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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百三十話 決戦!!ヴァーミリオン星域会戦です その3

ヒューベリオン艦上――。

「帝国軍が殺到してきます!」

 オペレーターの悲鳴のような声を聴きながら、ヤンの脳裏は冷静だった。決定的な敗北が決まった以上、勝算のない戦いをするわけにはいかない。できることはこれ以上犠牲を出さない事だ。
ヤンは通信を求めた。もっとも会いたくない相手であるが、最も話さなければならない相手であったからだ。

「シャロン・イーリス最高評議会議長閣下」

 画面越しにシャロンの顔が映し出された。敗北を悟ったのか、顔色が悪いのか、心持目を伏せているようだった。

「もはや、敗北は必至だと思われます。私の艦隊が殿を務めます。その隙にお逃げください。」
『・・・・・・・。』

 シャロンは口をきかなかった。肩が震えている。これほどの大敗北はシャロンにとっては受け入れがたいものなのだろうとヤンは思った。しかし、この間にも事態はどんどん進行しているのだ。ためらう時間も考える時間もない。

「最高評議会議長閣下!ご決断を。今こうしている間にも帝国軍は攻勢に転じつつあります」

 その時、ヤンは違和感を覚えていた。何故シャロンはしゃべらないのだ?何故何も言わないのだ?何故指示を出さないのだ?

『ククク・・・・・。』

ヤンは信じられないものを見た。シャロンはこらえきれないように笑っていたからだ。そして彼女は顔を上げてヤンを見た。とたんにヤンは隠し切れない戦慄を覚え、身体の震えを押さえることができなかった。

『ご苦労様。ヤン・ウェンリー』
「・・・・・・?」
『ここまであなたには随分働いてもらったわ。でも、随分と私を失望させてくれたわね。先のイゼルローン総軍での敗北、そして今度のヴァーミリオン星域会戦での敗北。私が求めたのは、私がラインハルトとその支持者を殺すための下準備を整えてもらう事、だったわね?局地的な勝利をあなたは重ねたけれど、そんなものは大会戦の前には無益であることを、思い知ったかしら?』
「それは・・・・・。」
『これではあなたとの約束を、守ることはできそうにないわね。やはりあなたは軍人には、いいえ・・・・覇者にはなれないことがよくわかったわ』
「どういう・・・意味でしょうか?」
『すぐにわかるわ。では、ごきげんよう、ヤン・ウェンリー』

シャロンの微笑が濃くなった。

『今この時をもって、あなたの自由惑星同盟軍における階級を剥奪するわ。年金が支払えないのは残念だけれど』

 同時にヒューベリオンのオペレーターが悲鳴のような声を上げたので決定的な事実を皆が認識する前に意識がそちらにそれた。彼の上げた悲鳴は確かに悲鳴であったが、それは先頬までの色合いと違っていた。

「か、艦隊がワープアウトしてきます!援軍です、援軍が到着しました!助かった!」
「援軍?」
「閣下、ええ、援軍ですわ」

フレデリカ・グリーンヒル大尉が近寄ってきたが、顔色を変えた。

「こんなこと・・・あり得るの・・・・・?」
「どうした?!状況を報告しなさい。グリーンヒル大尉」

ムライ中将がフレデリカを促した。

「帝国軍後方6時に艦隊出現・・・数、10万!!帝国軍左翼側面9時に艦隊出現・・・数、10万!!帝国軍上方12時仰角80度に艦隊出現、数、10万!!帝国軍下方12時俯角80度に艦隊出現、数10万!!まだ・・・・まだ出現しています!!」
「そんな馬鹿な!!いったいどうやって――」
「これは、これは、軍艦ではないわ!!いいえ・・・・軍艦もあるけれど、これは・・・民間船です、閣下!!!」
「・・・・・?!」
「さらに、外周に艦隊反応!!先ほどの艦隊反応外側に、5万隻ずつの艦隊が出現しています!!これは、正規艦隊の反応です!!」
「まさか・・・!!!」

ヤンは信じられない顔をシャロンに向けた。これから起ころうとするものを信じられないと受け入れない気持ちが高まる中、一方では最悪の事態を想定していた。

『熱狂的信徒にとって最高の法悦は何だと思います?ヤン提督。それは自らが信じる主の為に殉教することですわ。原作の愚かな地球教徒と同じですわね』
「そんなことは、人道的ではない!!やめろ!!・・・・やめろ!!」
『やめろ?おかしなことをおっしゃるわね、私は自由惑星同盟の最高評議会議長。そしてその私を選出したのは他ならぬ自由惑星同盟の市民のあなたたち。であれば私はあなたたち市民を導く責務があるわ。そうではなくて?』
「ふざけるな、そんなもの――!!」
『あらあら、不敗の魔術師ともあろうお方が、そのような小汚い言葉をお使いになるとはどういう風の吹き回しかしら』
「・・・・・・・」
『戦闘艦隊は外周に待機。さらに後続も続々とワープアウトしているわ。私の為に殉教してくれる崇高な目的を持った市民を満載した民間船の外側にね。殉教の後には異端者の徹底的な殺戮あるのみというわけよ。豚を屠殺場で殺すような、といったところかしらね』
「・・・・・・・やめろ、頼むから、やめてくれ・・・・・!!」
『何を呑気なことをおっしゃっているのかしら?あなた自身ももはや自由惑星同盟から外れた存在。皆は躊躇いなくあなたに攻撃をしかけますわよ』

艦橋がざわめいた。そんな馬鹿なと言う声が飛び交っているが、ヤン自身はこぶしを握り締めながら、シャロンの言葉を受け止めていた。彼女がそう言う以上は、嘘ではない。

『では、御機嫌ようヤン・ウェンリー。あなた自身の生存を心からお祈り申し上げますわ。ククク・・・・アハハハハハハ!!!!!!』

狂気のような笑い声を残して、シャロンの姿はディスプレイから消えた。


* * * * *

イルーナは信じられない思いでスクリーンを見つめていた。彼女だけではなく、クルーたちも同様だった。

(これは・・・・・!!)

「アラート拡大中!!大艦隊が四方八方から接近してきています!!」
「それも、民間船です!!」
「こちらの制止をきかず、突っ込んできます!!いえ、既に一部が攻撃を開始してきています!!」
「応戦しなさい!!!」

イルーナがとっさに下すことができたのは、その指令だけだった。

「姉上、民間船を攻撃するなどと――。」
「わからないの!?これは罠よ!!シャロンは・・・民間船に自分が洗脳した人間を乗せて、人間爆弾として突入させようとしているのだわ!!!」
「そんな――。」
『ククク・・・・どうかしら、ローエングラム公、そしてイルーナ』
いきなりスクリーンが切り替わった。シャロンが満面の笑みを浮かべている。
「貴様!!!」

ラインハルトがこぶしを握り締めている。

『私の信奉者たちは躊躇いがないのです。私はそこまでする必要などないと申し上げたのですけれどね。』
「ふざけるな!!嘘を言うな!!」
『まぁ、この際それが嘘かどうかはさておき、いかがですかしら?ローエングラム公、そしてイルーナ。ヤン・ウェンリーを下し、そして決戦の地ヴァーミリオンで私を下し、勝利の頂に登ったと思った瞬間に――。』

シャロンの微笑が濃くなり、狂気じみている。そして次の言葉を一語一語区切って放った。



『地獄に、蹴落とされる、心境は』



「艦隊の左翼、敵の突入を受け、混乱中!!」
「続いて右翼も!!」
「下からも、上からもです――。」
「先の戦いでエネルギーをほぼ使い果たしています!!迎撃にも限界が!!」
「っ・・・・!!!」

 イルーナは歯を食いしばって耐えた。動揺する心を懸命に落ち着ける。それを見下しながら見つめるシャロンの微笑が狂気をはらみ続ける。

『無様よ。イルーナ・・・・。そしてその顔こそ私が最も待ち望んでいた瞬間。この目で見られてうれしいわ』
「シャロン、あなたは――!!」
『イルーナ・・・・死になさい。』

無慈悲に響く声は、いかなる感情をも押しつぶす冷たさで、まるで氷の魔女のようだったが、次の瞬間一転した。

『死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで!!!!!!!!!!死んで地獄に落ちろ!!!!!!永遠の業火に焼かれて死ね!!!後悔し続けなさい!!!!!!!!!ククク!!!!!!!アハハハハハハ!!!!!!!!!!アハハハハハハ!!!!!!!!!!!アハハハハハハ!!!!!!!!』
「通信を切って、切りなさい!!!」

 狂気じみた笑いの残響を耳から追い出すと、イルーナはラインハルトを切り裂くように振り返った。

「わかっています、姉上!!もはや躊躇いは無用!!全軍に告ぐ!!自由惑星同盟に対する追撃戦は中止し、直ちにフェザーン若しくはイゼルローン要塞に向けて撤退を開始せよ!!!」

 ズシィィィン!!!

 ブリュンヒルトが震動した。正確には早くも猛烈な嵐のような砲撃攻撃を受けてエネルギーの奔流が襲ってきたのだ。

『ローエングラム公、教官!!』

 ディスプレイが明滅し、フィオーナの姿が現れた。

『ここは、私が殿を務めます!!』
『フィオーナ、私も手伝うわ!!』

 スクリーンにバーバラの姿が割りこんだ。

『バーバラ、あなたはローエングラム公をお守りして!!』
『でも!!・・・いいえ、私もここで戦う!!』
『バーバラ・・・・!?』

* * * * *
バーバラは艦橋でフィオーナに向かって叫んだ。

「私は前世から、ずっと、逃げてばかりだった・・・・!!最後まで・・・・!!」
『そんなことない、あなたは――!!』
「敵が接近してくる!!もう時間がないの知っているでしょう!?私にも手伝わせて・・・・!!話し合っている場合!?」

バーバラの脳裏には前世からの自分の記憶が怒涛のごとく奔流となって流れていくのがわかっていた。ずっと、ずっと、ずっと――。名門貴族の息女として、それに甘えた生き方をし、最後まで大切なものを守ることはできなかった。もうそんなものは御免なのだと、あの時、最後に思った思い、ここで無駄にしたくはない。

『バーバラ・・・・!!』
「ごめんね、フィオーナ。私が・・・・ティアナじゃなくて・・・・。」
『―――!!』

灰色の瞳を大きく見張るフィオーナにかまわず、バーバラはラインハルトを見た。

「お聞きのとおりです、ローエングラム公、そして主席聖将!!早く、ここを逃げてください!!早くッ!!」

* * * * *
『教官!!後はお任せください!!私の艦隊が突破口を開きます!!』

その言葉が終わらないうちに、一隊のアースグリム改級が包囲してきた敵に狙いを絞る。波動砲発射口から青い光が漏れ出たかと思うと、一斉に敵に向けて斉射した。漆黒の宇宙を青い閃光が駆け、明滅する無数の光球の中心点にぽっかりと穴が開く。

「ラインハルト!!」
「駄目だ・・・!!俺一人の為にみすみす部下を見捨ててゆけと、そう姉上はおっしゃるのですか?!」
「今は耐えるのよ!!ここでこうしている間に味方は無意味な犠牲を出し続けていくのよ!!」
「しかし・・・・・!!」

ラインハルトのアイスブルーの瞳が射るようにディスプレイに映し出されているフィオーナ、そしてバーバラを見た。

『私たちならば絶対に負けません!!必ず生きて追いつきますから――。』
『早く、逃げて下さいっ!!』
「キルヒアイスっ・・・・!!!」

ラインハルトは切り裂くようにキルヒアイスを見ようとしたが、無駄だった。彼は艦隊を率いて遥か別の宙域に赴いていた。救援の連絡を送ったがいつ来れるのか――。
けれど、この時、ラインハルトには後ろに立つキルヒアイスの姿がはっきりと見えていた。
彼の顔にもまた、苦悩の色が濃く浮かんでいる。だが、絞り出した答えはラインハルトにしか聞き取れなかったが、彼の答えはイルーナの物と同じだった。

『・・ラインハルト様、ここはフロイレイン方の言う通りになさってください。おこらえください・・・!!それが、今は最善手だと思われます。ラインハルト様なくしては、誰が艦隊の総指揮をおとりになられますか・・・・!!』

必死に訴えかけるキルヒアイスの声、そして姿はすぐに消えた。ラインハルトは3秒ほど苦痛を耐え忍ぶ病人の顔色をしていたが、キッと顔を上げた。

「すまぬ・・・・!!」

純白のマントの裾を払い、彼の声が艦橋に満ちた。

「全艦隊、全軍イゼルローン要塞に向けて、最大速度で撤退せよ!!」


* * * * *
「民間船が次々とやってくる!!」
「しかも体当たり覚悟で!?」
「どういうこと!?」
「正気なの!?」
「話している場合か!?撃て、弾幕を張って敵を近づけるな!!」
「ワルキューレ部隊、全機、散開体形RKフォーメーション!!艦隊を守れ!!」
「敵を近づけさせないで!!」

 ワルキューレのパイロットたちは緩急自在な動きをしながら、通信を途切れさせないようにしつつ、奮闘していた。彼らの眼差しの下には、上には、右には、左には、守るべき艦隊がいる。
フィオーナとバーバラは緩急自在な連携を保ちあって、奮闘していた。後退しながら奮戦し、やってくる敵、しかも体当たりをしてくる敵をはねのけるのは並大抵のことではない。しかもエネルギーを両軍ともほぼ使い果たしている状況なのだ。

『迎撃に徹し、逃げることのみを考えて指揮をとる!!』

というのが、一瞬のうちに二人の間に生じた了解だった。

「前衛第二陣は近接戦闘に切り替え、前衛艦隊を掩護!!前衛艦隊第一陣は長距離砲撃で敵をけん制!!全速後退で後進!!」

 後退の先頭をルッツ艦隊がとり、その後ろをローエングラム本隊、そして、右翼をメックリンガー艦隊が固め、左翼をロイエンタール艦隊が固め、殿をミュラーが務める。シャロンはローエングラム本隊に対して、次々と艦を特攻させた。何しろ攻撃ではなく、特攻なのだ。

『シャロンシャロンシャロンシャロン!!』
「助けてくれェッ!!」
「死にたくない!!」
『シャロンシャロンシャロンシャロン!!』
「こんなところで、こんな・・・・!!」
「怯むなッ!!敵は人間ではない!!ただの無人艦だ!!鉄の塊だ!!何を臆することがある!!」
『シャロンシャロンシャロンシャロンシャロン!!』

指揮官が叱咤するが、いったん恐怖におびえた兵たちはともすれば発狂寸前にまで追い詰められ、叫び声を上げるか、泣き出すかのどちらかを迫られていた。

「クククク・・・・!!燃料エネルギーを満載した艦が爆発四散するだけでも被害は甚大になる。そのように設計したのだから・・・!!」

 シャロンは次々と艦隊に突進する民間船団を狂気の微笑を浮かべて見守っている。次々と防宙砲撃の網を潜り抜け、敵に突進し敵もろともに四散する姿があちこちで見られた。
 敵の妨害などものともせず、彼女は自分のオーラで彼女を狂信する教徒たちの声を帝国軍に拡散させ続けていた。

* * * * *

「・・・・・・・・・・。」

 ヤン・ウェンリーはヒューベリオン艦橋で、虐殺光景を眺めたまま身動き一つしない。彼の幕僚たちも同じだった。

「閣下!!」

 一つの声が切り裂くようにヤンの呪縛を解いた。彼が振り向くと、背後にユリアン少年と、そして彼とほぼ年恰好の似た青年が立っている。

「非礼を承知で申し上げます。ですが、今あなたはここでこのようにしていてよいのですか!?」
「君は――。」
「アルフレート・フォン・バウムガルデン大尉です。いえ、そのようなことは今はどうでもいい。閣下、あなたの目の前で起こっていること、これを是としてよいのですか?帝国軍は確かに私たちの敵です。ですが、その敵よりもずっと残虐な存在が、帝国軍よりもずっと残虐な殺し方を展開している。いや、もう人間として扱っていません!!自分たちの配下も敵もです!!」
「・・・・・・・・。」
「このままでは帝国軍は壊滅しますが、それ以上に自由惑星同盟の人間もまた死滅していきます!!それでいいんですか?!」
「それは――。」
「ヤン提督、いえ、閣下、僕からもお願いします!!こんなことは無茶苦茶です!!以前閣下もおっしゃっていたじゃないですか、自由惑星同盟があのようになってしまった以上、帝国と手を組むこともやむ無しって!!」

 ユリアンの言葉は少し前までであれば、問答無用でその場で殺されるに値するものだった。だが、今、ヤン艦隊の面々はシャロンに洗脳されている人間は一人もいないのだ。
 
 しかし――。

 ヤンの後姿は化石化したように動かなかった。動けなかったのである。

「閣下!!」
「お願いです!!」

 アルフレートとユリアンの声がヒューベリオンの艦橋に響いたが、ヤンは動かなかった。その視線は目の前に繰り広げられる錯綜するビームの驟雨、そして絶えず明滅する光球の輝きをただ、受けているだけであった。

「閣下、第三十艦隊より、通信が入っております!!」

 オペレーターの一人が声を上げた。幕僚たちが反応するよりも早く、一人の女性の顔が映し出された。

* * * * *
錯綜するビーム。明滅する光球。
そして、シャロンシャロンシャロンシャロンの声。
それをバックミュージックに、カロリーネ皇女殿下は呆然と佇んでいた。けれど、コーデリア・シンフォニーに話しかけられて我に返る。

「中尉。いいえ、カロリーネ皇女殿下」
「はい」
「ここから先は、死闘になります。生き残る術をすべて使って、何としてもヤン・ウェンリーとラインハルトを守り切ること」
「はい!」

 それに応えようとした刹那、背後から何とも言えないうめき声が聞こえた。二人が振り向くと、まるでゾンビのように揺らめきながら全クルーたちが迫ってくるところだった。

「・・・・・・・ッ!!」
「シャロンの洗脳の影響か」

 一言つぶやいたコーデリア・シンフォニーは、腕を交差させると、爆発的にオーラを発散させた。揺らめく七色のオーラが艦内全体に広がった瞬間、クルーたちの動きが止まった。崩れ落ちる者もいれば、まるで昼寝から目が覚めた様に瞬きする者もいる。コーデリア・シンフォニーはなおもオーラを拡散させていった。まるで自分の全艦隊に広げようというかのように。

「さて、と。これでよし。では皇女殿下、すぐにヤン・ウェンリーに連絡を取りましょうか」
「え、ええ!?・・・あ、は、はい、はい!!」
「呆然としている場合ではないですよ、ここから先は本当に生き残りをかけた戦いになるのですから」

 コーデリア・シンフォニー中将の顔は見たことがないくらい引き締まっていた。

* * * * *
『閣下、ヤン・ウェンリー閣下。聞こえますか?こちらは第三十艦隊コーデリア・シンフォニー中将です』
「あ、あぁ、聞こえるよ」
『まぁ、第三十艦隊も中将も過去の呼称になりつつありますが。見てのとおり、シャロンが本性を現しました。ご覧になったでしょう?あれこそが彼女の真の姿です。いえ、これとてもまだ序の口。今に屠殺場と化しますよ、ヴァーミリオン星域は』
「・・・・・・・・」
『これより我が艦隊は帝国軍に協力します。第三十艦隊におけるシャロンの洗脳は先ほど私が力づくで解除しました。我が艦隊の将兵にとってこれが良い結果かどうかはわかりませんけれど・・・・』
「・・・・・・・・」
『閣下、どうか協力してください。今帝国軍だの自由惑星同盟軍だのと言っている場合ではありません。そんなものはただの呼称です!』
「・・・・・・・・!」
「こうしている間にも、双方の人命が――」
「わかった」

 ヤン・ウェンリーが立ち上がっていた。

「そうだね、私は勘違いしていたらしい。結局のところ、今この状況下では自由惑星同盟、帝国などという呼称は意味を成さない。皆あの人に殺されていく運命の人間なんだ」
『そういうことです』
「よし、さしあたり私の艦隊と貴官の艦隊とは共同戦線を張ることとしよう。帝国軍は理解してくれるかな?今の今まで戦ってきた相手が協力すると言ってきたら――」
『ご心配なく。まずは行動で示しましょう。言葉で説明するのは、その後です』

 ヤンはうなずいた。艦橋にいるムライ中将は謹厳な顔を崩さなかったが、グリーンヒル大尉、ユリアン、アルフレート、パトリチェフらの顔は明るくなった。

「そうと決まれば、ローエングラム本隊を探さなくては。オペレーター、現在の状況は?」
「帝国軍、ローエングラム本隊、敵と交戦しながら後退の姿勢!!イゼルローン方面に向けて後退中!!」
「そうか、やはりイゼルローンに向かうか」

 ヤンはコーデリア・シンフォニー中将とすばやく打ち合わせを行った。

「全艦隊、全速前進!!これより我が艦隊及び第三十艦隊は、臨時に連合し、帝国軍と共同戦線を張る。目標、ローエングラム本隊」
「目標、ローエングラム本隊!!!」

 パトリチェフ少将が叫ぶ。ヤン艦隊と第三十艦隊は前進を開始した。
 
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