| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

緋弾のアリア 〜Side Shuya〜

作者:希望光
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3章(原作3巻) 可能性の道標(アウトレンジ)
  第22弾 少女との再会(ミッシング・リンク)

 
前書き
第22話です。 

 
 ———鼻をつく消毒の様な匂いで目を覚ます。
 俺は、どうなっていたんだ? 
 確か、周二と戦って……倒した後……? 

「……あいつは?!」

 ハッとした俺は、思わず上体を起こした。

「……落ち着いて。周一君の弟なら、周一君達が尋問科(ダギュラ)に連れて行ったから」

 俺の傍に座っていたマキが、そっと答えてくれた。

「……マキ。ここは?」
「武偵病院の病室だよ。シュウ君、気を失っちゃって……」

 そこまで言ったマキは、俺の胸に顔を埋めてきた。

「……良かった。また、あの時みたいな事になったから……」
「悪い……」

 俺はそっと、マキの可憐な躰を抱いた。
 俺よりも小さい、その守ってやらなきゃいけない……俺の守りたいと思うその人物を。

「……ごめんね。私を守るために……」
「マキが気にすることじゃ無いさ……」

 俺の返答を聞いたあたりで、マキもそっと俺の背面へと腕を回した。
 その細い腕は、俺を離すまいと力強く俺を押さえつける。
 その際、先の戦闘で負った傷を痛めた。

「……イテッ」
「あ、ごめんね……」

 マキは反射的に腕を離して、俺から距離を取る。
 だが、俺はそのマキの体を抱きとめた。

「……いいさ。マキを守れた証拠だから」

 俺はそう言って、彼女を抱く力を少しだけ強めるのだった。
 対するマキは、ふにゅ……などと呟きながらも、再び抱き返してくるのだった。

「……あ」

 俺はそんな空気をぶち壊す様な、素っ頓狂な声をあげた。

「……どうしたの?」

 顔を上げたマキが訪ねて来た。

「閉会式……」

 俺は本日行われる閉会式の、裏方の責任者を請け負っていた。
 その閉会式はもう直行われるであろう。
 だが、そんな場面に責任者である俺がいない。

「ヤベ……どうするか」

 不測の事態に陥った俺は、頭を抱えた。
 少なからず、今直ぐにでもここを出るのは不可能であろう。
 なんせ、この怪我なのだから。

「閉会式なら、周一君が代わりに入るって……」
「マジで?」
「うん。だから、今はゆっくり休めって」
「そうか……」

 俺はそう呟くと、再びベッドに横たわった。

「アイツには、いつもいろんなことで世話になってるな」

 誰にとなく、俺はそう呟く。
 この前の……水蜜桃の時だって、事後処理やってくれたのはなんだかんだアイツだったしな……。

「また、借りが出来ちまったな」
「そんなこと言ったら、私だってシュウ君に借りが沢山あるよ」

 マキはそう言葉を返すのであった。

「そうなのか? あまりそう言うことした記憶無いけどな……。まあ、後でゆっくり考えるかな」

 俺はそう言って、ベッドに横になるのだった。
 マキはベッドから降りて、真横にあった椅子に腰掛けた。
 俺はふと、マキに声をかけるのだった。

「マキ」
「ん、何?」
「何か、やりたい事とかあるか?」

 俺の質問が予想外だったらしく、マキはキョトンとしてしまうのであった。
 そのままの状態が暫く続いたが、我に帰ったマキが慌てた様子で尋ねてくるのだった。

「え、えーっと……そ、それはどう言う意味?」
「そのまんまの意味だけど」
「な、なんでそんな急に」
「その……今回と言いこの前と言い、マキに心配ばかりかけたことに対する償いかな」

 俺の言葉を聞いたマキは、少しばかり考え込んでいた。
 そして、口を開くのであった。

「……じゃあ今度、一緒に出掛けよう?」

 マキの言葉に、俺はそっと頷いた。

「分かった。ただ、俺の体がしっかり治ってから……になるかな」
「うん。今のシュウ君は、安静だもんね」

 マキはそう返してくれた。
 やっぱり、優しいよな。うん。何処ぞのピンクツインテ武偵も、マキのこと見習って欲しいね。本当。

「その……何処に行きたいか、決まったら言うね」
「ああ」

 俺はそう言葉を返すと、意識を手放すのだった———





 翌日、退院した俺はマキに付き添われながら鑑識科(レピア)を訪れていた。

「ええっと……いたいた」

 周囲を見渡していた俺は、探していた人物を見つけた。

「……シュウヤか」
「何でそんな沈んでんだよ。周一」

 俺が探していたのは、昨日共に『妖刀(クラウ・ソラス)』を撃退した周一である。

「いや、少しな……」
「やっぱ気になるのか、周二のこと?」

 周一は少し俯きながらこう答えた。

「まあ、な」
「たった1人の、弟だもんな」

 俺の言葉に、周一は力なく頷いた。

「ま、その辺はあまり心配しなくてもいいかもな」
「……どうしてそう言い切れるんだ」
「———“勘”、だって言ったら信じるか?」
「そんな無責任な事、信じられねえよ」

 その返答を聞いて俺はフッ、と笑うのだった。

「そうか。その調子なら心配無いな」
「……は?」

 首を傾げる周一を他所に、俺は踵を返した。

「さて、俺はこの後用事があるからお暇させてもらうよ」

 それだけ告げ、俺はマキと共に鑑識科を後にした。
 さて、お仕事と行きますか———





 数時間後、俺はマキと共に強襲科(アサルト)に居た。
 病み上がりの身体をなんとかするためのトレーニングを行うためだ。
 現在は射撃レーンで練習をしていた。

「……外れる」

 俺はボヤきながらDE(デザート・イーグル)から2射目を放つ。
 放たれた弾丸は、的の中心から僅かに逸れる。

「中心から3.5mm左に逸れてるよ」
「マジか……。誤差としてみればデカイな……」

 マキにそう返しながら、第3射目を放つためにDEを構え直す。
 そして、引き金(トリガー)を引く。

「着弾……っと。位置は?」
「今回はど真ん中」
「よし。今日はこの辺にしておくか」

 俺はそう言って、DEをホルスターにしまった。

「このまま帰る?」
「そうだな。特に寄るところもないし」
「あ、じゃあさ———」

 そう言ってマキは俺の前方へ歩いて行くと、振り返ってこういうのだった。

「この後、打ち上げ行こ?」
「え、なんの?」
「アドシアードの」

 ダメ? と言った表情で、マキは答えるのだった。

「……誰が来る?」
「凛音と歳那と周一君かな」
「分かった。案内してくれ」
「うん」

 そう言葉を交わすと、俺とマキは強襲科棟を後にするのだった。
 そして、マキに連れられゆりかもめに乗車した。

「……これ、どこまで行くんだ?」
「豊洲かな」
「結構遠いな……」

 俺はマキと共に車両に揺られながら、車窓を眺めていた。
 流れゆくビルや臨海部。
 ボーッとそれらを見つめていると、到着のアナウンスが入る。

「行こ」

 マキにそう言われ、俺は車両を降りる。
 そして、改札を潜りゆりかもめの豊洲駅近くのファミレスへと入っていくのだった。

「あ、来た来た」

 店に入ると、入口から近いところの席に周一、凛音、歳那の3人が座っていた。
 俺とマキは、その席へと向かう。

「遅かったね?」
「うん。ちょっと色々やっててね」

 凛音の言葉に、マキがそう返す。

「シュウヤさん、怪我の方は?」
「万全じゃないが取り敢えずは大丈夫」

 俺は周一の隣に座りながら歳那の問い掛けに応じる。

「というか周一がいるの、意外だな」

 傍らの周一にそう言葉をかける。

「いたらダメか?」
「いんや、寧ろいた方が楽しいけどな」
「そうか」

 そう言って窓の外へと視線を向けた周一。

「素直じゃないな」

 軽く笑いながら、周一へと言葉をかける。

「余計なお世話だっての」

 こちらを向かないまま、周一は言葉を返すのだった。

「で、えっと……何か頼んだのか?」

 俺は凛音へと問い掛けた。

「うん。もう頼んであるよ」
「早すぎるだろ」
「元々何頼むか決めてたからね」
「……なるほどな」

 俺は凛音の言葉に納得する。
 そして暫くすると、テーブルの上に料理が運ばれて来る。

「……え、多くね?」

 運ばれてくる料理の多さに俺は戸惑う。
 そんな俺の目の前で、テーブルはみるみるうちに料理で埋め尽くされた。

「———ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

 店員の問い掛けに歳那が頷く。
 それを見た店員は、伝票をテーブルの横に挿すと『ごゆっくりどうぞ』と告げ店の奥へと消えていく。

「———さて、揃ったし始めよっか」
「お、おお……?」

 得意げな表情になった凛音に、俺は戸惑いながらも返事をする。

「じゃあ、えっと、アドシアードお疲れ様!」
「……お疲れさん」

 普段より若干高い位のテンションで、周一が答える。
 俺はその横からこう付け加える。

「後、『妖刀』の件もだろ?」
「だね。じゃあその両方、お疲れ様でした!」

 そう言って凛音は、グラスを掴み掲げる。

「「「「お疲れさん(お疲れ様)(お疲れ様でした)(お疲れ)」」」」

 それに合わせて俺達もグラスを掴み同様に掲げる。

「あー……今更だけど、冗談抜きで疲れたわ……」

 俺はグラスを置きながらそんな事をぼやく。

「……具体的には?」
「ん、そうだな……例えば、どっかに消えた誰かさんを探し回ったり、とんでもない奴と斬り結んだり……」
「て、それ1つ私のことじゃない!」

 俺の言葉に噛みついてくる凛音。
 ———あ、一応自覚はしてたんですね。いや、逆か。
 凛音があんなことするとしたら、まずはこっちのことを心配してからか。

「まあな。マジでお前がいなくなった時大変だったんだぞ?」
「それは……確かに悪かったとは思ってるけど……」
「ま、無事だったから良かったけど。前にも言った通り、もっと頼って欲しかったね」
「その……ごめん……」
「もう良いって。そんなことより早く食べないと……じゃない?」

 俺は眼前の料理に視線を落としながら尋ねる。

「そうだね。せっかくの料理が冷めちゃもったいなもんね」

 そう言って俺に同調してくれるマキ。
 しかしながらその視線は……じ、ジト目? 
 アレ、俺なんかやりました? 
 なんかわからないけどすいません……。だから、その目はやめて。

「……いただきます」
「おま……腹減ってたんだな……」
「ああ」

 そう言って、目の前にあったピザを取る周一。
 普段からは想像がつかない光景に、俺は思わず頬が綻ぶのだった。
 そんなことを思っていると、俺の頭をある1つの事柄が過ぎる。

「あ、そうだ」
「……どうかしたの?」

 俺の呟きに凛音が反応を示す。

「今、俺の部屋に凛音の荷物あるけど、いつ取りに来る?」
「……え?」
「え?」

 え、なに。なんでこの子『何言ってんの』みたいな顔してるの? 

「あれ、私言わなかったっけ?」
「何を?」
「依頼終了後も住み込むって」

 ……は? 
 今コイツなんて言った? 

「え、住み込む?」
「うん」

 聞き間違いじゃなかったか……。

「いや、なんで?」
「え、荷物の移動面倒だし」
「いやそこ、面倒がらないでよ」
「いいじゃん」
「ダメ……」

 俺は頭を抱えながら、凛音に言葉を返す。

「ならマキはどうなの?」
「……ッ」

 痛い所を突かれた俺は反論できなかった。

「マキが住むなら、私達(・・)が住んでも大丈夫だよね?」
「私……達……?」

 凛音の言葉に、俺は首を傾げる。

「私のことです」
「え、歳那……も?」
「はい。何か不都合でも?」

 キョトンとした顔で首を傾げる歳那。

「いやいや、大アリだから」
「そうですか。それなら問題ありませんね」
「オイ待てぇ。人の話聞いてたか」
「ええ。ですが、シュウヤさんがそう言う時は、大抵は問題ないので」
「諦めるんだなシュウヤ」
「周一?!」

 予想外の方から飛んできた言葉に、俺は大いに困惑する。

「ああなった凛音と歳那は止めようがないからな」
「他人事みたく言ってくれるな……」
「だって他人事だもん」
「周一ィ!」
「シュウ君落ち着いて」

 周一に飛びかかろうとする俺であったが、いつの間にか隣にいたマキに羽交い締めにされ止められる。

「マキ離せ! 俺はこいつを1発殴らないと気が済まないんだ!」
「……シュウ君?」

 捥がく俺に対して低いトーンの声で呼びかけてくるマキ。
 その声を聞いた瞬間、俺の中の本能が警報(アラート)を鳴らす。
 ここでマキに従わないと、命が危ないと。

「……なんか、ごめん」

 一瞬で闘気を削がれた俺は、全身から力という力が抜ける。
 ヤベェ……久々マキのあの声聞いたわ……。

「分かってくれればいいよ」

 そんなことを思う俺の傍らで、いつものトーンに戻った声でマキは言葉を返してくれる。

「でも、次はわかるよね?」
「はい……」

 力なく返事する俺。
 そんな俺とマキのやりとりを見ていた3人はというと———ドン引きしていらっしゃるじゃあないですか。

「ん? どうかしたの?」
「いや……2人は前に何かあったのかなぁ……って。特にシュウヤ」
「聞かないでくれ……」

 俺は左手で顔を覆いながら凛音に言葉を返す。

「とりあえず、食おうぜ。冷め始めてるし」
「そうね」

 周一の言葉に同調する歳那。
 それに続くかのようにマキと凛音も頷く。
 そんな中、俺は制服の内ポケットから1枚のカードを取り出すと凛音へと渡す。

「これ……」
「これは?」
「403号室の鍵。好きにすればいいさ」
「ありがとう!」

 そう言った凛音は、歳那とハイタッチを交わす。
 そこまで嬉しいの……? 

「はぁー、もうヤケになるしかないわ……」
「程々にね?」
「肝に銘じております」

 マキとそんなやりとりをしてから、俺は目の前のピザに手を伸ばす。
 と言った具合で開幕した打ち上げは、この後4時間ほど続くのだった———





 翌日、強襲科を訪れている俺。

「はぁ……参ったなぁ……」
「どうしたんですか先輩?」

 そう尋ねて来るのは俺の戦妹(アミカ)である璃野。

「いや、昨日色々あってな」

 打ち上げの後、凛音と歳那の部屋から必要なものを運んだり、今度は今度で2人の歓迎会をやったりと忙しかった。
 てなわけで、やや疲れ気味な本日の俺。
 それに気づいたらしい璃野がこんなことを口にする。

「先輩その……無理なお願い……しちゃいましたかね?」
「そんなことないさ」

 俺は璃野の言葉を即座に否定した。

戦妹(いもうと)の頼みを聞くのは戦兄(あに)の使命だからな。だから、璃野が気にすることじゃないさ」
「先輩……ありがとうございます」

 満面の笑みで言葉を返す璃野。
 俺はそんな彼女を見て一安心した。

「良いさ。で、今日は何するか……」
「先輩、その、よろしかったらですけど、先輩の戦闘が見てみたいです」
「俺の戦闘(たたかい)……?」

 力強く頷く璃野。
 それを見た俺は、少し考え込む。
 俺の戦闘を……か。
 確かに直接見て学ばせるのは悪くない。

「なるほどな……」

 ただそれを行う場合、俺と同じぐらいの強さ人間でないとできないんだよな……あ、勿論今の俺と同じ強さのやつね。
 そんなことを考えていると、不意に声がかけられる。

「あ、シュウ君」
「……ん、マキ?」

 振り向いた先にいたのはマキ。

「どうしたんだこんなところで?」
「んっとね、さっき戦姉弟(アミカ)契約を交わした子を教えにね」
戦弟(アミコ)……?」

 俺はマキの背後へと視線を向ける。

「あ、樋熊先輩。ご無沙汰です」
「ゆ、勇輝……?」

 そこにいたのは以前、俺に戦兄弟(アミコ)契約を申し込んできた篠田勇輝。

「お前、マキと組んだのか」
「はい。2日程前に申請を出してさっき試験で受かってきました」
「なるほどな」
「そういうこと。シュウ君は?」
「俺も似たり寄ったり……かな」

 そう返した俺は、とあることを閃く。

「なあマキ」
「なに?」
「勇輝になに教えるか決まってるのか?」
「特に決めてないけど」
「じゃあさ……俺と手合わせしてくれない?」

 その言葉に、マキは驚いていた。

「え、何で急に?」
「いや、璃野に戦闘を見せて欲しいって言われたんだけどさ……」
「同じレベルの人が居ない、ってこと?」
「まあ、ご名答」

 後は、模擬戦なら身近なやつの方がやりやすいってのもあるけどね。

「なるほどね……。うーん、でも……」

 そう呟いたマキは、勇輝へと視線を向ける。
 それに気付いた勇輝は、こう言葉を返す。

「自分も、先輩方の戦いを見てみたいです」
「そっか……うん。わかった」
「ありがとう。じゃあ、移動しよう」
「だね」

 俺達は、強襲科内にある闘技場へと移動する。
 ガラスに覆われたそこは、闘技場の名に相応しく、地面(フィールド)と壁以外何も無い。
 そこへ入る俺とマキ。
 入ると同時に、扉が自動でロックされる。
 さてと……決着が付くまでは出ることは許されないな。
 俺はある程度のところまで歩くと、マキと相対する。

「久しぶりだね。こうして向き合うのは。
「だな。最後にやったのは神奈川の時か?」
「そうだね」

 そう返したマキは、ホルスターからグロック17を取り出し、左右の手に1挺ずつ握る。
 対する俺も、『低反動モード』にセレクターを入れたDEを左右に1挺ずつ握る。

「手抜きは無しだからな」
「勿論。シュウ君もだよ」

 そう言って互いに、口角を釣り上げ、銃口を向け合う。
 俺は合図を頼む為に、ガラスの向こう側へと視線を向ける。
 そこには、いつの間にか集まっていた多数の生徒がいた。

「なんか見られてんなぁ……」
「私たちの戦いが気になるんじゃないかな?」
「見せ物じゃねぇんだぞ……」

 ため息を吐く俺。
 つーか蘭豹、なんで酒を片手に『はよ殺し合えー!』って言ってんだよ。
 他の生徒を散らばらせろよ。
 俺は担任(蘭豹)に内心で悪態付きながら、璃野へこう告げる。

「璃野、開始の合図を!」
「はい! 始めてください!」

 璃野の合図により始まった俺とマキの模擬戦。
 俺は合図と共に右前方へと飛ぶ。
 同様にマキも前方へと飛んでいた。

 俺はその着地の隙を狙って左右のDEを放つ。
 しかしその攻撃は読まれていたらしく、地面に手をつくと同時に腕の力のみで前宙を決め攻撃を退ける。

 そしてマキは、前宙の途中でグロックを俺目掛けて放つ。
 オイオイマジかよ……! 
 俺は敢えてバランスを崩し、今度は左前方へと体を倒す。
 そして、地面から足が離れると同時に膝を折り抱え込むようにして転がる。

「シュウ君流石だね」

 そう言ったマキは、拳銃を手にしたまま俺の方へと向かって来る。
 対する俺は、体勢を立て直すとその場で動くことなくマキを迎撃するため、DEの引き金(トリガー)を引く。

 銃口から放たれた50.AE弾は、真っ直ぐにマキの元へと向かっていく。
 マキはと言うと、体を軸回転させながら弾幕を潜り抜ける。
 その動きを見た俺は驚愕する。

「な……神回避(エスケープ)……!」

 マキが行ったのは、俺のバーストモード時に於ける技『神回避』。
 まさか、俺が軽くやったのを見ただけで真似たってのか……。

「マジかよ……」

 俺は苦笑しながらもDEのトリガーを引き続ける。
 マキは相変わらず俺の弾を退けていく。
 そしてそのまま、近接拳銃戦(アル=カタ)に持ち込まれる。

「貰った」

 下段から突き出されるグロックの銃口。
 俺はマキが引き金を引くのと同時に、腕ごとグロックを払い除ける。

「ぶねぇ……」

 ボヤきながら俺は、DEの銃口をマキへと向け引き金を引く。
 対してマキは、先ほどの俺と同様にして銃撃を退ける。

「やらせないよ」
「同じく」

 言葉を交わした俺達は、向けては弾き、躱しては放つの繰り返しで、互いに一歩も引かぬ攻防を繰り広げる。
 すると突然、俺のDEが空砲を放つ。

「弾切れか!」
「そこ!」

 一瞬の隙を見逃さずに襲いかかって来るマキ。
 俺は咄嗟の判断で両手のDEを破棄すると、マキの左右の腕を脇腹とそれぞれの腕で抱え込み、グロックを自身の後方へと向かせる。
 直後、反射的に引き金を引くマキ。
 数回の銃声の後、それは空砲へと変化する。

「お互い弾切れだな」
「そうだね……」

 言葉を返してきたマキは、不敵な笑みを浮かべ頭を後ろへと振りかぶる。
 コイツまさかヘッドバッドする気か……! 
 それを察知した俺は、プロレス技のスープレックスのモーションを行う。

 そしてマキを地面にぶつけた瞬間、その勢いを逆手に取られ俺が巴投げの要領で投げ飛ばされる。
 投げ飛ばされた俺は、受け身を織り交ぜながらその勢いを利用し、マキとの間合いを開く。

「今の返すのかよ」
「そっちこそ、何事もなかったかのように受け流すよね」
「どうだか」

 言葉を紡ぎながらの俺は、ホルスターからベレッタを左右1挺ずつ抜き出(ドロー)し構える。
 対面のマキも再装填(リロード)し終えたらしく、再度グロックを構え直しこちらへと向かって来る。

 俺はマキが向かって来る僅かな時間で、自身の思考を極限値まで引き上げる。
 そしてやや強引に沈黙の解答者(サイレントアンサー)へと変化させる。
 少し甘いが……いけるか? 
 完璧にとはいかなかったが、サイレントアンサーへと変化できた俺は、フルオートに切り替えたベレッタを掃射していく。

「……?」

 俺の射撃の違和感(・・・)に気付いたらしいマキは、眉を潜める。
 勘付くまでが早いね。流石だよマキ。

「でも……抜けられるかな?」

 誰にとなく呟きながら、俺はベレッタを放っていく。
 放たれた弾丸は壁に当たり、跳ね返り後続の弾丸へと当たる。
 ぶつけられた弾丸は、進行方向を下へと向け地面に跳弾する。
 今度はその後ろから飛来した弾丸が、地面に跳弾した弾の脇から衝突し、進行方向を斜めに変えていく。

「まさか……」
「見ての通り、さ」

 俺が今マキに行っているのは、先日周二に放った連鎖的に引き起こされる銃弾の衝突により、弾幕による包囲網を作り上げるあの技、『空間撃ち(パラレル)』。

「やられたみたい……」

 そう言って苦笑するマキ。
 だがしかし、その顔から戦意は消えていなかった。
 寧ろ、強まっていた。

「でも———負けてないよ」

 そう言ってマキは、左手のグロックをホルスターに仕舞うと、背面から1本の刀を抜き一剣一銃(ガン・エッジ)になる。
 あれは……炎雨か。

 直後、俺の目線の先にいるマキは、グロックを2発弾幕に打ち込むと即座に走り出す。
 俺はそれによって弾かれる弾を、銃弾撃ち(ビリヤード)で弾き返す。
 その数瞬の後、均衡を保っていた弾幕が崩壊し始める。

「な……」

 突然のことに戦慄する俺。
 そんな俺に対して、不敵な笑みを向けて来るマキ。
 なるほど……な。

「……謀ったね」
「うん。シュウ君の先を読んでね」

 本当……こっちの俺(サイレントアンサー)を逆手に取るなんて、どこまでも凄いよ。マキは。
 でも、それだけじゃこの弾幕は突破できないよ。

「普通なら、あれだけの事じゃ、この弾幕は突破できないよね?」
「だな」
「でも、私にはあるよ。突破するための算段が」

 マキは俺にそう告げ走り出し、再びグロックを放つ。
 そして弾幕の中に道を築き上げる。
 俺はマキが出て来る地点を先読みし、真正面に回ると左手のベレッタの残弾を全て撃ち出す。

「お見通し!」

『空間撃ち』による弾幕の中から出てきたマキは、左手に握った炎雨を横一文字に振りかざし、俺が新たに放った弾丸を切り裂く。
 そして切り裂かれた弾丸は、別の弾丸に当たり分散していく。

 これも退けるのか……。
 唖然とする俺の手前、再度地面を蹴ったマキがこちらへと突っ込んでくる。
 そしてマキと交錯する瞬間、俺は左右のベレッタを反射的に投げ捨てながら、マキの一撃を退け間合いを開く。

「……」
「……」

 互いに無言の中、俺はマキの方へと振り向く。左手に刀を握りながら(・・・・・・・・・・)

「……私の氷華、今の一瞬で抜き取ったんだね」
「まあ、な」

 交錯した僅かな時間で、俺はマキの背面に背負っていた刀『氷華』を抜き取った。『相鋏(あいばさみ)』という、平山に伝わる技で。

 この相鋏という技は、『鳶穿ち』と呼ばれる相手の内臓を抉る技を原型にした技。
 本来鳶穿ちは片手で行うものだが、うちの先祖はこの技を完全に真似ることができなかったため、両手で行う相鋏という別の技として仕上げたそうな。

 俺は更にその技を、相手の服の内側などのものを奪う技へと変化させ、先程のようなことを行えるようになった。
 この改良版相鋏は、本来ならば俺だけの技。
 そう思っていたが、どうやらそれは間違いのようだ。

「そういうマキも……だろ?」

 そう告げた俺の先、振り向いたマキの右手には炎雨よりもやや長い刀が握られている。
 先程の一瞬で、俺同様にマキも相鋏を行っていたらしく、俺の背面からは『霧雨』が姿を消していた。

「霧雨……抜き取ったね」

 氷華を鞘から取り出しつつ、マキへと尋ねる俺。

「見ての通り」

 いつの間にか鞘から抜き出していた霧雨と炎雨を構えつつそう返すマキ。
 そっちが双剣(ダブラ)なら、こっちだって。
 背面に取り残されている『雷鳴』を右手で抜き、氷華と共に構える。
 そして、俺は地面を蹴り勢いよく飛び出す。
 今の俺は戦闘面では圧倒的に劣る。だけど、1人の刀使いとして背を向けることは出来ない。

「———『落雷』ッ!」

 飛び上がった俺は、上空からマキへと斬りかかる。

「———『渓流』」

 対するマキは、霧雨で雷鳴の一撃を受け止めた瞬間に刀を引き、自然な流れで俺の一撃を退ける。

「『激流』ッ!」

 俺は着地と同時に逆手持ちした氷華による追撃を放つ。

「———『潮風』」

 一歩下がるのではなく、逆に一歩踏み込みながら俺と同様に逆手持ちした炎雨で氷華を受け止めるマキ。
 それと同時に、下段から繰り出される霧雨の斬撃。

「ヤバ……!」

 俺は慌てて後方へ飛びマキの攻撃を紙一重で躱すが、追い討ちを掛けるように追撃してくるマキ。

「『摺廻』ッ!」

 体勢を低くしたマキは、刀を引き摺るような動きから無数の斬撃を繰り出す。
 俺はそれらを左右に握った刀でいなしていく。

「……ッ!」

 目にも留まらぬ斬撃を前に、押されていく俺。
 そして、俺の対処が追いつかず振りかざされた一刀が俺の眼前に迫ってくる。
 直後、俺の中に流れるあの血流。
 同時に、身体を後ろに傾けバク転を行いマキとの間合いを開く。
 まさかこの状態にまで追い込まれるなんて……。

「……っと」
「これも抜けるんだね」
「ギリギリだけどな」

 そう言葉を返しながら、再三刀を構える俺。

「そろそろ決着(フィニッシュ)といこうじゃないの」
「だね」

 同意してくるマキもまた、三度刀を構える。
 そして、互いに走り出す。

「———『霞雨』ッ」

 平行に構えた二刀を振り下ろす俺。

「———『時雨』!」

 それを退けたマキは、鋏の様に上下に構えた二刀で斬りかかって来る。
 俺はそこへ、霞雨の2段目である『突き』を放ち迎え撃つ。
 斬り結ばれた互いの刃は、激しく火花を散らす。

「……ッ!」
「クッ……!」

 反動で一歩下がる俺とマキだったが、同時に地面を蹴りぶつかり合う。
 再度行われる交錯の瞬間、俺は右手の雷鳴の切っ尖を下に向け自身の前に突き出す形をとる。囮として扱うため。
 それとほぼ同時に、俺の視界はマキが同じ構えなのを捉える。

「「———『八海』!」」

 雷鳴を軸にして、180度回転する俺。
 本来ならここで相手の背後をとれているのだが、どうやらマキも同じ技を繰り出しているらしい。
 即ち今回は、直ぐに相手の真正面に出る。
 その一瞬を逃さずに、俺は氷華の峰をマキの首筋へと振り、減速させながら当てる。
 刀がマキの首に当たった感覚と共に、俺の首筋に冷たい感覚が伝う。

「……」
「……」

 どうやらこの試合、引き分けらしい———





「まさか……俺の技をあそこまでコピってくるとはな……」

 寮への帰り道。隣を歩くマキに対してそう溢す俺。
 いや、相鋏だけじゃなくて神回避や八海を真似てきたのは驚きってレベルを超えてたね。

「見様見真似だけどね」

 微笑みながらそう返してくるマキ。
 絶対的に回したくない……。
 人間関係だけじゃなくて、純粋に戦闘能力だけで敵に回したくない……。

「見様見真似であそこまでは出来ないから」
「それならシュウ君だって、時雨見せたことないのに即座に対処してきたじゃん」
「いや、それは……」

 痛いところを突かれた俺が返答に困っていると、マキがこんなことを言う。

「でもね、私はシュウ君が居たからこうなれたんだよ」
「俺が……いたから?」

 首を傾げる俺に対して頷くマキ。

「あの時私を助けてくれたシュウ君が居たから、あの時私に教えてくれたシュウ君が居たから、そして———今もこうして隣に居てくれるシュウ君が居るから今の私がある」

 真っ直ぐと俺の顔を見ながら、そう告げてくるマキ。
 そんなマキの言葉に、どことなく恥ずかしさを覚える俺。

「そ、そっか……」
「うん。だから———これからも、私の隣にいてね」
「ああ。勿論」

 そう言って、互いに笑う。

「ありがとう。シュウ君」
「礼を言われることじゃないさ」

 そう言って鞄を担ぎ直す俺。
 ここで俺はとあることに気づく。

「あ……」
「どうしたの?」
「いや……ちょっと用事を思い出した……」
「どんな?」
「人と会う約束をね……」

 俺は溜息を吐きながら、マキへと答える。

「だから、先に帰っててくれない?」
「うん。わかった」
「ごめんな」

 そう言って、第3男子寮へと歩いていくマキを見送る俺。
 そして、マキの姿が見えなくなったのを確認したところで、後ろへと振り返る。

「……誰だ、さっきからつけて来るのは」

 そう声をかけると、街路樹の裏から出て来る人影。
 その人物を見た俺は、驚愕する。

「お、お前は……理子!」
「シュー君久しぶり! 飛行機以来かな?」

 現れた人物は、4月のハイジャック事件の時、俺を戦闘不能にまで追い込んだ張本人である理子。

「な、何やってんだこんなところで……」

 警戒しながら、俺は理子へと問い掛ける。

「シュー君にお願いがあってね」
「お、お願い……?」

 首を傾げる俺に対し、夕陽を背にした理子はこう答えた。

「理子と一緒に、泥棒しよ!」 
 

 
後書き
今回はここまで。
次回も気長にお待ちください 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧