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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第93話 甘さの代償

幽州での諜略を終え、私は急ぎ冀州常山郡にある私の城に戻りました。

現在、私は北郷と逃亡兵の討伐状況について、執務室で真悠から報告を受けています。

この部屋には私と彼女以外に、揚羽、冥琳が同席しています。

「逃亡兵は全て処刑しましたが、北郷は寸での処で取り逃がしてしまいました。恐らく、既に北郷は并州州境を越境したものと存じます。義兄上のご帰還を待たずに、幽州、并州の各郡に討伐依頼の手配書、内々ですが麗羽殿、美羽殿、公孫賛殿に討伐の旨を記した書状を送っております」

真悠は恭しく拱手をして、私に言いました。

「真悠、逃亡兵を全て殺したの何故だ。北郷は兎も角、投降する者は一人も居なかったのか?」

私は真悠が逃亡兵を全て殺したことに怒りを覚えました。

「義兄上、私も当初は彼らに投降を勧めました。しかし、彼らに投降の意思が無く、私は仕方なく殲滅の決断を下しました。北郷は乱戦の最中、夜陰に紛れ逃亡致しました。ですが、無傷ではないでしょう」

真悠は淡々と言った後、私の顔をほくそ笑んだ笑みを浮かべ言いました。

「どういう意味だ」

私は真悠に厳しい視線を向けました。

「夜陰の中でしたが、私の手の者が北郷に矢を射ました。その矢の鏃には血痕がついておりました」

「北郷は手負いにも関わらず、逃げ切ったということか?」

私は真悠の言葉が信用できませんでした。

「私の力が至らぬばかりに申し訳ございません」

真悠は拱手をして、頭を下げました。

「分かった。北郷が逃がしたのなら仕方が無い。それより、北郷の行方はどうなっている」

真悠への不信は一先ず置いておき、次への備えをしなければいけません。

まだ、烏桓討伐まで時間があります。

北郷の件はそれまでに決着をつける必要があります。

「并州には追手を放っておりますが、未だ討伐はできておりません。されど、并州近隣で先頃、若い女が誘拐され、暴行をされた挙げ句、殺されるという事件がございました。鮮卑族の仕業という可能性がございますが、北郷と戦闘した場所から、そう遠くない場所なので、北郷の仕業とも言えなくはございません」

「正宗様、北郷のことは一先ず置いて、烏桓討伐のための計画に専念されてはいかがでしょうか?」

冥琳が私と真悠の会話に入りこみ言いました。

北郷がこの時代の人間なら放置しますが、こうなった以上、私の手で息の根を止めなければいけません。

ならば、手段は一つです。

「それはできない。元はと言えば、私が蒔いた種だ。北郷を討伐するために、私が并州に出向く。揚羽、騎兵100騎連れて行くので、直ぐに準備を頼む」

「正宗様、并州は鮮卑族の略奪による被害が横行する地です。それでも、行かれるのですか?」

揚羽は私を真剣な表情で見つめると言いました。

「そんなことは百も承知だ。自分で蒔いた種を自分で刈り取りに行く。烏桓討伐までに戻るので、揚羽は準備を頼む」

「分かりました。後事のことは、この私にお任せください」

揚羽は優しい微笑みを浮かべ言いました。

真悠の報告は最もらしいですが、違和感があります。

逃亡兵が抵抗するのは当たり前ですが、彼ら全てが抵抗するとはとても思えません。

私のことを恐れたとも言えなくもないですが、私が黄巾の乱後の投降した賊への施策を鑑みれば、主防犯である北郷は別として、他の者達は死罪になる可能性が低いと思うのが自然です。

それでも、彼らが敢えて抵抗したというなら、それなりの理由があるはずです。

彼らは世を善くしようと、桃香の元に集った兵達です。

だからこそ、納得いかないのです。

私の考え過ぎなのかもしれませんが……。

「義兄上、この私を同行させていただけないでしょうか? 北郷を逃亡させた責任は私にございます。私に是非、汚名返上の機会をお与えください」

真悠は拱手をして、真剣な表情を私に言いました。

彼女は北郷が并州逃亡しきった経緯を知っているはずです。

その当人が北郷討伐に加わりたいとは……。

良いでしょう。

どのような了見かは知りませんが、この私があぶり出してやります。

真悠と一定の距離があり、知恵が回り、尚かつ現在動ける者も連れて行きましょう。

風と稟のいずれかでしょうが、稟には幽州の諜報活動を任せたいと思っているので、ここは風にします。

「真悠、あなたは北郷討伐の責任者でありながら、失敗したのですから自重しなさい。あなたが同行しては、正宗様が親族に甘いという風聞が立ってしまいます」

揚羽は真悠を厳しく睨んで言いました。

「姉上、私は兵卒で構いませぬ。だから、問題ございませんでしょう。義兄上も私のことは兵卒としてお扱いください。義兄上のことも、正宗様と呼ばせていただきます。これならば、周囲の者に示しがつくのではないでしょうか」

真悠は厳しい表情を浮かべる揚羽に微笑を浮かべました。

「分かった……。真悠、お前を兵卒として、連れて行く」

揚羽は私の決定に黙っていましたが、真悠のことを終止、厳しい表情で見ていました。

真悠は彼女に軽く微笑み返していました。

「揚羽、3ヶ月以内に帰還する。冥琳も頼んだぞ。それと……、風を参謀として連れて行く」

「は!」

「は!」

揚羽と冥琳は拱手をして応えました。

私は数日後、真悠、風と騎兵100騎を連れ、并州へ旅立ちました。
 
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