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戦国異伝供書

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第六十九話 善徳寺にてその五

「殿と織田殿は」
「殿にとってですか」
「織田殿は最悪の相性でないか」
「その可能性がありますか」
「そう思いはじめておる」
 元康と幸村のことだけでなくというのだ。
「どうもな」
「そうですか」
「だから上洛の戦は使える手を全て使ってな」
「そうしてですな」
「向かう、だからな」
 それでというのだ。
「善徳寺でもな」
「確かにですか」
「盟約を結ぶのじゃ」
「後ろの憂いを完全に断ち」
「そしてじゃ」
「上洛にかかりますな」
「そうするのじゃ」
 こう言ってだった、雪斎はまた一口飲んだ。そうしているうちに酔いが回ってきたが礼儀正しさは崩れない。
 それでだった、本多は雪斎に感激した様に言った。
「どれだけ飲んでも崩れないとは」
「いやいや、実は飲むこと自体がな」
 雪斎はその本田に笑って返した。
「拙僧は御仏に仕える身であるからな」
「よくないのですな」
「今から言うが般若湯というが」
 その実はというのだ。
「酒であるからな」
「その酒を飲むことは」
「悪いことであるからのう」
「それでも幾ら飲んでも崩れず乱れないのは」
「流石にそこまではな」
 雪斎としてはというのだ。
「後ろめたいと思ってな」
「お心を保っておられますか」
「そうなのじゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ、そしてな」 
 雪斎はさらに話した。
「肴もな」
「そちらは」
「生ぐさものはな」
 それはというのだ。
「決して口にせぬ」
「そうしておられますな」
「そこはな」
 何といってもというのだ。
「気をつけておる」
「そのうえで」
「今も塩を肴にしてじゃ」
 そうしてというのだ。
「飲んでおる」
「塩だけあればよい」
「肴にはな、むしろな」
「その塩もですか」
「これも有り難いものじゃ」
 その塩もというのだ。
「これがなくては人は身体がもたぬわ」
「はい、ですから武田殿も」
「海がないから塩が採れぬ」
「それで苦労しておられるとか」
「そう思うと塩もじゃ」
 雪斎はその塩を舐めつつ本多に話した。
「贅沢なものじゃ」
「そうしたものですな」
「うむ、拙僧はそう思うと贅沢じゃ」
「出家されたなら贅沢は無縁でも」
「その筈なのにな。まだまだ修行が足りぬな」
 後ろめたそうに笑っての言葉だった。 
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