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ペルソナ3 夢幻の鏡像

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
後編、ボス戦です。
書いているうちに、最初の構想からどんどん変わってしまいました。
調子にのっていろいろいろやってますが、書いてて楽しかったので良しということで、ともかく楽しんでいただけたら幸いです。 

 
青紫の洞窟だった。
ところどころ内側から不自然にぼーっと光っているようだが、それでも薄暗い。
「えっ・・ここ・・どこ?」
壁に手をあてて、体を支えながら立ち上がる。
膝ががくがくする。しかし骨が折れたりしている様子はない。何とか動けそうだ。
薙刀《なぎなた》はどこかに落としてしまったらしく見当たらないが、召喚器だけはしっかり手に握っていた。
とりあえずヤマカンでゆっくりと足を進める。
いったいどこから来たのかもわからない。どっちに進めばいいのか見当もつかない。通信機も相変わらず反応が無い。
試しに「ゆーかーりー」と大声で呼んでみる。
「じゅんぺー」
「さなださーん」
声は空しく響くだけだ。
「ここどこなのよー!」
やけになって声を張り上げたが、やはりなんの答えもない。不安感がどんどん増してくる。ともかく状況がわかるまで、一人で探索するしかない。
その時、薄暗い通路の奥にうごめく影が見えた。
シャドウか?
逆の方向に逃げようとして振り向くと、そちらからも黒い影がいくつか近づいてくる。
それが先ほどと同じシャドウであることに気づいた。
計7体、私を取り囲むように立ちふさがった。体中を気味悪くうねらせて近づいて来る。
1体でも手に負えなかったのに・・・7体。
血の気が下がる。召喚器を握る手が汗で滑る。
とても勝てそうにない・・・ということはここで死ぬのか?
この、どこだかわからない・・・こんなとこで・・
私は頭を振って、その考えを振り払った。
冗談じゃない、こんなところで死んでたまるか。なんとか活路を見つけ出すんだ。
気合を入れなおし、召喚器を持つ手を頭に向けようとしたとき・・・
「メギドラオンでございます。」
澄んだ声とともに閃光が走る。
7体のシャドウが一撃で吹き飛んで、黒い塵となって消えた。
突然のことに、私は茫然と立ちすくんだ。
「ここではあまり大声を出さない方がよろしいかと存じます。」
背後から馬鹿丁寧な女性の声がした。
驚いて振り向くと、そこには銀髪の美女が立っていた。
「誰?」
反射的に問いかけたが、見ればその衣装、大きな本を抱える立ち姿は、テオドアにそっくりだ。内側からかかやくような白い肌。神秘的な瞳。ベルベットルームの住人か?
「もしかして、テオのお姉さん?」
「はい。エリザベスと申します。テオのお客人でしょうか? 愚弟がいつもお世話になっております。」
エリザベスは丁寧なお辞儀をした。
「あっいえ、こちらこそテオにはお世話になってます。」
私も慌てて名乗って頭を下げた。
「テオからはよくあなたの話を聞いています。それはそれは、本当にうれしそうに話すのですよ。あなたのことが大好きなのでしょう。姉としてはねたましいほどでございます。」
「なんかテレますね。」
「あまり話を聞かされていたので、一目見てあなただということがわかりました。余計なこととは思いましたが、ついご挨拶代わりにメギドラオンを放ってしまった次第です。」
「あっ、そんな、助けてくれてありがとうございます。すっごく強いんですね。驚きました。」
なんか変わった人だ。
挨拶代わりのメギドラオンって、私に向けて放ったわけではないよね。
まあ、ともかく、自分がどこにいるかもわからずに、困っていたところだ。ベルベットルームの住人がいてくれるのは心強い。
「ところで、ここがどこだかわからなくて困ってたんですけど、わかりますか?」
私は訊いてみた。
「そうですね、ここは奇妙な場所です。タルタロスではありません。むしろベルベットルームに近いところ。」
エリザベスは落ち着き払って周りを見回す。
「ここには何者かの意思が働いています。あなた方の存在を邪魔と考え、この牢獄に監禁しようとする意志が・・」
「牢獄ですか。元の場所に戻れますか?」
「私は本来、直接関与することを禁じられている身ですが、今回はイレギュラーな事態。ここを出るまでは可能な範囲でお手伝いさせていただきましょう。」
私の問いかけに、何を考えているかわからない不思議な微笑みを浮かべつつ彼女は答えた。
「助かります。」
「それに私は私のお客人を探さなくてはなりません。あの方も、ここに引き込まれているはずです。とりあえずこの牢獄の主のところに参りましょう。おそらく私のお客人もそこにいらっしゃるでしょう。」
二人で並んで歩きながら、奥へと進むことになった。
先ほどのダメージは残っているものの、だんだん身体が動くようになってきた。
途中、何度かシャドウに出くわしたが、全てエリザベスが一撃で葬り去った。
それも、弟の恥ずかしい話などを楽しそうに暴露しながら、片手間で倒していく。
非常識な強さだ。頼もしいが、恐ろしい。
手助けすると言われたが、私自身は何もやることがない。
「いいんですか?」と尋ねると「あなたは今回の事態の元凶を倒す必要があります。それまでは体力と精神力を温存しておいてください。」と言われた。

そうこうしているうちに、やけに天井の高い、開けた場所に出た。
奥に石柱に囲まれた祭壇のような場所があり、何か巨大なものがうずくまっている。
「あれがこの牢獄の主です。私がお手伝いできるのはここまで。あれはあなたが自分で倒さなくてはなりません。」
私一人であの牢獄の主を倒す。そんなことができるのだろうか・・・。
「ここで出会ったシャドウは、すごく強かったよ。そのシャドウの親玉に私一人で勝てるかな。」
私は不安に駆られて尋ねた。
「まともに戦えば、今のあなたでは勝負にもならないでしょう。」
エリザベスがあっさり答える。
「そんな・・・」
「でも大丈夫です。あなたは一人ではありません。」
嘆く私の声を遮ると、エリザベスは左手を上げて、彼方を指さした。
その指の先、反対側の通路からテオドアとともにあの前髪の男性が現れる
「ワイルドの力も持つ者が二人。しかもその二人は別の現実で同じ役割を担う同位存在。二人揃えば相乗効果でその力は何倍にもなるはずです。」
エリザベスは手に持った本から1枚のカードを抜きだし、私に差し出した。
「私のペルソナカードをお貸ししましょう。本来なら今のあなたには扱えない、強力なペルソナですが、あの方と力を合わせれば使いこなせるはずです。」
「わかった。やってみるよ。」
私は決意を固めてうなずくと、エリザベスのカードを預かった。

やるしか道はない。
現実に帰るには、勝つしかない。
それにあれだけ会いたかった彼が、今そこにいる。

エリザベスの言葉を信じて私は足を進めた。反対側からテオドアに促されて彼が近づいて来る。2、3歩手前でお互いに足を止めた。
「やあ。」
彼が無表情に声をかけてきた。
線の細い、端正な顔立ち。長い前髪が右目にかかりそうになっている。
夢で見たのと同じ姿だ。
「やっと会えたね。あなたのことを知ってから、ずっと会いたかったんだ。」
私はにかっと笑って、そう返した。
「そう?」
反応が薄い・・・。
「私のことは、知ってた?」
拍子抜けして私がそう問いかけると、彼は静かにうなずいた。
「夢で見たんだ。エリザベスからは、もう一つの可能性だと聞かされた。」
彼も・・・私と同じだった。
「どう思った? 自分とは別の可能性があるって聞いて。」
意気込んで質問すると、彼はため息をつくようにつぶやいた。
「どうでもいい。」
その投げやりな言葉にカチンときて、思わず声を荒げる。
「どうでもいいことないでしょ。自分の役割を別人がやってるんだよ。自分の存在意義に関わることだと思わないの?」
彼は少し驚いたような表情を浮かべる。
「そんな風に考えるんだ。すごいね。」
それから少し考えた後、私を正面から見つめると口を開いた。
「僕はずっと死ぬことなんて怖くなかった。生き続けたいとも思ってなかった。ただ死んでいないから生きていたんだ。
でも月光館に来てから仲間ができて、街でもいろんな人と出会って、みんなの生きている姿を見て・・・生き続けて欲しいと思うようになった。その為にみんなを守りたいと思った。みんなを守るためだったら、自分も生きてみたいって思ったんだ。
僕には別の可能性なんて関係ない。僕のいる現実では僕のできることをする。それだけなんだ。」
私の問いに対して真面目に考えて、誠実に答えてくれた。それはよくわかった。
それにしても、生きることに執着していないなんて、いったいどういう人なんだろう。
やはり私とは違う。
彼は私の男バージョンなのではない。
本当に別人なのだ。
それでも「みんなを守る為に生きたい」というところは共感できた。
彼も月光館学園に来て、みんなと出会って、変わってきているのだ。
「なんだか私とは違うんだね。でも、言ってることはわかるよ。」
これまでもやもやとしてたものが急にすっきりした気がする。
自分の現実では自分のできることをする・・・彼の言葉が胸にしみこんできた。
別人だけど、根っこは案外似ているのかもしれない。
「じゃあ、これを乗り切って自分の現実に帰らないとね。」
私が声をかけると、彼が ふっ と口元に笑みを浮かべて言った。
「行こうか。」
「OK!」
二人で牢獄の主に駆け寄る。
それにつれて主がゆっくり身を起こす。
いや身を起こすという表現は正しくない。体が膨れ上がったというべきか。
その姿は、大きさの異なる無数の青黒い球の塊。
体から更に次々と新たな球が膨れて巨大化し、3メートルほどの高さで止まった。
その球の一つ一つに目のようなものが一つずつ赤く光っている。
【汝ら、我にはむかうか。】
頭に直接、声が響いてきた。
【我はオイジュス、苦悩の神である。汝らが勝てる相手ではないぞ。】
威圧的な重々しい声に、恐怖心が湧き上がってくる。
私はひるむ心に鞭を打ち、声を張り上げた。
「なんで私たちをこんなところに連れてきたの。あなたの目的は何?」
【人間は滅びを望んでいる。その望みをかなえるため、まもなく大いなる夜の神が降臨する。神の降臨とともに人間は安らかな終焉を迎えるであろう。そして人間は生きる苦悩から解放されるのだ。
しかしそれに抗おうとする愚かな人間もいる。その人間たちに誤った道を示し、力を与えるのがお前たちだ。お前たちをこの牢獄に隔離することで、人間は速やかな終焉を迎えることができる。おとなしくここで朽ち果てるがいい。】
「何よそれ。そんなわけのわからない理屈で滅ぼされちゃたまんないわ。神様なら人の生きる希望になりなさいよ。」
怒りが体に力を与えてくれる。
恐怖が消え去り、代わりに闘志が燃え上がってきた。
【理解できないのであれば仕方ない。この場ですりつぶすのみ。】
「ゴマじゃあるまいし、すりつぶされてたまるか!・・・ほら、あんたもなんか言ってやんなさよ。」
私が振り向いていうと、彼が少しあきれたようにこちらを見た。
「そっちの順平も大変だ。ゆかりとは気が合いそうだけど。」
「ほんとにクールだね。たぶん、あんたは ゆかりの好みのタイプだと思う。私は遠慮するけれど。」
「そりゃどーも。行くよ。」
「せーの」
『ペルソナ!』
エリザベスのペルソナカードを手に、二人の声がハモる。
きらめきとともに巨大な神が現れた。
今の私たちではとても召喚できないはずの最高神 ヴィシュヌ。
彼と私、二人の同位存在が揃うことでのみ可能な奇跡。
全身から急激に力が吸い取られる。強い。
呼び出しているだけで体がきつい。
【なんだこれは、あり得ない。】
オイジュスが驚きの声を上げる。
「反省しろ。ぶんなぐってやる。」
私が怒鳴り返す。
『ゴッドハンド』
虚空から巨大な鉄拳が振り下ろされ、オイジュスが悲鳴を上げて身を震わせる。
次の瞬間、オイジェスから黒い影のようなものが複数放出され、私と彼はとっさに身をかわした。
「もう一発いくよ」
『ゴッドハンド』
再度の大打撃。
うおおおお・・とうなり声を上げて、オイジュスの体が一気に縮小する。
【こざかしい】
オイジュスから稲妻と衝撃が走った。
今度はかわせずに巻き込まれる。全身がバラバラになるようだ。
先ほどのダメージも残っており、耐えきれずにバランスを崩した。
すかさず彼が抱いて支えてくれる。
「まだだ。」
「わかってる。」
彼の声に応えて、震える足をなんとか踏ん張る。
私は私だ。
私の現実では、私が自分で道を切り開いて見せる。
『ヴィシュヌ!』
再び現れるヒンドゥーの偉大な神。
精神を集中する。
体中の力が吸い尽くされる。
これが最後の一撃だ。
『ゴッドハンド』
ひときわ巨大な鉄拳が相手を打ち砕き、オイジュスを黒い塵に変えた。
【これで終わりではない・・・いずれ人類は滅びるのだ・・必ずだ・・・】
消え去りながらオイジュスの声だけが残る。
そして静寂が訪れた。

「悪役って、どうして負け惜しみを言いながら倒れるんだろうね。テンプレート過ぎだと思わない?」
力が抜けて尻もちをついたまま、私は笑って見せた。
「どうでもいい。」
彼が笑い返す。
いい顔じゃん。気に入った。
もしかしたらいい友達になれたんじゃないかな・・・
テオドアが心配そうな顔で駆けてくる。
私は彼に声をかけようとした。
しかしその姿が急に遠くなり、そして私は気を失った。

激しく揺さぶられて気が付くと、ゆかりが抱き着いて泣きじゃくっていた。
「あれ?」
私は体をおこして周りを見回した。
月光館学園の校門の前。月があたりを照らしている。
タルタロスはもう消えていた。
全身がだるい。
「気が付いたか?」
桐条先輩が心配そうにのぞき込んできた。
風化も顔を覆って泣いている。
他のみんなも心配そうに私を取り囲んでいた。
「えーと、今どういう状況ですか?」
「俺と順平がシャドウの不意打ちで、戦闘不能になった。今まで見たこともない強力なシ
ャドウだった。」
真田先輩が辛そうに声を絞り出した。
その後を桐条先輩がつなげる。
「君は二人からシャドウを引き離してタルタロスの奥に誘導した。通信不能の状態となったので私が応援に行き、二人を守っている岳羽と合流した。その後、全員で君を探したが見つけることができなかった。」
タルタロスの消える時間になって、仕方なく戻って着たら、ここに私が倒れていたらしい。
おそらくテオドアが連れ戻してくれたのだろう。
影時間は1時間ほど。私の体験とは時間が合わないが、あの場所もベルベットルーム同様、時間の流れ方が違うのかもしれない。
ともかく、こうして私は私の現実に戻ってきた。
「順平と真田さんは・・・体は大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。お前こそ人の心配をしてる場合か。」
「見てのとおり俺っちもピンピンよ。」
「そっか、良かった。」
私はほっとして、まだぐすぐすしているゆかりの頭に手を置いた。
「ほら、私も大丈夫だから・・・」
「ごめん・・・すぐに加勢に行こうと思ったんだけど、二人に回復魔法かけるの優先したら、見失っちゃって・・・ほんとに、死んじゃってたらどうしようって・・・」
私を心配して探索についてきてくれたのだ。それなのに私を見失ってしまって、さぞかし心配をかけてしまったことだろう。
「俺の失態だ。油断していた。面目ない。」
真田先輩も頭を下げた。
「みんな自分にできることをやったんでしょ。こうして無事だったんだし、気にしないで下さい。私の方こそ、みんなに心配をかけてしまってすみませんでした。」
「次は必ず俺が、守って見せる。」
「ありがとうございます。あまり気負い過ぎないでくださいね。」
まだふらつくが何とか立ち上がる。
「大丈夫か? 車を呼ぶぞ。」
桐条先輩が支えようとして近づいてきた。
「平気です。」
「無理はするな。今日はさんざんだ。みんな車で戻ろう。今後の為にもしっかり再発防止策を検討しなければな。」
桐条先輩の呼んだワゴン車の中で、私は自分の身に起きたことを説明しようとして、記憶がひどくあいまいになっていることに気づいた。
タルタロスとは違う別の場所に行って、誰かと出会い、何か巨大なものと戦った。
でもそれが何だったのか、まるで夢のようだ。

後日、テオドアに確認したが「それは本来あってはならない出来事。記憶にとどめておくことはできません。」と言われて何も教えてもらえなかった。
「しかし記憶に残っていなくても、その経験は魂に刻まれているもの。いずれ必ずあなたの力となる事でしょう。」
そうなのかもしれない。
少なくとも先日のふさぎ込んだ気分はきれいに消えていた。
理由も忘れてしまったが、きっと「どうでもいい」ことだったのだろう。
私は私の現実ですべきことをする。ただそれだけだ。



 
 

 
後書き
以上、いかがだったでしょうか。
基本的には本編中のいつの時期の話という部分をできる限りぼかしました。
なるべくペルソナ3っぽい話に徹しようと思ってましたが、何せ10年以上のブランクがあるところを記憶だけで書いたので、どこかおかしかったらご容赦を・・
次は天田君と4才の菜々子ちゃんの話を考えてます。 
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