| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

シルバーマンジム のビスケット・オリバ

作者:咲さん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

紗倉ひびきとビスケットオリバ

 
前書き
これにて最終話です 

 
紗倉ひびきは皇桜女学院に通う今をときめく女子高生である。食べ歩きが趣味な彼女は買い食いの資金を稼ぐべく兄の開業した焼肉屋でアルバイトに勤しんでいた。

「ひびき!6番テーブルにカルビ10人前!」

「は〜い。」

(6番テーブルの人よく食べるなぁ。しっかしあの人どっかで見たことあるんだよなぁ…)

お昼時も過ぎ、客もほぼいなくなったが一人の客の為に厨房は休む暇もなく稼働していた。己もよく食べる方だと自覚しているがこの客は常軌を逸している。

「カルビ10人前、お待ち!」
(うわぁ…すっごい筋肉だなぁ。街雄さんレベルの筋肉…ん?筋肉?)

「あっ、思い出した!」

「?」

「お客さんの名前、ビスケットオリバさんじゃありませんか!?」

「そうだが…わたしを知っているのかね?」

「同じジムでトレーニングをしてる紗倉ひびきって言います!前からトレーニングしてる姿を見かけてました!」

なるほど、と頷くオリバを見ながら思い出した。

「あっ、そろそろ賄いの時間なので失礼します!」

そう言い、取りに行こうとした瞬間声が掛かる。

「それなら一緒にどうかね?今ちょうど話し相手が欲しい気分でね」

「何、子供が遠慮をするもんじゃない。奢るからたらふく食べな」

断るのも失礼だと思い私はその言葉に甘える事にした。

少し長く休憩する事になる為、兄である店長にその事を伝えると、賄い代が浮くばかりでなく売上になるのでドンドン食べて来いと逆に喜ばれた。

笑顔で肉を焼くひびきを見ながらビスケット・オリバは考える。

(不思議な娘だ)

恋人であるマリアを除き、皆が自分を見る時には
一般人ならば恐怖心を、闘技者であれば敵対心を抱いた目で見られる事が多い。自分からそう仕向けてるフシがあるのでしょうがないと割り切っているのだがこの佐倉ひびきという少女からは純粋な尊敬と好奇心を感じていた。
今は気分が良い。その好奇心を満たしてやろう。

「わたしに聞きたいことがあるんじゃないかね?顔に出てるぜ」

「えっ、出てましたか⁉︎」

「君は分かり易い性格をしているな。さっきも遠慮するなと言っただろう。何でも聞きな」

「えっと…それじゃあ…」

悩んでいた様だが決心がついたのか口を開く。

「オリバさんはどうしてそんなに鍛えてるんですか?

恐らく気になった事をそのまま口に出しているのだろう。本当に素直な娘だ。

「わたしにはマリアという恋人がいるんだが、マリアは病を患っていてね…彼女を抱き抱える為に鍛えたのだよ」

「へぇ〜!彼女さん想いなんですね!」

「毎度毎度、怒られてばかりだがね」

「それだけオリバさんの事を信頼してるんだと思います!自分の為にそこまで頑張ってくれる彼氏さんがいるなんて羨ましいです!私も彼氏欲しいなぁ〜」
病の事について触れずに明るい雰囲気に切り替えるひびき。気を遣わせてしまった、と反省しながら話を続ける。

「それならわたしからひとつアドバイスをしよう。イイ男ってのは外見より内面をよく見るものだ。君と話しているととても心地が良い。その内良い男が必ず見つかる」

「だが、それでも不安なら努力を怠らぬ事だ。努力をし続けている姿はそれだけで魅力的に映るものさ」

努力かぁ…と呟くひびき。それを見ながら思う。
話していて飽きない娘だ。彼女ならばマリアも気に入るだろう。

何かを悩むようにしていたひびきがやがて意を決したように話し始めた。
「あの…聞いてくれますか?私には夢があるんです」
この人ならば茶化さず真剣に相談を聞いてくれる。そう思った。

「夢…か。話してみなさい」

「シルバーマンジムに街雄さんっていうトレーナーがいるんですが、待雄さんを見ている内に私もこんな仕事をしたいって憧れるようになったんです。」

「ふむ…続けてみなさい」

「はい。その為にはアメリカに留学して勉強をしなければならないんです。けど私は頭が良くありません。やっぱり私には無理なんでしょうか?」

「ステイツはわたしの庭だ……ハーバードであろうとどこだろうとわたしが一声かければ1人や2人足し算すら出来ずとも入学させられるだろう。」

その言葉にギョッとする。只者ではないとは思っていたが、予想以上の権力を持っているようだ。

「わたしは君を気に入っている。力を貸すのも吝かではない。だが君はわたしの力で他人を蹴落として叶えた夢に誇りを持つ事は出来ないだろう?」

「当たり前です!」

そう言うひびきを満足そうに見ながらビスケット・オリバは言葉を続けた

「ならばやる事は分かっているはずだ。毎日勉強も頑張りなさい。努力をし続ければ君の夢はきっと叶う。」

「受かったら電話しなさい。ステイツデビューの歓迎を盛大にしようじゃないか。」


何か困った事があったら気軽に電話を寄越しなさい。と言いながら立ち去っていくビスケット・オリバにひびきは声を掛けた。

「あの…オリバさんっ!相談乗ってもらってありがとうございました!」
ひびきの表情は憑き物が落ちたような、決意に満ちた表情をしていた。


そんなひびきの顔を満足げに見ながら軽く手を上げ歩き去る。
(良いツラをするようになった……彼女なら夢を叶えるだろう。)
合格したらどう祝ってやろうか。そんなことを考えながらふと思う。
久しぶりに楽しい時間であった。他愛のない話を打算抜きでする。それだけの事がこれだけ楽しいとは。
その日は普段以上に恋人に会いたい気分になった。






〜〜〜〜1年と半年後〜〜〜〜

擦太郎(しんさするたろう)はこの道数十年のベテラン入国審査官である。数多くの入国者の審査をするが、記憶に残る入国者というのはそれなりに出てくる。彼もそんな1人であった。

「ビスケット・オリバさんですね。今回もビジネスですか?」

「いいや、今回は違う。嬉しいメールが届いてね。数年越しの約束を果たしに来たのさ」 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧