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芝刈りと王女のお話

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第三章

 秘かに商人の後をつけて彼が柘榴を献上したのを見届けてからイスラムの法学者と身分を隠して王にコーランの章句を唱えたいと申し出た。王の信仰が篤いと聞いてのことだ。そして実際に王宮に入れてもらい王の前でコーランの章句を見事に唱えてみせた、すると王はいたく喜んで魔術師に話した。
「褒美は思いのまま、何でもいえ」
「ではです」
 魔術師はここで王の手元にある柘榴、芝刈りが化けているそれを見つつ笑みを潜ませて申し出た。
「王の手にある柘榴を」
「これをか」
「どうでしょうか」
「冬の柘榴だ、珍しいが思いのままと言った」
 それならとだ、王は応えた。そうして王は彼に柘榴を渡そうとすると。
 魔術師は雄鶏に姿を変えて柘榴に対して言った。
「観念しろ、杖で叩こうと思ったが嘴でついばんでやる」
「何故そうされるのですか」
「柘榴にはその方が痛いだろうからだ」
 こう柘榴に化けている芝刈りに言って実際についばもうとする、だが芝刈りはそれより速くだった。
 狐に姿を変えて雄鶏になっている魔術師を威嚇する、まさかここで彼が雄鶏の天敵の狐になると思わなかった魔術師は仰天して雄鶏から元の姿に戻って狐に対そうとした。
 だがその一部始終を見た王はこれはどうしたことかとなった。
「これ一体」
「はい、これはです」
 ここで芝刈りは元の姿に戻って王に答えた。
「私はこの通り芝刈りですが」
「魔術を覚えていたな」
「そのことで師匠と出会いここでに連れて参ったのです」
「いや、それは」
「いや、師匠と二人で変身の術を披露しましたが」
 違うという師匠が言う前に王に言った。
「如何だったでしょうか」
「見事、それで前に会った時に言おうと思っていたが」
「王女とですね」
「そなたは魔術を覚えたからな」
 それでとだ、王は芝刈りに答えた。
「許そう」
「有り難きお言葉」
「そして魔術師よ、柘榴以外の褒美をだ」
 王は今度は魔術師に声をかけた。
「やろう」
「そうして頂けますか」
「何でもな」
「それでは、まあよいことになったからな」
 魔術師は王から褒美を約束されて機嫌がよくなった、それで先程まで追っていた芝刈りに言った。
「許そう」
「有り難きお言葉」
「これもアッラーの思し召しであろうしな」
「それならですか」
「アッラーは寛容であられる」
「そしてお師匠様も」
「殴るのは許す」 
 こう言うのだった。
「よいことになったしそなたの魔術の使い方の上手さと今のやり取りの機転にも感心した」
「だからですか」
「もうよいわ」
 魔術師は笑って言った、彼は王から自分が望むままの褒美を受け取り芝刈りは王女と結婚し王族に迎えられ両親をこれまで以上に確かに養うことが出来る様になった。王は王で頭のよい魔術師の娘婿を手に入れて彼のよき補佐を得ることが出来た。誰がも幸せになることが出来たイランのとても幸せな昔話である。


芝刈りと王女の話   完


                    2019・9・1 
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