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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第231話「終わる世界」

 
前書き
―――力が足りない。人材も足りない。
―――無理をして足掻き続けていれば、どういう結末を辿るのかは、確定していた。
 

 










 一筋の閃光が、膨大な“闇”の中を突き進む。
 それは、強大な“意志”の光だ。

「あり得ません……!光の“性質”でないにも関わらず、これほどの輝きなんて……!」

 それを見て、イリスは狼狽えていた。
 ここまで来たというのに、たった一人の神に全てが覆られそうになっていた。

「ぉぉぉおおおおおおおおっ!!!」

「こんな、こんな事が……!?」

 全てを呑み込むはずの“闇”が打ち破られる。
 同時に、イリスの“領域”に罅が入った。

「ようやく、捉えたぞ……イリス!」

「私に勝利する可能性を……掴んだというのですか……!?」

 ついに、打ち破った者の手がイリスに届く。
 その者の姿は、既にボロボロだった。
 全身が闇に蝕まれ、欠損も激しい。……だが、目だけは諦めていなかった。

「可能性は無限にある……。あらゆる力、あらゆる領域に、僕の手は届く。一縷の可能性が残っているのならば、それは確実だ!」

「無限の、可能性……!」

 男の全身から理力が放出される。
 その理力が、イリスの“領域”に次々と突き刺さる。

「どうして、そんなにまでなって私を……!」

 男もイリスを圧倒している訳ではない。
 むしろ、圧倒されているのは男の方だ。
 一瞬の隙を突くように、イリスの“領域”に踏み込んだだけに過ぎない。
 気を抜けば、即座に男の“領域”は砕け散るだろう。

「光ある所に闇はある。闇は負のイメージが強い。……光と闇、善と悪は表裏一体だ。どちらか一方が蔓延るなど、あってはならない」

「それが理由だと?そんなのが理由で、貴方がここまでするのですか!?」

「違う」

 イリスの言葉を、男は即座に否定する。
 その瞬間、イリスは息を呑んだ。
 ……まるで、その目で見られて、自分の奥底を見られたように思えたのだ。

「僕は可能性の“性質”を持つ。だからわかるんだよ。……お前は、可能性を閉ざしている。お前自身が、闇は闇でしかないと、それ以上の可能性を見ようとしていない!」

「可能性を、閉ざしている……?」

 闇を広げ、神界すら支配する。
 傲慢を極めたような、そんな行為をイリスはしようとしていた。
 実際、あと少しという所まで成し遂げた。
 野望や野心であろうと、イリスは確かに自らの望みを果たそうとしていた。
 それを、男は“可能性を閉ざしている”といったのだ。

「ああそうだ!“闇の性質”だからなんだ!?闇だからと悪でなければダメなのか?違うだろう!お前は自身の“性質”に囚われ、自分で可能性を閉ざしているに過ぎない!」

「……あ……?」

 自らの“性質”に囚われている。
 その言葉に、イリスはガツンと頭を殴られたように錯覚する。

「それは僕の“性質”が許さない。光も、闇も、善も、悪も、関係ない!もっと、広く世界を見るべきだ!……それが、お前を止める理由だ。イリス!!」

 理力がうねる。
 会話している間に、“領域”同士の削りあいは続いていた。
 もちろん、このままで負けるのは男の方だ。
 故に、男は先にもう一手を打った。

「何を……!?」

「どうあっても、お前を倒す“可能性”はないからな……!僕の全てを以って、お前を封印する!!」

「なっ……!?」

 神界の神は、本来不滅だ。
 何があっても、完全に消滅する事はない。
 だが、何事にも例外はある。
 神の“領域”や根幹から何もかもが消え去れば、その存在も消えてしまう。
 神が神として存在する要素を失えば、それはもう神として生きられなくなる。
 それを、男は行おうとしていたのだ。

「……願っているぞ。お前が、可能性に目を向けるのを」

「……貴方、は……」

 理力の奔流が、二人を包み込む。





 理力の嵐が晴れた時、そこには幾重もの淡い金色の結晶があった。
 その中心には、イリスの“闇の性質”の象徴とする闇色の人魂のようなものがあった。





   ―――それは、かつてあった戦い。その断片の記憶……















「っ……!……夢……」

 目を覚ます。視界には、見慣れた天井があった。
 その者は、目が冴えてしまったのか部屋にあるカーテンを少し開けて外を見た。

「……まだ、夜ね」

 晴れた夜だ。綺麗な夜空が、その窓からよく見えた。

「……もうすぐ、決断する時が来るのね」

 それを見る彼女の目は、どこか寂しそうだった。
 だが、その奥にあるものは、その寂しさを遥かに上回る“覚悟”だった。

「……その時は、お別れね“私”」

 まるで、自分ではない自分に言うように、彼女は呟く。
 そのまま、カーテンを閉じ、再び彼女は眠りについた。

















「……さて、そろそろ行きましょうか」

 神界にて。
 傍らに優輝を侍らせながら、イリスはそう宣言する。

「準備は整いました。蹂躙の時間です」

 イリスの周囲には、数えきれない程の神々と“天使”がいる。
 総力戦とまではいかないが、一つの世界を滅ぼして余りある戦力だ。

「まずは、あの世界への道を再び開きましょうか!」

 次の瞬間、理力が迸る。
 そして、それが放たれ、それは神界を突き進まずに何かに当たったように消える。

「ふふふ、あはは!元の世界に逃げ込んだ程度で、終わりと思いですか!?」

 空間の一部に罅が入っていく。
 それを見ながら、イリスは嬉しそうに笑っていた。











「は、ぐ、ぅぅ……!」

 複数人で張った結界。
 その中で、緋雪は苦しそうに胸を押さえていた。

「……ダメね。中断よ」

「はぁっ、ふぅっ……きつい、なぁ……」

 椿が中断するように言い、緋雪は脂汗を滲ませながらもその場に座り込んだ。

「もう少し抑えててね」

「うん……!」

 とこよと紫陽、椿の三人で緋雪に霊術を掛ける。
 今、緋雪は吸血衝動の完全制御を試みていた。
 しかし、今の所上手く行かず、何度も精神安定化の霊術で中断していた。

「やっぱり、他の方法で強くなった方が……」

「ダメだよ。狂気……心や精神において明確な弱点があると、そこを突かれた瞬間私は負けてしまう。それだけは避けたいんだ」

 精神や意志が不安定になるというのは、神界において致命的だ。
 不安定になる衝動や感情に関する“性質”でもない限り、“領域”が揺らいでしまう。

「……それに、神界の戦いは“領域”をぶつける戦い。直接的な戦闘力を上げた所で、そこまでプラスになる訳じゃないよ。……効果があるのは、破壊の瞳ぐらいだね」

「狂気を破壊するという手段は?」

「試そうと思ったよ。でも、途中で無意味って気づいたんだ」

 今の緋雪なら、確かに狂気を破壊することも不可能ではない。
 しかし、緋雪はそれをしても無意味だという。

「私に狂気を持っていた記憶や過去がある限り、完全になかった事にはできない。……私も、過去の記録を全て消し去る事は出来ないからね。……そして、記録が残る限り、そこを干渉されれば結局変わらない」

「……なるほどね。考えてみればそうだわ」

 概念を破壊出来るようになったとはいえ、過去の事象を破壊する事は出来ない。
 力の限界がなくなった今、それも不可能ではないが実現はまだ無理だ。
 
「んー、何気に、あたし達みたいに直接戦ったり、あたし達から詳しく事情を聴いた人達以外がまずいんだよね」

「神界の神相手に、普通の考えでは戦えない。……それがどういう事なのか、ちゃんと理解されていないってことね」

 神界での戦いから、既に一週間が経過している。
 その間に管理局も態勢を整えていたが、如何せん心構えがずれていた。
 戦闘の中心にいた者や、戦いについて詳しく聞いた者以外は、未だに単に“強大な敵”としか認識していない。
 相手が、こちらの法則を無視してくる事を、どういう事か理解していないのだ。

「普段は頭が固いクロノも、理屈で考えないようにしているというのに……」

「こればかりは、ぶっつけ本番しかないだろうね」

「地球の退魔士や、エクソシストとかの人の方が、そこらへんは柔軟に考えてるよね」

 地球でも、退魔士の伝手から外国のエクソシストなどの協力も得ている。
 ……といっても、いわゆる防衛の態勢を整えているだけだ。
 それでも、管理局の面々よりは、神界について比較的理解が深かった。

「あれは、口頭では理解できないのも仕方ないと思うよ」

「だから、リンディさんが変に考えずにありのままで見るように言っているからね」

 百聞は一見に如かずとはまさにこのことだ。
 神界の力は実際に見ないとわからない。
 そのため、せめて動揺で動きを止めないように、心構えを取っておくのだ。

「一旦休憩~……。血もまた補給しておかないといけないし」

「そうね」

 輸血パックも無限ではない。
 そう何度もやっていると輸血パックを切らしてしまう。
 そのため、一旦中断する事になった。

「……結局、預言もどれが誰の事を指しているか分からなかったね」

「司ちゃん以外の天巫女とか、女神姉妹とか……先に雪ちゃん達が推測できたの以外、分からず仕舞いだもんね」

 あの後、改めて預言の内容を周知したが、誰を示すかは分からなかった。
 唯一、“叛逆せし傀儡”の候補として神夜の可能性が高いと分かったが……
 それも確定には遠いため、預言の解明に進展はない。

「とりあえず、食堂行こうかな。お腹空いたし」

「そうだねー」

 皆で食堂に向かい、昼食を取る事にする。
 いくら疲労などの概念を破壊できるとはいえ、休息や食事は必要だ。







「「「ッ―――!!」」」

 緋雪達が食事をとり終わった時、同じく食事が終わった三人が立ち上がる。
 内二人のなのはと奏は何かに気付いたように。
 残り一人の司は、何かを感じ取ったように、顔色を悪くしていた。

「……来る……!」

「皆!備えて―――」





   ―――ズンッ!!





 ……一瞬だった。
 地震のような、地の底が抜けたような衝撃が、世界の全てを襲う。
 軌道上に浮いているはずのアースラですら、それは例外ではない。

「今、のは……!!」

「前にもあった世界の“揺れ”だよ!」

「と、言う事は……!」

 その揺れを知っていたのもあって、全員の立ち直りは遅くない。
 すぐに警戒態勢に入り、現状を把握する。

「神界の神が攻めてきた!」

「来るとしたら……八束神社からの可能性が高い!」

「リンディさん!」

『すぐに向かってちょうだい!』

 前回の戦いでも八束神社を出入り口にしていた。
 そのため、襲ってくるとしたらそこからの可能性が高いとして、すぐに向かう。
 アースラの転送装置の場所まで行く時間も惜しいと考え、自前の転移で跳ぶ。



「状況は―――」

 転移直後、紫陽がその場に駐在していた局員に聞こうとする。
 その瞬間、再度“揺れ”が襲い掛かる。

「二度目!?」

「転移に影響は……!?」

「大丈夫だ!」

 遅れて次々と司やなのは、クロノなどが転移してくる。
 どうやら、転移そのものに影響はないようだ。

「二回も連続で……!」

「間違いないわ。神界が干渉を―――ッ!!?」

 三度目の“揺れ”が、襲う。
 否、三度では終わらない。四度、五度と続けて揺れる。

「これ、は……!」

「っ……!世界の“壁”を破壊しようとしてるんだ!八束神社(ここ)から来るんじゃない!()()()()()()()()来る!」

 “破壊”に関して敏感な緋雪がそう叫ぶ。
 “壁”を破壊しておいた事で、今何が起きようとしているのかも分かっていた。
 要は、世界を覆う殻のようなものが、破壊されようとしているのだ。
 剥き出しになった世界は、外界からの侵入を何も防ぐ事は出来ない。

「戦闘態勢!!」

 クロノの指示と同時に、一際大きな衝撃が世界を襲う。
 ……そして、何かが割れる音と共に、“切り替わった”。

「なっ――――!?」

 直後、世界全てを暴力が襲った。
 炎、氷、雷、光、闇。物理的なものから概念的なものまで。
 ありとあらゆる攻撃が世界中を蹂躙する。

「ま、街が……!」

 何とか防御魔法や霊術で凌いだ緋雪達。
 だが、八束神社から見える街の惨状に言葉を失う。
 まるで、地獄のような阿鼻叫喚の状態になっていた。
 木々は倒れ、家も全壊しているのがほとんどだ。
 

「ッ……!」

 空を睨みつける。
 そこには、数えるのも億劫なぐらいの数の神々と“天使”がいた。

「司さん!」

「分かってる!」

 戦闘準備は間に合わなかった。
 そのため、まず緋雪やとこよなどが前に出て、その間に司が態勢を整える。

「(攻撃がすり抜けても、防御は可能。……それには理由がある。こちらの攻撃は“領域”に届いていないのに対し、神界の神は物理的、概念的の攻撃に関わらず、どれも“領域”に攻撃している)」

 防御魔法を展開し、魔力を漲らせる。
 前回の戦いで負った後遺症は完全に治っている。
 故に、緋雪は全力で迎え撃つ。

「(攻撃は無理でも防御が出来るのは、防御行動そのものが自身の“領域”を守る行為に他ならないから。だから、防ぐ事が出来る!)」

 自分の“領域”を守る行動であれば、神界の“格”をほとんど無視できる。
 自己防衛以外に、無意識下で“領域”に干渉できる術はない。
 だからこそ、全力でシャルを振るった緋雪は、見事に飛んできた一撃を弾く。

「“天まで届け、我が祈り(プリエール・マニフェスタシオン)”!」

 司の声が響く。同時に、その場にいる全員の“格”が切り替わった。
 防御に専念していた緋雪やとこよも、攻撃へとシフトする。
 相対していた“天使”を切り裂き、霊力で吹き飛ばす。

「成功!いけるよ司さん!」

「よし……!後は……」

 そこまで言って、司は言葉を詰まらせる。
 

「(どうするの?アースラにいた全戦力がここに来た訳じゃない。それどころか、街が……ううん、世界中が現在進行形で蹂躙されている。なら、優先すべき事は……)」

 思考する司。だが、“天使”がそれを許さない。
 応戦する緋雪達を突破して、一人の“天使”が司に襲い掛かる。

「ッ!!」

 直後、その“天使”は重力に引っ張られるように地面に叩きつけられる。
 さらに、地面から魔力による棘が生え、それに貫かれる。
 トドメに司の砲撃魔法が直撃し、遠くへと吹き飛んだ。

「(優先すべきは、まず“考える時間”を確保する事!)」

 変に悩めばそれはただの隙となってしまう。
 そのため、司はまず目の前の敵を何とかする事に決めた。

「ッッ……!」

「まずっ……!?」

 そう思ったのも束の間。
 再び高エネルギー反応が神々へと集束する。
 咄嗟に、司と紫陽が障壁を複数枚展開する。

「なのはちゃん!フェイトちゃん!アリシアちゃん!」

「っ、いけぇえええええっ!!」

 障壁がガラスを突き破るようにあっさりと割れる。
 それは緋雪達も想定済みだ。故に、瞬時に次の手を打つ。
 なのはとフェイト、そしてアリシアによる相殺の試み。

「……そこっ!!」

 加えて、緋雪による“破壊”。
 それによって、神々の一斉攻撃を凌ぎ切る。

「ッ、させない!」

 直後、緋雪の懐に“天使”が転移してくる。
 不意を突いたその攻撃を、とこよが割り込んで防ぐ。

「(白兵戦してくる方がやりようがあるといっても……!)」

「“天使”の数が多い……!」

「(決して弱くはないんだよね……!)」

 数だけで言えば、神よりも多い“天使”。
 おまけに、戦闘に関する“性質”を持つ神の“天使”なら、戦闘技術も高い。
 一人一人がトップクラスの魔導師を上回る戦闘力をもっており、例え桁違いの強さを持つとこよなどでも一筋縄ではいかない。
 ……それが、群れのように襲ってくるのだ。

「はぁあああっ!!」

 とこよやサーラが“天使”の攻撃を凌ぎ、司が魔力を開放する。
 攻撃としてではなく、開放した魔力の範囲内を“領域”として定める。
 そうする事で、ただの攻撃よりも遥かに効果的に“天使”達をはじき飛ばす。
 神界の法則への理解が深まったからこそ、できた芸当だ。

「まともに戦わないで!自分の“領域”を意識すれば、勝てない相手じゃない!」

「(とは言っても、この状況どうすれば……!?)」

 現在は、先手を取られて一斉に襲撃を受けている。
 八束神社を守るように陣形を組んでいても、事態は好転しない。

「(……いや、どうであれ、負ける訳にはいかない!)」

 まずは目の前の脅威を退けるのが先決。
 そう判断し、一旦余計な思考を全て切り捨てる。

「(三回目……!)」

 そこへ、さらに再び高エネルギーが神々に集束する。
 二撃目と同じように……否、それよりも完璧に防ぐ心づもりで迎撃しようとし……

「ッ!!」

 二回目とは、全く違う事に気付く。
 実際に放たれた威力は、二回目よりも遥かに劣る。
 だが、同時に黒い立方体のようなものが投下されていた。
 それは一定距離落下した直後、何かを放出した。

「なっ……!?」

 完全に把握はしきれなかったが、一部の勘が鋭い者は気づいた。
 何かが変わった事に、今もなお変えられている、否、侵蝕されている事に。

「この感覚は……大門の時の!!」

「って事は、あの黒いのが……!」

「地球を……ううん、世界を特異点に変えた、エラトマの箱……!」

 旧称“パンドラの箱”。
 当時は詳細不明だったロストロギアだが、現在は優輝を通じて祈梨からどんなものか知らされている。
 その真偽は今では二人共いないため分からないが、最低でも“世界そのもの”に影響を与えるものだという事は理解できた。

「ッッ、させない!!」

 それが、数十個、数百個という数を投下された。
 咄嗟に司が“領域”として魔力を広げるが……

「うっ……ぷっ……!?」

 その魔力すら、エラトマの箱から放たれる波動が侵蝕する。
 全身を掻き回されるような感覚に襲われ、司は吐き気を催す。

「嘘だろう、これ……!?」

「どうしたの!?」

 続けて紫陽が声を上げる。

「……生と死の境界がなくなった……!世界の法則が打ち消されている……!」

「それって……」

「現世だけじゃない。幽世も、黄泉も、外つ国の冥府も、全ての世界の境界が消えていると見た。……あらゆる法則が壊れた。何が起こるかわからない……!」

「っ……」

 破壊の瞳で攻撃を破壊して凌ぎつつ、緋雪は紫陽の言った事に歯噛みする。
 今この状況において、肉体的な死はなくなった。
 それ自体は戦う事において利点にはなる。
 だが、それ以上に“何が起こるかわからない”という状況なのだ。
 それだけ、この一瞬で“領域”が侵されたのだ。

「……母さん?母さん!?」

「まずい……アースラの人達と連絡がつかないよ!」

 加え、状況はさらに悪くなる。
 即座に転移できず、アースラに残っていた者及びアースラクルーの者達と一切の連絡が取れなくなっていた。

「見てみる!」

 何人かで攻撃を迎撃しつつ、司がサーチャーをジュエルシードでアースラのある場所に転移させ、確認する。
 本来なら防ぎきれない攻撃も、“領域”を意識する事で何とか凌いでいた。

「……えっ……」

 そして、司が確認したアースラの様子は、絶句するには十分だった。

「……墜落、してる……」

「なっ……!?」

 サーチャーが確認できたのはそこまでだった。
 地球の重力に引かれ、墜落していくアースラと他の次元航行艦。
 そして、墜とした下手人であろう“天使”の軍勢だった。
 サーチャーはその“天使”達に消され、それ以上の情報はつかめない。

「……宇宙空間で活動するぐらい、訳ないって事か……!」

「……遠隔通信も通じない。おそらく、地球周辺だけじゃなくミッドチルダや他の次元世界も同時に襲われているとみていいな」

 神界での戦いがあったため、平静に戻るのは容易い。
 一時は取り乱していたクロノも冷静に分析する。

「ぐっ……くっ!司さん!」

「“性質”……!させない!!」

 攻撃をギリギリで防いだ緋雪が司に呼びかける。
 直後に再び攻撃に晒される緋雪だが、言いたい事は司に伝わった。
 “性質”を利用した攻撃。
 それが“天使”の後ろに控える神から放たれようとしていた。
 すぐさま司が“領域”をイメージして魔力を放出する。

「(理屈を抜いた“力のぶつかり合い”……それが“領域”を使った戦い。……言葉に表現するなら、だけど。理屈がないのだから、本質は表現できる訳ないんだけどね)」

 “領域”による攻撃をしてきた神は、全員戦闘関連の“性質”ではない。
 故に、物理的な威力はほとんどないため、同じ物理的な攻撃では防げない。

「ぐっ、ぅぅううぅ……!!」

「(いくら“領域”を認識できるようになったとはいえ、それで何とかなる訳じゃない……!このままだと、ジリ貧。何とかしないと……!)」

 司を中心に、“領域”を意識して耐える。
 だが、それだけでは事態は好転しない。
 そのため、緋雪は近くにいるとこよと紫陽に目配せする。
 二人もその視線に気づき、理解したように頷く。

「少し時間を稼いで!」

「っ、了解!」

 とこよの言葉になのはやフェイト、奏が前に出る。
 緋雪もさらに前に出て、攪乱するように“天使”に突っ込む。
 はやて達は司達をカバーできるように位置取りする。

「(人一人の“領域”は何かしらの箍を外さない限り“天使”に敵わない。……そこで、対抗する“領域”を個人のものではなく、一纏めにする)」

「(個人の“領域”ではなく、地球、或いは世界そのものの“領域”をぶつける。そのために、地球の、ひいては世界そのものの根源に接続する必要がある……!)」

 それは、以前アリサとすずかが言っていた事をヒントにしたものだった。
 いくら相手に先手を取られたとはいえ、今いる場所は司達にとって土俵だ。
 地の利は司達にあり、その事実が存在する以上、“領域”の強度は上がる。
 そこへ、さらに自分達の“領域”を世界の根源に繋げ、神達に対抗するのだ。
 
「(そのための術式を……!)」

 術式の軸となるのは司だ。
 天巫女の力は根源に繋げる際に都合がいい。
 そこに、とこよ達が一斉に術式で補助する。
 これにより、世界の根源に司が繋がり、連鎖的に他の者にも繋げられる。
 そうすれば、最低でも安全地帯を作れるだけの“領域”を確保できる。

「これで―――!」

 今までに感じた事のない、生命の波動のようなものを司は感じる。
 間違いなく世界の根源に繋げられると、そう確信した。
 そして、最後の工程を終わらせようとして……













「―――えっ?」

 ……胸から生えた剣を見て、思考が止まる。
 同時に、術式は瓦解する。
 動揺の際に司の視界に入ったのは、同じように剣が刺さったシャマルやはやてを庇ったアインス、辛うじて躱したクロノや、剣を弾いたとこよ達の姿。

 ……そして。

「……ぁ……」

 神々に隠れるように後方にいたイリス。
 そして、その隣に虚ろな目でこちらを見る優輝の姿があった。















 
 

 
後書き
根源…型月の根源に近い。アカシックレコードとも。文字通り世界の根源。


八束神社に来られたのは、司達転生者組ととこよと紫陽、はやて達のように転移魔法が単独ですぐ使えるメンバーだけです。後は、彼女達の傍にいたリニスやプレシアなどのメンツだけです。アリサ達や式姫など、半分くらいはアースラごと撃ち落とされました。
羅列すると、
転生者組、とこよ、紫陽、サーラ、ユーリ、八神家、なのは、フェイト、アリシア、プレシア、リニス、アルフ、クロノ、マテリアルズ
です。他は全滅しました。 
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