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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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逆さ磔の悪魔編・エピローグ

「おかしい……忙しすぎるぞ、どうなってんだ?」

 ブルネイ鎮守府の執務室。その部屋の主が普段より数倍の書類の山脈に埋もれながら呻くようにぼやく。

「何いってんですか、自業自得ですよ」

 その右斜め前には総務を取り仕切る大淀が、提督に向かって怨みの籠った視線を送っていた。ブルネイに駐在する米国大使を提督がフルボッコしてから2週間が経過していた。オークションも大盛況の内に終わり、破壊された鎮守府の設備も以前よりもグレードアップ。その予算が自分達の懐からは一銭も出ていない事に、明石も大淀も高笑いを上げていた。そう、上げて『いた』のである。ところが、オークションの翌日から大量の書類仕事が毎日のように送られてくるようになった。データとしてPCに送り付ければいいものを、わざわざ紙に興して箱詰めして空輸してくるのだ。どう考えても鎮守府の運営を妨害する為の嫌がらせの類いである。

「くそったれ、あの陰険眼鏡め……いつかシメる」

 そう提督がぼやいた陰険眼鏡とは、提督が懇意にしていた『ジジィ』の後を継いで現在元帥の椅子に座っている男である。防大出身のキャリア組で、鎮守府での実務経験は殆ど無いクセにその能力の高さを買われて軍令部の総長をやっていた男だ。現場優先主義の上に高卒の叩き上げで大将の座まで登り詰めた提督とは真逆で、昔から相性の悪い相手だ。顔を付き合わせる度に睨み合いと皮肉の応酬になるのだから相当にお互いがお互いを嫌っている。とは言え相手は元帥、提督にとっては上司である。

「なら提督が元帥になれば良かったじゃないですか」

「ヤダ。めんどい」

 即答する提督に、呆れたように溜め息を吐く大淀。俺も元帥にと打診は何度もされたが、その悉くを断り続けた。何しろ元帥になったらブルネイ所属の艦娘は本妻の金剛以外は全員据え置きで内地に戻れ、と言われていた。

「そんな事してみろ、ブルネイが火の海どころか第二の2.26事件の舞台になるぞ」

 ウチの連中俺の事好き過ぎて暴走しかねねぇからなぁ。俺がここに置き去りにしたと知ったら政府の陰謀だと勘違い(妄想?)して、国に牙を剥くまである。……ってか、高確率でそうなるな。

「海軍版2.26事件ですか……笑えませんね」

「だろ?」

「ですねぇ。多分参謀ポジションは私でしょうし」

「……そこはお前止めるポジだろぉ?」

「私も提督嫌いじゃありませんし、寧ろ愛してますし」

「愛が重ぉい」

 ハイライトさんが眼から逃げ出してるから怖いんだが、マジで。





「提督、外線にお電話です」

 今日の秘書艦当番の加賀から着信を告げられ、執務机の電話から受ける。

『やぁ、ビル・ゲ○ツⅡ世』

「……アンタかよ、壬生森センパイ」

 電話口は今回の騒動の発端とも言える提督・ニライカナイの壬生森だった。

「そもそも、ビル・ゲ○ツ程稼いじゃいねぇよ。精々堤義明位だ」

 世界長者番付のデータを信じるならば、マイクロソフトの創業者ビル・○イツの純資産は最盛期で860億ドルと言われている。幾らオークションが盛り上がったとはいえ、流石にそれだけの儲けは稼ぎ出せていない。それに、今の1位はそれより4~500億ドル位上の資産額だと思ったが。

『ふむ……だとしてもミリオネアを飛び越してビリオネアとなったのだ。どうかね?気分は』

「……札束じゃなくて仕事の書類で圧死しそうだ」

 電話の向こうで誰かが茶を噴き出した様な音が聞こえる。恐らくだが、あの腹ペコ秘書艦辺りが会話を聞いてて噴き出したんだろう。

『まぁ、その程度なら君の体力で乗り切れるだろう。物理的に首が飛ばないだけ良かったと思いたまえ』

「そうそう、その辺の事でアンタ骨折ってくれたんだってな?ありがとよ」

 実は海軍上層部と内閣府、それに外務省辺りが俺を提督から引き摺り下ろすばかりか軍の部隊を私物化したと逮捕しようとしていたらしい。

『君が南方の玄関口であり防波堤で居てくれた方が、なにかと都合がいいのでね』

 そこにストップをかけたのが、内務省に太いパイプを持つ壬生森だったらしい。全く、とんでもねぇ化けキツネだ。

「バカ言え、大方あの腹ペコ駆逐艦にせがまれたんだろうが」

『……それも口を出した原因の1つであるとは、否定できないな』

 ホレ見ろ。男が動くのは大概女の為だって相場は決まってんだ。




「……で?用事は何だよ」

『用事?そうだね、安否確認と言った所か』

「安否確認?ピンピンしてるぞ俺ぁ」

『一応心配はしていたのだよ。まさかあの死体を、細切れにして売るとは思っていなかったからね』

 そう。オークションに出品したのは確かにあのネームレベル2体の死体だ。だが、死体を丸々1体競売に掛けた訳ではない。小さく切り分けて保存液に漬けて、パーツごとに小売りにしてやった。

「オークション参加者が予想以上に多かったんでな、苦肉の策だよ」

『冗談にしては笑えないな。散々にそちらの鎮守府で解剖してデータを取った名残だろうに』

「あ~らら、バレてたの」

 あの死体を回収した当然の権利として、ウチのマッド連中が解剖して徹底的にデータを採取した。お陰で艤装のグレードアップや新装備への着想が得られた!と返り血塗れの淫乱ピンクが嬉々として語ってたっけな。

「流石にプラモみたいに継ぎ接ぎしてハイ元通りとは行かなくてな。寧ろオークション参加者が多くて助かった」

『アメリカが大部分を買い占めた様だがな』

 オークションの動向を眺めてたが、重要であろう頭部や内臓関係は殆どアメリカが持ってったからな。あれこそ札束で相手を殴り倒して競り勝つ、って光景だった。

「まぁ、そのお陰でアメリカの議会は大荒れみたいだけどな?」

 あの大統領は結局弾劾訴追されて、議会は大荒れ。新しい大統領を決める為の候補者を決める為の選挙で大忙しらしい。

『一国の政府を大混乱に叩き落としておいて、飄々としているな君は』

「まぁ、発端はどうあれ他国の事情だ。知ったこっちゃねぇさ。それに、ちゃ~んと日本国国民としての義務は果たしたんだから俺だって文句は言わせねぇさ」

 オークションの収益から、ちゃ~んと所得税払ったんだぜ?俺だって。何せ納税は国民の義務だからなぁ、当たり前だよなぁ?(棒読み)

『そもそも、国の持ち物であるハズの艦娘で商業活動をする事自体間違っていると思うのだが?』

「そういうのはちゃんと予算を分配した奴が言える事さ」

 ロクに予算も回さねぇクセに、文句ばかり言う上に金まで毟り取ろうとしやがる。有り体に言ってクソでは?

「国からの予算だけアテにしてたら、ウチの連中総出で敷地を全部畑にせにゃならんぞ?艦娘から農家に転職か?」

『そうなられたら困るから君の更迭を止めたのだ。……近い内にまた顔を出しに行くよ、ではな』

「おう、待ってねぇから来るなよトラブルメーカー」

 そう言って電話を切る。

「提督?なが電話もいいですが、お仕事して下さいね?」

「へいへい」

 やれやれ、よっぽど腹黒眼鏡の方が厄介だぜ。 
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