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剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ

作者:炎の剣製
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056話 文化祭編・開催2日目(03) まほら武道会・本選開始 その3

 
前書き
更新します。 

 


古菲と龍宮の試合後、アスナ達に強制的に救護室に連れてかれた古菲は担当の医師に出場辞退を言い渡されてしまっていた。
それもしかたがない。先ほどのダメージがまだ全身のいたる所に残っている上に左腕は骨折…とうてい続行しつづけることも困難だろう。
それから医師は部屋を出て行って自分達だけになった。

「さて、では古菲は当分安静にしていることだな」
「むぅー…仕方ないアルよ」
「骨折くらいどうとでもなるやんけな?」
「コタローの言う通りネ!」
「こら! いきなり口車に乗ってんじゃないわよ!」
「やっぱりダメアルカ…?」
「大人しくしていろ。ただでさえ骨折以外にもいたる場所に痣や傷口が残っているのだからな。…だがそれは別として古菲、一回包帯を解いてもいいか?」
「ん? どうしてアルか? せっかく巻いてもらたのに…」
「なに…少しばかり治りを早くさせてやろうと思ってな」

そして俺は刃を潰してある莫耶を投影して解いた古菲の腕にそれを一緒に巻きつけた。
当然皆は不思議そうな顔をしていたが、

「皆の疑問はもっともだ。だがつい最近…昨日か? 錬鉄魔法専用の干将・莫耶作成時の副産物で持っているだけで治癒能力が追加されたのだ。だからしばらくすれば骨折も治るだろう」
「凄いアルね!? 確かになにか暖かいものが体に流れてくる感じがするアルよ。…またもらってもいいアルか!?」
「ああ、条件付でならな。これは前にやったものより対魔力・対物理…さらに強度、切れ味その他諸々の機能が飛躍的に上昇している。さらに錬鉄魔法に耐えうるものなのだから今の古菲が使用しても逆に振り回されるだけだろうからな…」
「それでその条件は…?」
「強くなれ。ただそれだけだ。どの道俺専用の武装なのだから一定値以上の実力をつけなければ先ほども言ったように使えないものだ」
「分かったアルよ!」

そして俺達は選手控え席に戻ろうとしたがどうやらネギ君は次のタカミチ戦でのことを集中したいために古菲とともに最後のやりとりをするらしい。
だから二人を残して救護室から退出してアスナや小太郎達と歩いているとなにやら舞台の方から女性の悲鳴が聞こえてくる。
…あの悲鳴は高音か。確か相手は田中(β)…。……………まぁ、大丈夫だろう。昨日も戦ったのだからなんとかなる。
と、遠い視線をしていると前からタカミチが歩いてきた。

「やぁみんな。古菲君は大丈夫だったかい?」
「ああ。怪我はまぁまだあるが概ね今日中には全快していると「タカミチさんか…あんた強いんやってなぁ」思うぞって…小太郎?」

俺の言葉を遮って小太郎がタカミチに話しかけた。
その態度にさすがのアスナも…いやアスナだからこそキレてかかっていた。
そうしている間にも小太郎は一度タカミチに向けて拳気を飛ばした。
そして二人の間でパァンッ! と弾ける音がした。
どうやらタカミチも一瞬だけ放ったらしい。眼で追った限りは通常よりかなりダウン気味の威力だが…。
それにより小太郎はなにかを掴んだらしく感心の表情を浮かべていた。

「高畑先生にいきなりなにやってんのよ!!?」
「ちょっ!? アスナの姉ちゃん、今のが見えたんかい!?」

タカミチと小太郎とのほんの一瞬のやり取りを目で追うことが出来たとは…。動体視力は一体いくつだ?
やはりなにかマジックキャンセラーも相まって秘密があるかもしれないな。
しかし、いかんせん情報がないので探りようも無いが…。学園長あたりに問いただせば何か吐くかもしれないな?
俺自身のネットワークも魔法世界にまで広がったことだし事が落ち着いたら色々と情報収集してみよう。

それからタカミチとは古菲の怪我やたわいも無い会話のやり取りをして、次のネギ君とタカミチとの試合の話になってアスナは泣きながらも「高畑先生を応援します!」と言って背筋を伸ばしていて小太郎やカモミールに呆れられていた。
そしてアスナ達と別れた後、タカミチと二人になったのを見計らって、

(タカミチ…少しいいか?)
(小声と言うことは何か情報を掴んだのかい?)
(いや、確実性でいけばまだ断定はできないが少なくとも龍宮は超鈴音側についていると思われる)
(…士郎もそう思うかい? 古菲君との試合後、倒れていたはずだったのに目を離した瞬間姿を消していたからね)
(そうだ。だから要注意しておいた方がいい。こう人が多いと気配も探れんからな)
(分かったよ)
(俺からは今の所は以上だ。あっと。それとは別に…次の試合、なんともいえないが頑張れと言っておく)
(ありがとう)


◆◇―――――――――◇◆


タカミチを見送った後、朝倉の舞台修理完了の報告が聞こえてきたので選手控え席に遅れて着くとなにやらネギ君は皆から助言を受け取っていた。
エヴァは不敵に笑いながら「実力の差は歴然…だが、とにかくぶつかってこい」と。
他にも楓や刹那、古菲に小太郎と言葉をもらい、最後にどちらを応援していいか未だに迷っているアスナに「がんばって…」と親指を立てられていた。
それにネギ君は精一杯の声で答えて会場に足を歩みだした。
だから俺もなにかいっておこうと思い静かな声で、だがネギ君に響くように、

「…ネギ君。エヴァ同様勝ち負けにどうこう言うつもりはないが、ただ勝ちたいならば常に相手――タカミチ――の次の行動を幾重にも考えどう行動するかを心がけろ。
1%でもいい…勝てる可能性を意地でも手繰り寄せれば勝機はおのずと訪れる」
「…―――はい、士郎さん!」
「いい返事だ。さあ行ってこい」

ネギ君を送ると後ろからエヴァが話しかけてきた。

「フンッ…まだあのボウヤには過ぎた助言だな?」
「そうかな?」
「当たり前だ。あれは貴様が長年の実戦で得た戦闘理論だろ? まだ十どころか数回しか実戦をしたことがなく敗北の味も碌に味わった事が無い…それで理解しろと言うのも酷だな」
「ふっ、まぁな。だが常に考えることはやめてはいけないと思うぞ?」
「…まぁな。まあいい。ならお前との試合…せいぜいお前のその戦いで私を楽しませろよ?」
「ご期待と在らばな」

お互いに不敵に笑いあい朝倉のアナウンスの声で前に向き合った。

そしてタカミチとネギ君が舞台に上がった途端に試合を始める前だというのに武道会内の観客の歓声は一際高くなり、舞台を焦点に衆目を集める。
当然と言えば当然だがさすがにただの一般人達には結果は見るよりあきらかという様な評価があちこちから聞こえてくる。
そんな中、そんなことはどうでもいい! と言わんばかりに朝倉が実況を続ける。

『それでは皆様お待たせいたしました、第六試合をまもなく開始させていただきますっ!!』

刹那や楓、その他の面々もどうやり合うか言い合っている。
エヴァは小太郎に瞬動の事について「フッ…」と微笑を浮かべている。どうやらエヴァも楽しみのようだ。
さて、あれからどれほど成長したか見させてもらおうか。

そして朝倉の『Fight!!』という掛け声とともに先に動いたのはネギ君。
どうやら小太郎の助言どおり顎を守りながらも瞬動をして、それは見事に成功。
しかもタカミチの居合い拳をギリギリ弾くという成果を発揮した。
小太郎やカモミールもネギ君が瞬動に成功したことに驚いている。しかも二連続とくれば驚きは倍だ。
そしてどうやらネギ君も居合い拳の射程距離をすぐに読んだらしくタカミチに常に着かず離れずの戦法を取っている。

「…驚いたな。あのネギ君が積極的にタカミチに攻めていくとは」
「まぁな。だがそれで正解だ。実力が違いすぎるのは百も承知。距離を取ってもジリ貧…つまり今のボウヤは恐れを克服して『わずかな勇気』で挑んでいることだろう」

俺の一人呟きに隣にいたエヴァが律儀に応えてくれた。
しかしなぁ…やはりというかなんというか…

「うーむ…しかしだな」
「どうした、士郎?」
「いや、なにね? 予想していたことだがネギ君はおそらく今の全力で挑んでいるのだろうが、タカミチのやつ…実力を全然出していない。見ていて惨めに思えてくる。しょうがないといえばしょうがないが…」
「奴の悪い癖だ。当分はボウヤの成長具合を味わいたいと言うところだろう? 半分でも本気をだせば一瞬だと言うのにな…」
「ケケケ…見テテツマンネェナ。デキレバ血ノ雨希望ダガナ♪」
「それはまずないだろう? ま、そのうち展開は変わるだろうから今は静かに見学していよう。む? どうやらネギ君がなにか決めるようだ」

見ればネギ君の周囲に魔力の珠がいくつか薄っすらと見える。
それをすべて拳に集束させ盛大にタカミチの胸に叩きつけた。
どうやら魔法の射手を拳に集めて放ったようだ。タカミチはまるでトラックに撥ねられたかのように舞台の外に吹っ飛んだ。

「…いや、盛大に吹っ飛んだな。ここまで来るともう魔法の隠蔽とかは関係ないな」
「そんな余裕は今のボウヤには無いだろ?」
「確かに…」

「雷華崩拳…うまく決まったアルね」

古菲がなにか呟いているが、なるほど…それが正式名称か。
そして観客がそれぞれ言い合っている中、朝倉がカウントを始めたがタカミチは少しくらったようだが痛みを感じさせない爽やかな笑みで水の上を歩いてきた。

『高畑選手! あの打撃を喰らってまったくの無傷だ!!』

朝倉の実況もいい所で、そろそろ本腰を入れたのかタカミチはネギ君が動くと同時に次の瞬間には拳と拳のぶつけ合いを舞台外にも構わず続けた。
だが、タカミチは今まで使っていなかった脚蹴りを使いネギ君を舞台の上に戻すと同時に距離も取れたことで居合い拳の射程が出来た為か一気に当てにきた。
それをネギ君は何度も喰らってしまい吹き飛ばされ、実況席にいる豪徳寺というリーゼントの生徒もやっとタカミチの居合い拳に気づいたのか解説をしている。
ネギ君も再び接近戦を試みるが瞬動の欠点ともいうべき一度使うと方向転換が効かないところを突かれて思いっきり足掛けをされてしまい前から転んでしまう。
実戦だったらもうすでにやられている所だがタカミチはわざと攻撃を遅らせてネギ君を逃がしているようだ。
そしてまた居合い拳でネギ君の冷静さを少しずつ削っていっている。

「ふむ…攻守逆転。これは完全にタカミチのペースだな」
「そうだな…。しかし我が弟子ながら情けない。もう少し機転を効かせて攻勢に転じればいいものを…」

エヴァは少しガッカリ気味だが俺個人としてはまったく本気でないとは言え耐えているネギ君を褒めている節がある。
だがタカミチは突然というわけではないが攻撃を止めて語りを始めた。
そしてネギ君の実力を認めたと判断して少し本気を出すといい、両手を下に垂らすように広げた。って!

「む……やはりアレを出す気か」
「アレかぁ…では少しはネギ君を認めたと言うことか。だがこれでさらにネギ君の勝機は減るな」
「え…? それってどういうこと? エヴァちゃんに士郎さん?」

そこで割と近くにいたアスナが語りかけてきた。
それに俺は「すぐにわかる」とアスナを舞台に向けさせた。

そしてタカミチは呟くように「左腕に『魔力』…右腕に『気』…」と言い、両腕を胸の前に持ってきて普通ならお互いの相性から相殺するだろう二つの力を融合させた。
途端、舞台上にすごい風圧が巻き起こり、タカミチは「一撃目はサービスだ」と言って舞台に“それ”を叩きつけた。






『咸卦法』
呪文詠唱が行えないタカミチが文字通り血の吐くような努力と鍛錬を重ねて会得した気と魔力を融合させるというもの。
あらゆる身体能力向上、物理・魔法防御、耐寒、耐熱……etc。
自在に操るのも骨を折るものだが、そんな様々な能力を一気に付加できることからこの世界でも最上位に位置するという究極技法(アルテマ・アート)




―――閑話休題



とにかくそんなものを居合い拳に乗せたものなのだから威力は推して知るべし。
何度か魔法世界の仕事で見たがやはり凄まじいの一言に尽きる。
舞台の上には文字通り大砲でも撃ちつけられたかのように大穴が開いてしまっていた。

………実際のところ、あれでもまだ優しい部類なのだからたまったものではない。
タカミチ自身、今は亡き師匠にはまだまだ及ばないと言っているが本気を出せば数発打てばこの会場は耐え切れずに沈むことだろう。

そしてそれを間近で見せられたしまった当のネギ君は少し…いや、かなり戦意を削られたようで意気消沈気味だ。
だがタカミチも回復を待ってくれるほど優しくは無い。次々と居合い拳を放ちネギ君に反撃の余地を与えようともしない。
観客、そしてアスナ達も騒ぎ出す中、次第に避け切れなくなってきているのかまだまだ荒削りの瞬動で避けてはいるが傷をもらっている。

ネギ君は完全に防戦に徹してしまったためか頭上を簡単にタカミチに取られてしまい『風花・風障壁』だったか? それで何とか防いだがそれも一瞬。
魔法使用後の間にタカミチは背後を取り、ネギ君はなんとか反応できたがそれは既に手遅れ。
居合い拳を腹にもろに受けてしまい体勢もままならないまま打ち下ろしでの居合い拳を喰らってしまいついにネギ君は地に沈んだ。


朝倉はもう虫の息であるネギ君を見て無理だと判断し、少しタカミチを睨みながらも勝利宣言を無理やり上げさせようとしていたが、タカミチは未だ地に仰向けに倒れているネギ君に「君の想いはこんなものか?」と無表情だがそれゆえに冷徹な眼差しで問いかける。
ついでアスナが大声でネギ君に叱咤の言葉を泣きながら上げて、刹那達…観客席からも宮崎や他の生徒も声を上げだしそれに応えてかネギ君はふらつきながらも立ち上がった。
そして秘策でも思いついたのか無詠唱でなにかしら魔法を唱えて体勢を整える。
その気合からくるものが観客にも伝染し盛大なエールを生み出した。


ネギ君は体勢をしっかりと保ちまわりに九矢を待機させながらタカミチに吶喊。
だがタカミチはすべての拳をいなし、受け止め反撃をしてせっかく溜めた魔法の射手もキャンセル…いや、あれは自ら消したな?
とにかくまた吹き飛ばされ湖の底に沈むが不屈の闘士で這い上がりタカミチに対して最後の勝負を申し出る。
タカミチもそれに応えてそれを了承、最後の一撃を出そうと拳をまたポケットにしまう。


一瞬の静寂…それを先に破ったのはネギ君。色的に雷の属性の射手を集束して先に放ち瞬動でそれを身に纏い突撃を試みる。
対してタカミチも居合い拳を放つが…それは無詠唱の風障壁で防がれ技後の硬直時間を狙い雷の弾丸と化したネギ君の進行を許してしまい両者激突という事態になり、その余波で舞台に土煙が盛大に立ち上がる。

そして煙が晴れた時にはタカミチの背後には先ほどキャンセルされたと見せかけた遅延呪文を発動させているネギ君の姿があり、

「へへっ、この距離ならタカミチの技は使えないよね」

そう笑いながら言うネギ君に対し、タカミチは苦笑いを浮かべた。
そして最大の本数でネギ君の風圧と拳圧が込められた拳がタカミチを地に沈める。
さらに力は衰えるどころかさらに上昇して、

「ああっ!!」
「ぬうっ!!」

ネギ君の叫び声とタカミチの苦悶の声が響き、次の瞬間には舞台がまたもや盛大に爆発を起こした。
朝倉の『ネギ選手の必殺技「なんかスゴク手が光るパンチ」がヒイィィーーーット!! しかも地面に叩きつけての強烈な一撃!! 大逆転だ!! しかしここで15分経過。試合はタイムアウト!!』という実況とともにカウントが取られる。
これで勝利かと思われた試合もタカミチは上半身だけかろうじて起こしてネギ君に一言二言告げた後、

「この勝負、君の勝ちだ、ネギ君」

と、いう言葉とともについにタカミチは倒れ伏した。
この瞬間に朝倉がテンカウントを取り終わり『ネギ選手勝利!! 10歳の子供先生、2回戦進出が決定しましたーー!!』という実況とともに会場のあちこちから盛大な歓声が巻き起こる。
こうして第六試合はかろうじてネギ君が勝ちを拾ったのだった。


 
 

 
後書き
原作を知っていますと如何にタカミチが手加減をしていたのかを知りますよね。 
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