物が瞬殺‥‥?」

ミーナが茫然といった様子で零す。

「こ、これなら父様たちを‥‥」

期待に染まった目でこちらを見るシア。

「うん、まあ助けるのはいいけど、二人の能力を教えてほしいかな」

俺は二人の固有能力が気になった。さぞかし凄いものなんだりうなあ‥‥‥。

「はい、私は『書き換え』でシアは『未来視』です」

「うん?書き換え?蜂起とミーナは能力が似ているんだな‥‥シアの能力も時間に少しでも触れることができる点では俺と似ているな」

「おい待て残念ウサギ。未来が分かるならなんで帝国兵なんかに見つかったんだよ」

ハジメが最もなことをツッコむ。

「じ、実は‥‥ミーナの恋路が気になりまして‥‥」

「その様子だと連続で使えないみたいだな。アホかお前は」

呆れた目でシアを見るハジメ。ミーナも溜息をついた。

「‥‥だからあなたは残念なのよ」

「「「「「「「確かに」」」」」」」

シア以外の全員が納得した。

「うう‥‥そこまで言われるとぐうの音も出ないですぅ‥‥」

「あ、そうだ。なんで俺たちを見た途端に助けを求めたんだ?」

そう、二人は俺たち(主に俺と蜂起)を見た瞬間に助けを求めてきたのだ。まあ強制的に見させたの方が正しいが‥‥。

「それは未来視で見たからですよ。お二人が帝国兵相手に戦っているのを‥‥」

「俺と蜂起がね‥‥じゃあ他の人は見えなかったのに警戒心もなく近寄ってくるのは?」

「お二人の仲間なら警戒することもないかなーと」

チョロいやつだ。あっという間にチョロインできそう。

「まあ、それよりもお前の家族はどこにいる?」

「は!そうでした!!」

「シア‥‥」

「とりあえず蜂起はミーナと一緒にJu-00に、シアは俺と来い」

「了解ですぅ!」

「コウ‥‥‥」

「ユエ、悪いな‥‥。後で構うから許してくれ」

「ん‥‥いっぱい構って」

‥‥最愛は千秋で、特別は聖。ユエはおそらく若芽ポジになる。そんな予感がした。

「とりあえず後ろの席に座れや。向きは‥‥座りやすければどーでもいいや」

「は、はい。それと‥‥これはなんですか?鳥みたいですけど‥‥‥」

「あー‥‥それは道中説明する。それより早く乗れ」

俺はシアを座席に押し込んだ。そして自分も搭乗する。

「あー、蜂起?聞こえるか?」

俺は取り付けてある無線を使う。電波受信型なので、魔力を使うことはない。

『おう、聞こえてるぞ。ミーナを乗った』

「よし、それじゃあ‥‥‥リリースブレーキ、レディ?」

『オーケー』

「ナウ!」

スロットル全開!そしてJu-00はかなりの速度で動き出した。

「シア、シア聞こえるか?」

俺は後部座席に繋がっている通信機を使って安否を問う。仕組みは糸電話のようなものだ。
‥‥別に受話器は紙コップではない。

『は、はい。それにしても凄いですね!お空を飛んでいますぅ!』

「しかもこいつ、滅多なことじゃ壊れないからな。便利なアーティファクトだ」

『そうなんですねぇ』

「あ、お前の座席の近くに長い棒みたいなのがないか?」

『長い棒?ええっと‥‥ああ、ありました』

「それに引き金がついてるのは分かるか?」

『は、はい‥‥それがどうかしましたか?』

「それを引いたら細かい魔力弾がたくさん飛んでいく。魔物が近づいたら狙いを合わせて引き金を引け」

『了解ですぅ!』

「っと‥‥もう接敵するみたいだな」

見ればエアライドマシンに乗った人たちは速度を上げて突撃を開始している。目を凝らすと、黒い粒みたいなのが宙に浮いているのが見えた。

「あれだな‥‥よし!」

俺は機関砲発砲準備をする。

「シア!そろそろ接敵だ!構えろ!!」

受話器に叫ぶ。

『はいですぅ!』

元気な声が聞こえる。接敵まであと三十秒ほどだ。徐々に魔物の姿も見え始めた。見た目はワイバーンといったところか。さらによく耳をすませば怒号みたいなのも聞こえる。間違いなく、そこにハウリアがいるみたいだ。

と、その時。

蜂起の乗ったJu-00が速度を上げてワイバーンに突貫するのが見えた。見ればエアライドマシンに乗った人たちもワイバーンを殲滅しにかかっている。

「俺も‥‥‥だ!」

俺は操縦桿についた発射ボタンを‥‥。

「距離450‥‥発射!」

カチッ

ドガがガガガガガガガガガガガガ!!!

機関砲が火を吹いた。

「キィィィイ!?」

一瞬で風穴だらけになる。流石30機関砲。強力である。

ガガガガガガガガガガガガガガガ!!

後ろからも銃声が聞こえた。おそらくシアが発砲したのだろう。ワイバーンは図体がデカイので当てるのも簡単にいくはずだ。

「そら、もう一体!」

再び発射ボタンを押す。

ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

「キィィヤァ!?」

やはり一瞬で撃墜できた。みればみんな撃墜をしているらしい。あっという間にワイバーンが片付いた。

『あ!コウさん、着陸してもらってもいいですか?』

「ん?ああ‥‥あそこか。了解」

固定脚‥‥ではなく収納した脚をボタン一つで取り出す。固定脚なら便利なのだが、速度がどうしても落ちてしまうので断念した。別に旋回能力は下がらないのになあ‥‥。

ギャッ! キィィイ!!

ブレーキをかけて機体を止める。と、同時にシアが家族たちの元へ走っていった。

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

「「「「「「シア!?」」」」」」

「みんな!無事でしたか!」

「「「「「ミーナ!?」」」」」

「シア!ミーナ!二人共無事だったのか!」

「父様!」

「父様‥‥‥すみませんでした」

真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアとミーナに父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、俺たちに向き合った。

「コウ殿と蜂起殿で宜しいか? 私は、カム。シアとミーナの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

「まあ、何かの縁だ。最後まで強力するさ。まあ樹海を案内するという条件付きではあるけど‥‥」

そう、俺たちはシアとミーナに助ける対価として、樹海の案内を頼んだのである。

「それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

カムは、それに苦笑いで返した。

「シアとミーナが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

「「お、おう‥‥」」

なんとも微妙な気分になる。もしかしたら兎族自体チョロい種族なのかもしれない。ハウリアだけかもしれないが‥‥‥。

「それより、帝国兵はどの辺りにいる?ついでに蹴散らしたいのだが‥‥」

蜂起がなんとも物騒な、しかし格好良いことを言う。ミーナに良いとこ見せたいのかもしない。

「帝国兵でしたら、こちらの方です。ここから脱出するなら、どちらにしろ通らないといけないですね‥‥」

「構わないさ。俺たちは少し腕に自信があるんでね。簡単にはやられはしない」

「それなら安心です。では、案内しますので着いてきてください」

そう言うとハウリアたちが歩き始めた。

「ハジメ、ドンナーとシュラークを」

「あいよ。コウもツェリスカを」 

「コウ‥‥」

「なんだユエ」

「‥‥おんぶ」

「は?」

「おんぶ」

「おんぶって‥‥‥ああ、構うってことか」

さり気ないユエのアピールに思わず苦笑いしてしまった。

「まあいいよ。ユエ軽いし」

ユエは身長140cmぐらい。体重もそれに比例して軽い。

「ん‥‥‥」

ピョンと背中にしがみつくユエ。なにか柔らかいモノが当たってるが気にしない。
ちなみに身長のせいでユエは「ない」と思われがちだが、実際は着痩せするタイプらしい。なんで知ってるか?あいつがオスカーの住処で裸で寝てたからである。

俺 の 隣 で


「軽いなしかし‥‥‥」

歩きながら呟く。もちろんそれはユエに丸聞こえだ。 

「ん‥‥褒め言葉」 

「仲が良いですね。シアのことはどう思ってます?」

カムに聞かれた。まあ、気になることなのだろう。

「うーん‥‥まあ美人なんじゃないか?街に連れ出したら男ホイホイだろ」

「えへへ‥‥嬉しいですぅ」

「はっはっは、シアは随分とコウ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、コウ殿なら安心か……」

「‥‥蜂起さん」

「ん?なんだミーナ」

「私のことはどう思いますか‥‥?」

「可愛いと思うぞ。なんならお嫁にもらいたい」

(お、告白か?)

「お、お嫁‥‥‥そ、そんなに私は‥‥」

「いや、可愛い(キッパリ)」

「うう‥‥恥ずかしいです‥‥‥」

「俺、一目惚れだったな」

「‥‥‥(顔真っ赤)」

怒涛の押しにミーナは顔が熟れたリンゴみたいに真っ赤である。

「‥‥そ、その‥‥‥もし特別に思っていただけるなら私は嬉しいです‥‥」

「まあ出会ってすぐでこんなじゃ混乱するよね。でも俺はもう君しか目に映らないや」

「あぅ‥‥‥」

(蜂起、あと一押し)

(回りくどく言わないでストレートに!)

俺と聖が発破をかける。

「カムさん、こんな俺ですけど、ミーナさんをくれませんか?」

(そっちかよ!)

「ふむ‥‥ミーナが良いと言うなら」

「父様!?」

「お前の意見が重要だろ?ちなみに私は賛成だ」

「うぅ‥‥‥そ、その、蜂起さん。ここだとみんなが見ていて恥ずかしいので、後で二人で話す時間を頂いてもいいでしょうか‥‥?」

「構わないよ。それと帝国兵が見えてきたな」

「ハウリアたちはみんな固まって。俺たちが戦うから安全なところにいろよ?」

「こっちは魔法のエキスパート二人と戦闘慣れした五人だからな。心配するな」

「オスカー。あれ、完成したか?」

「うん、ちょっと待っててね‥‥‥ほら」

オスカーが取り出したのは、新武器アヴェンジャーの銃身だ。とても終わりそうになかったので、オスカーに後は丸投げしたのである。

「おう、ありがとな」

「僕の天職は錬成だからね。これぐらいなんてことないさ。まあ戦うのは苦手だけど、なんとかするよ」

とか言いながらオスカーの装備もとんでもない。属性攻撃ごとに分けられた投擲小刀や傘をモチーフに作られた最上級防御魔法を発動できるものなど多数所持。さらに身につけているメガネも先行弾並みの光を発光し、目潰し等に使えるというスグレモノだ。

(チートだらけだな、うん)

改めてそう思う。ちなみにこの世界では、勇者の光輝のスペックがチートらしい。それならば、俺たちは化物としか言いようがないのだが‥‥‥。

「おっと‥‥この階段登りきったら帝国兵と接敵だな。ユエ、降りてくれ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん」

長い間はさておき、ユエが俺の背中から降りる。俺はアヴェンジャー専用の弾薬を取り出し、装填。いつでも発砲できるようにする。

そして、階段を登りきった。やはりそこには三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、俺たちを見るなり驚いた表情を見せた。

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

驚いたのは一瞬。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。


「小隊長! 白髪の兎人と黒髪蒼眼の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

帝国兵は、兎人族たちを完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性たちに向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

見かねておれと蜂起が一歩進み出た。

「あぁ? お前らは誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「ああ、人間さ」

「お前の目は節穴かい?耳がついてないだろうが」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

「こいつらを渡せば、それ相応の金は払うのか?」

「あ?ああ、もちろんだ。それ相応には払うが‥‥‥」

「フフフ‥‥だってよ、蜂起」

「ああ‥‥結構な取引だなあ」

俺たちはニヤニヤと嘲笑う。その顔が気に入らないのか、小隊長の眉がピクピクと動く。


「「だが、断る」」

「‥‥‥なに?」

「そんな条件呑むわけねえだろバーカ」

「脳味噌あるのかよ塵カス」

「あ、そうかあ。犯しすぎて頭がお花畑なのか!」

「それだな!」

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺たちが誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「脳味噌すっからかんのお前には言われたくないな」

俺の言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で俺と蜂起を睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、俺の後ろから出てきた聖とユエに気がついた。幼い容姿ながらも艶のある少女と、白髪の美人なお姉さんの登場に一瞬呆けるものの、再び下碑た笑みを浮かべた。

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇらが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんたちはえらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

その言葉にブッチきた。蜂起も表情を無くす。

「勧告だ。今の言葉をすべて取り消せ。そして今すぐこの場から消えろ」

「さもなくば、全員殺す」

最終通告。しかしそれを小隊長は無謀にも突っぱねた。

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇらは、震えながら許してくださいと膝をつけばいいんだよ!!」

「あっそう」

俺はアヴェンジャーを構えた。

「時止」

時を止める。そして小隊長の顔面に銃口の一つを押し当てた。

「解除」

と、同時に引き金を引いた。

キィィィィィィィィィィィィィィ‥‥‥‥

銃口が回転し、毎分200000発のペースで小隊長の頭を撃ち抜く。

ものの数秒で、小隊長の顔は見るに耐えない顔になった。俺はさらに後ろにいた魔法使いたちにもそのまま発砲を続ける。

一瞬にして崩れ落ちる魔法使いたち。それを見て、ようやく兵士たちが半ばパニックになりながらも、武器を俺に向ける。

が、敵は俺だけではない。

「蜂起」

「記憶抹消“戦意”」

その言葉と共にノートに何かが書き込まれる。

「あ、あれ?俺たちなんで武器を?」

「そうだよな‥‥なんでだ?」

混乱する帝国兵。それを見た蜂起から追い打ちがきた。

「記憶抹消“生”」

すると、帝国兵が突然前のめりに倒れた。続けて一人を残して帝国兵が全員前のめりに倒れた‥‥‥。


「‥‥さて、お前にはちょっくら悪夢を見てもらうぞ‥‥‥‥」 


蜂起のドスの効いた声がよく響くのだった‥‥‥。


 
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