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吸血鬼の真祖と魔王候補の転生者

作者:黒い子供
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第4話 出会い、歩み寄る者達・事情と理由と旅立ちと

 
前書き
前回のあらすじ

下衆のお掃除 

 
下衆共の掃除が終わった私は、振り返りゆっくり彼女に近づく。

5mほどの間を空け止まると、ゆっくりしゃがむ。

焦ってはいけない。

なぜなら彼女は、今も警戒し、こちらの一挙手一投足に目を向けている。

突如人ならざる者に勝手に変えられ、周りの大人達から言われの無い罪で追われ、訳も分からず逃げ出す。

10歳の少女が経験するには酷すぎる状況が、彼女の警戒心を形作る。

焦ってはいけない、急に動いて驚かせてもいけない。

そう心に刻みながら口を開く。

「大丈夫?」

「・・・・・・」

「私の名前はシルヴィア。吸血鬼では無いけれど・・・私も人以上の力を持つ、人ならざる者よ」

「・・・・・・」

「少し話がしたいの・・・よければ移動しない?」

そこまで話すと一旦口を閉じる。

なにもこんな血の匂いが漂う場所で長々と話はしたくない。

かといってそれより重要なのは彼女が一緒に来てくれるかどうか。

だからまずは彼女のアクションを待ってみる。

口を閉ざしたままの彼女。その表情は少なくとも思案はしていると思う。

まずは第一歩と言ったところか。考えもせず断られる可能性も無かった訳じゃない。

あくまで想像しかできないのが歯がゆいが、それだけ彼女の受けた心の傷は深いだろうと思う。

ふと思案する彼女の瞳が、私の左腰に差した短刀に向く。

「これが怖い?」

「・・・(コクッ)」

初めての目に見えるアクション。また一歩前進。

まぁ当然と言えば当然かしらね。あれだけの殺戮を見せつけたのだから。

そう思った私は、ゆっくりマントの裏地からリュックを取り出す。

何も無いところから取り出した私に驚く彼女。

私は「後で教えてあげる」と微笑むと、マントを脱ぎ、短剣を外し、マントと一緒に2人の中間くらいにゆっくり放る。

私の行動に困惑する彼女。

「私は貴女を決して傷つけない。その証として武器も預けるわ。」

視線を合わせ見つめながら、はっきりと告げる。

驚愕・困惑・歓喜・疑惑、と言ったところだろうか。

さまざまな感情がうずまく表情で、私と地面に放られた荷物を交互に見る。

やがてゆっくりと、一歩ずつ踏みしめるように歩き出す。

そうして私と彼女の中間辺りに放られた荷物を拾い抱きしめる。

その瞬間、彼女に聞こえないように抑えつつも、安堵の吐息を洩らす事は止められなかった。

まだ先は長いが、これで切っ掛けを作る事は成功したようだ。

「それじゃぁ、移動するけど、いいかしら?」

「・・・(コクッ)」

そうして私達は歩き始めた。










しばらく歩くと、最初に目にした小川の脇に降りる事が出来た。

都合の良い事に、その近くで座るのに適した岩が転がっている場所も見つけた

他の旅人も利用したのだろう。岩の並ぶ中心には焚き火の跡がある。

それ自体は、だいぶ時間が経ったもののようで、気を使って周囲を探っても人の気配は無い。

「ここでいい?」

「・・・うん」

後ろから付いて来ていた彼女に尋ねると、小さいながらも答えてくれた。

たったこれだけの事が嬉しいと思う私は少々危ない人に思えてくる。

同時に、原作の知識、そういった色眼鏡で彼女を見ることは危険だとも思う。

私が今ここに居るのは、原作の知識があり、原作の彼女が好きで、彼女を助けたい、共に生きたいと思ったから。

それが押しつけであれ、我儘であれ、私の本心。

でも、原作のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと、目の前の彼女は違う。

そう再認識し、自分を戒めながら岩に腰掛ける。

リュックをあけ、竹の水筒を3本取り出すと、反対側におずおずと座った彼女にそっと差し出す。

「・・・?」

「これでも飲んで、少し待っていてくれる?私、薪になりそうなもの探してくるから」

「・・・あり・・・がとう」

おずおずと受け取りながら答える彼女に微笑みかけ、私はゆっくり立ちあがる。

それでもびくりと震え、こちらを見てくる彼女。

驚かせたかな?とも思ったが、どうやら少し違うようで。すぐに思いつく。

「大丈夫、すぐそこの、見える範囲で集めてくるから・・・いい?」

「・・・(コクッ)」

私の言葉にほっとしたのか、頷き緊張をほぐす。

それなりに心は開いて来てくれているかな、と思いつつ、話を続ける。

「そうそう、少し寒くなってきたから、そのマント羽織って待っていてね」

すでに日は傾き時刻は夕方ぐらい。周りの木々の紅葉具合から季節としては秋ぐらいだと予想。

場所は日本より北に位置するイギリス、まして元いた世界から見て600年前なら、気候的に気温が低いかもしれない。

そう思い声をかけてから、森の脇に向かい枯葉や枝を集め始める。

薪を集めながらそっと様子を伺うと、おずおずマントを羽織って自動環境快適魔法(オートファイン)の効果に驚いたり、勝手に自分サイズに修復されて驚いたり、水筒の中身がそれぞれ味が違うのに驚いたり、オレンジジュースが気にいったのかごくごく飲んだり、中身が尽きないことにまた驚いたりと、先ほどとは打って変わって年相応の反応を示してくれた。

はっきり言えば・・・・・・何この可愛い生き物、である。

原作エヴァを誇り高き大人ロリッ子とするなら、目の前の彼女は年相応ピュアロリッ子だろうか。

そんなおバカな事を考えつつ、彼女の反応を堪能しつつ、集めた薪を持って戻る。

「あの・・・これ・・・中身が。それに・・・このマントも」

水筒を掲げ、訪ねてくる彼女。

「えぇ、それも魔法の効果なの。中身は無くならないから好きなだけ飲んでいいのよ。魔法の事も気になるだろうけど、後でちゃんと説明するわ」

安心させるように微笑みかけると、薪の準備を始める。

既に前の旅人が残したおかげで石の竈が作られていたので、そこに必要なだけの薪を並べ、リュックから火打石を取り出して着火する。

数回打つだけであっさり火種が着く。・・・確実に魔法の効果と思いさっと確認すると、ある意味予想通りで魔力付与がされていた。

明確な魔法ではなく、魔力付与。ようはとてつもなく火が付きやすいが分類上ただの火打石、と言うことだ。

まぁいいやとリュックに仕舞うと、今度は食糧が入った小分け袋を取り出す。

中には乾物と果物がごろごろ。あとは塩と・・・紅茶の壺。とりあえず、ステーキみたいな大きさのビーフジャーキーと、魚の干物、リンゴを取り出すと袋をそのまま彼女に渡す。

「あんまり種類ないけど、好きなの食べていいから」

座っていた岩にそれらを置くと、リュックから鍋を取り出し川に水を汲みに行く。

別に水筒から入れてもいいのだけれど、汲んだ方が早いから行く。

そういえば、乾物と干物って別物だったかしら?スルメはどっちだろ。

どっちにしても、手軽な乾物系はこれから自作しなければならないわね。

あの小分け袋、生モノでも腐る事はないよう魔力が籠っているけど、片手で食べられるのは捨てがたいしね。

肉は血抜き・解体・塩漬けした後燻製、魚は開いて内臓取り除いて塩漬けの後、天日干しで半日・・・だったかしら。

はぁ・・・元々、余程のものでない限り美味しいと思えちゃう味音痴のお蔭で、料理に興味無かったのがここで響くとはね。

神様に貰った一般常識も、全く知らないと思いだしにくいみたいだし。これは盲点だったわ。

そんな事を考えながら、ジャーキーを齧りつつ川で水を汲み戻る。

戻ってみるとそこには・・・小動物がいた。

頬いっぱいに乾物や果物を詰め込む様は、リスやハムスターを想像させる。

この1週間、ほとんど飲まず食わずで、逃げていたのだろう。

少しは警戒を緩めてくれたのか、その分忘れていた空腹にさらされた、というところかしら。

私が戻ったのに気付くと、頬を染め、申し訳なさそうにおろおろする。

「いいのよ、おなか減っていたのでしょ?好きなだけ食べていいの。でも焦って食べると喉詰まらせちゃうわよ?」

安心させるように微笑みながら、水の入った鍋を火にかける。

そうして視線を戻すと、口の中のものを飲み込んだ彼女は、何かを堪えるように唇を結んでいた。

人間の3大欲求の1つ、食欲が満たされて、さらに安心できたのかな?

私はそっと立ちあがり、頬に手を伸ばす。

最初はびくりと震えた彼女も、その手から逃れはしない。

だから私は、ゆっくりと、慈しむように彼女の頬を撫でる。

その瞬間、彼女は焚き火を回り込み、私に抱きついてきた。

腰にまわされた腕はきつく締められ、腹部に顔が押し付けらる。

小さな体から震えが伝わる。

だから私は、彼女を優しく抱きしめ、一緒に岩に腰掛ける。

「ふっ・・・ぐすっ・・・うぅ」

「もぅ・・・いいのよ。よくがんばったわね・・・もう大丈夫。私はここにいる。あなたとずっと、一緒に居るわ」

「うあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

私が小さく囁くと、少女の悲しみと喜び、その他様々な感情を取り込んだ泣き声が、夕闇に染まる森に響き渡った。










翌朝。

あのまま彼女は泣き疲れ、そのまま眠った。

私は彼女の頭を膝に乗せながら、万一に備え岩に座りながら眠った。

そして目覚めると、目の前には彼女の可愛い寝顔。

豊かな金の長髪は朝の光に輝く。

完成された西洋人形のような容姿は、今の私の姿とはまた違った美しさ。

今は閉じられている深紅の瞳は、白い肌にも映える。

着ていた黒のワンピースドレスは、逃亡中に所々裂けたのかボロボロだ。

それでもその美しさを損なう事はない。

そんな可愛らしい妖精は、穏やかな寝息と共に、未だ夢の中。

つい悪戯心が起きて、その頬をぷにぷにと突く。

そんな風に穏やかな時を過ごしていると、そのうち彼女も起きる。

「・・・・・・あっ」

「おはよう、良く眠れた?」

「・・・はい、ありがとう・・・ございます」

挨拶を交わし問いかければ、体を起こし、頬を染めながら頭を下げる。

そんな彼女に微笑みかけながら、手を取り立ちあがる。

「どういたしまして。まずは顔洗って、ご飯食べて、話はそれからにしましょう」

そういうとリュックからタオルを取り出し、2人で川に向かう。

手を握れば、きゅっと握り返される。そんな感触を噛みしめながら。










「昨日は危ないところをありがとうございました。名乗りもせずにすみません。エヴァンジェリン・マクダウェルです」

食事を終え、さぁ何から話そうかと考え出したところで、彼女は姿勢を正し、深々と頭を下げながら名乗り上げた。

親の躾の賜物か、10歳とは思えない堂々とした謝意と謝罪。

「いいのよ、あなたも大変だったのだから。それじゃぁ改めて、私はシルヴィア。後で話すけどファミリーネームはないの。好きに呼んでね。私は・・・エヴァちゃんて呼んでもいいかしら?」

「はい・・えと、シルヴィアさん」

はにかみながら答えるエヴァちゃん。

でも、この後その笑顔を歪めてしまうかもと思うと心苦しい。

それでも事態の把握が出来た方が良いのも事実だ。

「エヴァちゃん、さっそくだけど・・・何があったか、話せる?」

「!・・・・・・」

「無理に、とは言わないわ。ただ・・・」

「いえ、大丈夫です」

そう答え、まっすぐ見つめてくる瞳の何と力強いことか。

この子は本当に10歳の少女なのかと思えてしまう。

わずかに震える肩を見なければ、本気で疑ってしまっただろう。

「ただ・・・あの・・・」

そうして、私の隣に視線を向ける。それだけで何を願っているのか分かった私は手招きする。

ほっとして、隣に座ろうとしたエヴァちゃんを、私は抱き寄せ膝の上に座らせる。そうして腕の中に抱きしめる。

「ひゃっ!」

「無理はしない事。いい?」

「・・・はい」

そうして語り出したところによれば。

彼女はやはり、とあるイギリスの地方領主の娘。ただし、血の繋がりはなく、預けられた身だそうだ。

1390年に生まれ、実の両親は病ですでに他界。知人であった領主夫妻に預けられ、実の娘のように可愛がられていた。

血の繋がりがない事は周囲にも公表されており、それでもなお、子供のいない領主夫婦に変わりいずれは婿を・・・などと話が出るくらい、認められていたらしい。

彼女も義理の両親に懐き、幸せに暮らしていたそうだ。

その幸せが崩れ、事が起こったのは彼女の10歳の誕生日。

途中、具合が悪くなり一旦部屋に引き揚げた後眠ってしまったそうだ。

目が覚め広間に戻ると、そこは既に血の海。

中央に立っていた男の足元には、両親の亡骸。

そこから先は断片的な記憶しかないらしい。

覚えているのは、男の話し、男が自分に呪いをかけたという事、吸血鬼と言う単語、成功に酔った男が両親を足蹴にしたこと、そして・・・右手に残る血肉を断つ感触。

気付いた時、男の身体はばらばらになり、床に散らばっていた。

自分の力に、行った所業に恐れ慄く彼女。

しかし次の瞬間、窓からさす日の光が、いつのまにか朝になっていた事を知らせる。

このままではいずれ異変に気付かれる。

その時自分はどうなる?これだけの惨劇、1人生き残った自分の強大な力・・・

その時全てを理解していた訳でも、想像していた訳でもない。

ただ本能が、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)として覚醒した生存本能・危機察知能力が、このままここに居ることの危険性に警鐘を鳴らした。

とっさに両親の手から指輪をはずすと握りしめ、すぐさま自分の部屋に向かい着替える。

逃げることは頭にあっても、それに適したような服装はなく、結局いつも着ているようなワンピースドレスを着こむ。

2つの指輪に紐を通し、首にかける。

その時、城の入り口で人の声がする。

もう気付かれた!

次の瞬間、彼女は駈け出し、正面とは別の入り口から城を脱出した。

その時、見られていないと思ったが、中を検分していたあのローブを着た下衆に姿を見られ、その後1週間追われ続け、昨日に繋がると言うわけだ。

・・・・・・話し終え、震える彼女を抱きしめる。

「ありがとう・・・よく話してくれたわ」

聞いた限り、ほぼ原作と同じ流れだった。と言う事は彼女の復讐すべき相手はまだ生きている。

そいつの名は『造物主(ライフメイカー)

後の戦争の黒幕にして、『魔法世界』を作った存在。

その辺を含めて、今度は私が話し始めた。










この世には、神と天使が治める『天界』、魔王と悪魔が治める『魔界』が1つずつ存在する。

そして、神や魔王が管理者として管理する『人間界』が無数に存在する。

私は元々別の人間界に存在していたただの人間。

それが管理者候補として力をもらい、この人間界の管理にやってきた。

「それじゃぁ・・・シルヴィアさんは、神様なんですか?」

「まぁ・・・見習いみたいなものだけどね。急にこんな話して、すぐには信じられないわよね」

「いえ・・・シルヴィアさんが嘘をつく必要はないですし」

そうして笑いかけてくれるエヴァちゃんを抱きしめながら話を続ける。

今回私が介入した人間界は、そんな多数の中の1つで、ここは2つの世界によって成り立っている。

すなわち、普通の人が暮らす『旧世界』と、魔法が認知されている『魔法世界』だ。

『旧世界』の人間は『魔法世界』に存在せず、魔法の存在も知らない。

逆に『魔法世界』関係者のいくらかは、『旧世界』にも存在している。

昨日の、ローブの下衆がそれに当たる。

そして、エヴァンジェリンが掛けられ、その存在ごと作りかえられた呪い。覚醒したそれは吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)と呼ばれる種。

吸血鬼の上位種にして不老不死の存在。一般的な吸血鬼の弱点とされる日光や流水を克服しており、吸血した相手を眷属にするか任意で選べる。不老不死からくる圧倒的再生能力、闇の眷属故の膨大な魔力から、『旧世界』『魔法世界』問わず最強種の1つとされている。

不老不死故に老いることも、死ぬこともない種。孤独を抱き続ける存在。その呪いを解く手段がない事も話す。

またその呪いを掛けた存在、すなわち造物主(ライフメイカー)はまだ生きている可能性も話す。

「・・・そっか、私、本当に化け物になっちゃったんだ」

そう寂しそうに話す彼女を抱きしめずにはいられなかった。

「・・・・・・そんな言い方しない方がいいわ。・・・私は、『人ならざる者』って言う事にしている」

「『人ならざる者』?」

「えぇ、人以上の力を持つ、人以外の存在。その方が、化け物よりは響きがいいでしょ?」

「くすくす、シルヴィアさんは神様ですけどね」

「あら?どちらかというと魔王様よ?」

気分を変えるためにおどけた会話を続けながら、神と魔王の違いを話す。

もちろん、色欲に溺れれば魔王に・・・などと話せないので、出世欲や金銭欲に置き換え、本能や欲望に忠実だと魔王や悪魔よりの存在になる事、そこでの正義と悪が一義的ではないことも説明した。

そうして話を聞いていたエヴァちゃんがおもむろに、そして意を決したように問いかける。

「それで・・・シルヴィアさんは、なぜ私を助けてくれたんですか?」

「・・・私は、エヴァちゃんが良ければ一緒に旅をしたいと思っている」

その私の言葉に目を見開き驚く彼女。その瞳が揺れる。

そんな彼女に話を続ける。

『人間界』には、目的や理由となる『物語』が存在する。その『物語』が他の『人間界』に、娯楽と言う意味での『物語』として存在する場合がある。

これを原作と言い、この『人間界』の原作が、かつて私が居た『人間界』に存在した。

「!それじゃぁ・・・」

「えぇ、その中にエヴァンジェリン・マクダウェルという人物も登場していた」

その事実に更に驚くエヴァちゃん。

ここで誤解を与えないように一気に続ける。

「私は原作の中のエヴァンジェリンが好きだった。そして、その原作を基にしたこの『人間界』に来ると分かった時、彼女を救いたいと思った。彼女も、不老不死として、孤独に苦しんでいたから。そして私は貴女の前に現れた・・・だけど気付いたの」

そこで私は彼女を抱き寄せ、その瞳を真正面から見つめる。

昨日、決して傷つけないと誓った時のように。心が伝わるように。

「今目の前に居るエヴァちゃんと、原作のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは違う。私はこの人間界に来る前に決めた事があるの。それは『私は、私自身と私の大切な者のために生きる』と言うもの。その私が、今、守り一緒に旅をしたいと、共に生きていきたいと思っているのは原作の彼女ではなく、目の前のエヴァちゃんだから」

そこまで話した私は、一旦口をつぐむ。私も彼女も、視線をそらさず見つめ続ける。

「もし・・・・・・嫌だったり、時間が必要なら・・・」

「行きます」

すこし間を置こうか・・・そう続けようとした私に、エヴァちゃんははっきりと続けた。

その時になってようやく、私は緊張していたことに気付く。

震える手をそのままに、彼女の頬に当てる。

「いいの?」

「はい・・・さっきも言ったけど、シルヴィアさんは嘘をついてないと思う。その必要もないし、真っ直ぐに私を見て話してくれたから・・・それに」

そこで私の手に自分の手を重ね、今までで一番の笑顔を浮かべる。

「もう1人は嫌だから・・・シルヴィアさんと一緒なら、私、笑えると思う。きっと楽しい。だから・・・私も、一緒に連れて行って下さい」

その言葉の後に、瞳から涙を流したのはどちらが先か。

「えぇ、一緒に生きていきましょう。2人で、ずっと一緒に」

「はいっ」

わからぬまま、2人は微笑み、涙を流し、抱きしめあう。

2人の心を包むのは安堵と歓喜。

暖かな日差しの中、2人は共にある幸せと温もりを噛みしめながら抱きしめあった。










あの後、随分話し込んだことと、抱きしめあったまま落ち着くまで待った事で、太陽の位置はすっかり真上、正午になっていた。

昨日の今日で、この辺までなら追手が来るかもしれないと、とりあえず南へ向けて、2人は旅立つことにする。

理由は特になく、暖かい方へ向かうという意味で。

それとなくエヴァの住んでいた城まで、思い出の品などを取りに戻る事も示したが、本人があっさり却下。

胸元の二つの指輪を握りしめ「私には両親のこれと、シルヴィアさんがいるから、大丈夫」と笑顔で言われて抱きしめたのは少し前の事。

なんとなく、自分のキャラが壊れていると思わないでもない。

さっきも、まさか自分が泣くとは思っていなかったわけで・・・感情移入はしていたけども。

まぁ、それでもいいかと切り替えた私は、隣でオレンジジュースをちびちび飲みながら歩くエヴァちゃんに爆弾を投下する。

「エヴァちゃん、今日から私達、義理の姉妹って事にしようと思うんだけど、どうかしら?」

「!!!ケホッッケホッ!」

う~む、予想通りの反応。そして咳き込む姿も可愛らしい。

・・・シスコンフラグ?ナニソレオイシイノ?

そんなおバカ会話を脳内で交わしていると、エヴァちゃんが再起動。

「いきなりどうしたんですか?」

若干恨めしげに、しかし頬を染めつつ上目遣いのエヴァちゃん。

・・・うむ、これは強力です。

「女の2人旅はそれなりに目立つし、せめて関係ぐらいはあり得るものにしとこうかなと思って。」

実際問題、あまり注目を浴びるのは得策じゃない。どうせ目立つにしても理由と関係の2つの好奇で目立つより、理由だけで目立った方がまだまし、という程度だけどね。

服装、というかマントとかのほうが目立つかな~とか思うけど気にしない。

・・・そもそも内包する魔力の大きさの方が問題かしら?

「・・・そう言う事なら是非。よろしくお願いしますね、シルヴィア義姉様♪」

「!!!ケホッッケホッ!」

水を飲もうと口を付けていたら、なにやらかなり上機嫌な声で聞こえてきたエヴァの口撃。

効果?もちろんクリティカルですがなにか?

「エヴァちゃん、いえエヴァ、あなたね~」

「ふふっ、さっきの仕返しです♪」

じ~っと見つめ合う2人はやがて同時に笑いだす。

そうして、ちらちら見ていた手を差し出して、2人で手を繋ぎ歩き始める。

これからの長い、とても長い旅を、2人で一緒に。ずっと一緒に歩んでいく。 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます。

加えて着々と増えるお気に入り登録、ありがとうございます。

これからも励みにして頑張っていきたいと思います。

ご意見・ご感想おまちしております。

それでは、また次回。 
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