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剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ

作者:炎の剣製
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006話 歓迎会

 
前書き
更新します。 

 

Side 近衛木乃香


士郎先生を調理室に連れてきたのは正解だったようや。
本人もどうやらやる気のようやしね。
でも、エプロン姿がまったく違和感なく、逆に似合いすぎや。
そしてまだ教えてもないゆうのにすぐに調理道具を並べて、調味料もその場にあるものだけすべて集めて、最後にまるで戦いにおもむく様な台詞を言っていた。
一緒に連れてきた朝倉さんやパル、ユエは顔を引き攣らせとったが、古ちゃんや超さん、楓さんはその気迫に口を揃えて、

「只者ではないアルネ?」
「まさに料理人の姿ネ」
「楽しみでござるな~!」

と、言っていた。料理を作るものにはわかったような台詞を言っていた。
確かにうちもそれは士郎先生から感じたんや。

そして士郎先生による調理が始まった瞬間、みんなが息をのんだ。
そう、士郎先生の料理の手捌きはとても速い。
が、なによりもその繊細さがすごいんや。
切った野菜は見た限り一ミリもずれがなくて、そして切られた野菜はまるで自分から飛び込むように切りかごに収まっていっとる。
次にお肉や魚なども調理し始めたんやけどまたすごいものが見れた。
お肉は士郎さんの顔の前まで浮かぶと目にも止まらぬ速さで牛角にされ、魚も同じ要領で刺身にされていた。
焼き方やフライパンの返し、そして数々の調味料の使い分け。
そして全員のお口に応えられるように和洋中と次々と料理が作られていく。
しかもや! いつの間に作ったんやろかオーブンの中にはスポンジケーキが焼かれていて、他にもプリンやお団子といった様々なデザートが作られていっとる。
デコレーションも半端やない。

その光景を朝倉さんは興奮しながらデジカメに収めていて、パルも感化されたのか今度の漫画のお題はとかブツブツいっとる。
ユエも声がでずにいたが驚愕しているのがようわかった。
そしてうちと、それに他の料理を作るみんなもきっと思ったんやろうな?

「後で調理法を教わろう!」……と!

最後にすべてのものをお皿に移して、すぐさま調理道具などを洗い終わった士郎先生の顔は実に満足そうにしていて、

「ふっ……こんな料理を作ったのは黒い月の姫君の時以来だな」

と、なにかを思い出しているようなのか窓の外に浮かぶまだ夜ではなくて薄い月を見ながらいっとった。
黒い月の意味はよーわからんけど、姫君って……士郎先生、以前はいったいなにをしていたんやろ?




◆◇―――――――――◇◆




Side 衛宮士郎


「これで終了だ。さて教室に運ぶのだろう? 手伝ってくれないか?」

しかしつい久しぶりにまともな団体料理を作れると思って熱くなってしまった。
姉さんに先に念話をしておいてよかった。
これをもし後で伝えていたとしたら、きっと半殺しにあうだろうからな。

「し、士郎先生! 料理が昨日の比率じゃないっすよ!? なんですか今の調理の仕方は!」
「すごいね士郎先生! なんか脳髄にピキーン!と来るものがあったよ!」
「すごいです!」
「こ、このプリンは味見してもいいでござるか?」
「この肉まんいいアルカ!?」
「これはとてもいい人材ネ? ぜひ超包子に誘いたいよ……ふふふ」
「まだダメだ。ネギ君が来たら行う歓迎会の為なのだから早めに運ばなければいけない」

味見をしたいといってきたものもいたがざっくりと切り捨てた。
だがシニョンの少女、出席番号19番の超鈴音からは寒気がしたのは気のせいだろうか?

「でもな、それは士郎先生も言えることなんよ?」
「別に構わないさ。メインはネギ君なのだから俺は二の次でいい。それと俺の姉さんを呼んであるからそちらも歓迎してやってくれ」
「え、イリヤさんも来るんだ。それじゃみんなきっと驚くね? かなりの美人さんだから」
「そうなん?」
「そりゃもう私たちとは比較にならないくらい。まるでお人形さんみたいだったよ」
「………朝倉、姉さんにその手の話はしないでくれると助かる。俺も気にするが、姉さんは俺なんかとは比較にならないものがあるからな」

俺は朝倉の言った“人形”という言葉に反応してしまいつい顔を顰めて言ってしまった。
そう、姉さん……いやイリヤは過去、アインツベルンの使い捨ての小聖杯(にんぎょう)として一生を終わる運命にあったのだから。
たやすく人形という言葉は口にしてほしくない。
それは姉さんの古傷をえぐるものに他ならない。
その事は口を割っても他人に教えるつもりはないが、それが伝わったのか朝倉は少し顔を俯かせながら謝ってくれた。

「ごめんなさい、士郎先生。訳ありみたいだったのに考えもなく口走っちゃって」
「いや、気にしないでくれ。わかってくれればそれでいいんだ」

俺はなんとか空気を取り繕うと笑顔を見せたが、次にはどうにも暗かった雰囲気が一転しみんなは顔を赤くしてしまった。……なぜだ?

(朝倉さん、それに皆さん。あの士郎先生の笑顔は反則だと思うのは私だけでしょうか?)
(いやいや、そんなことないってゆえ吉! あれはある意味魔性の笑みよ? あんな笑顔されたら最悪落ちちゃうよ!?)
(はわ~……うちも一瞬ドキッとしてもうた)
(士郎殿はどうやら無自覚らしいでござるな?)
(天然アルか?)
(きっとソウネ)
(くそう~……今の笑顔はベストショット確定だったのに、この朝倉和美一生の不覚だったわ!)

「?」

その中で一人やはり気づかなかったのか士郎はその朴念仁ぶりを大いに発揮しているのであった。



◆◇―――――――――◇◆



その後、数々の料理が教室に運ばれていく度に士郎の料理現場に参加していなかった面々はその料理に目が釘付けになっていた。
朝倉が俺が集中していたのかいつの間にか撮影していた映像を、ネギ君が来るまでといって一部始終をみんなに見せていたが、すごい目で見られているのは気にしない方針にした。
しばらくするとタカミチさん、しずな先生が校舎で俺達の教室が分からなかったらしく迷っていたらしい姉さんを連れてきてくれた。

「あ、シロウ! 呼んでくれたのはいいけどちゃんと居場所くらい教えときなさいよ?」

姉さんが俺に気づいたらしく少し怒り顔で迫ってきた。

「ああ、すまなかった姉さん。伝え忘れていたよ。それより、ありがとうございます、タカミチさん。姉さんを案内してくれて」
「いや、構わないよ。それよりまだネギ君が来ていないようだね? よし、ちょっと迎えにいってくるよ」
「わかりました。じゃ俺はその間に姉さんをみんなに紹介しておきますよ」

そしてタカミチさんは教室を出て行った。
一方、姉さんの方はやっぱりというかアインツベルンの名は捨てたとはいえ、その気品さはまったく損なわれていなかったのでかなり人気が出たようだった。
姉さんがいうには今の姿は実の母の姿とほぼ一緒なのらしいから十分美女の部類に入るのだろう。
実際姉さんは綺麗だからな。

「……士郎さん?」
「ん? なんだ、桜咲、険しい顔をして」
「いえ、大丈夫そうならいいんですが、エヴァンジェリンさんに敵意の目を向けられていましたが大丈夫でしたか?」

騒がしい中、気づかれないように桜咲が小声で話しかけてきた。
やっぱり気づいていたようだ。だから俺も小声で会話した。

(やはり気づいていたようだな。そこのところは今は大丈夫だ。威圧で返してやったからな。『いい覚悟だ吸血鬼、こちらからは仕掛けはしない。が、そちらが動いた時は……楽しみにしているがいい』とな)
(エヴァンジェリンさんが吸血鬼だと気づいていたんですね)
(まあな。ああいった類は前の世界でも何度も相手をしたことがあるから教室に入ったときに気配ですぐに分かった。
だが、なにかしら力を封印されているようだな? 全盛期はどうだったか知らないが今は極限まで魔力が落ちているみたいだ。
だからあっちから仕掛けてくることはないから一応は安心している)
(そこまでわかったんですか。さすがですね)
(そんなことはない。その代わり力をもし取り戻した時には本気で相手はするつもりだ。あくまで“つもり”だがな。甘いといわれても仕方がないが、まだ悪なのか決めかねている節がある。だからそのときが来たらまずは話し合いから挑もうと思う。それから一応だが、生徒なのだから殺す心配はしなくてもいいぞ? やって戦闘不能までには追い込むつもりだがね?)
(あはは……士郎さんが言うと冗談に聞こえませんね?)
(まあ、そうならないことを祈るよ)
(そうですね)

するとタカミチさんが少し赤い顔をしながら一人教室に戻ってきた。
なにかあったのか?

「どうしたんですか、タカミチさん?」
「いや、なんでもないよ。士郎君は気にしなくてもいいよ? ははは……」
「はあ……? 声がかわいてますがタカミチさんがそういうならもう聞きません」
「助かるよ」

なにか俺の勘がこれは触れないほうがいいなと語りかけている。
だからもうこの話は終了した。
そしてネギ君と神楽坂が教室に入ってきた瞬間、

「ようこそネギ先生―――ッ!!」

ネギ先生はいっせいにクラスの生徒たちに大声で熱烈歓迎されていた。
どうやら無事に迎え入れてもらえた感じだ。
俺と姉さんはその光景をタカミチさん達と一緒に笑っていたが、

「そして士郎先生にイリヤさんもようこそ―――ッ!!」

俺達も続いて歓迎された。む、なにやら虎の気持ちが本気で分かってきたかもしれない。

「元気があって結構なことだな」
「そうね。でもいいんじゃないかしら、こーいうのもたまには?」
「そうだな、姉さん。ではネギ君も来たことだ。もう待ちきれないのだろう?もう始めようとしよう」

その俺の声を合図にみんなはネギ君を中心に持っていき歓迎しながらも俺の作った料理を口に運び楽しんでいた。

「え? これ全部士郎さんが作ったんですか!?」
「ああ、久しぶりに満足のいくものを作らせてもらったからネギ君も神楽坂も遠慮せず食べてくれ」
「士郎先生ってなんでもできるんですねぇ」
「ほかに趣味はこれといってなかったからな。だからこんなことしかできないが楽しんでいってくれ」
「ありがとうございます士郎先生。ほんとこのガキとは大違いね」
「そ、そんなぁアスナさん…」

ネギ君は少し泣き顔だったがすぐに生徒の波に連れてかれて普段どおりになっていた。
それからネギ君はどうやら助けたらしい宮崎にお礼を言われていたり、雪広にはネギ君の顔にそっくりな銅像をもらいあたふたしていた。……いつの間にあんなものを?
そのうち、ネギ君が神楽坂になにかを握られているのかしょうがないといった顔でタカミチさんに何度か読心術を試していた。
姉さんも気づいたのか神妙な顔をしていた。ネギ君、君は魔法を隠匿する気はあるのか?
そして何度か小言で言い争いをしていきそのまま神楽坂は教室をネギ君はそれをあわてて追っていった。
なにか妙だと思っていたが理由がなんとなく見当がついた俺は姉さんにレイライン越しで表面上は普通に装い会話をした。

《なあ姉さん少しいいか?》
《なにシロウ? もしかしてあの二人のこと? もうばれたのかしらね?》
《だと思う。実は今朝ネギ君はただのくしゃみで魔力が暴発して神楽坂の服をわざとではないが吹き飛ばしていた。制服が今は完全に新しくなっているのだから今度はおおかた記憶を消そうとして失敗し吹き飛ばすのではなく消し飛ばしたかなにかしたのだろう?》
《く、くしゃみで? どれだけ素人なのよ? ほんとうに魔法学校を卒業したっていう実力は持っているのかしら?》
《まあ、まだ子供だからな》
《それだけの問題なのかしら? にしてもあの二人が出て行ったほうが騒がしいわね?》
《さて、またなにをやらかしたのやら?》

そして騒がしい一日はやっと終わりを告げ、それぞれ帰っていっている中、俺と姉さんはネギ君と神楽坂を引き止めた。


「ネギ君に神楽坂……もし今日暇で夜、部屋へみんなで来るのなら、先に二人だけで管理人室に来てくれ。なんとなくだが二人の関係には見当はついた。なにか訳アリなのだろう?」
「士郎さん、それは……!」
「えっ!? じゃもしかして士郎先生やイリヤさんも―――むぐ!?」


咄嗟に神楽坂の口を手でふさいだ後に、

(今ここでは言えないが関係者ではある。だからこんな往来で叫ぶのだけは自制してほしい)
(は、はい)
(ネギ君もなにがあってこうなったのか教えてくれると助かる)
(……わかりました)

「よし、では帰り支度を済ませて帰るとしようか」
「そうね、シロウ」

それだけ伝え神楽坂を待っていた近衛とともに寮へと帰った。

(なんていうか士郎先生とイリヤさんはわざとあんたのために正体ばらしてくれたんだから大人の対応しているわよね? あんたも見習いなさいよ?)
(はい、精進しますぅ…)



◆◇―――――――――◇◆



時は過ぎ、今は日も沈んでやっと二人が来たのを確認したので、

「姉さん頼む」
「わかったわ、シロウ」

姉さんが二人が扉を閉じたのを確認した瞬間、人がこの部屋に近寄ってこれないという暗示をこめた人払いの結界を展開した。
神楽坂は気づいていないようだったがネギ君は驚いたらしく、

「これは……無詠唱で結界を張ったんですか!」
「そうよ。士郎は戦闘面に特化してるけど、私は逆に補助系全般といった感じかしら?」
「え?え?なんのこと?イリヤさんなにかやったの?」
「姉さんがやったのは人が近寄ってきてはいけないという暗示をこめた魔術だ。それと声が外に漏れないように部屋全体を強化して音声認識阻害の魔術も俺が展開させている」

いやぁ、昔の俺はこんな初歩級の魔術すらもろくに使えなかったのだから恥ずかしい話だ。
それも卒業するまでは遠坂に時間がある限り魔術理論を一から片っ端にしごかれ、そして世界に出てからは姉さんに暇さえあればずっと教授してもらっていたのだから実に情けない話だ。
俺の武器である投影も昔は本能というか感覚というか、それだけで作り出していたが今はちゃんと投影魔術の基礎も学んで知識と経験を組み合わせて使用している。
あの地獄の特訓はかなり堪えたと今も自負している。
とある意見が合った古参の死徒との模擬戦という名の死闘はそれを駆使して戦わなければほんとうに死ぬかと思ったものだ。
当然その持ち主の剣はもう俺の心象世界の剣の丘に突き刺さってはいるが、


閑話休題


「さて、これで今は邪魔は入らなくなったからどういった経緯で存在がばれたのか話してくれないか?」

それでネギ君はゆっくりと語りだし、最初の宮崎を助けたあたりはまだまじめに聞いていたのだが、いきなり杖を開封するなり浮遊魔法を使いあまつさえまわりに認識阻害の魔法もしていなかったなんて。
そして見られたために記憶を消そうと魔法は使ったがいいが失敗、服を吹き飛ばし、あまつさえ神楽坂の片思いしているタカミチさんにその醜態を見られた。
などと、よくそんな短時間でそれだけ奇想天外なことをしたものだ。

「ネギ君、さすがに俺でもフォローができない領域なのだが」
「私も無理ね。記憶を消しても完全には消えたわけではないからタカミチの顔を見た瞬間、フラッシュバックしてくるわよ、きっと」
「やっぱりそうなっちゃいますか?」
「だからここは最後の手段として神楽坂にお願いしたいのだが、できればネギ君の秘密は守ってやってほしい。まだ未来ある少年の道を奪うのはさすがに忍びない」
「そ、そんな頭を下げないでください士郎先生! 大丈夫ですよ、私はそんなに口は軽くないですから。だから頭を上げてください。私が悪者みたいでなんか嫌ですから」
「そうか。すまんな、神楽坂。それとネギ君、さすがに使うなとはいわない。……が、もう少し回りを見て行動をしてくれれば俺としてもフォローできるから頼むよ」
「は、はい! それにしてもなんか士郎さんもイリヤさんも僕達が使う魔法とは違う感じがしますね?」
「まぁ似て非なるものだからな。気にしなくて構わない。ではそろそろ外の者達も違和感を感じ始めている頃だし、姉さん?」
「ええ」

俺と姉さんはすぐに魔術を解いた。
するとやっと部屋に近寄れるようになったのか、何人かの生徒が部屋に押しかけてきたので俺は料理指南してきたものには簡単に教えながら、今日のような豪勢なものではなく普段作るような中華料理を作ってやった。
……決して泰山のようなマーボーではないぞ? 誰が好き好んであんな冒涜中華料理を作るものか!


ちなみに、翌朝俺の料理の記事がすでに作成され掲示板に張られたから噂が立ち始めるまで俺は気づかないでいた。
知った日に朝倉を締めるはめになるだろうがまだそれは先の話である。

 
 

 
後書き
超高校級の料理人 エミヤ……。 
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