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おじさんのバレンタイン

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第二章

「幸い抜けた歯はないけれどな」
「それでもですか」
「五十代になると歯が不安な人も出てきますか」
「チョコレートって硬いですからね」
「確かに歯が悪いと食べにくいですね」
「まあこれはチョコレートだけじゃないけれどな」
 この菓子だけの話ではないというのだ。
「おかきとかクッキーとかもな」
「歯が悪いとですね」
「食べられないですね」
「そうなったら」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「本当にな」
「歳を取るとですか」
「バレンタインも嬉しくなくなる」
「そうなりますか」
「結婚して子供が出来てな」
 そしてというのだ。
「五十を超えるとだよ」
「もうバレンタインもですね」
「義理チョコ貰うだけ」
「そんな風ですか」
「後はホワイトデーのことを考える」
「それだけのことになりますか」
「本当にな、そんな風だからな」
 また言う山田だった。
「俺の興味は今は仕事とな」
「はい、そっちですね」
「やっぱりそうなりますよね」
「お仕事のお話にもなりますね」
「それと今読んでいる本と酒のことだな」
 この二つのことにも興味があるというのだ。
「司馬遼太郎の坂の上の雲読んでるし仕事が終わったら焼き鳥食いに行ってな」
「そこで、ですね」
「一杯ですね」
「そっちですね」
「ああ、焼酎を飲むか」
 こう考えているというのだ。
「そう考えてるさ、あと阪神のことはな」
「あっ、部長阪神ファンでしたね」
「子供の頃あらでしたね」
「そうでしたね」
「今は考えたくないな」
 どうにもというのだ。
「去年の惨状思うとな」
「あれっ、三位でしたよ」
「クライマックス出ましたよ」
「結構よかったじゃないですか」
「中々の成績でしたよ」
「あれだけ巨人に負けてエラーが多かったからな」
 それでというのだ。
「キャンプがはじまってもオープン戦でどうかだからな」
「オープン戦でどう勝ってくれるか」
「若手の成長を見てですか」
「そうしてですか」
「考えたいな、けれどオープン戦で勝ってもな」
 それでもというのだ。
「ペナントで負けるとかな」
「ありますよね」
「オープン戦優勝でもペナントでは最下位とか」
「そういう場合もありますね」
「その逆もありますね」
「だからな、今は阪神のことは考えない様にしておくな」 
 キャンプの間はというのだ。
「けれど優勝はして欲しいな」
「正直巨人が優勝するよりずっといいですね」
「巨人が優勝しても何もないですが」
「阪神は違いますからね」
「日本中がフィーバーして」
「景気もよくなりますね」
「そうだよ、巨人が優勝していいことはあるか」
 山田は共に書類仕事をしている部下達に問うた。 
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