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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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装者達のバレンタインデー

 
前書き
改めまして、ハッピーバレンタイン!!

さて、今度は皆さんお待ちかねの本編世界!
翔ひび、おがつば、純クリ、弦了、藤友の5組でお届けいたします。

また、今回は諸事情から恭みくとかな紅はカットとなってしまいました。
F.I.S.組共々、来年のバレンタインにご期待ください。

それでは読者の皆様方、ブラック珈琲片手にご覧下さい!! 

 
肌寒い風が頬を撫でる。厚着に手袋、首にはマフラーまで巻いていても、染みる北風に身を震わせる。

明日は乙女の決戦日……そう、即ちバレンタインデー。
スーパーやデパート、各種洋菓子店では多種多様なチョコレートが並び、大勢の女性客が押しかけている。

ある者は友人に。ある者は同僚や先輩、後輩へ。ある者は大切な人に、日頃の感謝や愛を込めて。

そして、それ以上に多くの乙女達は……意中の相手に、胸の内の想いを伝える為に──。



「うう、緊張するなぁ……」

響はチョコレートの入った紙袋を手に呟く。

「な~に言ってんだよ!昨日、あんだけ頑張ったんだ。心配する事なんて一つもねぇよ!」
「そうだぞ立花。お前の真心、込めた想いは必ず翔に伝わるはずだ。私が保証する」

クリスは響の肩を叩き、翼は反対側の肩に手を置いた。

「そこは信じているんですけど、でも、やっぱり恥ずかしいよぉ……。あげる側なんて初めてだもん……」
「それを言ったらわたしだって……男の人にチョコを渡すの、初めてだもん」

そう言ってはにかむのは、毎年響にチョコを渡し続けてきた未来だ。

そもそも装者の中に、バレンタインデーに異性へチョコを作って渡した経験のある者は見事に一人もいない。

一見余裕に見える翼やクリスも、内心では身悶えしそうな程の羞恥心を抑えている。

「うんうん、青春してるわね~」
「私達も味見してるし、きっと大丈夫よ。後は渡して、食べてもらうだけなんだから、肩の力は抜いた方がいいわ」
「そうそう。こっちがガチガチだと、渡す相手も気にしちまうだろ?リラックスだぞ」

集まっているのは少女達だけではない。
了子、友里、そして奏の三人も、それぞれの渡したい相手へと贈る菓子の包みを手に、乙女の輪へと加わる。

「休憩時間まで、あと五分。ベストを尽くしましょっ!」
「ほら、響」
「皆……よーし!へいき、へっちゃら!」

親友や仲間達、頼りになる大人達に励まされ、響は強く頷いた。

そして、乙女達は円陣を組む。
放つ熱気はオーラとなり、彼女達を包み込んでいるように見える。

「最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に!!」
『胸の想いを届ける為にッ!!』

今、聖戦は幕を開けた!



「はぁ~……疲れた……」

休憩時間となり、机に突っ伏す藤尭。
例のごとくボヤきながら、目線を移した先はカレンダーだ。

今日は2月の14日。特異災害対策機動部二課の署内でも、浮き足立っている職員がちらほらと見受けられる。

言うまでもなく、署内でもこの日になると毎年、女性職員らがチョコを用意する。
主に了子が、高級店のお高いやつを買って来ては、ホワイトデーに3倍返しを要求するのが恒例行事だ。

無論、3倍返しなど冗談なのであるが……正直、彼女が言うと冗談に聞こえないのが困りものである。
というか約1名、律儀に毎年3倍返しにしているOTONAがいるのだが……。

さて、当の藤尭本人はと言うと、去年までは義理しか貰ってこなかった人間である。

いや、義理でも貰えるだけ有難いのだが、亭主関白志向の持ち主でありながら未だ一度も女性と付き合ったことのない彼にとって、本命を貰える男達は嫉妬と羨望の対象であった。

──そう、去年までは。

「朔也くん、あったかいものどうぞ」

目の前に置かれた、湯気を立てるマグカップ。
机から身体を起こし、彼女へと顔を向ける。

「あったかいものどうも」

マグカップを手に取ろうとする藤尭。
そこへ一品の、小皿に乗った菓子が置かれた。

真っ白な生クリームを固めたアイスに、小さく刻まれた苺が鮮やかな赤を放ち、添えられている。
上からは飴色のキャラメルソースがかけられており、藤尭の鼻腔を甘い香りが擽った。

「それから、甘い物もどうぞ」
「甘い物どうも……って、あおいさん!?これ、まさか!?」

友里の意図に気付き、藤尭は目を輝かせる。

「当然、本命よ。朔也くん、お返しは毎年手作りだったでしょ?お菓子作りなら、多分朔也くんの方が上手いと思うし、口に合うかは分からないけど……」
「そんな事ないよ!人生初の本命……明日は槍でも降るかもしれない」
「もう、大袈裟ね~」

ひとしきり笑うと、藤尭はアイスに手を付けようとして……ふと、首を傾げた。

「ところで、チョコじゃなくてアイスなのはどういう意図が?」
「ん?それは……宿題って事にしておくわ」
「宿題!?」
「そう。バレンタインデーは、別にチョコレートだけを贈る日ってわけじゃないのよ。じゃ、そういう事で」
「えっ!?ちょっと!?あおいさん?」

そう言って友里は、藤尭の席を離れる。
取り残された藤尭は、友里の背中を見送ると、アイスを掬って口に含んだ。

「……ん、美味い」

凍った生クリームが口の中でとろけていく。
舌先でその感触を味わいながら、藤尭は友里の言葉の意味を考えた。

「そういや、ホワイトデーのお返しにも意味があったよな?……あれがバレンタインデーでも共通だとすると……。そういや、キャラメルにも意味があったような……。そして苺……」

二課随一の情報処理能力を誇る藤尭の頭脳がその答えを導き出すまでに、そう時間はかからなかった。

「キャラメル……苺……ッ!?えっ!って事はつまり……あおいさん……それはズルいって……」



そして、司令室の外の廊下では……。

「……ふう……意外と、緊張するわね……」

頬がほんのりと朱に染まった、友里の姿があったとか。



「翔くんっ!ハッピーバレンタイン!!」
「ジュンくんっ!これ、受け取ってくれッ!!」

響、クリスの二人は、トレーニング上がりの二人に、綺麗にラッピングしたそれを渡した。

「響……」
「なに、翔くん?」

響は息を呑みながら、次の言葉を待った。

「……ありがとう。響からの手作りチョコ、すっげぇ嬉しい」
「ふっふーん、わたしの自信作なんだから~!」
「それにしても、デカいな……。響らしい、真っ直ぐな気持ちを感じるぞ。この形にするのも、頑張ったんだって伝わって来る」
「そっ、そこまでハッキリ言葉にされると……流石にちょっと恥ずかしいかなぁ……」

そう言って翔は、響の頭を優しく撫でる。
柔らかな笑顔と共に頭を撫でてくる彼。響は真っ赤になって目を伏せる。
そんな響を可愛らしい、と心の中で讃えつつ、翔は彼女の頭を撫で続けていた。

「ありがとう、クリスちゃん。1個ずつ、味わって食べるね」
「お、おう……。べっ、別に感想とかいいからな!?味が悪くても文句言うなよ!」
「うん。じゃあ、美味しかったって気持ちは、後でしっかり言葉にして伝える事にするよ」
「ぐっ……。ったく……やっぱりジュンくんには敵わねぇな……」

一方のクリスも、響とほぼ同じ状態になっていた。
理想の王子の前では、得意のツンデレも全てが不発に終わってしまう。
故にこの銃弾の姫君も、その顔を赤一色に染めてモジモジとするしかないのである。

「そうだ、折角だからお茶にしない?翔と立花さんも一緒に、ね?」

ふと、純が思い付いたように提案する。
翔の答えは、迷うまでもない。

「そうだな。純の淹れるお茶なら、チョコにも合うだろうし。響それでいいよな?」
「うん……わたしも、賛成」
「じゃあ、クリスちゃん。食堂まで行こうか」
「ッ!?」

クリスの目の前に差し伸べられる手。
それは、お姫様をエスコートする時の王子様の手だ。

「こういうのなら、外でやってもいいだろう?」
「……ったく、しょーがねぇな……」

ぶっきらぼうに返しながらも、しっかりとその手を握る。
手を繋いで食堂へと歩いて行く二人の後を追うように、翔と響も歩き出す。

(目の前で味わいながら感想まで言われたら……。うう、恥ずかしくて顔が燃えちゃいそう……)

「そういや、奏さんと小日向は?」
「え?あ~……未来なら、恭一郎くんに温かいもの渡しに行ってるよ。奏さんはさっき、紅介くんを担いで医務室に走ってたなぁ」
「おいおい、またかよ?」
「うん。なんか、『推しからチョコ貰えたッ!』て叫んだと思ったら倒れたんだって」
「推しから貰えるなら義理でも何でも喜ぶからな~、あいつ」

この後、食堂の一角では二組のカップルがこれでもかと言うほど桃色空間を展開していたという。



「弦十郎くん、はいこれ」
「おお、もうそんな季節か!」

了子からチョコを受け取る弦十郎。
二人の薬指には、銀色に輝く指輪が嵌められている。

そう。二人は今、婚約しているのだ。
フロンティア事変以降、激務に次ぐ激務で当分の間は挙式出来ないが、それでも二人の関係は確実に進展していた。

「ほう、チョコマカロンか。しかし、了子くんから手作りを貰えるとは。てっきり、いつもの洋菓子店の新作かと思っていたんだが、これは一本取られたな」
「いくらお高いとはいえ、そろそろ既製品も飽きて来た頃かな~って思ったのよ。それに私達、もう婚約者よ?流石に私のプライドが許さないわ」
「フッ、君らしい理由だ。早速、食べてしまっても構わないだろうか?」

ええ、勿論。そう言おうとした了子の視界の隅に、彼女は映りこんだ。

「……その前にあの子達、ちょっと気にならない?」
「む?」

弦十郎は了子の指さす先を振り向く。
そこに居たのは……仕事帰りの緒川と、駆け寄る翼であった。



「緒川さんッ!」
「おや、翼さん。どうしました?」
「そ、その……お、お勤めご苦労様です!」

緒川にチョコを渡そうとしていた翼の心臓は、既に早鐘を打つようにバクバクと高鳴っていた。

(おおおおお落ち着け!そうだ、落ち着くのだ風鳴翼ッ!常在戦場ッ!常に戦場に身を置く者として、この程度の事に緊張など……!)

深呼吸と共に、高鳴る心臓を押さえ付ける。
息を整え、改めて緒川の顔を真っ直ぐに見据えた。

「緒川さん……その、こちらを……受け取って……くだちゃいッ!」

……噛んだ。

大事な所で噛んでしまった。

その事実だけで、翼のダメージは大きかった。

「心外千万ッ!」
「翼さん?翼さん!?」

廊下に座り込み、翼はガックリと項垂れる。

「こんな所で噛んでしまうなど……不覚ッ!」
「翼さん……大丈夫ですか?」
「も……もう一回!もう一回言い直させてくださいッ!」

(何だか、懐かしいなぁ……)

緒川は幼少期の翼を思い出していた。

その頃から翼は負けず嫌いで、緒川との将棋や七並べ、ババ抜きなどで負ける度に、同じ事を言っていたのだ。

『もーいっかい!もーいっかいやるの!』と、泣きそうになりながら。

(あの頃に比べると、翼さんも逞しくなりましたが……)

「受け取ってくでゃしゃ……受け取ってくりゃさッ……受け取って……にゃあああああッ!!」

(やっぱり、こういう所は変わっていませんね)

言い直す度に同じ所で噛み、遂に翼は頭を抱えて絶叫した。

「うぐっ……ひっく……」
「翼さん、無理しなくても……」

流石にいたたまれなくなり、緒川は泣き出しそうな翼の涙を拭こうと、ハンカチを取り出そうとする。

しかし翼はその手を遮り、袖で涙を拭うと宣言した。

「いえ……私は、今年こそは……自分の手で渡すと……決めたのです……。だから……だからッ!!」

翼は顔を上げると、緒川の目を真っ直ぐに見つめる。

緒川は胸ポケットにハンカチを仕舞い直し、改めて翼と向き合う。
情けは無用だと彼女は言った。ならば、彼女の決意には相応の態度で応えなければならない。
緒川は黙って、彼女からの言葉を待った。

(立花が言っていた……。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にッ!風鳴翼、お前も乙女であると言うのならッ、胸の想いを貫き通せッ!)

もう一度息を深く吸い込み、呼吸を整え、そして……

()()()()ッ!わたしの気持ち、どうか受け取ってくださいッ!!」

防人としてではなく、歌女としてでもなく。ただ一人の少女としての”風鳴翼“が、緒川慎次という名の想い人へと届ける想い。

それは彼女の口が紡いだ言葉で。月下美人のような麗しさを湛えた顔が織り成す表情で。

大空を映すような瑠璃色の瞳で。白磁から桜色に染まった頬で。

全身全霊その全てで伝える心が今、緒川へと伝わった。

「はい、確かに受け取りました」

翼から菓子の包みを受け取ると、緒川は彼女へ向けて優しく微笑んだ。

「後で美味しく戴きますね」
「ッ!その……今、では……ダメ、ですか?」

包みを懐に仕舞おうとして、緒川は手を止める。

翼が言わんとする事を察すると、緒川は包みを丁寧に開き、中から小さな箱に詰められたボンボンショコラを一つ、指でつまんだ。

「いただきます」

一口サイズのショコラは、一瞬で指から口の中へと消えた。

「……美味しいです。ビターチョコと生クリームが、程よく口の中に広がりますね」
「よかった……。お菓子作りなんて、初めてでしたから……慎次さんに喜んでもらえて、嬉しいです」

口元を綻ばせて笑う緒川に、連られて翼も微笑む。

「それから慎次さん。実は、もう一つ頼みがあるのですが……」

声を潜める翼に、緒川は何かを察したように頷いた。

「今年も、ですね。分かっていますよ」

調理場として使われた食堂の冷蔵庫。その中にもう一人分、『お父様へ』と書かれたメッセージカードが貼られた紙袋が仕舞われている事を知るのは、一部の関係者のみである。



「そうか……。今年は手作りなのか」

そう言って男は緒川からその袋を受け取り、中の菓子を取り出す。

「翼が手作りのチョコを贈って来るなど、初めてだな。何か心境の変化でもあったのか?慎次、その辺りどうなんだ?」

一瞬、鋭い視線と共に眼鏡のレンズが遮光で真っ白に染まる。

緒川はいつも通りの微笑みを崩さず、話題を逸らす方向でそれに答えた。

「そうかもしれませんね。お小遣いで買ったチョコレートを、綺麗に包んでいたあの頃が懐かしいです」
「ああ。だが、今回はあの頃とはまた違った微笑ましさがある。翔からの受け売りだが、こんな父親でもまだ、マシュマロではなくチョコを貰えるとは……有難い事だな……」

男の名は風鳴八紘(やつひろ)。内閣情報官であり、翼と翔の父親だ。

八紘は書斎の机に座ると、メッセージカードを引き出しにそっと仕舞う。
その中には何枚ものメッセージカードが、大切そうに仕舞われていた。
既に古びてしまったものから、つい去年のものまで。ひらがなで書かれた『おとうさまへ』の文字は、段々漢字が使われるようになり、書体も達筆になっている。

「今年も、返事はお書きにならないのですか?」

緒川からの問いに、八紘は静かに答える。

「書いた所で、翼の心に届くかどうか……」
「……そうですか」

そう、一言だけ呟いて、緒川は口を閉じる。

彼は知っているのだ。八紘が翼からの手紙を仕舞っている隣の引き出しには同じ数だけ、出せず仕舞いになった葉書が積み重ねられている事を。

だが、口出しする事など出来ない。
これは親子の問題なのだ。部外者の自分が口を出すべきものではないのだから。

自分に出来るのは、ただ黙って見守る事だけだ。
この不器用な父と娘の関係が、少しでも良くなる日が来る事を願って……。

「ふむ……美味いな」
「お茶、淹れましょうか?」
「そうだな。慎次も座ってくれ。これからの話をしよう」
「……何の事ですか?」

一瞬固まる緒川を、八紘は真っ直ぐに見据える。

「父親である私が気付かないと思ったのか?まったく……」

呆れたような、それでいて何処か納得しているような……。
八紘の表情から、逃げられない事を悟った緒川は、彼の向かいに腰掛ける。

「それで……翼とはいつからそういう関係なんだね?聞かせてもらおうじゃないか」

緒川が席に着いた瞬間、圧迫感全開のオーラを放つ八紘。
流石の緒川の背筋にも、冷たいものが走る。

(これは……覚悟を決めないといけませんね)

この後、彼と八紘の間でどんな会話があったのか……。
それを知る者は、誰も居ない。 
 

 
後書き
如何でしたか?
藤友の本格供給はこれが初でしたね。言うまでもありませんがこの二人、クリスマスを期に付き合い始めてます。
多分この後、仕事終わったら友里さんの部屋で残ってるスイーツを二人で片付けているかもしれませんね。

そして……父と娘のバレンタインまでは予想外だったって?
いやー、某おがつばの伝道師である神絵師さんの新作見たら思い付きましてね。
八紘さん、何気に初登場か……。らしく書けてるといいなぁ。

これでやっと安心してイベントに専念できる!
それではまた次回を、お楽しみに! 
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