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剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ

作者:炎の剣製
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031話 行動を開始した二人の異邦人(前編)

 
前書き
更新します。 

 



俺は修学旅行から帰ってきた翌日に前々から学園長に相談をしていたことを言いに学園長室に向かっていた。
だが、学園長室についてエヴァをよこすために代償として痛めた腰を氷枕で冷やしながらの体制の学園長の最初の一言は、

「おお。士郎君、ついにこのかを―――………ッ!?」

学園長室にはなにやら鈍い音が木霊した。
それは当然だ。なんせ俺がこのかの使用しているトンカチを改造した(ハンマー並の大きさ)ものを叩きつけたのだから。
それは本気ではなく、なお弱くもなく。
それで学園長はその仙人頭を痛そうに摩りながら、

「毎度学園長室に来るたびにワシの頭を叩いてくるとは士郎君は暴力的じゃのぉ?」
「…毎度同じくだりを繰り返している学園長が悪いのでは?」
「しかしのぉ。このかの気持ちは本物じゃし、ほれ? 士郎君とこのかは仮契約(パクティオー)をした仲じゃろ?」
「その件ですが少し考えさせてくれませんか!? 第一俺とこのかの間柄はまだ教師と生徒なんですよ!」
「その言葉ではもう将来は…ひぃ!?」

俺は『剣製の赤き丘の千剣』を学園長の頬に触れるように布団に突き刺した。それで学園長は押し黙った。封殺とも言うが。

「…だから考えてあげたいんですよ。もしも俺とこのかが付き合うことになったとしても俺はいつ戦場の中で命を落とすかわからないんですから。このかには悲しい思いはしてほしくない…」
「…わ、わかった。わかったからもうこのアーティファクトをはずしてくれんかの? 首が痙攣してきおった」
「わかりました。ですが今後一切とはいいませんがこの件に触れるのは禁止ですからね」
「そうかぁ。残念じゃのぉ…」
「まだいうか…? はぁ、まあいいです。それより前から話していたことですが手はずは進んでいますか?」
「そうじゃったの。士郎君が魔術師の工房と鍛冶場を作りたいという話じゃろ? 魔法で関係者でも一部以外は侵入できないような強固なものを」
「ええ」
「…しかし、急にとは言わんがどうして作ろうと思ったんじゃ?」
「いえ、それがこちらの関係者の教師の人達に以前に魔術関係の部分は魔法と言っておいて鍛冶師の仕事をしていたと口を滑らせてしまったのが原因で、以前にからここの魔法生徒や魔法先生、関係者の人達から打ち直しや新しく作ってくれという話がありまして。
おもに名前を上げますとガンドルフィーニ先生や刀子先生や刹那などおもに前衛を担当するもの達がほとんどですね。だからこの際どうせなら、そろそろ自分達魔術師の工房も手にしたいところでしたので、ちょうどいいから一緒に作ってしまおうと姉さんと話し合っていましたので」
「なるほどのぉ。確かに近年魔法道具は金額が上がり鍛冶師も数を減らしてきたからの。あい分かった。では特注の場所を用意してあるので今日中に目を通しておいてくれんかの? 場所も寮から近く快適な場所じゃよ」
「恩にきります、学園長」
「なに、構わんよ。それで大変申し訳ないんじゃが士郎君が造った武器など一部はうちに提供してもらっても構わんかの?もちろん資金面や材料なども提供するしなにより本国に持っていき出来がどれくらいかあちらで判断してもらいたいんじゃ。いいかの?」
「それくらいなら構いませんよ」

それから俺は学園長から退出した後、その場に向かったがなんともすごい場所だった。
そこは寮から本当に少ししか距離がない場所にある今はもう経営していない元は食事どころだったらしい。
確かにこれなら魔術の訓練や工房も設置できるくらいの広さは持っているが、
なぜだろうか? 俺は本当に食事関係に縁があるな。これはそちらに今からでも遅くはないから職につけというお達しなのだろうか? …考えることにしないようにしよう。


◆◇―――――――――◇◆


………二日後、


学園長から搬入が出来たと知らせが届いたのでその場におもむいて見るとそこには学園長と一緒にガンドルフィーニ先生が立っていた。
どうやら学園長からいち早く聞いたらしいので駆けつけてくれたようだ。

「どうも、ガンドルフィーニ先生」
「やぁ。衛宮」
「来たかね士郎君」
「はい…それよりもしかしてガンドルフィーニ先生も搬入の手伝いをしてくれたんですか?」
「まぁね。私達の為に鍛冶場まで用意しれくれたのだからこれくらいは手伝わなきゃとおもってね」
「感謝します」

俺とガンドルフィーニ先生はタカミチさんの次に付き合いがある人物だ。
今でこそ気軽に話せているが、職に就いた当時はよく警戒されて後を着けられたこともしばしばあったから迷惑にも程があったものだ。
だが、それではいかんと学園長の鶴の一声で夜の警備の仕事をよく一緒に組むことが多くなり、最初は居心地悪かったが、ふとガンドルフィーニ先生が主流に使うナイフの話になりそこからずいぶん深く語り合ってしまい、それならとその時は資材や資金、場所がなかったので急ごしらえだが魔術的補助を施しつつ作り上げたダガーナイフ(ランクにしては干将莫耶より1ランク落ちる程度)を差し上げたところ、切れ味や使いやすさからとても気に入ってもらえてそれからは腹の探り合いもすることなく今の状態に落ち着いたのである。


―――閑話休題。


「では後は自分がやっておきますのでなにかあったら学園長を通して話を俺に回してください。いつでもできるわけではないですから」
「わかったよ」
「それと学園長、このたびはここまでしてくださりありがとうございます」
「いいんじゃよ。代わりとはいわんがこの――…「ピタッ」……ナンデモアリマセン」

俺はまだ言うか? という感情を混ぜてさわやかな笑顔で学園長の頬に干将を当てていた。
普通ならここでガンドルフィーニ先生はその生真面目な性格からしてなにか言ってきそうだが、もうなれてしまったのか苦笑いを浮かべ、

「まぁまぁ、衛宮。学園長も本気じゃないんだからここは穏便にいかないか?」
「いえ、学園長はいつも本気でものを言ってきますよ。だからこれくらいやっておかなければいつの間にか用紙に判を押していたとかいう事態になったら堪りませんからね…」
「ああ、学園長のお孫さんの件だね。なんでも腹部に大穴の重症を負った衛宮の傷を仮契約(パクティオー)することによって完全に治してその力を開花させたって言う…」


…………、…ナンデスト…?


「……………その話は、どこから出回ってきましたか?」
「学園長からさっき聞いたんだよ。そうです………いないな?」
「転移して逃げたか…」

俺とガンドルフィーニ先生が同時に学園長のほうに振り向いたが時既に学園長はその場から離脱していた。
それでガンドルフィーニ先生は引きつった笑顔を浮かべながら、

「私は誰にもいうつもりはないけど…一ついいかい?」
「俺からも一つ…決して生徒に手を出すなどという行為はしませんからね?」
「わかっているならいいんだよ。ハハハ………」
「当たり前ではないですか。ハハハ………」

二人してから笑いをしていたが、俺は気持ちをダークサイドに落として、

「……今から学園長を叩きのめしてきます……」

その一言でガンドルフィーニ先生の顔は硬直して動かなくなったが、ここは放っておくのが一番だと感じ俺は歩き出した。
…さぁ。狩りの時間だ。
それから俺は全速力で学園長の居所を探すのだった。
……そしてその日の夜にどこからともなく学園長の絶叫が響き渡り、同時に白髪の鬼が学園長を襲ったのだというふざけた都市伝説が広まったそうだが、それを俺が知るのはまだ当分先の話なのでここで割愛させてもらう。
…そういえば姉さんが最近エヴァの家に行く話をよく寝る前に聞くな。試しに俺もなにをしているのか見に行ってみるとしよう。


◆◇―――――――――◇◆


Side  衛宮イリヤ


そろそろシロウの方も工房作りに熱を入れ始めたらしいから私も動こうかしら。
シロウは今回の事件でなにも言ってはこなかったが、私自身が力不足だと自覚をしてしまった。
だからエヴァに私達のことがばれた後、魔法を教えてくれないかな? という相談を持ちかけてみた。
けど、エヴァはとてもだるそうな顔をしていた。だけどそれはもう想定内のことだったので私も切り札を一枚出すことにした。
それはエヴァに私達の世界の魔術を教えるという話だ。
それにいい具合に食いついてきたエヴァは一転して真面目に私の話を聞いてくれるようになった。
これで等価交換も成立したも同然ね。
そして修学旅行の翌日に午前中から私はエヴァの家に来ていた。

「それでその魔術回路とはどういったものなのだ?」
「そうね。魔術回路って言うのは魔術師が体内に持つ擬似神経のことで生命力を魔力に変換する路でもあるの…」

それから私はエヴァに初歩中の初歩だけどこちらの世界では誰も知らない知識だから丁寧にじっくりと教えていった。
でもさすが真祖というべきか、それとも600年も生きているので記憶量がすごいのかエヴァはメモもとらずに教えたことはすぐに覚えていった。
一応、茶々丸が隣で会話を記録しているようだけどこの様子なら大丈夫ね。

「なるほど…つまり魔術回路とは肉体ではなく魂にあり、回路の本数も先天的に決まっているというわけか」
「そう。それで一つ聞きたいんだけどエヴァって真祖なのは先天的? それとも後天的…? 別に理由は話さなくていいから教えてほしいわ」
「あまり他人に話したくはないが後者だ…」
「そう…。それじゃきっとエヴァの回路の数はかなりあると思うわね。私達の世界でも研究を続けるために自ら死徒に身を落とす魔術師がいて、それによって大抵のケースでは魔力が増大したパターンが多いから」
「前にも思ったのだがお前達の世界は馬鹿の集まりなのか? 自ら吸血鬼になるなど正気の沙汰ではないぞ?」
「それを言われちゃうと見も蓋もないんだけれど…「 」を目指そうとするには人間の寿命ではどうしてもたどり着くことは出来ない。だから死徒になって研究を続けるものが後を絶えないのがあちらの現状ね。…大抵のものは代行者に狩られてしまうものがほとんどだけどね」
「そうか。しかしお前達の世界の魔術師は愚かではあるが、こちらのぬるま湯に浸かっている魔法使い共よりは根性はありそうだな。人間のままで死を迎える前に一族に研究成果を魔術刻印という形に残すというところも賛歌できるしな」
「そうなのかな? ま、こんなうんちくはいいとしてそろそろ本題に入るとしましょうか」
「そうだな」

私はある袋から一つの宝石を取り出した。トウコにもらったのはいいんだけど今のところ使いどころはなかったからちょうどいいので回路を開くのに使わせてもらおう。
そこにエヴァはなぜ宝石を使うのか? と尋ねてきた。

「今からこの宝石を使ってエヴァの魔術回路を開こうと思うのよ。てっとり早く私の魔力をエヴァに流して強制的に眠っている回路を叩き起こすという方法もあるけど…痛いのは嫌でしょ? 他人の魔力は劇薬や毒にもなるから」
「私をなめるなよ? それくらい耐え切ってみせるさ」
「そう。それじゃあとで文句を言ってきても私は聞かないからね?」

エヴァの胸に手を伸ばして私は魔術回路を起動した。

「あ、一ついい忘れていたんだけれど?」
「なんだ?」
「この方法は死ぬほどの激痛が最低でも30分以上は襲ってくるから」
「な、なに…? ちょっと待ッ…!」
「えい♪」

エヴァの制止も聞かず私はエヴァの体内に魔力を流した。
すぐにしてエヴァからとても痛がっている声が家全体に響いた。
承諾してこちらを受け入れたんだからうらまないでよね?


◆◇―――――――――◇◆


Side  エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル


ぐっ!? な、なんだこの体中を圧迫するような激痛は! い、息がまともにできない!?
私の隣でイリヤは「気をしっかり持ちなさい! 意識を持ってかれたらそれで失敗になるから! 頭の中でイメージできるものが見つかったらそれを精神力でコントロールするのよ!」
とは、言ってくるがさすがに今は息をするのもつらいというのにそんなものを確かめている余裕などない!
それから激痛はおそらく30分以上続いてようやく息継ぎも正常に戻ってきてなにか頭にイメージのようなものが、いや違和感と言ってもいいな? それが浮かんできたことをなんとかイリヤに伝えたが、

「そう。それじゃ今度はそのエヴァが感じた違和感を『魔力の生成回路だ』と強く認識して。そして、それを体内に定着し己の体とそれらを重ね合わせる感じにしてみて」

イリヤの言われたとおりにそれを行動に起こしてみた。すると先ほどまでとはいかないほどものの激痛が襲ってきたので必死に耐えてイメージを定着させたらなにやら脳内イメージでいくつもの回路のようなバイパスが浮かんできた。
イリヤが言うには「それが魔術回路を認識したということよ」と言うが…

「なぁイリヤ。お前達の世界の魔術師は狂っているな。初歩の魔術回路生成するだけでこれだけの激痛が襲ってくるとは私の想像を遥かに上回っていたぞ?」
「そうなの? 私達の世界ではこれが日常だったからあまり気にしていなかったわね。でも、だから宝石を使ってゆっくりと開いていくことをお勧めしたんじゃない?」
「確かにそうだったな…」
「でも一気にやってよかったかもね。宝石を使って回路を開こうとするとさっきのエヴァが感じた激痛は半分くらいで済むけど、その代わりにじわじわと痛みが襲ってくるから」
「それはまた……まったく末恐ろしい話だな…」
「それよりこれでエヴァの魔術回路も開いたはずよ。なにか始動キーを唱えれば回路は起動するわ。今なにも思いつかないのなら常日頃から使っているこちらの始動キーでも構わないわ」

だから私は「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」と呪文を唱えた。すると突如として体中に魔力が駆け巡っていく感じがして私は思わず大声を出し笑い出していた。

「あははははははは! 魔力が、私の体を満たしているぞ!」
「やっぱり…こちらの魔法は自然界から力を授かって力にするからそれに登校地獄は反応するわけで、さすがに内側までの魔力は対称に含まれなかったようね。やっぱり魔術体系が違うのが原因なのかしら?」
「そんな些細なことはいい! それより感謝するぞ、イリヤ。これなら今ぼーやと戦っても負ける気はせぬぞ」
「そう。でも魔力切れには注意しなさいよ。エヴァには関係ないだろうけど私達人間は魔力が切れるとそれだけで疲労はどっと押し寄せてきて最悪死に至るケースもあるから」
「む? では回路を開きっぱなしにしているだけでも微量でも魔力は減っていくわけか」
「そういうこと。回路を閉じていれば魔力は自然に回復していくわ。そこはどちらの世界も同じようね。それにエヴァの場合は魔力切れなんてへまはまずするわけないわね」
「当然だ。伊達に600年以上も生きてはいないからな」
「それに魔術回路が閉じれるっていうことは魔力も感知されにくいし、それだけ他人には気づかれにくいって事。私達の世界の魔術師は、そこはきっちりとオン・オフをしているから普段の生活を続けることが出来るのよ」

なるほど。だから普段の二人からは毛ほどの魔力も感知できなかったわけか。それなら今までの疑問も解消できるわけだ。
そして魔術回路を使えるのはシロウとイリヤを除けばおそらく私だけだ。くくく…ではじじぃや他の魔法使い共にもこれでばれずに済むわけだ。
自然と顔に笑みが刻まれていっているのが自覚できてしまうな。
そういいながらも一応私は魔術回路を閉じた。

「それとすぐに回復したい場合はエヴァの場合だとやっぱり血かしらね? とくにシロウの血なんかはすごい回復しそうね?」
「ほう…? それは一度飲んでみたいものだな?」
「でも、さすがのシロウも節度はわかっているからそこまでさせてもらえないでしょうね? それより話は戻ってエヴァは次のステップに進みたそうだけれどその前に」
「なんだ? なにかあるのか?」
「ええ、ちょっとね。チャチャマル、少しいい?」
「はい。なんでありましょか、イリヤ先生?」
「うん。さすがにエヴァも強制的に回路を開いて汗をいっぱい掻いちゃってるし、それに体力も今はないに等しいでしょうからお風呂に入れてあげてくれないかしら? エヴァもいつまでも汗だくのままじゃ嫌でしょ?」
「それはそうだが…私は一人でも入れる―――……ッ!?」

最後まで言おうとして立ち上がった途端、私の体は足から力が抜けていく倦怠感に襲われて倒れていった。
咄嗟にイリヤに支えてもらったが結構きているようだ。

「いったそばからこれじゃあね。魔力が一時的とはいえ戻ったからといって呪いの効果はしっかりと持続しているのよ? 身体年齢が10歳ならあんな強引な開き方をしたらエヴァは精神力で乗り切ったみたいだけれど普通は意識が吹っ飛ぶのがまず確実なのよ?」
「…ご忠告、感謝するぞ…」

それでしかたなく私は茶々丸に任せてお風呂に入れてもらった。思わぬ痴態をイリヤに見せてしまったが、だがそれでも得るものはあったのだからいいとしよう。
そしてお風呂から出た後、結局今日は体力も戻りそうにないのでベットに横になり、イリヤからも「今日は検査と講座のみね」と言われた。
イリヤはもう一度魔術回路を開いてといってきたので開くと頭に手を合わせながら検査とやらを開始した。
だが10分以上経ったときにはイリヤの顔がどうにも面白くなさそうな表情をしていた。
なぜそんな顔をしているのだと聞いてみたところ、

「…エヴァ、あなたははっきりいって異常ね」

なんて返事が返ってきた。正直一瞬むっとしたがあまりにも真剣な顔をしているため逆に何事かと尋ねてみると、

「魔術回路の本数がエヴァは異常だわ!
真祖になってそれは増加したでしょうけど、多分私の魔術回路の本数は人の範疇では知っている限りでもトップレベルは自負しているつもりなのに、なに!?
私ですら全部の回路を数えても500本はいっていないのに…エヴァにいたってはメインの回路が約1000本以上はあって左右のサブ回路もそれぞれ900本以上はある。少し、いえかなり嫉妬を覚えたわ…!」
「ようやく私の実力がわかったみたいだな?」
「…ええ、まぁね。本当これだけあるならシロウにも分けてあげたいほどよ」
「む? そういえばシロウは何本あるんだ? あれだけのものをいくつも作り出せるのだからかなりの数はあるんだろ?」

だがそれを聞いた途端、少し沈黙がさして少しして搾り出すような声を出しながら「27本よ…」と呟いた。
はて? 私の聞き間違いだろうか? 270本の間違いじゃないのか?
その意をイリヤに聞いてみたが今度は大声で、

「シロウの回路の本数は27本よ!」

…どうやら聞き間違いではなかったらしい。数の部分を強調していっているのだから間違いないだろう。
っていうより、はあぁぁぁあっ!!?

「なに!? シロウの本数はそれだけなのか! あんなにばかすか投影しているのにか!? 魔術回路を開いた今だからわかるが普通一つでも宝具を投影すれば神経がいかれるぞ!?」
「…ええ。まぁね…でもこの本数は初代の魔術師としては破格な数なのよ?」
「本数が少ないだけでなくシロウは初代なのか!? では一族の結晶ともいう魔術刻印ももっていないのか!?」
「ええ」
「前にも聞いたが奴は、ほんとうに人間なのか…?」
「ええ…ただちょっと特殊でね」

イリヤが言うにはなんでも士郎の魔術回路は通常の神経と合わさっていて本物の神経と言っても過言ではないらしい。
だから神経に私にやったように魔力を流し込んで鍛えていたそうだ。
それで今の魔力量と強固な魔術回路を手に入れたそうだ。
それに属性が『剣』だから投影も武具関係がほとんどなので楽らしいと士郎談。
そしてイリヤとレイラインというものを繋いでいる為、魔力を仮契約(パクティオー)の契約執行のようにお互いに供給ができてカードを使わなくても念話が出来ると言う。それはいいな…。
二人は通常の儀式でレイラインを繋いだそうだが…手っ取り早く済ませるならば…………口に出すのもはばかれる行為をするらしい。
これにはさすがに私も頬を少しばかり赤くしてしまった……。
そんな話はもういいとして、イリヤが次は属性について喋ろうとしたらしいがこれもまた神妙な顔になっていた。

「シロウほどではないけどやっぱりエヴァの属性も特殊で珍しいものだったわね」
「なんだ? 士郎の『剣』のようになにか限定的なものなのか」
「ええ。と、いってもこれはただ非常に珍しいっていうだけでもう認知されているから封印指定は受けないでしょうけど…それでエヴァの属性なんだけどそれは『虚数』よ」
「虚数…? それは一体どういったものなんだ?」
「ええ。虚数っていうのは目に見えぬ不確定を以って対象を拘束したり、平面の世界へと飲み込んでいく影の海を作り出す事を可能とするらしいわ。簡単に言えば自身の影を使って相手を攻撃すると言ったものね。そこらへんは詳しくないからうまく説明できないけど」
「なんだ? では私達の世界にある操影術みたいなものか」

それってなに? と聞いてきたのでどういったものか教えてやり、同時に私はあまり使えん属性だなと言ったが、イリヤは真剣な顔をしながら「違うわ」と言った。なにが違うのかと思ったが次の一言で納得できる内容だった。

「…虚数魔術っていうのはね? 自身の深層意識をむき出しにして負の側面を刃とするものなんだけど、当然操作がとても難しくてもし逆に意識を飲み込まれたら暴走することは確実と言われているの。故に禁呪とも言われているわ」
「はっ。そっちのことか!」

そうか。なるほどな。確かに私の属性に相応しいものだな?
私が編み出した『闇の魔法(マギア・エレベア)』と『虚数魔術』は自身の闇の部分を使うという点ではまったく同じではないか。

「五大属性のうちに含まれているんだったら私でも教えようはあったんだけれど、さすがにこれは専門外だから資料もないしお手上げね」
「つまりイリヤが私に教えることはほぼないということか?」
「いえ、別に五大属性に関係なく魔術回路があれば使える魔術はたくさんあるからじっくりと教えていくわ」
「そうか、ではその方針で構わん。それにおそらくその虚数という属性についてはお前より私のほうがはるかに詳しそうだからな。だからいつか使いこなしてみるさ」
「あ、そっか。エヴァのこちらでの属性は『氷・闇』だったわね」
「そういうことだ。わからんのなら自ら解明してみるさ。それでだが対価分は明日からで構わないか? 今日はこの有様なんでな」
「構わないわよ。別に急ぎでもないしね」

イリヤはそう言っているが、いちいちイリヤの教師と寮長の仕事も裂いて魔法を教えるのも面倒だな。
久しぶりにアレでも発掘してみるか。
内心で色々思案して楽しんでいたが、ふとなにやら外が騒がしいので茶々丸に往かせてみると帰ってきたときには二名ほどオマケがついてきた。

「ネギのぼーやに神楽坂明日菜か…なんだこんなところに?」
「いらっしゃい二人とも」
「あ、あれ? イリヤさんも一緒だったんですか?」
「ええ。エヴァと等価交換しあっていたのよ」
「とうかこうかん…?」
「…貴様はそんな言葉もわからんのか?」
「う、うるさいわね!」
「まーまー、二人とも落ち着いて。それで今日はエヴァになにか用があってきたんでしょ?」

神楽坂明日菜に等価交換の意味を教えていたネギのぼーやは「はっ!」としたような顔をしてベッドで横になっている私よりもさらに頭を低くしてきた。
それでなにを言い出すのかと思えば、私に弟子入りしたいだと? 冗談もほどほどにしろ。

「アホか。戦い方を学びたいのならタカミチか士郎にでも相談すればいいだろう」
「あ、エヴァ。それなんだけどシロウにはもう弟子入りしている人がいるからたぶん無理よ?」
「なに? 誰なんだそいつは…?」
「そんな人がいたんですか!?」
「あー…その人は全員よく知っている人物よ?」
「あのぉ…もしかして刹那さん?」
「あら、正解…勘がいいのね、アスナ。ええ、セツナは修学旅行…いえ、学年が上がる前からシロウに真の戦場での戦いを教わっているわ。たまにカエデとも裏山で修行を手伝ったりしているし…」
「「えええええーーー!!?」」
「そうだったんすか!?」
「ええい、やかましいぞ貴様ら!」

少しして落ち着いたのか神楽坂明日菜は一人呟きながら、

「…そっかぁ。前に古ちゃんの誘いも断ってたのはもう刹那さんがいたからだったんだ…」
「ふむ。ならば刹那が鳥族と人間のハーフだということを知っていたのも頷けるな。おおかた修学旅行前に正体を明かしたんだろう」
「そうみたい。水臭いわねシロウもセツナも。私はそんな些細な違いなんて気にしないのに…」
「士郎に関しては性格からしてアイツのことを想って喋らなかったのだろう」
「そうみたいっすね。士郎の旦那…漢っすね!」
「そんなことはどうでもいい」

ぼーやの肩からなにか言ってきたが私の睨みでどこかへ隠れてしまった。ふっ…所詮は小動物。

「それより、ならタカミチにでもならったらどうなんだ?」
「はい。それも考えたんですけど、タカミチは海外に出張やなにやらで忙しいらしいので…だから僕は京都での戦いを見て魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと思ってやってきました!」
「ほう…では私の強さに感動したというわけか。なるほどなるほど」

それならばイリヤのように対等に払える対価などぼーやにはあるはずがないのだからまずは下僕として忠誠を誓わせようとした瞬間、私の魔法障壁が破られて目前には神楽坂明日菜のアーティファクトのハリセンが迫っていたことに気づくのは吹っ飛ばされた後だった。
イリヤも茶々丸も一緒に「はやい!?」と言っているから確かなのだろう。
しかしなんだ本当にこいつ!? こう何度も立て続けに障壁を紙切れのごとくぶち破るとは!
腹いせになんでこんなにぼーやに肩入れするのかとおちょくったらまたハリセンで叩かれた…。
ふ、ふふふ……私を相当怒らせたいようだな。貴様等は知らんようだが私は魔力を操るすべを会得したのだ。
それで魔術回路を起動しようとした瞬間、いち早く気づいたイリヤが私の手を握ってかぶりを振っていた。
それでさすがに私も大人気ないなと頭を冷やした。
するとイリヤが何か思いついたのか、

「それじゃエヴァ。なにかネギに課題か試練でも与えてやったらどうかしら?」
「…そうだな。イリヤのいうことはなかなか断ることもできんし的も得ている。わかったよ。では今度の土曜にまたうちに来い。それまでになにをやるか考えといてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」

それからぼーや達は他にも用があるというので早々に家から出て行った。
やれやれ、やっとうるさい奴らが消えてくれた。
っと、それよりなぜ止めたのかイリヤに理由を聞いてみるか。

「…え? どうして止めたかって…? それはエヴァが魔術回路を起動したら血の雨が降りそうだったから」
「表向きの理由はいい。それで真実はなんなんだ?」
「うん。まぁそうなんだけどまだ習っていないからどんなものかわからないけど、エヴァ達魔法使いの魔法障壁はそんな簡単に破れるものなの…?」
「…いや。人によって落差はあるが魔法か気での攻撃を防いで緩和できるほどの力はあるのだからあんな簡単に破られることはまずない」
「そう。それじゃやっぱりアスナにはなにか秘密があるみたいね…」
「そうだな。近衛木乃香と同室の時点でおかしいと思っていたがとんだ隠し玉かもしれんな?」
「そうね。あ、そうそう。話はネギ達が来る前に戻るんだけど魔術回路だけでも根本的に魔力を使うことには変わりないからこちらの魔法は使えるから」
「それを聞いて安心したぞ。感謝するぞ、イリヤ」
「別にいいわよ。教えあうのは私も嫌いではないから」


ふふふ、これでイリヤにあちらの世界での魔術も習っていき士郎にもいずれはあの魔法関連に関してはアンチな宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』で呪いも解いてもらえば闇の世界の住人、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』も復活するな。
しかし、ふと思ったが私はこの姉弟に借りが出来すぎていないか?と考えに至り一瞬焦ってしまったのは秘密だ。
そしてもう一度考えてみればイリヤに関しては、お互い等価交換で話は済んでいるのだから不利になることはまずない。さらに士郎に関してはお人好しという点から恩を売ろうなどとは絶対とはいかないが考えないだろうから大丈夫だろうと再度至って安心したのも秘密だ。


 
 

 
後書き
エヴァは魔術回路を手に入れた。 
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