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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第11話:今はまだ早すぎる

 
前書き
どうも、黒井です。

今年も早いもので本日で最後ですね。早いものです。

今回は2019年最後の更新になります。どうぞ 

 
 あの後、再びテレポートの魔法で奏達と共に二課本部に戻ってきた颯人は、司令室で早くも了子からの質問攻めに遭っていた。

 目下最大の質問内容は、やはりウィザードの事だった。

 特に、シンフォギアでもないウィザードがどうしてノイズに普通に攻撃できるのか? 誰もが当然のように抱く疑問を、言葉が物質化したのではないかと言うくらいの勢いで叩き付けられ、流石の颯人もその勢いにタジタジとなってしまった。

 だがこの質問も想定内、寧ろ来なかったら逆に不気味で仕方なかっただろう。

 しかし流石に何時までもノイズへの警戒と言う業務を疎かにする訳にはいかないので、今颯人の話を聞いているのは弦十郎と了子、装者3人の計5人であった。

 そこで彼は早速了子からの質問に答えた。

「んで、何でウィザードが…………って言うか魔法がノイズに普通に通用するかだけど…………」
「うんうん?」
「端的に言えば魔力ってのがそういう力を持ってるんだよね」
「と言うと?」
「早い話が、魔力は『あり得ない事をあり得る事にする』を可能にする力ってこと。こんな風にね?」
〈スモール、プリーズ〉

 言うが早いか颯人はスモールの魔法で自身を手の平大に小さくして見せた。

 精巧に作られたフィギュアかと言うほどの大きさの颯人がソファーの上で手を振る様子に、しかし流石にそろそろ颯人の魔法に対してある程度耐性が出来たのか期待していたほどの衝撃は与えられなかった。

 単純に感覚が麻痺しただけとも言えるだろう。
 この短時間でこれほど何度も物理法則を無視した現象を見せられたら、嫌でも慣れるというものだ。

 それに、物理法則の無視に関してはシンフォギアも決して他人の事は言えない。それこそ質量保存やエネルギー保存の法則すら無視しているシンフォギアも、見方を変えれば魔法と大差はないだろう。

 だがそんな中で了子は彼の言いたいことをここで理解した。よくよく考えてみれば、人間がそのままの姿を維持しながら体のサイズを縮小し尚且つ意識を保ち続けているというのは科学的に考えてあり得ないのである。

 端的に言うと、人間を含めた全ての生物の大きさは細胞の数で決まるからだ。

 細胞はそれ自体が生命体を構成する最小の大きさの物体であり、生命体そのものの大きさはこの細胞の数に左右される。もし現実に颯人を手の平サイズに縮小しようと思ったら、細胞の大きさはどうにもならない以上細胞の数そのものを減らすしかない。
 そしてそれをやった場合、必然的に脳細胞も数を減らされるので、結果を言うと縮小した時点で本来であれば彼の頭の中はパーになる。
 いや、パーになるだけで生きていれば御の字か。下手をすると生命を維持する事が出来なくなり縮小した時点で彼は死んでいたかもしれない。

 それが生きているという事は、科学的に見てあり得ない。それをあり得る事にしているのが、魔法と言う事なのだろう。そしてその原動力が魔力。

 あり得ないことをあり得る事にする。即ち、シンフォギアでないにもかかわらず位相差障壁による物理攻撃の無効化を無視(あり得ない事をあり得る事に)する事が出来たのだ。

〈ビッグ、プリーズ〉
「ま、こんな感じに」
「…………そうか、だからあの時ノイズに攻撃されても生きてたんだな」

 奏が思い出すのは5年前の事。

 あの時はいろいろあり過ぎてノイズの攻撃を受けた颯人が何故生きていたのかを深く考える余裕がなかったが、今にして思えばあれもあり得ないことだ。そういうあり得ないことを逆転させる性質を持ったのが魔力というものなのだろう。

 奏は漠然とそう理解した。

「な~るほどねん」
「すまん、了子君。もっと噛み砕いて説明することはできないか?」
「ん~と、つまりね────」

 その一方で、巨大化の魔法を使って元の大きさに戻る颯人を見ながら了子は魔法がノイズに有効な理由を理解し、今一理解が及んでいない様子の弦十郎に説明していく。

 その傍らで、颯人は成り行きで先程は奏達と一緒に連れまわした響が、2年前にライブ会場で起こったノイズの襲撃事件でウィズに助けさせた少女だったことを思い出していた。

「そう言えば君、響ちゃんて言ったっけ?」
「えっ!? あ、はい」
「その様子だと2年前のライブで会ってた事は覚えてないっぽいね。まぁ無事で良かったよ」
「へ?」

 あの時、既に響は辛うじて意識を保っていた状態だったので颯人やウィズの事までは覚えていなかったのだ。

 記憶にはないが、2年前の事件で彼にも助けてもらっていたらしいことを何となく察した響は、颯人の言葉に申し訳なさそうに頭を下げた。

「あの、すみませんよく覚えてなくて」
「いやいや、あの状況じゃしょうがないよ。それに直接助けたのは俺じゃなくてウィズだし、気にしなくても大丈夫大丈夫」

 奏と翼だけでなく自分も意外なところで接点が合った事を知り、その事を覚えていなかったことを素直に謝罪する響とそれを特に気にせず朗らかに接する颯人。

 だが2年前の事が話題に上がったことで、奏は当時彼に掛けられた魔法の事を思い出しそれを解くよう彼に詰め寄った。

「そうだ颯人ッ! 2年前あたしに掛けた魔法、いい加減解けッ!?」
「うん、だから嫌だって」
「何でッ!?」
「当たり前だろうが。無茶させるとやばい奴から無茶させない為の理由を取っ払う馬鹿がどこに居る?」

 この魔法は謂わば奏に対する枷だ。これがある限り彼女は絶対絶唱は使わないし、絶唱でなくとも無茶はしない。それが分かっているからこそ颯人はボンズの魔法を解かないのだ。

 だがそれは同時に、細やかなものであっても奏が受けたバックファイアなどの負担が颯人に全て流れていくと言う事でもある。自身にとっての希望を、自身の力で危険に晒らす。

 それが嫌だからこそ、奏は颯人に魔法の解除を要求しているのだ。

「あのなぁ、流石のあたしだっていい加減自分が無茶するのがやばいって事くらいちゃんと自覚してるっての。もうあんな事しないから、いい加減魔法解いてくれよ」
「ば~か、んな言葉に騙されるかっての」
「イテッ?!」

 強引に迫っても颯人は首を縦に振らないと見てか、奏はアプローチを変えた。即ち無茶しないことをアピールして油断を誘い、魔法を解除させようと言う作戦だ。

 だがこの作戦も颯人には読まれていた。彼女の性格はよく分かっている。口ではこんな事を言っても、いざと言う時になれば無茶をやるのは手に取るように分かった。分かりやすい嘘を口にした彼女を嗜めるかのように彼は彼女の額をペチンと叩いた。

「分かりやすい嘘ついてんじゃないよ」
「嘘なもんか!」
「嘘だよ。お前分かりやす過ぎるんだよ。だって顔に思いっきり嘘って書いてあるんだぞ、デコの所に」
「はぁ? んな訳あるか」
「本当だって。翼ちゃんとかに聞いてみな、うんって言うから」
「何言ってんだか。なぁ、翼?」

 何を世迷い事をと、奏は翼と響に同意を求めようと2人の方を見る。2人は彼女に同意しようと口を開いたが────

「――――ある」
「へ?」
「奏さん…………オデコに嘘って書いてあります」
「はぁっ!?」
「奏ちゃん、はいこれ」

 奏の顔を見て唖然としつつ颯人の言葉に同意した2人に、彼女はどういうことかと慌てて額に手を当てる。

 そんな彼女に話を終えたのか、了子が手鏡を彼女に見せ彼女にも自分の額が見えるようにした。

 果たしてそこには確かに、額に嘘と言う文字がしっかりと書かれていた。

「なぁぁぁっ!? 何だこれっ!?」

 まさかの光景に叫び声を上げる奏。

 何故こんなものがと額を擦ると、嘘と言う文字は滲んで形が崩れた。どうも水性のインクか何かで書かれたものらしい。

 そこで奏は気付いた。この文字が発覚する直前、颯人が自分の額を引っ叩いた事を。

 奏の表情が般若の様に歪み、ゆっくりと颯人の方を見る。

 彼女がそちらを見た時、そこでは颯人が明後日の方を向きながら肩を震わせ、ハンカチを差し出していた。
 やはりそうだ、これは彼が仕組んだことなのだ。恐らく、予め手にインクで嘘と書いておき、額を引っ叩く時その文字を押し付けたのだろう。

 それを理解した瞬間、奏の怒りが爆発した。

「颯人ぉぉぉぉぉぉっ!?」
「お~っとぉ!!」

 素早く颯人に掴み掛ろうとする奏だったが、それよりもコンマ数秒早く颯人は転がるようにしてソファーから離れその場を逃げ出した。奏は負けじとソファーから飛び上がり逃げる颯人を追いかけていく。

 背後から追跡してくる奏の姿を肩越しに見て、颯人は心底愉快と言った様子で高笑いを上げた。

「わぁっはっはっはっ! また物の見事に引っ掛かってくれたなぁおい! ほ~んとお前ってば騙されやすいんだから、バ奏は未だ健在か?」
「うるさい!? もういい加減我慢の限界だ、待てコラァァッ!?」
「おっ! いいねぇ、あの頃を思い出す。俺を捕まえられるか?」
「やらいでかっ!?」

 高笑いする颯人を奏が追い掛ける。凄まじい速度で走り去る2人はあっと言う間に司令室を出て二課本部の廊下の奥へと消えていき、後に残された翼達は2人が出ていった扉を呆然と眺めていた。

「何か、嵐みたいな人でしたね?」

 意外な事に最も早く我に返った響がそう呟くと、翼がそれに同意するかのように頷き返した。

「って言うか私、奏があんな風に手玉に取られたところ初めて見た」

 何時もは主に翼を一方的に揶揄ってばかりいる奏が、逆にいい様に手玉に取られる様は翼にとってかなり衝撃的な光景だった。

 その一方で、弦十郎はある事に気付いていた。

「しかし、その割には今まで見たことないくらいいい顔をしてたな、奏の奴」
「えぇっ? あれでですか?」
「そうねぇ。何て言うか、輝いてたわねぇ」

 弦十郎の見解に怪訝な表情になる響だったが、了子の言葉に翼は内心で頷いていた。了子の言う通り、奏の顔は今まで見たことないくらい生き生きとしていたのだ。

 奏が二課に所属してから丸5年。その間に自分では敵わない存在だと認識させられた彼女を手玉に取り、今までに見せたことないくらい生気に満ちた表情をさせてみせた颯人。

 そんな彼に対し、翼はある種の尊敬と畏怖、そして僅かな嫉妬を感じていた。




 ***




 一方、唐突に追いかけっこを始めた颯人と奏は縦横無尽に二課本部を走り回っていた。その間2人の距離は正に付かず離れず、絶えず一定の距離を保ち続けて二課本部の地下施設を隅から隅まで走り続けた。

 遂には体力が限界を迎え、2人仲良く辿り着いた先にあった休憩所のソファーに隣り合って腰掛けた。

「はぁ……はぁ……はぁ~~、はははっ。やるじゃねえか。流石に5年間ノイズと戦い続けて大分鍛えられたか。よく粘ったじゃねえか」
「そりゃ、こっちのセリフだよ。あ~~、チクショウ。いい加減とっ捕まえられると思ってたのに」

 もう仕返しする気力もないのか、すぐ隣に居る颯人に対して何のアクションも起こさない。肩が触れ合うか合わないかと言う距離で互いに隣り合って息を整える颯人と奏。

 ある程度落ち着いた頃、颯人は徐に奏の顔を覗き見て、何を思ったのか満足そうに頷いた。

「ん、いい顔になったな」
「は? 何が?」
「元気になったみたいだって話だよ。折角また会えたってのに、奏何か悩んで元気なさそうだったからさ。こうして昔を思い出させて元気付けてみたって訳」

 結果は大成功! と颯人は会心の笑みを浮かべるが、対する奏は颯人の言葉に唖然となっていた。

 その表情は彼が何を言っているか理解できていないのではない。

 今日ようやく再会したばかりだと言うのに、つい最近抱いた悩みを見抜かれたことに驚いているのだ。

「な、何で? あたし、何も言って…………」
「だ~か~ら~、言っただろ? 奏は顔に出やすいんだって。幾ら久しぶりとは言え見りゃすぐ分かるよ」

 そう言って颯人は奏の額を指先で軽く小突いた。今度は特に悪戯を仕掛けている訳ではないようで、小突かれたところを触ってもインクも何も付いていないのが分かった。

「んじゃ、分かったついでに何に悩んでたのかも当ててやろうか? 大方あの響ちゃんって子に関することだろ?」
「えっ!?」

 颯人の言う通り、奏は響の事で未だ悩んでいた。負い目を感じていると言ってもいい。

 2年前のライブでは自分の力が足りなかったばかりに、響には大怪我をさせた挙句今こうしてノイズとの戦いに巻き込んでしまった。
 響の事を仲間として認め、ある程度踏ん切りがついたと思ってはいたのだが、それでも心の奥底ではやはりどうしても気になってしまっていた。

 颯人にはそれを見破られてしまったのだ。

「な、何で?」
「そりゃ、昔っから変なところで律儀って言うか責任感が強かった奏の事だもん。大方自分の所為で戦いに巻き込んじまったとか考えて気にしてたんだろ? それくらい分かるよ、幼馴染舐めんな」

 幼馴染とは言うが、彼とは数年のブランクがあるのだ。
 にもかかわらず、彼は奏の僅かな感情の機微を敏感に感じ取り彼女が悩んでいることを見抜いた。

 その事を嬉しいと感じる反面、何故分かったのかと言う疑問が首をもたげる。

 そしてつい、奏は彼に何故と問い掛けた。問い掛けてしまった。

「何で、もう長い事会ってなかったのに?」
「何でって、そりゃお前好きな奴の事くらい分かること出来なくてどうするよ?」
「…………へぇっ!?」

 そして返ってきたまさかの告白に、奏は一瞬頭が真っ白になった。
 幾ら何でも唐突過ぎる。例えるならば、毎日決まった時間に訊ねたその日の夕飯の献立を答えられるレベルで気安く口にされた告白を、奏の脳が処理しきれず混乱する。

 だがそこで彼女はふと思い出した。相手はあの颯人だ。手先だけでなく口先も達者な彼が口にする言葉を、真に受けてどうする。
 きっと今の『好き』と言う言葉も、こちらを混乱させる為に口にしただけで『LOVE』ではなく『LIKE』と言う意味での言葉に違いない。

「あぁ因みに『LIKE』じゃなくて『LOVE』の意味での話な。勘違いするなよ?」
「ッ!?!?」

 今度こそ奏の思考は停止した。

 いや、嬉しくない訳ではない。彼女にとっても彼は特別な存在だ。

 5年前はあの絶望的な状況下で必死に自分を励ましてくれたし、2年前は命を賭して助けてくれた。それ以外にも、思い返せば子供の頃から颯人は何度も奏を助けてくれていたし、逆に奏が颯人を助けたこともあった。

 それだけ濃密に接していながら、好意を持つなと言う方が難しい。奏とてそこまで鈍感ではない。彼と共に居る時間が心地いい事くらい彼女だって自覚している。

 それが『LIKE』と『LOVE』のどちらによるものかと問い掛けられたら、聞いてきた相手が颯人でなければ時間を掛けながらも『LOVE』によるものだと答えたであろう。

 愛は自覚している。問題なのは颯人がそれを何の前触れもなく唐突に口に出されたことであり、これに対してどう答えればいいのか分からず奏は顔を赤くしながら口を閉ざしてしまっていた。
 彼女にとってはなんやかんやで颯人が初恋の相手であり、遺跡での一件があってからの5年間はそう言った浮ついた話とは無縁だったのだ。

「んで、お前からの返答を聞きたいんだが?」
「――――えっ?」
「奏が俺の事をどう思ってるのか、是非聞かせてもらいたいなぁ、っと」

 だと言うのに颯人は、奏に返答を求めてきた。今度こそ奏は意識が飛ぶのではないかと言うくらい混乱した。この場合何と答えればいいのか? 

 普通に自分も好きだと答える? 否、ここでそんなあっさりと答えるのは流石に雰囲気もへったくれもない。勝ち気で男勝りな部分が目立つ奏だが、その心にはしっかりと乙女な部分を残しているのだ。

 あと何よりも、全て彼のペースで進められるというのが非常に癪だった。

 では逆に、好きではないと答える? 否、そんな心にもない事口にはできないし、口にしたところで彼には一発で嘘だと見抜かれるだろう。
 その場合更なる追撃が予想される。

 結局痛い目を見るのは自分だ、得策ではない。

 それならば、適当に誤魔化してこの場は有耶無耶にして別のところで改めて答えるべきか? それならば落ち着いて答える事も出来るし、気持ちの整理も付けた状態で想いを口にできる。

 なかなかにいい考えだ。

 いざ覚悟を決め、颯人にこの場での返答は見送らせてもらう事を口にしようとした。

 その時である。

「(わわっ!? 翼さん、ちょっ!? 押さないでッ!?)」
「(いや、違っ!? 櫻井女史っ!?)」
「(だってよく聞こえないんだもの)」
「(ちょちょっ!? 危ないですって)、わぁっ!?」

 突然奏の背後にある角から響、翼、了子の声が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間3人が折り重なるようにして廊下に倒れこんだ。その3人の後に続くように弦十郎も姿を現す。

 思っても見なかった3人の登場に、奏が驚愕しながらそちらを見る。

「なっ!? 翼に響ッ!? それに了子さんまでッ!? 3人とも何やって――?!」
「奏、此処は司令室のすぐ近くだぞ」
「はぁっ!?」

 そう、奏は颯人を追う事で頭が一杯になっていたので気付いていなかったが、今2人が居る場所はつい先程まで颯人が了子からの質問攻めに遭っていた場所のすぐ近くなのだ。何時の間にか本部内をぐるっと一周して司令室のすぐ近くにまで戻ってきてしまっていたのである。

 大方モニターか何かで2人の行動を見ていた弦十郎達は、2人がすぐ近くにある休憩所にまで戻ってきた事で彼らを迎えに行こうとして、颯人による奏への告白シーンに出くわしたのだろう。

 弦十郎の発言からそれらを察し、奏の顔がリンゴとかそういうのを通り越して爆発するのではないかと言うくらい赤くなった。

 今にもぶっ倒れそうな奏の様子に、堪らず笑みを浮かべた颯人は徐に奏の片耳に掛かっている髪をかき上げて息を吹きかけた。

「ふぅっ」
「うひゃいっ!? 何すんだいきなりッ!!」
「おぅ、お帰り。いや今にも爆発すんじゃないかってくらい顔赤かったからさ。ちょっと息吹き掛けて火を弱めてやったのよ」
「余計なお世話だッ!? つか颯人、お前翼達見えてたろッ!?」

 未だ頭の中は混乱しているが、それでも僅かに残った冷静な部分がその事に気付かせてくれた。位置的に考えて、颯人からは出羽亀をしている3人の姿が見えていた筈なのだ。

 奏が確信を持って問い掛けると、彼はあっけらかんとした様子で首を縦に振った。

「うん」
「うん、って……何で言わなかったんだよッ!?」
「俺にとっては奏からの返答の方が重要だったからだよ。ところで返答は?」
「んなっ?! し…………知るかッ!?」

 この状況下で尚も奏からの返答を求める颯人に、奏は一瞬言葉に詰まるが次の瞬間には乱暴に話題を打ち切ってその場を離れてしまった。

 結局答えを聞くことも出来ず、離れていく奏の背を見送る颯人。だがそれにしてはその表情には残念とかそう言った思いが感じられず、穏やかな笑みを浮かべながら肩を竦めるだけであった。

「あの、何かごめんなさい」

 せっかくの告白を台無しにしてしまったと思い、同時に目の前で行われた愛の告白に顔を赤らめながらも響は颯人に謝った。もしあそこで響達が姿を現してしまわなければ、きっと奏は何かしらの答えを口にしていただろう。
 そう思うと余計に申し訳なさが込み上げてきた。

 だが意外なことに、彼は響に対して全く怒りを向けはしなかった。

「ん? な~に、気にしなくていいよ。寧ろこれで良かったくらいだ」
「良かった?」
「そ、良かった。これくらいがちょうどいいんだよ」
「それは、どう言う…………」

 颯人の言葉の意図が読めず困惑する響だったが、彼はそれに答えることはせずソファーから立ち上がり思いっきり背を伸ばすと弦十郎の方へと向かっていった。

「そんじゃ、今後の事とかいろいろと話し合うとしましょうや。協力するにしたって連絡手段とか決めとかないといけないし。ねぇ?」
「ん? あぁ、そうだな。それじゃ、こっちへ来てくれ」
「あっ! 後で魔法の事とか調べさせてね?」
「あいよぉ~」

 そうして颯人は弦十郎や了子と話しながらその場を離れていった。

 相変わらずのどこか読めない飄々とした物腰の彼の姿に、しかし翼は何か違和感を覚えつつ取り敢えず響を伴って何処かへ行ってしまった奏を追いかけるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で、第11話でした。

これにて2019年は書き納めとなります。2020年もよろしくお願いします。

それでは皆さん、良いお年を。 
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